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1章
8話
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「こんにちは! アシュリー兄さま!!」
勢いよく部屋の扉を開くと、椅子に座っていたアシュリーが少し目を見開く。
「仮にも貴族がそんなに大騒ぎをするものじゃないよ。静かにしなさい」
俺は許されているギリギリまで近寄った。
テーブルには分厚い本が何冊も置かれている。
「アシュリー兄さまは農業にご興味があるのですか?」
「……自然が好きだし、昔は将来は田舎で暮らしたいなと思っていたから。今の僕がこんなものを読んだってムダなことはわかってる」
アシュリーは小さくため息を吐いて目を伏せた。
長い銀のまつげが陰を作り、儚げな美貌を際立たせている。
(いやいや、見惚れている場合じゃないだろ!)
「なぜですか?」
「だって僕はヴァイオレット公爵家に嫁ぐことが決まっているだろう。当主の夫人になったら田舎暮らしなんてできないよ。ただの叶わない夢だ」
アシュリーは自嘲するように笑った。
推しの悲しそうな顔なんて見たくない。
(アシュリーにそんな夢があったなんて。絶対に叶えると決めた!)
「あの……アシュリー兄さまはレイさまのことはお好きなんですか?」
推しを救うにあたり、どうしても聞いておきたかったことをことを尋ねてみる。
アシュリーは小さく左右に首を振る。
「好きでも嫌いでもない。もう1年以上お会いしていないしね。でも生まれる前から決まっていた婚約だし、貴族の婚姻に恋愛感情は必要ない」
ゲームではアシュリーはレイのことが好きで仕方がない設定だったはずだが、どうやら違うらしい。
(どういうことだろう。この後に何かきっかけがあって好きになるんだろうか)
俺が黙っていると、アシュリーが気まずそうな表情になる。
「少しムダ話をしすぎたね。僕は読書で忙しいんだ。用事がないなら早く帰りなさい」
「イヤです! 今日はアシュリー兄さまとお庭を散歩するために来たんです。お散歩してくれるまで帰りません!」
「……僕は外には出ない」
冷たく言い放つアシュリーの鋭い目もかっこいい。にやけてしまいそうになるのを抑えなければ。
「でも、ずっとお部屋にいるのはつまらないでしょう? たまにはお外に行きましょう!」
「僕は読書中だ」
「本を読むのはいつでもできるじゃないですか! 今日は僕、兄さまが一緒にお散歩してくれるまで帰りません!」
騒ぎながらアシュリーの座る椅子の周りをぐるぐると回る。
しばらく続けていると、アシュリーはパタンと本を閉じた。
「もういい、わかった。わかったから止まりなさい。見ている方が目が回る」
「本当ですか!? やったあ!! アシュリー兄さま、大好き!!」
嬉しくてぴょんぴょんと飛び跳ねると、アシュリーの顔がうっすらと赤らんでいく。
「か、簡単に大好きなんて言うものじゃない。きみの言葉は軽すぎる」
照れている姿も可愛くてたまらない。
「だって本当に大好きなんだもん。行きましょう! 兄さま!!」
立ち上がったアシュリーの少し後ろを俺は飛び跳ねながら付いていった。
勢いよく部屋の扉を開くと、椅子に座っていたアシュリーが少し目を見開く。
「仮にも貴族がそんなに大騒ぎをするものじゃないよ。静かにしなさい」
俺は許されているギリギリまで近寄った。
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「アシュリー兄さまは農業にご興味があるのですか?」
「……自然が好きだし、昔は将来は田舎で暮らしたいなと思っていたから。今の僕がこんなものを読んだってムダなことはわかってる」
アシュリーは小さくため息を吐いて目を伏せた。
長い銀のまつげが陰を作り、儚げな美貌を際立たせている。
(いやいや、見惚れている場合じゃないだろ!)
「なぜですか?」
「だって僕はヴァイオレット公爵家に嫁ぐことが決まっているだろう。当主の夫人になったら田舎暮らしなんてできないよ。ただの叶わない夢だ」
アシュリーは自嘲するように笑った。
推しの悲しそうな顔なんて見たくない。
(アシュリーにそんな夢があったなんて。絶対に叶えると決めた!)
「あの……アシュリー兄さまはレイさまのことはお好きなんですか?」
推しを救うにあたり、どうしても聞いておきたかったことをことを尋ねてみる。
アシュリーは小さく左右に首を振る。
「好きでも嫌いでもない。もう1年以上お会いしていないしね。でも生まれる前から決まっていた婚約だし、貴族の婚姻に恋愛感情は必要ない」
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「イヤです! 今日はアシュリー兄さまとお庭を散歩するために来たんです。お散歩してくれるまで帰りません!」
「……僕は外には出ない」
冷たく言い放つアシュリーの鋭い目もかっこいい。にやけてしまいそうになるのを抑えなければ。
「でも、ずっとお部屋にいるのはつまらないでしょう? たまにはお外に行きましょう!」
「僕は読書中だ」
「本を読むのはいつでもできるじゃないですか! 今日は僕、兄さまが一緒にお散歩してくれるまで帰りません!」
騒ぎながらアシュリーの座る椅子の周りをぐるぐると回る。
しばらく続けていると、アシュリーはパタンと本を閉じた。
「もういい、わかった。わかったから止まりなさい。見ている方が目が回る」
「本当ですか!? やったあ!! アシュリー兄さま、大好き!!」
嬉しくてぴょんぴょんと飛び跳ねると、アシュリーの顔がうっすらと赤らんでいく。
「か、簡単に大好きなんて言うものじゃない。きみの言葉は軽すぎる」
照れている姿も可愛くてたまらない。
「だって本当に大好きなんだもん。行きましょう! 兄さま!!」
立ち上がったアシュリーの少し後ろを俺は飛び跳ねながら付いていった。
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