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3章
<9話>※ルーク視点
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ルイスたちを見送って屋敷戻ると、ハワード夫人が駆け寄ってきた。
「ルーク! レイ様たち何かおっしゃていたかしら?」
またか。うんざりした気持ちを顔に出さないように努める。
「はい、とても楽しかったと。また来るかもしれないス」
「んまあ!! そうなの!! あらあら!! よかったわ!」
「じゃあ俺、部屋戻りますんで」
「ええ! ゆっくり休みなさいね。今日のディナー、メインディッシュはあなたの大好きな半喪服の鶏よ!」
「ウッス」
部屋の扉を閉め、大きく息を吐く。
ルイスの兄貴の誕生日パーティー以来、俺を取り巻く環境は一変した。
あんなに俺を毛嫌いしていた夫人は人が変わったように優しくなった。
あれだけ敬語を使えと毎日のように怒られていたのに、それもなくなった。
食事も今までは一人だけ部屋で、他の家族とは異なるものを与えられていたが、突然ダイニングで食事するように言われ、今では両親や義兄たちとテーブルを囲んでいる。
義兄たちは俺を見ると愛想笑いを浮かべ、当たり障りない会話をしてくる。
きっと夫人に言われているのだろう。
彼らが優しくなったと言っても、それが上辺だけだというのはよくわかっている。
その証拠に、夫人は俺のことなんて見ていない。
(いつ俺が半喪服の鶏が好物だって言ったよ)
半喪服の鶏というのは鶏のスープで丸ごと一羽の鶏を煮る料理だ。皮と肉の間に黒トリュフのスライスを挟み、皮から透けてみえる黒トリュフが水玉模様のように見えることで、この奇妙な名前がついたらしい。
だが俺はこんな高級食材を使った料理が好きだなんて言った覚えはない。
夫人が何を勘違いしているかはしらないが、庶民出の俺にはトリュフの香りの良さもわからないし鶏はシンプルにソテーして塩コショウして食べるのが一番美味く感じる。
だが環境が格段に良くなったのは確かだし、成人するまでは不服ではあるが彼らの世話になって生きていかなければならない。
侯爵家の場合、爵位を継ぐ長男以外の息子は3人までは一定以上の魔力を持っていれば、伯爵の地位を得ることができる。
(成人したらさっさと独立して、本当に好きなもん食えるようになりてーな)
ルイスも俺と同じようなことを言っていた。
アイツとはなぜか価値観や考え方が似ていて、ウマが合う。だから一緒にいても疲れないし、本当の自分でいられる。
俺はまだガキだが、これから先も貴族という立場でルイスほど気が合う人間に出会える気がしない。
だからだろうか。最近、ルイスと結婚したらきっと楽しいだろうな、なんて想像してしまう。
だが今日、俺の思い描く未来の実現はそんなに簡単じゃないとはっきりわかった。
同時に、自分の気持ちもより明確になった。
俺は、ルイスのことが好きだ。
だがヴァイオレット家のオレ様坊ちゃんもルイスの美人兄貴もきっと同じ気持ちだろう。
あの二人は婚約しているはずだが、俺の目に間違いはないと確信している。
今日一日、なぜか俺にべったりだったルイスを見つめる二人の目が物語っていた。
ルイスは茶会では俺の隣をいち早く陣取ったり、庭を散歩するときも俺のそばを離れなかった。その上、やけに俺と二人きりになりたがった。
心底悔しそうな顔で唇を噛む二人を前にルイスを独占するのは正直、気持ち良かった。
思い出すだけで顔がニヤけてしまう。
「どうみても俺のほうが絶対、好かれるし」
あの二人が相手なら負けるきはしないが、邪魔はしてきそうだ。それにあんなに可愛くていい奴なルイスのことだ、もう少し成長して社交界デビューなんてしたら、もっと手ごわいライバルの出現もありえる。
(それまでに俺のモンにしてーな)
夕食まではまだだいぶ時間がある。俺はソファに横になってルイスを嫁にもらった、今よりも大人の自分を想像しながら目を閉じた。
「ルーク! レイ様たち何かおっしゃていたかしら?」
またか。うんざりした気持ちを顔に出さないように努める。
「はい、とても楽しかったと。また来るかもしれないス」
「んまあ!! そうなの!! あらあら!! よかったわ!」
「じゃあ俺、部屋戻りますんで」
「ええ! ゆっくり休みなさいね。今日のディナー、メインディッシュはあなたの大好きな半喪服の鶏よ!」
「ウッス」
部屋の扉を閉め、大きく息を吐く。
ルイスの兄貴の誕生日パーティー以来、俺を取り巻く環境は一変した。
あんなに俺を毛嫌いしていた夫人は人が変わったように優しくなった。
あれだけ敬語を使えと毎日のように怒られていたのに、それもなくなった。
食事も今までは一人だけ部屋で、他の家族とは異なるものを与えられていたが、突然ダイニングで食事するように言われ、今では両親や義兄たちとテーブルを囲んでいる。
義兄たちは俺を見ると愛想笑いを浮かべ、当たり障りない会話をしてくる。
きっと夫人に言われているのだろう。
彼らが優しくなったと言っても、それが上辺だけだというのはよくわかっている。
その証拠に、夫人は俺のことなんて見ていない。
(いつ俺が半喪服の鶏が好物だって言ったよ)
半喪服の鶏というのは鶏のスープで丸ごと一羽の鶏を煮る料理だ。皮と肉の間に黒トリュフのスライスを挟み、皮から透けてみえる黒トリュフが水玉模様のように見えることで、この奇妙な名前がついたらしい。
だが俺はこんな高級食材を使った料理が好きだなんて言った覚えはない。
夫人が何を勘違いしているかはしらないが、庶民出の俺にはトリュフの香りの良さもわからないし鶏はシンプルにソテーして塩コショウして食べるのが一番美味く感じる。
だが環境が格段に良くなったのは確かだし、成人するまでは不服ではあるが彼らの世話になって生きていかなければならない。
侯爵家の場合、爵位を継ぐ長男以外の息子は3人までは一定以上の魔力を持っていれば、伯爵の地位を得ることができる。
(成人したらさっさと独立して、本当に好きなもん食えるようになりてーな)
ルイスも俺と同じようなことを言っていた。
アイツとはなぜか価値観や考え方が似ていて、ウマが合う。だから一緒にいても疲れないし、本当の自分でいられる。
俺はまだガキだが、これから先も貴族という立場でルイスほど気が合う人間に出会える気がしない。
だからだろうか。最近、ルイスと結婚したらきっと楽しいだろうな、なんて想像してしまう。
だが今日、俺の思い描く未来の実現はそんなに簡単じゃないとはっきりわかった。
同時に、自分の気持ちもより明確になった。
俺は、ルイスのことが好きだ。
だがヴァイオレット家のオレ様坊ちゃんもルイスの美人兄貴もきっと同じ気持ちだろう。
あの二人は婚約しているはずだが、俺の目に間違いはないと確信している。
今日一日、なぜか俺にべったりだったルイスを見つめる二人の目が物語っていた。
ルイスは茶会では俺の隣をいち早く陣取ったり、庭を散歩するときも俺のそばを離れなかった。その上、やけに俺と二人きりになりたがった。
心底悔しそうな顔で唇を噛む二人を前にルイスを独占するのは正直、気持ち良かった。
思い出すだけで顔がニヤけてしまう。
「どうみても俺のほうが絶対、好かれるし」
あの二人が相手なら負けるきはしないが、邪魔はしてきそうだ。それにあんなに可愛くていい奴なルイスのことだ、もう少し成長して社交界デビューなんてしたら、もっと手ごわいライバルの出現もありえる。
(それまでに俺のモンにしてーな)
夕食まではまだだいぶ時間がある。俺はソファに横になってルイスを嫁にもらった、今よりも大人の自分を想像しながら目を閉じた。
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