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1章
13話 ※アシュリー視点
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((なんだか外が騒がしいな)
常夜灯がわりの魔法花が優しく光る静かな部屋の中、僕はゆっくりと上体を起こした。
扉の外ではドタバタと複数の足音や声が聞こえる。この離れに越してきてから、こんなことはなかった。
(こんな時間にどうしたんだろう)
ベッドサイドに置いてあるガウンを羽織って扉へ近づく。
思い切って廊下に出ると、たくさんの使用人たちが焦った様子であちこち走り回っていた。
「ねえ、何かあったの?」
その中の一人に声をかけてみる。振り返ったのはルイス付きのメイドであるローラだ。
僕は人目につかないよう、廊下の隅の物置部屋へと手招きした。
「アシュリー様!? なぜここに……そうだわ、アシュリー様のお部屋はすぐ側ですね。大変失礼致しました」
「なんだか外が騒がしくて目が覚めたんだ。一体どうしたの? それにルイス付きのきみがなぜこんな夜中に――」
そこまで口にして、嫌な予感が背筋に走った。
「……もしかしてルイスに何かあったの?」
ローラは青褪めて唇を噛み、視線を彷徨わせる。
「いいから話して」
目線をしっかり合わせて伝えると、ローラは決心したように大きく息を吸い込んだ。
「ルイス様がお部屋にいらっしゃらないのです」
「……は?」
動揺で声が掠れる。
「どういうこと? もっと詳しく説明してもらえるかな」
「昨晩、たしかにベッドでお休みになられたはずなのですが……当番のメイドが水差しのお水を取り替えるのを忘れていたので、お部屋に入りましたらベッドにお姿がなく……」
「誰かに攫われたということ?」
言いながら自分の言葉の恐ろしさに声が震えそうになった。
「寝具に乱れた様子はございませんでしたので、おそらくはご自身でどこかへ行かれたのかと」
「こんな夜中に?」
「以前一度、真夜中に屋敷を探検なさってダンスホールの隅でお休みになってしまったことがあったものですから」
「でも、今日はどこを探しても見つからずにこっちまで探しに来たんだね」
「左様でございます」
「この様子だと離れでも見つからないんだね」
ローラは力なく頷いた。
「父上たちもこっちに来ているの?」
「旦那様と奥様は1階を探しておられます。ジェシー様は本邸のほうを」
「僕も探す」
「ア、アシュリー様はお休みくださいませ! お体に障ります。外はひどい雨が降っておりますし気温もだいぶ下がっておりますから」
「でももしかするとルイスはそんな中で一人、助けを待っているかもしれないだろう。これだけの人数で邸内を探して見つからないとなると、庭にいる可能性も高い」
「まさか……!!」
「ルイスは僕と同じで自然が好きだ。庭には夜にしか咲かない花もあるし、見に行く可能性がないとはいえないよ」
ローラが口元を両手で覆う。
雨は窓を叩きつけるように降り続け、ヒューヒューと唸るような風の音も聞こえる。
(こんな中に長時間いたら、小さい子どもは命に関わる)
きっとローラもそう思っているのだろう。だが僕らは口に出さなかった。言葉にしたら本当になってしまいそうな気がしたから。
「父上たちに見つかると部屋に連れ戻されるな。ローラ、僕はこれからジェシー兄上のところに行く。僕が単独で勝手にやることだ。僕と会って話したことは忘れるんだ。いいね?」
「ですが、もしアシュリー様にまで何かあったら……」
「大丈夫。以前よりも今の僕はずっと健康だ。それに――」
最初の頃はただ煩わしいだけの存在だったけれど、ルイスがきっかけで病気が快方に向かったのだということを、もう僕は認めている。
「兄が弟を守るのは当然のことだろう」
ローラの肩に両手を置き、できるだけ安心させるように明るく言った後、すぐに転移魔法で本邸へと飛んだ。
常夜灯がわりの魔法花が優しく光る静かな部屋の中、僕はゆっくりと上体を起こした。
扉の外ではドタバタと複数の足音や声が聞こえる。この離れに越してきてから、こんなことはなかった。
(こんな時間にどうしたんだろう)
ベッドサイドに置いてあるガウンを羽織って扉へ近づく。
思い切って廊下に出ると、たくさんの使用人たちが焦った様子であちこち走り回っていた。
「ねえ、何かあったの?」
その中の一人に声をかけてみる。振り返ったのはルイス付きのメイドであるローラだ。
僕は人目につかないよう、廊下の隅の物置部屋へと手招きした。
「アシュリー様!? なぜここに……そうだわ、アシュリー様のお部屋はすぐ側ですね。大変失礼致しました」
「なんだか外が騒がしくて目が覚めたんだ。一体どうしたの? それにルイス付きのきみがなぜこんな夜中に――」
そこまで口にして、嫌な予感が背筋に走った。
「……もしかしてルイスに何かあったの?」
ローラは青褪めて唇を噛み、視線を彷徨わせる。
「いいから話して」
目線をしっかり合わせて伝えると、ローラは決心したように大きく息を吸い込んだ。
「ルイス様がお部屋にいらっしゃらないのです」
「……は?」
動揺で声が掠れる。
「どういうこと? もっと詳しく説明してもらえるかな」
「昨晩、たしかにベッドでお休みになられたはずなのですが……当番のメイドが水差しのお水を取り替えるのを忘れていたので、お部屋に入りましたらベッドにお姿がなく……」
「誰かに攫われたということ?」
言いながら自分の言葉の恐ろしさに声が震えそうになった。
「寝具に乱れた様子はございませんでしたので、おそらくはご自身でどこかへ行かれたのかと」
「こんな夜中に?」
「以前一度、真夜中に屋敷を探検なさってダンスホールの隅でお休みになってしまったことがあったものですから」
「でも、今日はどこを探しても見つからずにこっちまで探しに来たんだね」
「左様でございます」
「この様子だと離れでも見つからないんだね」
ローラは力なく頷いた。
「父上たちもこっちに来ているの?」
「旦那様と奥様は1階を探しておられます。ジェシー様は本邸のほうを」
「僕も探す」
「ア、アシュリー様はお休みくださいませ! お体に障ります。外はひどい雨が降っておりますし気温もだいぶ下がっておりますから」
「でももしかするとルイスはそんな中で一人、助けを待っているかもしれないだろう。これだけの人数で邸内を探して見つからないとなると、庭にいる可能性も高い」
「まさか……!!」
「ルイスは僕と同じで自然が好きだ。庭には夜にしか咲かない花もあるし、見に行く可能性がないとはいえないよ」
ローラが口元を両手で覆う。
雨は窓を叩きつけるように降り続け、ヒューヒューと唸るような風の音も聞こえる。
(こんな中に長時間いたら、小さい子どもは命に関わる)
きっとローラもそう思っているのだろう。だが僕らは口に出さなかった。言葉にしたら本当になってしまいそうな気がしたから。
「父上たちに見つかると部屋に連れ戻されるな。ローラ、僕はこれからジェシー兄上のところに行く。僕が単独で勝手にやることだ。僕と会って話したことは忘れるんだ。いいね?」
「ですが、もしアシュリー様にまで何かあったら……」
「大丈夫。以前よりも今の僕はずっと健康だ。それに――」
最初の頃はただ煩わしいだけの存在だったけれど、ルイスがきっかけで病気が快方に向かったのだということを、もう僕は認めている。
「兄が弟を守るのは当然のことだろう」
ローラの肩に両手を置き、できるだけ安心させるように明るく言った後、すぐに転移魔法で本邸へと飛んだ。
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