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1章
2話
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(うわぁ……これが本物のアシュリー……)
今、俺の目の前には前世の推しにして現世の兄であるアシュリー・クロフォードが座っている。
画面越しでしか会うことのなかった推しが目の前に存在している世界に感動してしまって言葉も出てこない。
俺が黙ったままじっと見続けているせいで気まずいのか、チラチラと困ったような目で俺のほうに目を向けてはすぐに逸らすというのを繰り返している。
「ルイス? アシュリーはあまり長くはいられないぞ」
ジェシーの言葉にハッと我に返る。あまりぐずぐずしていると両親も帰ってきてしまう。
「ごめんなさい、僕……久しぶりにお会いしたアシュリー兄さまがあまりに綺麗で見惚れてしまいました」
素直な気持ちを口にすると、アシュリーがすみれ色の目を見開いて俺を見る。
真っ白だった頬がじわじわと赤くなっていく。
「バ、バカなことを言うな。僕をからかっているんだろう」
わあ。推しが照れてる。可愛い。自分の顔が気持ち悪く緩むのを抑えることができない。
「僕、これからはもっとアシュリー兄さまにもお会いしたいです!」
だがアシュリーは美しい顔を曇らせた。
「ダメだ。僕は病気なんだ」
小さいがきっぱりとした声には拒絶が表れていて少し悲しい。
でも俺は、彼が本当は一人で暮らすことを寂しく感じでいることを知っている。
「兄さまの病気は人に移るものではないと聞きました」
「そう言われてはいるけどね。本当のところはまだわからないんだよ」
ジェシーが少し表情を厳しくすると、アシュリーは悲しそうに目を伏せた。
設定資料には確かに「アシュリーの病に伝染性はない」と書いてあったのを覚えているし、元医者として、なんとなく彼の病気には心当たりがある。
治せる可能性がある病気のせいで、推しが誤解されまくった挙句に性格を歪ませて死んでしまうなんて絶対に嫌だ!
憂いを含んだ表情もたまらないけれど、やっぱり推しにはいつも笑顔でいてほしい。
こうして同じ世界に生きていると、より強くアシュリーに幸せになってもらいたいという気持ちが沸き上がってくる。
俺はベッド脇の椅子に座るアシュリーの両手をぎゅっと握った。
「アシュリー兄さま! 僕が絶対に兄さまのことを幸せにしますから!!」
アシュリーはぽかんとした表情を浮かべて俺を見た。推しに正面から近距離で見つめられる幸せに昇天しそうになる。
だがアシュリーは素早く俺の手から自分の手を抜くと立ち上がった。
「バカげたことを言わないでくれ。きみはまだ熱があるんじゃないのか。もう少し休みなさい。ジェシー兄さん、僕は離れに戻ります」
「わかった。たしかに今日のルイスは妙なことばかり口走っているな。それに、その……もう少し俺のことも褒めてくれてもいいと思うんだが」
アシュリーは呆れた目でジェシーを一瞥すると、扉に向かって歩いていってしまう。
「アシュリー兄さま! 来てくださってありがとうございました。今度は僕が兄さまのところに遊びに行きますね!」
背中に声をかけるが、推しは振り返らずに出て行ってしまう。
つれない態度がちょっと寂しいけれど、いまに必ず好感度をMAXまで上げてやるぞ!
それにどんな形であれ、二次元の推しとリアルに対面して会話を交わせるなんて夢みたいだ。
ひとり喜びを噛みしめていると、大きな手に頭を優しく撫でられた。
「アシュリーは気難しいところがあるんだ。兄の俺ですら、アイツがなにを考えているのか、よくわからないことが多いし。ただ、悪いやつじゃないんだ。許してやってくれ」
見当違いも甚だしいが、ここは大人しく頷いておく。推しと対面して興奮したせいか、少し体温が上がった気配がする。
「兄さま、僕、少し休みますね。また熱が上がってきたかもしれません」
「本当か!?」
ジェシーは慌てて俺の額に手を当てる。
「確かに少し熱いな。冷やすものを用意させてくるから、横になって待っておいで」
「はい」
ジェシーが部屋を出ていった後、俺は目を閉じてシーツに体を沈めた。
目を閉じると瞼の裏にキラキラのエフェクトがかかった推しの姿が鮮明に浮かんでくる。
「リアルアシュリー……破壊力ハンパなかったな。手、あったかかったし……」
推しに会えた喜びを存分に噛み締めた後、気がついたことを思い返してみる。
初夏だというのに真っ黒な長袖の黒いシャツをきっちり着込んでいた。
もちろんパンツも同じで、顔や手以外の皮膚はほとんど見えないようにしていた。
日光に当たっていないのだろう、肌もおどろくほど青白くて細かったし、よく見ると髪も少し艶がなく毛先がパサついているようにも見えた。
俺の見立てが正しければ、アシュリーが医者から指導されている生活は間違いだらけで悪化する可能性しかない。
義弟という立場ではあるが、俺の頭の中には前世の医学知識がしっかり残っている。
これを活用しない手はない。
ふと、俺はアシュリーの人生を変えるために転生したのかもしれないという考えが頭に浮かんだ。
そうだ、きっとそうに違いない。
これから絶対に病気を治して、推しの人生を幸せでいっぱいにしてやる!!
そのためにもまず今は自分の体調を整えなければ。
病気を治して元気になったアシュリーに抱っこされながらクッキーを食べさせてもらうという、前世の自分の年齢を考えたら非常に気色悪い妄想をしながら俺は眠りについたのだった。
今、俺の目の前には前世の推しにして現世の兄であるアシュリー・クロフォードが座っている。
画面越しでしか会うことのなかった推しが目の前に存在している世界に感動してしまって言葉も出てこない。
俺が黙ったままじっと見続けているせいで気まずいのか、チラチラと困ったような目で俺のほうに目を向けてはすぐに逸らすというのを繰り返している。
「ルイス? アシュリーはあまり長くはいられないぞ」
ジェシーの言葉にハッと我に返る。あまりぐずぐずしていると両親も帰ってきてしまう。
「ごめんなさい、僕……久しぶりにお会いしたアシュリー兄さまがあまりに綺麗で見惚れてしまいました」
素直な気持ちを口にすると、アシュリーがすみれ色の目を見開いて俺を見る。
真っ白だった頬がじわじわと赤くなっていく。
「バ、バカなことを言うな。僕をからかっているんだろう」
わあ。推しが照れてる。可愛い。自分の顔が気持ち悪く緩むのを抑えることができない。
「僕、これからはもっとアシュリー兄さまにもお会いしたいです!」
だがアシュリーは美しい顔を曇らせた。
「ダメだ。僕は病気なんだ」
小さいがきっぱりとした声には拒絶が表れていて少し悲しい。
でも俺は、彼が本当は一人で暮らすことを寂しく感じでいることを知っている。
「兄さまの病気は人に移るものではないと聞きました」
「そう言われてはいるけどね。本当のところはまだわからないんだよ」
ジェシーが少し表情を厳しくすると、アシュリーは悲しそうに目を伏せた。
設定資料には確かに「アシュリーの病に伝染性はない」と書いてあったのを覚えているし、元医者として、なんとなく彼の病気には心当たりがある。
治せる可能性がある病気のせいで、推しが誤解されまくった挙句に性格を歪ませて死んでしまうなんて絶対に嫌だ!
憂いを含んだ表情もたまらないけれど、やっぱり推しにはいつも笑顔でいてほしい。
こうして同じ世界に生きていると、より強くアシュリーに幸せになってもらいたいという気持ちが沸き上がってくる。
俺はベッド脇の椅子に座るアシュリーの両手をぎゅっと握った。
「アシュリー兄さま! 僕が絶対に兄さまのことを幸せにしますから!!」
アシュリーはぽかんとした表情を浮かべて俺を見た。推しに正面から近距離で見つめられる幸せに昇天しそうになる。
だがアシュリーは素早く俺の手から自分の手を抜くと立ち上がった。
「バカげたことを言わないでくれ。きみはまだ熱があるんじゃないのか。もう少し休みなさい。ジェシー兄さん、僕は離れに戻ります」
「わかった。たしかに今日のルイスは妙なことばかり口走っているな。それに、その……もう少し俺のことも褒めてくれてもいいと思うんだが」
アシュリーは呆れた目でジェシーを一瞥すると、扉に向かって歩いていってしまう。
「アシュリー兄さま! 来てくださってありがとうございました。今度は僕が兄さまのところに遊びに行きますね!」
背中に声をかけるが、推しは振り返らずに出て行ってしまう。
つれない態度がちょっと寂しいけれど、いまに必ず好感度をMAXまで上げてやるぞ!
それにどんな形であれ、二次元の推しとリアルに対面して会話を交わせるなんて夢みたいだ。
ひとり喜びを噛みしめていると、大きな手に頭を優しく撫でられた。
「アシュリーは気難しいところがあるんだ。兄の俺ですら、アイツがなにを考えているのか、よくわからないことが多いし。ただ、悪いやつじゃないんだ。許してやってくれ」
見当違いも甚だしいが、ここは大人しく頷いておく。推しと対面して興奮したせいか、少し体温が上がった気配がする。
「兄さま、僕、少し休みますね。また熱が上がってきたかもしれません」
「本当か!?」
ジェシーは慌てて俺の額に手を当てる。
「確かに少し熱いな。冷やすものを用意させてくるから、横になって待っておいで」
「はい」
ジェシーが部屋を出ていった後、俺は目を閉じてシーツに体を沈めた。
目を閉じると瞼の裏にキラキラのエフェクトがかかった推しの姿が鮮明に浮かんでくる。
「リアルアシュリー……破壊力ハンパなかったな。手、あったかかったし……」
推しに会えた喜びを存分に噛み締めた後、気がついたことを思い返してみる。
初夏だというのに真っ黒な長袖の黒いシャツをきっちり着込んでいた。
もちろんパンツも同じで、顔や手以外の皮膚はほとんど見えないようにしていた。
日光に当たっていないのだろう、肌もおどろくほど青白くて細かったし、よく見ると髪も少し艶がなく毛先がパサついているようにも見えた。
俺の見立てが正しければ、アシュリーが医者から指導されている生活は間違いだらけで悪化する可能性しかない。
義弟という立場ではあるが、俺の頭の中には前世の医学知識がしっかり残っている。
これを活用しない手はない。
ふと、俺はアシュリーの人生を変えるために転生したのかもしれないという考えが頭に浮かんだ。
そうだ、きっとそうに違いない。
これから絶対に病気を治して、推しの人生を幸せでいっぱいにしてやる!!
そのためにもまず今は自分の体調を整えなければ。
病気を治して元気になったアシュリーに抱っこされながらクッキーを食べさせてもらうという、前世の自分の年齢を考えたら非常に気色悪い妄想をしながら俺は眠りについたのだった。
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