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第二部 1章
<7話>
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「こんなもんかな」
新たに発生した“推しの悪役令息化ルート”を潰すための計画が完成した。
もしかするとこの世界には俺が捻じ曲げたストーリーを、正規ルートに戻そうとする力が働いているのかもしれない。
(一件落着したかと思ってたのに、まだまだ油断できそうにないな。気を引き締めきゃ)
そんなわけで俺が考えた作戦は、「できるだけたくさんの友達を作って仲良くなる」というものだった。
もちろんエリザベスとも、近いうちに仲直りをするつもりである。
このまま放置して、エリザベスがもしまた何か仕掛けてきた場合、アシュリーは今度こそ彼女を許さないだろう。
あの冷たい目では、どんな厳罰が下そうとするかわからない。
もしそんなことになれば、アシュリー見る周囲の目だって変わってしまうだろう。
(そうなれば、悪役令息待ったなしだ)
推しが今のまま幸せな人生を続行するためには、俺自身が周囲の人間たちに嫌われないようにして生きることが必要なのだ。
そもそも今回の事件が起きるまで、俺の世界には推ししか存在していなかった。
もちろん家族や友人たちもいるけれど、世界の中心にはアシュリーしかいない。
そのため学校でもクラスメイトたちと交流を深める気はさらさらなかった。推しの幸せを守るためには必要のないことだと思っていたのだ。
(けど、違ったみたいだな)
深い愛情を持つ少年として育った推しは、自分自身よりも家族や友人を大切に思うようになっていた。
おそらくあの場で侮辱されたのがレイやユーリだとしても、同じように怒ったはず。
自分が一番、自分さえよければ無問題というゲームのストーリーとは真反対の性格である。
「俺が皆と仲良くして、悪意を向けられないようにしなきゃ」
となると、学校でも推したちとばかり絡んでいるわけにはいかない。
推しと一緒にいる時間が減るのはとても悲しい。だが俺の人生の目的は推しの幸せな人生を見守ることなのだ。
「よし! 頑張るぞ!……それにしても、アシュリーの様子が気になるな」
食欲がないのか、ディナーにもあまり手をつけていなかったし、終始俯き加減だった。
体調が悪いのかと心配した両親に、ユーリが「今日の授業がきつくてアシュリーは疲れているだけ」とフォローを入れたおかげで、その場は何事もなく終わったのだが。
エリザベスの騒ぎを父上たちに報告するのかについても話ができていない。
(ま、今日はいいか。まだ時間あるし)
来週は月曜が祝日のため、金曜の夜から火曜の朝までは自宅で過ごすことができるのだ。
ノートを片付けてベッドに潜り込む。部屋の明かりを消し、ベッドサイドのライトを点けたその時。
「ん?」
控えめなノック音が聞こえたような気がした。耳を澄ましていると、再びコンコンと小さな音がする。
「誰だろ?」
何かあったのだろうか。ベッドから降りて静かに扉を開けた。
「アシュリー兄さま!?」
薄闇の中、立っていたのはナイトガウン姿の推しだった。
「遅くにごめんね、ルイス。きみと少し話がしたいんだけど、いいかな」
「は、はい。どうぞ」
俺は推しを部屋の中に招き入れると、静かに扉を閉めた。
新たに発生した“推しの悪役令息化ルート”を潰すための計画が完成した。
もしかするとこの世界には俺が捻じ曲げたストーリーを、正規ルートに戻そうとする力が働いているのかもしれない。
(一件落着したかと思ってたのに、まだまだ油断できそうにないな。気を引き締めきゃ)
そんなわけで俺が考えた作戦は、「できるだけたくさんの友達を作って仲良くなる」というものだった。
もちろんエリザベスとも、近いうちに仲直りをするつもりである。
このまま放置して、エリザベスがもしまた何か仕掛けてきた場合、アシュリーは今度こそ彼女を許さないだろう。
あの冷たい目では、どんな厳罰が下そうとするかわからない。
もしそんなことになれば、アシュリー見る周囲の目だって変わってしまうだろう。
(そうなれば、悪役令息待ったなしだ)
推しが今のまま幸せな人生を続行するためには、俺自身が周囲の人間たちに嫌われないようにして生きることが必要なのだ。
そもそも今回の事件が起きるまで、俺の世界には推ししか存在していなかった。
もちろん家族や友人たちもいるけれど、世界の中心にはアシュリーしかいない。
そのため学校でもクラスメイトたちと交流を深める気はさらさらなかった。推しの幸せを守るためには必要のないことだと思っていたのだ。
(けど、違ったみたいだな)
深い愛情を持つ少年として育った推しは、自分自身よりも家族や友人を大切に思うようになっていた。
おそらくあの場で侮辱されたのがレイやユーリだとしても、同じように怒ったはず。
自分が一番、自分さえよければ無問題というゲームのストーリーとは真反対の性格である。
「俺が皆と仲良くして、悪意を向けられないようにしなきゃ」
となると、学校でも推したちとばかり絡んでいるわけにはいかない。
推しと一緒にいる時間が減るのはとても悲しい。だが俺の人生の目的は推しの幸せな人生を見守ることなのだ。
「よし! 頑張るぞ!……それにしても、アシュリーの様子が気になるな」
食欲がないのか、ディナーにもあまり手をつけていなかったし、終始俯き加減だった。
体調が悪いのかと心配した両親に、ユーリが「今日の授業がきつくてアシュリーは疲れているだけ」とフォローを入れたおかげで、その場は何事もなく終わったのだが。
エリザベスの騒ぎを父上たちに報告するのかについても話ができていない。
(ま、今日はいいか。まだ時間あるし)
来週は月曜が祝日のため、金曜の夜から火曜の朝までは自宅で過ごすことができるのだ。
ノートを片付けてベッドに潜り込む。部屋の明かりを消し、ベッドサイドのライトを点けたその時。
「ん?」
控えめなノック音が聞こえたような気がした。耳を澄ましていると、再びコンコンと小さな音がする。
「誰だろ?」
何かあったのだろうか。ベッドから降りて静かに扉を開けた。
「アシュリー兄さま!?」
薄闇の中、立っていたのはナイトガウン姿の推しだった。
「遅くにごめんね、ルイス。きみと少し話がしたいんだけど、いいかな」
「は、はい。どうぞ」
俺は推しを部屋の中に招き入れると、静かに扉を閉めた。
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