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「泊まれるようになってたなんて知らなかったな……」
誰にともなく放った独り言が、バスルームに響く。あれから俺たちはお互いに調べたことを話し合ったのだ。

一瞬、欲に呑まれてしまいそうになったが俺は寸前でなんとか自分の欲望と金成の熱を鎮め、目的を果たすことに成功した。

金成は自分がインフェリアではないことを知って、とても驚いていた。医師からはまだ説明を受けていなかった……というより説明をするつもりの日に俺が強引に連れ帰ってきてしまったのだから、無理もない。

ただ、アルティメットアルファであるという確証もない。金成は異能の力を発動していないからだ。施設にいた数ヶ月の間も、その兆しはなかったという。

アルティメットアルファの外見的特徴を備えたノーマルということなのだろうか。金成がどういったアルファなのかはまだ謎だらけだ。

それに、金成の母親がなぜ息子の診断を偽らせたのかもわからない。すでに当人がこの世にいないこともあって、そう簡単に調べることはできないだろう。

さらに自分の父親ーー死んだはずのフィル・ラッシュフォードが俺の番の正体の可能性が高いこと、そしておそらくその外見的特徴や能力を考えると、彼はスケアリーであることも話した。

かなりの衝撃を受けるだろうと心配していたが、なぜか金成は思ったよりもずっと冷静だった。

俺がその事実を告げた時も、表情を変えずに「そう」と短く答えただけだった。
すべて話終えた頃には何時間も経っていて、俺は慌ててマスターにお詫びに行った。

すると意外なことに「もう遅いから泊まっていけば?」と驚きの提案をいただいたのだ。バイトをしていた頃も知らなかったが、このカフェには宿泊用として使える部屋もいくつかあるそうなのだ。

このカフェにはオーナーと蓮さんの能力で、特殊な結界のようなものが張ってある。そのためよからぬ侵入者を防ぐことができるのだ。

それを知っていたからこそこのカフェを選んだのだが、まさか泊まれるとは思わなかった。金成に反対されるかと思ったが、あっさりと承諾してくれ、今に至る。

金成は表情はあまり変わらなかったが、少し無口になった。やっぱり心の整理がつかないのだろう。俺は気遣って、先に一人で入浴することにしたのだ。

ゲスト用だというバスルームは、壁一面に蓮の花が浮かぶ池の絵が描かれている。この部屋は蓮をイメージして作ったんだ、とオーナーは嬉しそうに話してくれた。

「やっぱデカい風呂はいいわ……」
うちの風呂も小さくはないが、ここの風呂とはまったく違う。円形のバスタブはバスルームの床を窪ませたような形で作り付けになっていて、深い。

風呂の温泉やホテルの浴場のように段差になっているので、そこに腰かけるとちょうどいい高さだった。

さらに円形の風呂の中心には蓮の花の形の噴水があり、花の中からちょうどいい熱さのお湯が心地良い水音を立てて流れている。

お湯からは甘く華やかな香りが漂っており、心が解れていくようだった。
「気持ちいい……」

四肢の力を抜き、目を閉じてみる。このまま寝たらやばいなと思いつつ、意識を失いかけたその時。

お湯が波立つ気配を感じた。
「いつの間に!?」

「いま」
金成は短く答えると鬱陶しそうに濡れた前髪をかきあげる。すっきりとした額が露わになると、いつもよりも大人びて見える。

その横顔に見とれていると、視線に気づいたのか、金成がゆっくりとこちらへ顔を向けた。
「どうしたの」
「いや……いきなり入ってくるなよ。びっくりするだろ」
「声、かけたけど」
「まじ? 寝てたのかな。全然気づかなかった」
「風呂で寝るのは危ないから気をつけないとダメだよ」
「うん……」

まるで子どものようなことで諭されてしまった。恥ずかしくなって俯くと、肩を抱き寄せられた。

顔を上げると、金成の顔がさっきまでよりもずっと近くにきていた。
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