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1章
7話
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「ルイス、アシュリーの病気が少し改善されたぞ!」
翌日、家庭教師のジョンソン先生と魔法の訓練をしていると両親とジェシーが駆け込んできた。
「え!? 本当ですか!?」
「ああ。今朝の診察で明らかに一部の湿疹が薄くなっていたそうだ」
いつも落ち着いている父上の声が弾んでいる。
「何年も変わらないどころかひどくなるばかりだったのに。本当によかった」
母上は涙ぐんでいる。
「改善した原因ははっきりとは分かっていないが、昨日の生活の中でいつもと違ったのは夕食だけだった。それで、しばらく昨日ルイスが作ったようなメニューに食事を変更することになったよ」
父上のこんなに嬉しそうな顔は、初めて見たかもしれない。
「父上、もしよろしければまた僕がアシュリー兄さまのお食事をお手伝いしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだよ。ありがとう、ルイス」
父上の大きくて優しい手が俺の頭を撫でてくれる。
(よかった。やっぱり俺の読みは当たっていたみたいだ。早く治して推しのバドエンを回避してやる!)
心の中で意気込んでいると、大声が響いた。
「すごいぞルイス! さすが俺の弟だ!!」
ジェシーは俺の両脇に手を入れると猫を持ち上げる時のようにしてくるくる回り始める。
「ちょ、ジェシー兄さま、目が回ります……」
遊園地のコーヒーカップかと思うぐらいの高速回転に気分が悪くなってきた。
「大丈夫だ! 三半規管を鍛える訓練にもなるぞ!!」
ジェシーは豪快に笑いながらくるくると回り続け、やっと降ろしてくれた時にはしばらくまっすぐに歩けなかった。三半規管の訓練ってなんだよ、まったく。
翌日、俺は簡単なレシピをまとめた紙の束を持って、離れの厨房を訪れた。
「ルイス様! ようこそいらっしゃいました」
料理長をはじめシェフたちの顔に、先日のような戸惑いはない。
「あの日、初めてアシュリー様が完食してくださったんです。ひとかけらも残さず……。ルイス様のおかげです」
料理長が一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「僕は何も! 本で読んだことをやってみただけだもの。ここにいるみんなが頑張ってくれたからだよ。だから今日はこれ、持ってきたんだ。よかったらこのレシピを使ってみてね」
「こんなに……! ありがとうございます!! お医者様の指示とはいえ、我々は元気をつけてもらうためには豪華な食事が必要なのだと思っていました。もっと自分たちで考えてみるべきでした」
真剣な眼差しから、料理長たちも推しの健康を心から願っていることがわかる。
「アシュリー様はお優しい方なのです。毎日、ほとんどの料理を残されておりましたが、その度に小さなメッセージカードをくださいます」
料理長の後ろ立っていたシェフが、小さなクッキー缶を開けた。その中にはすみれの花の絵が小さく描かれた白いカードが入っている。
「どうぞ」
シェフが缶を差し出す。1枚取ってみると、そこには流麗な文字でシェフたちへの感謝の言葉が書いてあった。
『今日も残してしまってすまない。でもとても素晴らしい味だった。食欲がなくてあまり食べられないのが本当に残念だ』
「これ、アシュリー兄さまが?」
シェフたちは笑顔で頷く。
「昨日は初めて、メッセージカードが添えられていませんでした。それがどれだけ嬉しかったことか。ひとかけらも残さず返ってきた食器よりも嬉しいものなんて、ありませんから」
彼らの潤む瞳を見ていると、アシュリーは愛されるべき人間なんだという想いが強くなる。
(絶対に病気を治して、推しの人生を変えるんだ!!)
断罪されるアシュリー最後にスチルを思い出して、俺は拳を握りしめた。
翌日、家庭教師のジョンソン先生と魔法の訓練をしていると両親とジェシーが駆け込んできた。
「え!? 本当ですか!?」
「ああ。今朝の診察で明らかに一部の湿疹が薄くなっていたそうだ」
いつも落ち着いている父上の声が弾んでいる。
「何年も変わらないどころかひどくなるばかりだったのに。本当によかった」
母上は涙ぐんでいる。
「改善した原因ははっきりとは分かっていないが、昨日の生活の中でいつもと違ったのは夕食だけだった。それで、しばらく昨日ルイスが作ったようなメニューに食事を変更することになったよ」
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「父上、もしよろしければまた僕がアシュリー兄さまのお食事をお手伝いしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだよ。ありがとう、ルイス」
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心の中で意気込んでいると、大声が響いた。
「すごいぞルイス! さすが俺の弟だ!!」
ジェシーは俺の両脇に手を入れると猫を持ち上げる時のようにしてくるくる回り始める。
「ちょ、ジェシー兄さま、目が回ります……」
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「大丈夫だ! 三半規管を鍛える訓練にもなるぞ!!」
ジェシーは豪快に笑いながらくるくると回り続け、やっと降ろしてくれた時にはしばらくまっすぐに歩けなかった。三半規管の訓練ってなんだよ、まったく。
翌日、俺は簡単なレシピをまとめた紙の束を持って、離れの厨房を訪れた。
「ルイス様! ようこそいらっしゃいました」
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「あの日、初めてアシュリー様が完食してくださったんです。ひとかけらも残さず……。ルイス様のおかげです」
料理長が一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「僕は何も! 本で読んだことをやってみただけだもの。ここにいるみんなが頑張ってくれたからだよ。だから今日はこれ、持ってきたんだ。よかったらこのレシピを使ってみてね」
「こんなに……! ありがとうございます!! お医者様の指示とはいえ、我々は元気をつけてもらうためには豪華な食事が必要なのだと思っていました。もっと自分たちで考えてみるべきでした」
真剣な眼差しから、料理長たちも推しの健康を心から願っていることがわかる。
「アシュリー様はお優しい方なのです。毎日、ほとんどの料理を残されておりましたが、その度に小さなメッセージカードをくださいます」
料理長の後ろ立っていたシェフが、小さなクッキー缶を開けた。その中にはすみれの花の絵が小さく描かれた白いカードが入っている。
「どうぞ」
シェフが缶を差し出す。1枚取ってみると、そこには流麗な文字でシェフたちへの感謝の言葉が書いてあった。
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「昨日は初めて、メッセージカードが添えられていませんでした。それがどれだけ嬉しかったことか。ひとかけらも残さず返ってきた食器よりも嬉しいものなんて、ありませんから」
彼らの潤む瞳を見ていると、アシュリーは愛されるべき人間なんだという想いが強くなる。
(絶対に病気を治して、推しの人生を変えるんだ!!)
断罪されるアシュリー最後にスチルを思い出して、俺は拳を握りしめた。
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