病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

文字の大きさ
上 下
60 / 92
第一部 エピローグ

それぞれの思惑

しおりを挟む
「ユーリ、ルイスをからかうのはやめろって言ってるだろ」
義弟が起きているときには見せることのない鋭い瞳がユーリを射抜く。
「自分では無意識だったが、またやってしまっていたか。すまないな、次から気をつける」
面白がるような物言いに、美しい銀の眉が跳ね上がった。
「ったく、わざとらしすぎんだよ。なんでルイスはおかしな奴ばっか引き付けるんだか」
ルークがげんなりした顔で呟く。
回復したルークも交えて遊ぶうちに、4人はすっかり友達のように仲良くなった――とルイスは思っている。
実際、打ち解けはしたが仲がいいかは甚だ疑問なのだが。
何せ、もうこの4人はすでに自分たちがライバルであることを認識しているのである。
「ルーク、それは自分のことを言っているんだろうな」
ユーリの言葉にルークは顔を顰める。
「おまえだろ、バーカ」
「しょうもない悪口だな。語彙力を鍛えろ。おすすめの小説を貸してやろうか」
「うるせーな」
人当たりのいいルークだが、ユーリには当たりがきつい。それだけユーリが他人を煽ったりイラつかせるのが上手いのかもしれない。
睨みつけるルークと不遜なユーリの視線が火花を散らす。
ため息を吐いたレイは、見かねて二人に声をかけた。
「おまえたち、ここであまりヒートアップするなよ。ルイスが起きる」
彼らは庭園に敷いたギンガムチェックの敷物の上で思い思いに寛いでいる。
今日は庭で遊び、そのままランチタイムにしたのだ。
だが遊び疲れたルイスは少し食べただけであっという間に寝入ってしまった。
アシュリーは自分の膝の上、気持ちよさそうに寝息を立てるルイスの目にかかった前髪を優しく払うと、言い争う二人へ厳しい目を向けた。
「レイの言う通りだ。今バレたりしたら、僕たち全員嫌われてしまうかもしれないよ」
その一言で、二人は静かになり、アシュリーは言葉を続けた。
「この前、皆でルールを決めたね。ユーリも納得しただろう?」
「ああ、わかっている。それにしてもレイとの関係がそんなふうに成立しているとは思わなかったぞ。おまえたちはつくづく面白い奴らだ」
「ていうか、油断も隙もねーって感じ?」
ルークが同調するように口を尖らせる。
「誰が有利でも不利でもないはずだ。それにルイスが僕たちのせいで悩んだり傷ついたりすることなく成長してほしいっていうのは、僕ら共通の一番の願いだったよね」
呆れたようなアシュリーの言葉に、レイが頷く。
「そうだ。俺たちはあの結果が出るまでは、全員が平等だ。勝負は来年――俺たちが魔法学校に入学してからだろ」
「ああ、わかっている」
「わかってるっつーの」
ユーリとレイは口々に返事をする。4人が改めて誓いを確認するように目を合わせて頷いた瞬間、ルイスの金色のまつげが細かく震えた。少しして、ゆっくりと水色の眼球が現れる。
「……ん? あぇ、ぼく、ねちゃったのですか……ごめんなさい」
寝起きの掠れ声でルイスが目を擦る。
「おはよう、ルイス。もう少し寝ていてもいいんだよ」
アシュリーのすみれ色の瞳は、いつもの柔らかさに戻っている。
「そうだぞ、俺たちはまだ少ししゃべりたいからな」
言葉だけみると偉そうだが、レイの声はどこまでも優しい。
「起きたらさっきの続きしような!」
「クソチビはまだねんねの時間だ。無理せず寝ろ」
ルークとユーリも言葉を続ける。
「う…ん、じゃあ、もう、ちょっとだ、け……」
言い終わるが早いか、再び夢の世界へと戻っていく。
少年たちはルイスのあどけない寝顔を、それぞれの想いのこもった目で見つめていた。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた異国の貴族の子供であるレイナードは、人質としてアドラー家に送り込まれる。彼の目的は、内情を探ること。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイどころか悪役令息続けられないよ!そんなファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 真面目で熱血漢。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。 受→レイナード 斜陽の家から和平の関係でアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

処理中です...