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第三章 ベリンガム帝国の異変
<5>調査2
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「やっといなくなった……あいつら、うるさすぎるだろ」
人が変わったように俺にまとわりついて離れないシェーンと、シェーンに張り合おうとするリアムを早々に部屋から追い出して、借りてきた本に目を通す。
黒いソファに身を沈めて読書していると、まるで前の自分に戻ったような気分になる。けれど懐かしさばかりを味わってもいられない。
読み進めていくうちに、ベリンガムが思った以上に深刻な状態であることがわかったのだ。
ベリンガムの王宮の背後には、メイフェア山という大きな山が聳え立っている。
針葉樹に覆われたその山は建国以前の太古から存在すると言われ、狼の姿をした守り神が棲んでいるのだ。初代ベリンガム国王は、この守り神の力を借りて帝国を築いたという逸話も残っている。
国王は力を借りた見返りとして数百年に一度、守り神の要求に応じて子孫たちの魔力を分け与える約束をしたそうだ。もし狼神に力を分け与えない時は、ベリンガムの国土は腐って生命の育たない死の土地と化すだろうと伝承には書かれている。
この伝承はベリンガムでは有名話で、子どもたちは小さな頃には必ず聞かされる。国民や貴族たちはお伽話だと思っているだろうが、そうではないことを俺は知っていた。
「もしかして、いまベリンガムが淀んでるのは狼神の怒りかもしれないな」
この伝承が紛れもない事実だと知っているのは直系の王族のみだ。
俺が死んだ23年前はそんな話は出ていなかったはず。となると俺の死後、狼神からの報せがあったということになる。
ただ数百年に一度、それもいつ起きるかわからない出来事のためか伝わっていることもそう多くはなかった。正直、俺も半信半疑ではあったし。だが今のベリンガムの現状は、狼神の怒りとして起きると言われていた事象とほぼ同じだ。
狼神の話は直系の王族以外に教えてはいけないと言われていたはずだ。だが父や兄弟たちがなんの対処もしないでおくはずがない。きっと何か大きな問題が起きているのだろう。
「今すぐ父上や兄弟たちに会うことができたら……クソ」
ふと部屋の隅にある姿見に目をやる。そこにはピンクベージュの髪に蜂蜜色の目をした青年が映っていた。
「今の俺は俺じゃない……」
エリス・ラムズデールが自分はアランだと訴えても誰も信じないだろう。それどころか死んだ王子の名を汚したと酷い罰を受けるかもしれない。
だが、愛する祖国がこのまま朽ち果てていくのを黙って見ている気はさらさらない。きっと何か手がかりがあるはずだ。
俺は再び借りてた書籍に目を落とした。
人が変わったように俺にまとわりついて離れないシェーンと、シェーンに張り合おうとするリアムを早々に部屋から追い出して、借りてきた本に目を通す。
黒いソファに身を沈めて読書していると、まるで前の自分に戻ったような気分になる。けれど懐かしさばかりを味わってもいられない。
読み進めていくうちに、ベリンガムが思った以上に深刻な状態であることがわかったのだ。
ベリンガムの王宮の背後には、メイフェア山という大きな山が聳え立っている。
針葉樹に覆われたその山は建国以前の太古から存在すると言われ、狼の姿をした守り神が棲んでいるのだ。初代ベリンガム国王は、この守り神の力を借りて帝国を築いたという逸話も残っている。
国王は力を借りた見返りとして数百年に一度、守り神の要求に応じて子孫たちの魔力を分け与える約束をしたそうだ。もし狼神に力を分け与えない時は、ベリンガムの国土は腐って生命の育たない死の土地と化すだろうと伝承には書かれている。
この伝承はベリンガムでは有名話で、子どもたちは小さな頃には必ず聞かされる。国民や貴族たちはお伽話だと思っているだろうが、そうではないことを俺は知っていた。
「もしかして、いまベリンガムが淀んでるのは狼神の怒りかもしれないな」
この伝承が紛れもない事実だと知っているのは直系の王族のみだ。
俺が死んだ23年前はそんな話は出ていなかったはず。となると俺の死後、狼神からの報せがあったということになる。
ただ数百年に一度、それもいつ起きるかわからない出来事のためか伝わっていることもそう多くはなかった。正直、俺も半信半疑ではあったし。だが今のベリンガムの現状は、狼神の怒りとして起きると言われていた事象とほぼ同じだ。
狼神の話は直系の王族以外に教えてはいけないと言われていたはずだ。だが父や兄弟たちがなんの対処もしないでおくはずがない。きっと何か大きな問題が起きているのだろう。
「今すぐ父上や兄弟たちに会うことができたら……クソ」
ふと部屋の隅にある姿見に目をやる。そこにはピンクベージュの髪に蜂蜜色の目をした青年が映っていた。
「今の俺は俺じゃない……」
エリス・ラムズデールが自分はアランだと訴えても誰も信じないだろう。それどころか死んだ王子の名を汚したと酷い罰を受けるかもしれない。
だが、愛する祖国がこのまま朽ち果てていくのを黙って見ている気はさらさらない。きっと何か手がかりがあるはずだ。
俺は再び借りてた書籍に目を落とした。
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