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#61
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「でも俺、なんで記憶なくしてたんだろ……」
「俺が……やったんだ」
「え?」
「あの日、約束の時間からちょっと遅れてロビーに行ったら飛鳥はいなかった。しばらく待って部屋に戻ろうとしたら、鍵が開かなかった」
カードキーを何度差し込んでみても、エラーになる。それが父親の力であることはすぐにわかった。嫌な予感がした金成は、窓側に回りベランダから室内に入った。その頃には多少なら飛ぶこともできるようになっていたらしい。
音を立てないように入り込んだ室内は静まりかえってなんの物音もしなかった。しばらく耳をすませていると、寝室の方から啜り泣くような声と不快な水音が微かに聞こえてくる。
気配を殺して、寝室の方へと向かう。部屋の鍵を開けられないようにしていたことで油断したのか、寝室の扉は完全には閉まっていなかった。
細く空いた隙間から、金成が見たもの。目隠しをして身体を拘束された俺が、父親の欲に貪られている姿だった。
暫くして父親が動く気配がして、金成は咄嗟にた身を隠す。部屋を出て行ったことを確認すると、自分の力で内側から部屋が開かないようにすると、俺を助けた。
泣きじゃくる俺から忌まわしい記憶を忘れさせるために記憶を封じ込め、部屋から逃した。他人の記憶を封じ込めるのはとてつもないエネルギーを使う。
まだ成長過程で不安定だった金成は、急激な力の消耗で体に変化が起き、異能が使えなくなってしまったのだ。そしてさらに悪いことに、俺を逃したことを含め、行動はすぐに父親に知られてしまった。
「家に帰ってから、めちゃくちゃに殴られてさ。あいつら止めようとした母親のことも殴った。それまでも気に入らないことがあると気を失うまで殴られることはあったけど…母さんにまで手を出すのは初めてだった」
そこで一度、金成は言葉をきると、大きく息を吐いた。
「その後から、目に見えて親父はおかしくなっていった。元々そういう兆しはあったんだ。……でも少しずつ、スケアリーとしての本能を理性が抑えきれなくなっていたんだと思う」
「昨日、話してくれた中に、スケアリーの能力の話あっただろ」
「ああ……他人の身体に乗り移れるってやつ?」
「そう。多分、あいつはそれを使おうとしたんだと思う」
死後、父の親友だという医者が異能を戻すための治療と称して、金成の中に彼の魂を植え付けた。
「スケアリーじゃシュプリームの番にはなれない。だから俺の体を乗っ取って……飛鳥の番になろうとしてた……だから、使える力の全部で、俺の体の中に封じ込めてた」
成長が止まったのも、話せなくなっていたのも、フィルの魂を体内に封じ込めるために力を使い続けていたためだという。
「飛鳥に初めてヒートが来たとき、俺の力が弱くなったんだ。そこをあいつは見逃すわけがなかった。それから、飛鳥にヒートが来たときだけ、俺の生命エネルギーと力を使って実体を保てるようになったんだ」
「でも、じゃあなんで俺のこと噛んだりできたんだ……もしかして」
金成は俺の目を見て首を縦に振った。
「俺たちが、運命の番だから……だと思う」
それは飛び上がるほど嬉しい。けれどそれと同時に目の前が真っ暗になるような絶望を感じた。
「俺がいなきゃ、お前はこんな目に遭ってなかったよな……ごめん。謝っても、意味なんかないかもしれないけど……」
「飛鳥、違う。それは関係ない」
俺の謝罪をきっぱりとした声が否定する。
「でも……」
「あいつは俺が生まれる前からずっと、色々な問題を起こしてたんだよ。だからあの時、飛鳥と出会わなかったとしても、いずれ大変なことになってたはずだ。飛鳥のせいじゃない」
言いながら金成は俺の髪に鼻を埋めた。
「それに俺、飛鳥と運命で繋がってること以外、どうでもいいんだ。ずっと、初めて会ったときから……大好きだから」
「金成…」
「飛鳥がいれば、他に何もいらないよ俺」
そのまま俺たちは見つめあって口づけを交わした。
「俺が……やったんだ」
「え?」
「あの日、約束の時間からちょっと遅れてロビーに行ったら飛鳥はいなかった。しばらく待って部屋に戻ろうとしたら、鍵が開かなかった」
カードキーを何度差し込んでみても、エラーになる。それが父親の力であることはすぐにわかった。嫌な予感がした金成は、窓側に回りベランダから室内に入った。その頃には多少なら飛ぶこともできるようになっていたらしい。
音を立てないように入り込んだ室内は静まりかえってなんの物音もしなかった。しばらく耳をすませていると、寝室の方から啜り泣くような声と不快な水音が微かに聞こえてくる。
気配を殺して、寝室の方へと向かう。部屋の鍵を開けられないようにしていたことで油断したのか、寝室の扉は完全には閉まっていなかった。
細く空いた隙間から、金成が見たもの。目隠しをして身体を拘束された俺が、父親の欲に貪られている姿だった。
暫くして父親が動く気配がして、金成は咄嗟にた身を隠す。部屋を出て行ったことを確認すると、自分の力で内側から部屋が開かないようにすると、俺を助けた。
泣きじゃくる俺から忌まわしい記憶を忘れさせるために記憶を封じ込め、部屋から逃した。他人の記憶を封じ込めるのはとてつもないエネルギーを使う。
まだ成長過程で不安定だった金成は、急激な力の消耗で体に変化が起き、異能が使えなくなってしまったのだ。そしてさらに悪いことに、俺を逃したことを含め、行動はすぐに父親に知られてしまった。
「家に帰ってから、めちゃくちゃに殴られてさ。あいつら止めようとした母親のことも殴った。それまでも気に入らないことがあると気を失うまで殴られることはあったけど…母さんにまで手を出すのは初めてだった」
そこで一度、金成は言葉をきると、大きく息を吐いた。
「その後から、目に見えて親父はおかしくなっていった。元々そういう兆しはあったんだ。……でも少しずつ、スケアリーとしての本能を理性が抑えきれなくなっていたんだと思う」
「昨日、話してくれた中に、スケアリーの能力の話あっただろ」
「ああ……他人の身体に乗り移れるってやつ?」
「そう。多分、あいつはそれを使おうとしたんだと思う」
死後、父の親友だという医者が異能を戻すための治療と称して、金成の中に彼の魂を植え付けた。
「スケアリーじゃシュプリームの番にはなれない。だから俺の体を乗っ取って……飛鳥の番になろうとしてた……だから、使える力の全部で、俺の体の中に封じ込めてた」
成長が止まったのも、話せなくなっていたのも、フィルの魂を体内に封じ込めるために力を使い続けていたためだという。
「飛鳥に初めてヒートが来たとき、俺の力が弱くなったんだ。そこをあいつは見逃すわけがなかった。それから、飛鳥にヒートが来たときだけ、俺の生命エネルギーと力を使って実体を保てるようになったんだ」
「でも、じゃあなんで俺のこと噛んだりできたんだ……もしかして」
金成は俺の目を見て首を縦に振った。
「俺たちが、運命の番だから……だと思う」
それは飛び上がるほど嬉しい。けれどそれと同時に目の前が真っ暗になるような絶望を感じた。
「俺がいなきゃ、お前はこんな目に遭ってなかったよな……ごめん。謝っても、意味なんかないかもしれないけど……」
「飛鳥、違う。それは関係ない」
俺の謝罪をきっぱりとした声が否定する。
「でも……」
「あいつは俺が生まれる前からずっと、色々な問題を起こしてたんだよ。だからあの時、飛鳥と出会わなかったとしても、いずれ大変なことになってたはずだ。飛鳥のせいじゃない」
言いながら金成は俺の髪に鼻を埋めた。
「それに俺、飛鳥と運命で繋がってること以外、どうでもいいんだ。ずっと、初めて会ったときから……大好きだから」
「金成…」
「飛鳥がいれば、他に何もいらないよ俺」
そのまま俺たちは見つめあって口づけを交わした。
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