病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

文字の大きさ
上 下
47 / 92
4章

<5話>

しおりを挟む
「魔法学校に入る前に、なんとかしないと」
俺は自室のソファで足ぶらぶらさせながら考え込んだ。まだ床につま先がつかないのが悲しい。
アシュリーやレイより年下の俺は、彼らが魔法学校に入学してしまったら、今のように簡単に手出しすることはできなくなる。
「それまでにユーリに誰か好きな人ができるか、もしくはレイに興味をなくせばいいんだよな……うーん」
前者はかなり厳しい気がする。複雑な家庭環境の影響が大きいのだとは思うが、ルーイは性格に難ありだ。というか、難しかない。
見た目はいいので寄ってくる人間は多いだろうが、彼が相手に好意を持つところまでいくのは難しいだろう。
ということは、レイとアシュリーの仲を見せつけて恋心の芽を今のうちに摘むしかない。
本来のストーリーでは、アシュリーにうんざりしていたレイはクロフォード家には必要最低限にしか寄り付かなかった。
さらにアシュリーは離れてに住んでいた上、レイのことを独占したがったのでユーリとレイが顔を合わせることはなかったのである。
だが、幸運なことに今は違う。
レイは足しげく我が家に通い詰めているし、アシュリーとの仲も良好だ。この様子を日頃から見ていれば、従兄弟の婚約者に横恋慕する可能性は限りなく低くなるのではないだろうか。
「ま、あれじゃ心配しなくても第一印象は最悪だろうな」
偉そうな顔で俺たちを見下していたユーリの顔を思い浮かべると、自然とため息が出た。嫌な奴だし苦手なタイプなのは変わりないが、彼のこれまでの人生のことを考えると、幸せになってほしいとは思う。
レイとの未来を捻じ曲げてしまうんだから、多少は優しくしてあげることも必要かもしれない。
ちょうど考えがまとまった頃、部屋の扉がノックされた。この優しいノック音、間違いなく推しだ!
俺は急いでいソファから飛び降りると、扉を開ける。
「アシュリー兄さま!」
そこには予想通り、大好きな推しが立っていた。
「どうなさったのですか? おひとりですか?」
俺の問いにアシュリーは聖母のような微笑みを浮かべて頷く。
「うん。今日はレイもルークも都合が悪くて来られないんだって。久しぶりに二人で遊ばない?」
「はいっ!! 久しぶりに兄さまと二人で過ごせるなんて嬉しすぎて夢みたいです」
喜んで自分の周りを飛び跳ねる俺を見てアシュリーはおかしそうに笑っている。
「こら。そんなことをしていると、目がまわってしまうよ。落ち着いて、ルイス」
「はい、ごめんなさい。つい嬉しくって」
ピタリと動きを止めて俯くと、少し温度の低い心地よい手が俺の髪をさらりと撫でた。
「怒っているわけじゃないから、落ち込まないで。それより、お茶を飲まない? 二人だけで」
そう言うとアシュリーは手に持っていたバスケットを掲げて、いたずらっぽく片目を瞑った。
「……っ!!」
なんだこれなんだこれなんだこれ。推しのウインク、しかもこんな至近距離で俺にだけ向けられるなんて聞いてない!!可愛すぎる、可愛いがすぎる、もはや暴力的!!
耐えきれず胸のあたりを抑えてよろめくと、アシュリーが慌てて支えてくれた。
「ルイス、大丈夫? もしかして具合でも悪いの? だったら今日は――」
「違いますッ!! 100%元気ですっ!! ちょっとお腹が減っただけです!!」
兄さまが可愛すぎて身悶えしていたという真実は、かろうじて隠すことができてホッとする。
「そう? よかった。いろいろ持ってきたんだ。せっかくだから庭のガゼボまで行こうか」
「はいっ! アシュリー兄さまとなら、どこまでも参ります!」
当たり前のように差し出された推しの手を握って俺は叫んだ。
「どこまでもって……本当、ルイスっておもしろいことを言うよね」
アシュリーはすみれ色の目を細めて、くすくすとおもしろそうに笑ってくれる。それだけで嬉しさと幸せで俺は天にも昇る心地になってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...