上 下
62 / 63

#61

しおりを挟む
「でも俺、なんで記憶なくしてたんだろ……」
「俺が……やったんだ」
「え?」
「あの日、約束の時間からちょっと遅れてロビーに行ったら飛鳥はいなかった。しばらく待って部屋に戻ろうとしたら、鍵が開かなかった」

カードキーを何度差し込んでみても、エラーになる。それが父親の力であることはすぐにわかった。嫌な予感がした金成は、窓側に回りベランダから室内に入った。その頃には多少なら飛ぶこともできるようになっていたらしい。

音を立てないように入り込んだ室内は静まりかえってなんの物音もしなかった。しばらく耳をすませていると、寝室の方から啜り泣くような声と不快な水音が微かに聞こえてくる。

気配を殺して、寝室の方へと向かう。部屋の鍵を開けられないようにしていたことで油断したのか、寝室の扉は完全には閉まっていなかった。

細く空いた隙間から、金成が見たもの。目隠しをして身体を拘束された俺が、父親の欲に貪られている姿だった。

暫くして父親が動く気配がして、金成は咄嗟にた身を隠す。部屋を出て行ったことを確認すると、自分の力で内側から部屋が開かないようにすると、俺を助けた。

泣きじゃくる俺から忌まわしい記憶を忘れさせるために記憶を封じ込め、部屋から逃した。他人の記憶を封じ込めるのはとてつもないエネルギーを使う。

まだ成長過程で不安定だった金成は、急激な力の消耗で体に変化が起き、異能が使えなくなってしまったのだ。そしてさらに悪いことに、俺を逃したことを含め、行動はすぐに父親に知られてしまった。

「家に帰ってから、めちゃくちゃに殴られてさ。あいつら止めようとした母親のことも殴った。それまでも気に入らないことがあると気を失うまで殴られることはあったけど…母さんにまで手を出すのは初めてだった」

そこで一度、金成は言葉をきると、大きく息を吐いた。

「その後から、目に見えて親父はおかしくなっていった。元々そういう兆しはあったんだ。……でも少しずつ、スケアリーとしての本能を理性が抑えきれなくなっていたんだと思う」

「昨日、話してくれた中に、スケアリーの能力の話あっただろ」
「ああ……他人の身体に乗り移れるってやつ?」
「そう。多分、あいつはそれを使おうとしたんだと思う」

死後、父の親友だという医者が異能を戻すための治療と称して、金成の中に彼の魂を植え付けた。

「スケアリーじゃシュプリームの番にはなれない。だから俺の体を乗っ取って……飛鳥の番になろうとしてた……だから、使える力の全部で、俺の体の中に封じ込めてた」

成長が止まったのも、話せなくなっていたのも、フィルの魂を体内に封じ込めるために力を使い続けていたためだという。

「飛鳥に初めてヒートが来たとき、俺の力が弱くなったんだ。そこをあいつは見逃すわけがなかった。それから、飛鳥にヒートが来たときだけ、俺の生命エネルギーと力を使って実体を保てるようになったんだ」

「でも、じゃあなんで俺のこと噛んだりできたんだ……もしかして」
金成は俺の目を見て首を縦に振った。
「俺たちが、運命の番だから……だと思う」

それは飛び上がるほど嬉しい。けれどそれと同時に目の前が真っ暗になるような絶望を感じた。
「俺がいなきゃ、お前はこんな目に遭ってなかったよな……ごめん。謝っても、意味なんかないかもしれないけど……」
「飛鳥、違う。それは関係ない」
俺の謝罪をきっぱりとした声が否定する。

「でも……」
「あいつは俺が生まれる前からずっと、色々な問題を起こしてたんだよ。だからあの時、飛鳥と出会わなかったとしても、いずれ大変なことになってたはずだ。飛鳥のせいじゃない」

言いながら金成は俺の髪に鼻を埋めた。
「それに俺、飛鳥と運命で繋がってること以外、どうでもいいんだ。ずっと、初めて会ったときから……大好きだから」

「金成…」
「飛鳥がいれば、他に何もいらないよ俺」

そのまま俺たちは見つめあって口づけを交わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? ※エロあり。モブレなし。

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

処理中です...