6 / 85
第一章 無能令息と最強王子
<5>ベリンガム帝国へ1
しおりを挟む
エリスの魔力は膨大だが、それを使いこなすには知識が必要だ。他の魔力は前世での知識でなんとかなりそうだが、癒しの力はそういうわけにはいかない。
なんといってもラムズデール家相伝の力であり、力を使うために必要な知識を学べる魔導書もこの家にしかないはずだ。
ベリンガムへ出発するまでの間になんとしても習得しておきたい。リアムは人目を忍んで書庫から大量の魔導書を運んできでくれた。おかげで3日間、寝食も忘れてひたすら癒しの力について学ぶことができた。
自分で言うのもなんだが、もともとセンスのいい俺はたちまちさまざな治癒魔法を使いこなすことができるようになった。
そして3日後。昼過ぎにヴァンダービルと家からの迎えが到着した。
正門の前に白馬を繋いだ白銀の馬車が現れた時、そこにいた誰もがその美しさに目を奪われた。ベリンガムは軍事大国であると同時に豊かな鉱山も保有している。
特にヴァンダービルトの領地ではプラチナの産出量が非常に多く、さまざまなものに使用されているのだ。車体には華やかだが上品な彫刻が施され、あちこちに宝石もはめ込まれている。中でも、美しい水色の宝石を目にした狼の彫刻に目を奪われる。
(そういえばレヴィも銀髪で水色の目をしていたな)
あの泣き虫小僧はどんな大人になったのだろう。早く会ってみたい。後ろを振り返ることもなくリアムを引き連れて馬車に乗り込むと、ヴァンダービルト家の家臣と思しき壮年の男性が近づいてきた。
「ご家族の皆様に最後の挨拶をなさらなくてもよろしいのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。そもそも両親も兄弟たちも体調不良で伏せっております」
男は目を丸くする。
「ではお見送りの皆さんはすべて使用人の方々ということで?」
「はい」
「……荷物も、それで全部なのですか」
「はい」
驚かれるのも無理はない。というか帝国側の者たちは皆、戸惑っているように見える。
(こんなみすぼらしい奴が公爵令息だとは思わねえよな)
自然と苦い笑みがこぼれた。アイルズベリーでも有数の王族の血を引く貴族、さらに大陸のどの国でも喉から手が出るほど欲しい魔力を持つ家の次男の嫁入りにしては、あまりに全てが粗末なのだ。
ちなみに俺の荷物は図書館からくすねた1冊の魔導書と、これだけは没収されずにすんだ幼い頃から愛用しているペンとノートだけ。これらを愛用のずだ袋に入れている。連れていく従者もリアム一人。
衣装と靴だけはド派手なものが部屋に運ばれてきたが、どうしても袖を通す気になれず、そのまま持ってきた。どうせ見送りに来ないことはわかりきっていたので、仕事着に袖を通した。その他も服も、捨てられるのがもったいないので袋に包んだ。
男が持ち場に戻っていくと、すぐに馬車が動き出した。そうして恐ろしいほどあっさりと俺は20年育った実家から出て行くことになった。
なんといってもラムズデール家相伝の力であり、力を使うために必要な知識を学べる魔導書もこの家にしかないはずだ。
ベリンガムへ出発するまでの間になんとしても習得しておきたい。リアムは人目を忍んで書庫から大量の魔導書を運んできでくれた。おかげで3日間、寝食も忘れてひたすら癒しの力について学ぶことができた。
自分で言うのもなんだが、もともとセンスのいい俺はたちまちさまざな治癒魔法を使いこなすことができるようになった。
そして3日後。昼過ぎにヴァンダービルと家からの迎えが到着した。
正門の前に白馬を繋いだ白銀の馬車が現れた時、そこにいた誰もがその美しさに目を奪われた。ベリンガムは軍事大国であると同時に豊かな鉱山も保有している。
特にヴァンダービルトの領地ではプラチナの産出量が非常に多く、さまざまなものに使用されているのだ。車体には華やかだが上品な彫刻が施され、あちこちに宝石もはめ込まれている。中でも、美しい水色の宝石を目にした狼の彫刻に目を奪われる。
(そういえばレヴィも銀髪で水色の目をしていたな)
あの泣き虫小僧はどんな大人になったのだろう。早く会ってみたい。後ろを振り返ることもなくリアムを引き連れて馬車に乗り込むと、ヴァンダービルト家の家臣と思しき壮年の男性が近づいてきた。
「ご家族の皆様に最後の挨拶をなさらなくてもよろしいのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。そもそも両親も兄弟たちも体調不良で伏せっております」
男は目を丸くする。
「ではお見送りの皆さんはすべて使用人の方々ということで?」
「はい」
「……荷物も、それで全部なのですか」
「はい」
驚かれるのも無理はない。というか帝国側の者たちは皆、戸惑っているように見える。
(こんなみすぼらしい奴が公爵令息だとは思わねえよな)
自然と苦い笑みがこぼれた。アイルズベリーでも有数の王族の血を引く貴族、さらに大陸のどの国でも喉から手が出るほど欲しい魔力を持つ家の次男の嫁入りにしては、あまりに全てが粗末なのだ。
ちなみに俺の荷物は図書館からくすねた1冊の魔導書と、これだけは没収されずにすんだ幼い頃から愛用しているペンとノートだけ。これらを愛用のずだ袋に入れている。連れていく従者もリアム一人。
衣装と靴だけはド派手なものが部屋に運ばれてきたが、どうしても袖を通す気になれず、そのまま持ってきた。どうせ見送りに来ないことはわかりきっていたので、仕事着に袖を通した。その他も服も、捨てられるのがもったいないので袋に包んだ。
男が持ち場に戻っていくと、すぐに馬車が動き出した。そうして恐ろしいほどあっさりと俺は20年育った実家から出て行くことになった。
1,859
お気に入りに追加
3,426
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる