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1章
4話
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階段を降りて玄関広間に降り立った時、食べ物のいい匂いが漂ってきた。
「そうか、兄さまもこれから夕食なんだ」
独り言のつもりだったのだが、ローラが答えてくれた。
「そのようですね。アシュリー様は毎日、特別に作られた療養食を召し上がっているそうすですよ」
「療養食?」
「はい。旦那様と奥様が国中から最高級の食材を取り寄せているんだとか。早くアシュリー様のご病気がよくなってほしいですね」
「……うん」
最高級の食材で作る療養食というのがやけに気にかかる。
俺の見立てが正しければ、推しの病気を改善するものとは思えない。
なんだか嫌な予感がして、俺はローラの手を離して厨房の方へ走りだした。
「ルイス様!? お待ちください!!」
背後からローラの慌てた声が追いかけてくる。けれど俺は気にせず走り続ける。
厨房にたどり着くと、開け放された扉から室内をそっと覗く
中では数人のシェフが忙しく立ち働いていて、すでに出来上がった何品かは金色に輝くワゴンの上に載せられている。
俺はその料理を見て絶句した。
(嘘だろ。病人にあんなものを食べさせているのか!?)
真っ白く大きな皿の上には大きくカットされたローストビーフが載っている。
ローストビーフにはとろみのある艶のあるソースがかかっていた。
同じ皿にはたっぷりのマッシュポテトとヨークシャープディングが盛り付けられている。
隣にはボイルした頭つきの大きなエビが鎮座している。
もちろん、その上には見るからにこってりしたソースがかけられている。
さらに厨房ではコロッケのような揚げ物も準備している。
逆に野菜やフルーツはほとんどない。
ローストビーフの皿に、よく見ると申し訳程度に数本のクレソンのような葉野菜が添えられているぐらいだ。
確かに美味そうではある。
だがそれは俺のような健康体の人間にとっての話である。
ふいにシェフの人が目を上げる。
「これはこれはルイス様。アシュリー様のお見舞いでしょうか」
「うん。これは兄さまの夕食なの?」
「はい。どれも旦那様と奥様が国中で一番高級なものを取り寄せているのですよ」
「そ、そうなんだ」
「アシュリー様には栄養がたっぷりの料理を召し上がって、力をつけていただかないといけませんから。ですがアシュリー様は食が細くて、いつもお残しになってしまわれて。もっとお口に合うものを作るために日々研究中です」
そういうとシェフは持ち場に戻っていく。
何年も一向に病気がよくならない理由がわかった。
それどころか、このままではアシュリーの病気は悪化する一方だろう。
俺は拳を握りしめる。
だが両親やシェフたちが悪いのではない。
彼らは知らないだけなのだ。
(この世界は前世と比べて、病気を治すための知識が発達していない……!)
魔法が存在しているこの世界では、うまくいけば前世より兄貴の病気は治りやすいはず。
だが正しい知識がなければ実行することができない。
兄の病気を治すのに大事なのは、食事と運動、そして日光である。
砂糖やトランス脂肪酸、脂肪分の多いものをできるだけ控え、野菜や魚を主として食べることが必要なのだ。
人間の体を作るのは、口から摂る食べ物だけ。
けれど、この食事は兄にはまったく合っていないのだ。
一刻も早くなんとかしないと、アシュリーが危ない。
(なんとかしてアシュリーの食事を変えてやるぞ!)
俺は心の中で叫び、決意を固めた。
「そうか、兄さまもこれから夕食なんだ」
独り言のつもりだったのだが、ローラが答えてくれた。
「そのようですね。アシュリー様は毎日、特別に作られた療養食を召し上がっているそうすですよ」
「療養食?」
「はい。旦那様と奥様が国中から最高級の食材を取り寄せているんだとか。早くアシュリー様のご病気がよくなってほしいですね」
「……うん」
最高級の食材で作る療養食というのがやけに気にかかる。
俺の見立てが正しければ、推しの病気を改善するものとは思えない。
なんだか嫌な予感がして、俺はローラの手を離して厨房の方へ走りだした。
「ルイス様!? お待ちください!!」
背後からローラの慌てた声が追いかけてくる。けれど俺は気にせず走り続ける。
厨房にたどり着くと、開け放された扉から室内をそっと覗く
中では数人のシェフが忙しく立ち働いていて、すでに出来上がった何品かは金色に輝くワゴンの上に載せられている。
俺はその料理を見て絶句した。
(嘘だろ。病人にあんなものを食べさせているのか!?)
真っ白く大きな皿の上には大きくカットされたローストビーフが載っている。
ローストビーフにはとろみのある艶のあるソースがかかっていた。
同じ皿にはたっぷりのマッシュポテトとヨークシャープディングが盛り付けられている。
隣にはボイルした頭つきの大きなエビが鎮座している。
もちろん、その上には見るからにこってりしたソースがかけられている。
さらに厨房ではコロッケのような揚げ物も準備している。
逆に野菜やフルーツはほとんどない。
ローストビーフの皿に、よく見ると申し訳程度に数本のクレソンのような葉野菜が添えられているぐらいだ。
確かに美味そうではある。
だがそれは俺のような健康体の人間にとっての話である。
ふいにシェフの人が目を上げる。
「これはこれはルイス様。アシュリー様のお見舞いでしょうか」
「うん。これは兄さまの夕食なの?」
「はい。どれも旦那様と奥様が国中で一番高級なものを取り寄せているのですよ」
「そ、そうなんだ」
「アシュリー様には栄養がたっぷりの料理を召し上がって、力をつけていただかないといけませんから。ですがアシュリー様は食が細くて、いつもお残しになってしまわれて。もっとお口に合うものを作るために日々研究中です」
そういうとシェフは持ち場に戻っていく。
何年も一向に病気がよくならない理由がわかった。
それどころか、このままではアシュリーの病気は悪化する一方だろう。
俺は拳を握りしめる。
だが両親やシェフたちが悪いのではない。
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だが正しい知識がなければ実行することができない。
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砂糖やトランス脂肪酸、脂肪分の多いものをできるだけ控え、野菜や魚を主として食べることが必要なのだ。
人間の体を作るのは、口から摂る食べ物だけ。
けれど、この食事は兄にはまったく合っていないのだ。
一刻も早くなんとかしないと、アシュリーが危ない。
(なんとかしてアシュリーの食事を変えてやるぞ!)
俺は心の中で叫び、決意を固めた。
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