魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第二章 氷狼騎士団長の秘密

<9>バレないように

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部屋に戻るとすでにリアムの姿はなかった。薄暗い部屋の中、オレンジ色のベッドライトだけが優しく灯されている。

ベッド脇のサイドテーブルにリアムのメモが置いてあった。

エリス様お帰りなさいませ。お戻りになられる前に失礼します。
ゆっくりお休みくださいね。
リアム

その文字を読んだだけで、心がすこしほっとする。前世の記憶を思い出したとはいえ、リアムとは今世で生まれた時からの付き合いだ。

「それに比べて、レヴィは……なんていうか、うん……すごかったな」
前世からの癖だが俺は独り言が多い。呟きながら夜着に着替えてベッドに潜り込む。

「情報量、多かったな。疲れた……いつからあんなに拗らせてたんだよ」
実家で寝ていた硬いマットレスの古びた粗末なベッドとは各段に寝心地が違う。軽くて暖かい上掛けに肌ざわりの良いシーツが眠気を誘う。
レヴィがずっと想っている人というのは前世の俺だった。だが今世の俺はアイツの嫁になったというのに、まったく興味がないという。

結婚式は両家に合意で上げずに静かに嫁ぐことになったのだが、それも我が家の問題だけではなかったのかもしれない。

両親には無能な子どものためには一円も使いたくないと宣言されたのだが、レヴィも数年後に白い結婚のまま離婚する予定の妻との式なんて、端から挙げる気がなかったのだろう。

俺は別にレヴィのことが彼と同じ意味で好きなわけではない。だがこうも塩対応をされるとなんだか悲しくなってくる。

あんなに「アランさま!」と俺の後を子犬のように着いて回っていたというのに。まるで久しぶりに家に帰ったら懐いていたはずの犬や猫に忘れられてしまったような感覚になる。

「もう少し、普通に仲良くなったっていいじゃねえか」
いっそのこと、正体を明かそうかという考えた脳裏に浮かぶ。だが少し検討してすぐに考えを頭から追い出した。俺がアランだと証明することは難しいし、そう簡単にはレヴィも信じないだろう。

アラン様を侮辱したなんて言われて地下牢にでも放り込まれたら、たまったもんじゃない。それに万一、信じてくれたとしても、レヴィは意図せずに相手に想いを打ち明けてしまったことになる。

「そんなの、絶対恥ずかしいよなあ。嫌だろうなあ」

まさか相手が目の前にいるなんて知らずに愛を語るなんて。俺なら恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだ。絶対に気まずいし、なによりレヴィが気の毒すぎる。

それに俺も彼の想いに答えてやることはできないし。

「せいぜいアランだってバレないように気をつけよう……」
そうして俺の波乱に満ちた一日は終わったのだった。
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