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#56
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男の強大なパワーが小さな稲妻のように、身体の周りで青白く光っていた。その光景は、まるで青い光出てきた大蛇を身に纏っているようにも見える。
「何日も飛鳥の気配が追えないと思ったら、今日になって視ることもできなくなるしさぁ。何があったの? ねえ」
金成が俺と自分を遮るようにして立っているというのに、男の目には俺しか見えていない。
「……噛み跡が消えた」
「……へえ?」
俺の言葉にフィルは片眉を上げる。
「飛鳥はもうお前の番じゃない。俺たちに関わるな、フィル・ラッシュフォード」
金成が厳しい声で告げると、フィルは今はじめてその存在に気づいたような表情になる。
「おまえ……金成か?」
「久しぶりだな、親父」
「……失せろ」
フィルは人差し指を金成に向けて軽く曲げる。それだけで金成は思い切り壁に叩きつけられた。
「金成っ!!」
駆け寄ろうとした俺の腕を、瞬時に真横まで移動したフィルが掴む。万力のように強い力で手首を握られ、振り払うことができない。
「っ痛!! 離せっ!!」
大声で叫ぶ俺を全く意に介さない様子のフィルはあっという間に俺の両手首を背中側で拘束する。
「おい! 離せって! シカトすんなよ!」
背後に回られ、表情が見えない。暴れていると、首の後ろを強い力で掴まれた。
「ほんとだ。消えてるね…お前の仕業か?」
やっとのことで振り返る。アクアマリンの双眸は、叩きつけられた壁から立ち上がった金成を睨みつけていた。壁にぶつけた時に切ったのか、金成の口の端からは血が滲んでいる。
「……だったらなに」
金成の言葉に、フィルは眉間に皺を寄せた。
「ゴミみたいな底辺アルファが。ふざけた真似するなよ」
次の瞬間、金成の身体が反対側の壁に打ちつけられる。
「やめろっ!! やめてくれっ!!」
身動きの取れない俺は、声を上げることしかできない。全身の力を出して拘束を振り解こうとするが、俺を掴んだ手はびくともしなかった。
フィルは何回も何回も、金成を壁に打ち付ける。鉄筋コンクリートの壁に骨のぶつかる音が響く。打ちつける度に、よろよろと立ち上がっていた金成の動きが止まる。
体中から血の気が引いていくのが自分でもわかる。今すぐに駆け寄りたいのに、きつく掴まれた手を振り解くことすらできない。
「あれ? 泣いてるの? こんなゴミのために?」
フィルは俺の顎に指をかけて顔を上げさせると、あからさまに不機嫌な顔をしてみせる。
俺を見下ろす透き通った水色の瞳の奥が冷たく光っている。言いようのない恐怖に呑み込まれてしまわないように、俺は力いっぱい叫んだ。
「うるせえっ……!」
「もしかして、このゴミのこと好きになっちゃったの?」
穏やかなのにぞっとするような声音。背中を一筋、冷や汗が伝う。心臓がドクドクと早鐘を打ち始める。怖い。
「ゴミじゃない。金成は俺にとって誰よりも大切な…んぐっ……」
誰よりも大切な存在。そう言いたかったのに、顎を骨が軋むほど強く掴まれた。痛みで言葉を続けることができない。
「ねえ、本気で言ってんの? ……今なら許してあげるよ」
フィルは冷たい笑顔を貼り付けて俺を見下ろす。その瞬間、恐怖よりも怒りが腹の底から湧き上がってくる。
「ふざけんな! なんでお前に許される必要がある!」
その瞬間、顎を掴む手にさらに力が込められる。顎が砕けるんじゃないかと思うほどの激痛。
でも負けたくない、絶対に。
「こんな程度で喋れなくなっちゃうぐらい弱いのに、なんでそんなに抵抗するの? 飛鳥だってヒートの時、いつも喜んでるのに。もっともっとって、自分から腰振って……」
「きめーんだよ、クソおじが」
呻くように、けれどはっきりと金成の声がフィルの戯言を遮った。
「おまえ、案外しぶといよね。雑魚のくせに。まだ生きてたんだ」
フィルはつまらなそうに鼻を鳴らす。
「しぶといのは父親似かもな」
「僕に似たならお前の百万倍は優秀になってるはずだよ」
言いながらフィルは左手の人差し指と中指をクロスさせて金成の方へ向ける。
「うああああああっ」
部屋に響く絶叫。金成の右腕が、ありえない方向に曲がっている。
「この程度で喚くくせに、僕に勝てるわけでないでしょ……まあいいや、そこで見てなよ」
そういうとフィルは空中で左指を何度か前後左右に動かした。
金成の身体は浮き上がり、ダイニングテーブルの上に移動する。傍からみると、ただテーブルの上に腰かけているだけに見えるが、意思でないことは確かだった。
「おい! なにするつもりだ……っ」
「そこで見てなよ。もう1度、お前の想い人が僕の番になるところを」
次の瞬間、フィルの顔が覆いかぶさってくる。顔を逸らしたいのに、顎を強く固定され、少し動かすことすらできない。せめて目を閉じて視界を塞ぎたいのに、自分の意思で瞳を閉じることすら許されない。
「やめろ! やめてくれっ……!」
金成の悲痛な叫びに、目から涙が溢れてくる。大好きな恋人の前で、他の男に好きに蹂躙されようとしている。なのに、抵抗することすらできない自分が、悔しくて情けない。
もう無理だ。どうしようもない。覚悟を決めた瞬間、バチンと弾かれたような感覚と赤い閃光が俺と元番の間を遮った。
「何日も飛鳥の気配が追えないと思ったら、今日になって視ることもできなくなるしさぁ。何があったの? ねえ」
金成が俺と自分を遮るようにして立っているというのに、男の目には俺しか見えていない。
「……噛み跡が消えた」
「……へえ?」
俺の言葉にフィルは片眉を上げる。
「飛鳥はもうお前の番じゃない。俺たちに関わるな、フィル・ラッシュフォード」
金成が厳しい声で告げると、フィルは今はじめてその存在に気づいたような表情になる。
「おまえ……金成か?」
「久しぶりだな、親父」
「……失せろ」
フィルは人差し指を金成に向けて軽く曲げる。それだけで金成は思い切り壁に叩きつけられた。
「金成っ!!」
駆け寄ろうとした俺の腕を、瞬時に真横まで移動したフィルが掴む。万力のように強い力で手首を握られ、振り払うことができない。
「っ痛!! 離せっ!!」
大声で叫ぶ俺を全く意に介さない様子のフィルはあっという間に俺の両手首を背中側で拘束する。
「おい! 離せって! シカトすんなよ!」
背後に回られ、表情が見えない。暴れていると、首の後ろを強い力で掴まれた。
「ほんとだ。消えてるね…お前の仕業か?」
やっとのことで振り返る。アクアマリンの双眸は、叩きつけられた壁から立ち上がった金成を睨みつけていた。壁にぶつけた時に切ったのか、金成の口の端からは血が滲んでいる。
「……だったらなに」
金成の言葉に、フィルは眉間に皺を寄せた。
「ゴミみたいな底辺アルファが。ふざけた真似するなよ」
次の瞬間、金成の身体が反対側の壁に打ちつけられる。
「やめろっ!! やめてくれっ!!」
身動きの取れない俺は、声を上げることしかできない。全身の力を出して拘束を振り解こうとするが、俺を掴んだ手はびくともしなかった。
フィルは何回も何回も、金成を壁に打ち付ける。鉄筋コンクリートの壁に骨のぶつかる音が響く。打ちつける度に、よろよろと立ち上がっていた金成の動きが止まる。
体中から血の気が引いていくのが自分でもわかる。今すぐに駆け寄りたいのに、きつく掴まれた手を振り解くことすらできない。
「あれ? 泣いてるの? こんなゴミのために?」
フィルは俺の顎に指をかけて顔を上げさせると、あからさまに不機嫌な顔をしてみせる。
俺を見下ろす透き通った水色の瞳の奥が冷たく光っている。言いようのない恐怖に呑み込まれてしまわないように、俺は力いっぱい叫んだ。
「うるせえっ……!」
「もしかして、このゴミのこと好きになっちゃったの?」
穏やかなのにぞっとするような声音。背中を一筋、冷や汗が伝う。心臓がドクドクと早鐘を打ち始める。怖い。
「ゴミじゃない。金成は俺にとって誰よりも大切な…んぐっ……」
誰よりも大切な存在。そう言いたかったのに、顎を骨が軋むほど強く掴まれた。痛みで言葉を続けることができない。
「ねえ、本気で言ってんの? ……今なら許してあげるよ」
フィルは冷たい笑顔を貼り付けて俺を見下ろす。その瞬間、恐怖よりも怒りが腹の底から湧き上がってくる。
「ふざけんな! なんでお前に許される必要がある!」
その瞬間、顎を掴む手にさらに力が込められる。顎が砕けるんじゃないかと思うほどの激痛。
でも負けたくない、絶対に。
「こんな程度で喋れなくなっちゃうぐらい弱いのに、なんでそんなに抵抗するの? 飛鳥だってヒートの時、いつも喜んでるのに。もっともっとって、自分から腰振って……」
「きめーんだよ、クソおじが」
呻くように、けれどはっきりと金成の声がフィルの戯言を遮った。
「おまえ、案外しぶといよね。雑魚のくせに。まだ生きてたんだ」
フィルはつまらなそうに鼻を鳴らす。
「しぶといのは父親似かもな」
「僕に似たならお前の百万倍は優秀になってるはずだよ」
言いながらフィルは左手の人差し指と中指をクロスさせて金成の方へ向ける。
「うああああああっ」
部屋に響く絶叫。金成の右腕が、ありえない方向に曲がっている。
「この程度で喚くくせに、僕に勝てるわけでないでしょ……まあいいや、そこで見てなよ」
そういうとフィルは空中で左指を何度か前後左右に動かした。
金成の身体は浮き上がり、ダイニングテーブルの上に移動する。傍からみると、ただテーブルの上に腰かけているだけに見えるが、意思でないことは確かだった。
「おい! なにするつもりだ……っ」
「そこで見てなよ。もう1度、お前の想い人が僕の番になるところを」
次の瞬間、フィルの顔が覆いかぶさってくる。顔を逸らしたいのに、顎を強く固定され、少し動かすことすらできない。せめて目を閉じて視界を塞ぎたいのに、自分の意思で瞳を閉じることすら許されない。
「やめろ! やめてくれっ……!」
金成の悲痛な叫びに、目から涙が溢れてくる。大好きな恋人の前で、他の男に好きに蹂躙されようとしている。なのに、抵抗することすらできない自分が、悔しくて情けない。
もう無理だ。どうしようもない。覚悟を決めた瞬間、バチンと弾かれたような感覚と赤い閃光が俺と元番の間を遮った。
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