病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子

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2章

<1話>

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「レイ様がご帰国なさったのですか!?」
衝撃のあまり椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がってしまう。

週末、屋敷に帰ってきたジェシーによりレイ・ヴァイオレットの帰国が知らされた。
「留学なさってから、もう1年が経ったのですね」
アシュリーは落ち着いた様子でジェシーの話に耳を傾けているが、俺は頭の中が真っ白になるほど動揺していた。
(前に聞いたとき、レイのことは別に好きじゃないって言ってたよな……)
いつも通り穏やかな推しの表情を盗み見ながらホッと安堵のため息を吐く。
だが油断してはならない。
俺たち兄弟、いやクロフォード家のハッピーライフにとっていま一番の脅威が攻略対象のレイ・ヴァイオレットなのである。
ルイスはレイとはほぼ面識がないはずだし、記憶を探っても話したこともない。
だが、さまざまなキャラで攻略した俺は彼についてはよく知っているつもりだ。

レイ・ヴァイオレット。
ヴァイオレット公爵家は王族の血を引く一族で、豊かな領地と莫大な資産をもつ富豪貴族でもある。
現当主は国の宰相として活躍しており、政財界で力を持つ国でも有数の名家なのだ。
そんな名門公爵家の長男にして跡継ぎの子息がレイだ。
歳はアシュリーと同じ。
金髪に青い目をした美少年で、この国で一番美しい貴族の子どもと言われるほどの顔立ちと華やかなオーラを持つ。
容姿と家柄、財産、権力という人間の欲しがるすべてを持って生まれたようなスペックだが、宰相の息子として、また名門公爵家の跡取りとして小さな頃から厳しい教育を受けてきたため年齢よりもかなり大人びている。
努力しなくてもなんでもできてしまうが故に、あらゆる物事に対して興味が薄い。

とまあ色々と資料やゲーム内の情報はあるわけだが、簡単に言うと小生意気で他人にも自分にも厳しく気難しい奴なのである。
攻略も最初の頃は特に苦労したのが懐かしい。
レイとアシュリーは6歳の頃に正式に婚約しており、留学前まではレイは月に1回ほどアシュリーの住む離れを訪問していたはずだ。
だが、いつも会話が続かずアシュリーも不機嫌なために訪問は常に30分以内、長くても1時間で終わっていた。
もちろんアシュリーは不機嫌だったわけではない。
体調が悪いことを言い出せなかったのだ。
顔を顰めて黙り込み自分からは何も話さないアシュリーを、レイは自分に対する嫌がらせだと勘違いしてしまう。
レイは自分からアシュリーに対してあれこれ聞いたりするタイプではないし、アシュリーも体調が悪いことを自分から言う性格ではない。
そんな互いの性格によるすれ違いにより、二人の間の溝はどんどん深くなって不仲になってしまったのだ。
だが病気がほぼ完治したことでアシュリーの人生はすでにゲーム内とは異なる道を進み始めている。
今の素直で愛らしく明るいアシュリーと会ったら、きっとレイもアシュリーを好きになってしまうだろう。
控えめに言ってもアシュリーを好きにならない人間なんて、この世界に存在するわけがない。

もしレイがアシュリーに惚れ、アシュリーもレイに好意を持ったとする。
一見、これですべてが上手くいくように思えるが問題はその後だ。
レイはこれから起きるさまざまなイベントで複数人の主人公キャラたちと出会うことになる。
彼らと出会い、もしレイが心が変わりをしたら。
その時はまたせっかく回避した悪役令息の推しが爆誕してしまうかもしれない。
(それだけは絶対に避けたい……ッ!)

ジェシーのはおそらく数日のうちにレイが帰国の挨拶に来るだろうと話していた。
時間はあまりないが出来る限りの対策を立てなければならない。

俺は来る推しとレイ・ヴァイオレットとの出会いに備えて緊急で脳内対策会議を行うことにした。
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