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第一章 無能令息と最強王子
<5>ベリンガム帝国へ1
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エリスの魔力は膨大だが、それを使いこなすには知識が必要だ。他の魔力は前世での知識でなんとかなりそうだが、癒しの力はそういうわけにはいかない。
なんといってもラムズデール家相伝の力であり、力を使うために必要な知識を学べる魔導書もこの家にしかないはずだ。
ベリンガムへ出発するまでの間になんとしても習得しておきたい。リアムは人目を忍んで書庫から大量の魔導書を運んできでくれた。おかげで3日間、寝食も忘れてひたすら癒しの力について学ぶことができた。
自分で言うのもなんだが、もともとセンスのいい俺はたちまちさまざな治癒魔法を使いこなすことができるようになった。
そして3日後。昼過ぎにヴァンダービルと家からの迎えが到着した。
正門の前に白馬を繋いだ白銀の馬車が現れた時、そこにいた誰もがその美しさに目を奪われた。ベリンガムは軍事大国であると同時に豊かな鉱山も保有している。
特にヴァンダービルトの領地ではプラチナの産出量が非常に多く、さまざまなものに使用されているのだ。車体には華やかだが上品な彫刻が施され、あちこちに宝石もはめ込まれている。中でも、美しい水色の宝石を目にした狼の彫刻に目を奪われる。
(そういえばレヴィも銀髪で水色の目をしていたな)
あの泣き虫小僧はどんな大人になったのだろう。早く会ってみたい。後ろを振り返ることもなくリアムを引き連れて馬車に乗り込むと、ヴァンダービルト家の家臣と思しき壮年の男性が近づいてきた。
「ご家族の皆様に最後の挨拶をなさらなくてもよろしいのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。そもそも両親も兄弟たちも体調不良で伏せっております」
男は目を丸くする。
「ではお見送りの皆さんはすべて使用人の方々ということで?」
「はい」
「……荷物も、それで全部なのですか」
「はい」
驚かれるのも無理はない。というか帝国側の者たちは皆、戸惑っているように見える。
(こんなみすぼらしい奴が公爵令息だとは思わねえよな)
自然と苦い笑みがこぼれた。アイルズベリーでも有数の王族の血を引く貴族、さらに大陸のどの国でも喉から手が出るほど欲しい魔力を持つ家の次男の嫁入りにしては、あまりに全てが粗末なのだ。
ちなみに俺の荷物は図書館からくすねた1冊の魔導書と、これだけは没収されずにすんだ幼い頃から愛用しているペンとノートだけ。これらを愛用のずだ袋に入れている。連れていく従者もリアム一人。
衣装と靴だけはド派手なものが部屋に運ばれてきたが、どうしても袖を通す気になれず、そのまま持ってきた。どうせ見送りに来ないことはわかりきっていたので、仕事着に袖を通した。その他も服も、捨てられるのがもったいないので袋に包んだ。
男が持ち場に戻っていくと、すぐに馬車が動き出した。そうして恐ろしいほどあっさりと俺は20年育った実家から出て行くことになった。
なんといってもラムズデール家相伝の力であり、力を使うために必要な知識を学べる魔導書もこの家にしかないはずだ。
ベリンガムへ出発するまでの間になんとしても習得しておきたい。リアムは人目を忍んで書庫から大量の魔導書を運んできでくれた。おかげで3日間、寝食も忘れてひたすら癒しの力について学ぶことができた。
自分で言うのもなんだが、もともとセンスのいい俺はたちまちさまざな治癒魔法を使いこなすことができるようになった。
そして3日後。昼過ぎにヴァンダービルと家からの迎えが到着した。
正門の前に白馬を繋いだ白銀の馬車が現れた時、そこにいた誰もがその美しさに目を奪われた。ベリンガムは軍事大国であると同時に豊かな鉱山も保有している。
特にヴァンダービルトの領地ではプラチナの産出量が非常に多く、さまざまなものに使用されているのだ。車体には華やかだが上品な彫刻が施され、あちこちに宝石もはめ込まれている。中でも、美しい水色の宝石を目にした狼の彫刻に目を奪われる。
(そういえばレヴィも銀髪で水色の目をしていたな)
あの泣き虫小僧はどんな大人になったのだろう。早く会ってみたい。後ろを振り返ることもなくリアムを引き連れて馬車に乗り込むと、ヴァンダービルト家の家臣と思しき壮年の男性が近づいてきた。
「ご家族の皆様に最後の挨拶をなさらなくてもよろしいのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。そもそも両親も兄弟たちも体調不良で伏せっております」
男は目を丸くする。
「ではお見送りの皆さんはすべて使用人の方々ということで?」
「はい」
「……荷物も、それで全部なのですか」
「はい」
驚かれるのも無理はない。というか帝国側の者たちは皆、戸惑っているように見える。
(こんなみすぼらしい奴が公爵令息だとは思わねえよな)
自然と苦い笑みがこぼれた。アイルズベリーでも有数の王族の血を引く貴族、さらに大陸のどの国でも喉から手が出るほど欲しい魔力を持つ家の次男の嫁入りにしては、あまりに全てが粗末なのだ。
ちなみに俺の荷物は図書館からくすねた1冊の魔導書と、これだけは没収されずにすんだ幼い頃から愛用しているペンとノートだけ。これらを愛用のずだ袋に入れている。連れていく従者もリアム一人。
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男が持ち場に戻っていくと、すぐに馬車が動き出した。そうして恐ろしいほどあっさりと俺は20年育った実家から出て行くことになった。
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