魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

文字の大きさ
上 下
17 / 85
第二章 氷狼騎士団長の秘密

<10>回想

しおりを挟む
レヴィと前世の俺――アラン・ベリンガムが初めて出会ったのは、王宮の庭園だった。
その時俺は17歳で、騎士団長になったばかり。レヴィはたしか7歳くらいだったはずだ。

両親に連れられてきた王宮で迷子になったレヴィは、どういうわけか庭園の奥の奥まで辿り着いてしまい、泣いていた。

騎士団用の修練場は人が多い。静かに鍛錬をするのが好きな俺は、人気のない庭園の奥でよく自主的な鍛錬をしていたのだ。

「ん? なんだ今の」
いつものように剣術と魔法を組み合わせた独自の鍛錬をしていたが、小さな子どもの泣き声が聞こえたような気がして手を止める。

草花を掻き分けて声のする方へ進むと、泥だらけになった少年が泣いていた。
「どうしたんだ? おまえ」

声をかけると、ビクリと肩を震わせてさらに泣きじゃくる。剣が怖いのかもしれない。慌てて鞘に収めるとゆっくりと近寄って目線を合わせるようにしゃがみ込む。

「驚かせてごめんな。おまえ名前は? 何処から来たんだ?」
ポケットから取り出したハンカチで頬を優しく拭いてやる。それだけで少し落ち着いたのか、少年は小さな声でぽつりぽつりとしゃべりだした。

「ぼく、レヴィ。お父さまとお母さまと一緒に、王さまにごあいさつにきたんだ。歩いてたら、お庭にちょうちょが飛んでたの。とってもきれいで、追いかけてたら知らないとこまで来ちゃって……」

話しているうちにまた不安になったのか、目に涙が盛り上がっている。俺はレヴィを抱き上げた。

「ほら、男がそんな簡単に泣くもんじゃねーぞ。俺がレヴィの父さんと母さんのところまで連れてってやるから」
「……ほんとうに? ぼくのことさらって、食べたりしない?」

レヴィの言葉に思わず声を出して笑ってしまう。
「おい、俺のこと鬼かなんかだと思ってんのかよ。なわけねえだろ」

だがレヴィは真剣は目で俺の顔を見上げて小さく呟いた。
「だって、こんなにきれいなひと、見たことないもん。ばあやが言ってた。おにやあくまほど、きれいなかおをしてひとをまどわすんだって……」

「おまえ、難しい言葉知ってんな。でも残念ながら俺は鬼でも悪魔でもねえよ。ホラ行くぞ。しっかりつかまってろよ?」
俺はレヴィを抱きかかえて地面を軽くけり上げる。体はふわりと宙に浮き、そのまま庭園を上から見下ろせる距離まで上昇した。

「うわあ……!! すごい!!」
レヴィは泣いたり俺を怪しんだりしていたことなどすっかり忘れたようにはしゃいでいる。

「気持ちいいだろ? このまま進むぞ」
怖がらなせない程度のスピードで王宮目指して飛んでいく。玉座の間近くの廊下に舞い降りると、タイミングよくレヴィを探す声が聞こえてきた。

「レヴィ! どこにいるの!!」
「レヴィ様! どちらにおいでですか!!」

レヴィをそっと地面に降ろしてやると、彼は一目散に声の方へ走っていく。
「お母さま!! お父さま!! ぼくここにいるよ!!」

すぐにバタバタと幾人もの足音がしてヴァンダービルト公爵と夫人、そして従者と思しき人々が現れる。

「まあ!!」
夫人が中腰になって手を広げると、レヴィはまっすぐに母親の胸めがけて飛びこんだ。

「あらいやだ! あなた泥だらけじゃない」
夫人は笑いながら自分のドレスが汚れるのも気にせず息子を抱き上げている。いい母親だなと微笑ましく二人を眺めた。

「どこに行ってたんだ? そんな姿じゃ王様に挨拶もできないじゃないか」
父の言葉にレヴィはしゅんとする。

「ごめんなさいお父さま。ぼく、ちょうちょを見つけて追いかけたら迷ってしまったの。でもあのきれいなひとが助けてくれたんだよ」

レヴィはそう言って振り返ると俺を指差す。ヴァンダービルト家の人々は、そこで初めて俺の存在に気づき顔を青くした。

「アラン王子……!!」
いっせいにその場でしゃがみこみ、礼をする彼らの頭を上げさせる。

「も、申し訳ございませんっ! 愚息が大変なご迷惑を……ああ、お召し物まで汚れているではありませんか。責任もって我がヴァンダービルトにて弁償を――」

「いい、いい。大丈夫だ」
真っ青な顔でまくし立てる公爵を制して、レヴィと視線を合わせる。

「よかったな」
頭を優しく撫でると、レヴィは嬉しそうに笑った。

しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...