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第二章 氷狼騎士団長の秘密
<10>回想
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レヴィと前世の俺――アラン・ベリンガムが初めて出会ったのは、王宮の庭園だった。
その時俺は17歳で、騎士団長になったばかり。レヴィはたしか7歳くらいだったはずだ。
両親に連れられてきた王宮で迷子になったレヴィは、どういうわけか庭園の奥の奥まで辿り着いてしまい、泣いていた。
騎士団用の修練場は人が多い。静かに鍛錬をするのが好きな俺は、人気のない庭園の奥でよく自主的な鍛錬をしていたのだ。
「ん? なんだ今の」
いつものように剣術と魔法を組み合わせた独自の鍛錬をしていたが、小さな子どもの泣き声が聞こえたような気がして手を止める。
草花を掻き分けて声のする方へ進むと、泥だらけになった少年が泣いていた。
「どうしたんだ? おまえ」
声をかけると、ビクリと肩を震わせてさらに泣きじゃくる。剣が怖いのかもしれない。慌てて鞘に収めるとゆっくりと近寄って目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「驚かせてごめんな。おまえ名前は? 何処から来たんだ?」
ポケットから取り出したハンカチで頬を優しく拭いてやる。それだけで少し落ち着いたのか、少年は小さな声でぽつりぽつりとしゃべりだした。
「ぼく、レヴィ。お父さまとお母さまと一緒に、王さまにごあいさつにきたんだ。歩いてたら、お庭にちょうちょが飛んでたの。とってもきれいで、追いかけてたら知らないとこまで来ちゃって……」
話しているうちにまた不安になったのか、目に涙が盛り上がっている。俺はレヴィを抱き上げた。
「ほら、男がそんな簡単に泣くもんじゃねーぞ。俺がレヴィの父さんと母さんのところまで連れてってやるから」
「……ほんとうに? ぼくのことさらって、食べたりしない?」
レヴィの言葉に思わず声を出して笑ってしまう。
「おい、俺のこと鬼かなんかだと思ってんのかよ。なわけねえだろ」
だがレヴィは真剣は目で俺の顔を見上げて小さく呟いた。
「だって、こんなにきれいなひと、見たことないもん。ばあやが言ってた。おにやあくまほど、きれいなかおをしてひとをまどわすんだって……」
「おまえ、難しい言葉知ってんな。でも残念ながら俺は鬼でも悪魔でもねえよ。ホラ行くぞ。しっかりつかまってろよ?」
俺はレヴィを抱きかかえて地面を軽くけり上げる。体はふわりと宙に浮き、そのまま庭園を上から見下ろせる距離まで上昇した。
「うわあ……!! すごい!!」
レヴィは泣いたり俺を怪しんだりしていたことなどすっかり忘れたようにはしゃいでいる。
「気持ちいいだろ? このまま進むぞ」
怖がらなせない程度のスピードで王宮目指して飛んでいく。玉座の間近くの廊下に舞い降りると、タイミングよくレヴィを探す声が聞こえてきた。
「レヴィ! どこにいるの!!」
「レヴィ様! どちらにおいでですか!!」
レヴィをそっと地面に降ろしてやると、彼は一目散に声の方へ走っていく。
「お母さま!! お父さま!! ぼくここにいるよ!!」
すぐにバタバタと幾人もの足音がしてヴァンダービルト公爵と夫人、そして従者と思しき人々が現れる。
「まあ!!」
夫人が中腰になって手を広げると、レヴィはまっすぐに母親の胸めがけて飛びこんだ。
「あらいやだ! あなた泥だらけじゃない」
夫人は笑いながら自分のドレスが汚れるのも気にせず息子を抱き上げている。いい母親だなと微笑ましく二人を眺めた。
「どこに行ってたんだ? そんな姿じゃ王様に挨拶もできないじゃないか」
父の言葉にレヴィはしゅんとする。
「ごめんなさいお父さま。ぼく、ちょうちょを見つけて追いかけたら迷ってしまったの。でもあのきれいなひとが助けてくれたんだよ」
レヴィはそう言って振り返ると俺を指差す。ヴァンダービルト家の人々は、そこで初めて俺の存在に気づき顔を青くした。
「アラン王子……!!」
いっせいにその場でしゃがみこみ、礼をする彼らの頭を上げさせる。
「も、申し訳ございませんっ! 愚息が大変なご迷惑を……ああ、お召し物まで汚れているではありませんか。責任もって我がヴァンダービルトにて弁償を――」
「いい、いい。大丈夫だ」
真っ青な顔でまくし立てる公爵を制して、レヴィと視線を合わせる。
「よかったな」
頭を優しく撫でると、レヴィは嬉しそうに笑った。
その時俺は17歳で、騎士団長になったばかり。レヴィはたしか7歳くらいだったはずだ。
両親に連れられてきた王宮で迷子になったレヴィは、どういうわけか庭園の奥の奥まで辿り着いてしまい、泣いていた。
騎士団用の修練場は人が多い。静かに鍛錬をするのが好きな俺は、人気のない庭園の奥でよく自主的な鍛錬をしていたのだ。
「ん? なんだ今の」
いつものように剣術と魔法を組み合わせた独自の鍛錬をしていたが、小さな子どもの泣き声が聞こえたような気がして手を止める。
草花を掻き分けて声のする方へ進むと、泥だらけになった少年が泣いていた。
「どうしたんだ? おまえ」
声をかけると、ビクリと肩を震わせてさらに泣きじゃくる。剣が怖いのかもしれない。慌てて鞘に収めるとゆっくりと近寄って目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「驚かせてごめんな。おまえ名前は? 何処から来たんだ?」
ポケットから取り出したハンカチで頬を優しく拭いてやる。それだけで少し落ち着いたのか、少年は小さな声でぽつりぽつりとしゃべりだした。
「ぼく、レヴィ。お父さまとお母さまと一緒に、王さまにごあいさつにきたんだ。歩いてたら、お庭にちょうちょが飛んでたの。とってもきれいで、追いかけてたら知らないとこまで来ちゃって……」
話しているうちにまた不安になったのか、目に涙が盛り上がっている。俺はレヴィを抱き上げた。
「ほら、男がそんな簡単に泣くもんじゃねーぞ。俺がレヴィの父さんと母さんのところまで連れてってやるから」
「……ほんとうに? ぼくのことさらって、食べたりしない?」
レヴィの言葉に思わず声を出して笑ってしまう。
「おい、俺のこと鬼かなんかだと思ってんのかよ。なわけねえだろ」
だがレヴィは真剣は目で俺の顔を見上げて小さく呟いた。
「だって、こんなにきれいなひと、見たことないもん。ばあやが言ってた。おにやあくまほど、きれいなかおをしてひとをまどわすんだって……」
「おまえ、難しい言葉知ってんな。でも残念ながら俺は鬼でも悪魔でもねえよ。ホラ行くぞ。しっかりつかまってろよ?」
俺はレヴィを抱きかかえて地面を軽くけり上げる。体はふわりと宙に浮き、そのまま庭園を上から見下ろせる距離まで上昇した。
「うわあ……!! すごい!!」
レヴィは泣いたり俺を怪しんだりしていたことなどすっかり忘れたようにはしゃいでいる。
「気持ちいいだろ? このまま進むぞ」
怖がらなせない程度のスピードで王宮目指して飛んでいく。玉座の間近くの廊下に舞い降りると、タイミングよくレヴィを探す声が聞こえてきた。
「レヴィ! どこにいるの!!」
「レヴィ様! どちらにおいでですか!!」
レヴィをそっと地面に降ろしてやると、彼は一目散に声の方へ走っていく。
「お母さま!! お父さま!! ぼくここにいるよ!!」
すぐにバタバタと幾人もの足音がしてヴァンダービルト公爵と夫人、そして従者と思しき人々が現れる。
「まあ!!」
夫人が中腰になって手を広げると、レヴィはまっすぐに母親の胸めがけて飛びこんだ。
「あらいやだ! あなた泥だらけじゃない」
夫人は笑いながら自分のドレスが汚れるのも気にせず息子を抱き上げている。いい母親だなと微笑ましく二人を眺めた。
「どこに行ってたんだ? そんな姿じゃ王様に挨拶もできないじゃないか」
父の言葉にレヴィはしゅんとする。
「ごめんなさいお父さま。ぼく、ちょうちょを見つけて追いかけたら迷ってしまったの。でもあのきれいなひとが助けてくれたんだよ」
レヴィはそう言って振り返ると俺を指差す。ヴァンダービルト家の人々は、そこで初めて俺の存在に気づき顔を青くした。
「アラン王子……!!」
いっせいにその場でしゃがみこみ、礼をする彼らの頭を上げさせる。
「も、申し訳ございませんっ! 愚息が大変なご迷惑を……ああ、お召し物まで汚れているではありませんか。責任もって我がヴァンダービルトにて弁償を――」
「いい、いい。大丈夫だ」
真っ青な顔でまくし立てる公爵を制して、レヴィと視線を合わせる。
「よかったな」
頭を優しく撫でると、レヴィは嬉しそうに笑った。
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