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出て行った時よりも少しだけ増えた荷物と一緒に金成が姿を見せた。
俺たちは医師に改めて挨拶をすると、車に乗り込む。俺の真剣な雰囲気を察してか、助手席に乗り込んだ金成はしばらく黙っていた。
「腹減ってる? なんか食うか?」
話しかけると、驚いたのが身体がピクリと震える。
「……昼飯けっこう食ったし、まだそんなに。飛鳥は?」
「俺はカフェラテと、あとちょっと甘いもん食いたい」
「あ、俺もカフェラテは飲みたいかも」
「俺がよく行く店、連れてくわ」
緊張した様子だった金成に、今日初めて笑顔が浮かぶ。それを見ただけで、愛しすぎたまらなくなった。今すぐ抱きつきたい衝動を抑え込み、ハンドルを握る手に力を入れる。
百貨店の駐車場に車を停めると、目的のカフェへ向かって歩き出す。
「俺は初めて行く店かな?」
「だと思う。目立つ場所にある訳じゃないし、流行りの店でもねえから」
二人で話しながら歩いているうちに、目当ての店が入ったビルにたどり着く。
「ここの地下2階。エレベーターもあるけど、階段でいいよな?」
「もちろん」
俺たちはビルの脇にある階段を降りていく。2階分降りきると、緑色のドアが目の前にそびえる。
ドアを押し開けると、来客を知らせるベルが鳴った。この店では大きな声は厳禁だ。カウンターの奥でコーヒーを淹れているマスターに近づく。
「おや飛鳥。久しぶりだね」
細い金縁の丸眼鏡の奥で、懐かしい黒い瞳が優しく細められた。
「いきなりお邪魔してすみません。今日は連れがいて。家族なんですけど。それで、あの…」
「秘密の部屋を使いたいのかな?」
俺は黙って頷く。
「いいよ。ちょっと待ってくれ」
マスターは引き出しから古めかしい鍵を取り出すと、俺に手渡す。
「このコーヒーをお客様にお出ししたら、オーダーを取りに行くからね」
「ありがとうございます」
俺は飛鳥を連れて店の奥へ進む。スタッフオンリーのドアをあけ、意外なほど長い廊下を直進する。
「右、右、左の三番目のドア……」
間違うと迷ってしばらく出られなくなってしまうので、必死に覚えたあの頃が懐かしい。俺は目当てのドアに鍵を差し込み、ドアを開けた。
「ほら、こいよ」
「あ、うん」
おっかなびっくりの様子で、金成も部屋の中に入ってくる。
室内は深いグリーンを基調に品よくまとめられていた。カフェ用のテーブルに、向かい合うように二脚ずつ置かれた椅子。
無数にある小さなランプが優しく柔らかい光で部屋の中を照らしている。薄暗いといえばそうなのだが、気味の悪い暗さではなく温かで包み込んでくれるような闇に、緊張がほぐれていく。
「初めて来たけど、なんか落ち着くね」
床に荷物を下ろしながら、金成が呟く。
「だろ? いつかお前のこと連れてきたいと思ってたんだよ」
「そうなんだ……嬉しい」
金成は静かに微笑むと、椅子に座っていた俺の手を握って、再び立ち上がらせる。
「どうした?」
驚いて訊ねると、正面から強く抱きしめられた。
「毎日会いたくてたまらなかったけど、年末まで会わないつもりだったから…」
「悪い。何も説明なしで」
「いきなりなんで迎えに来たのとか、何か起きてるのかとか、聞きたいことはたくさんあるんだけど……でも、それよりやっぱ、顔見たら嬉しくて……飛鳥に触れたくてたまんなかった」
久しぶりに触れる金成の温かな体温が、俺の身体にも沁み込んでいくような気がする。そっと背中に手を回して抱きしめ返すと、さらに強く胸の中に抱き込まれた。
「飛鳥……」
吐息のような囁きに、顔を上げる。右手で顎を掬い上げられるのが合図のように俺は目を閉じた。
すぐに唇に触れる、柔らかくて温かい少し湿った感触。しばらくそのまま触れ合っていると、舌先で閉じた唇の真ん中を軽くつつかれた。
それに誘われるように口を開けようとした瞬間、コンコンとドアをノックする音が響き、俺たちはパッと身体を離した。
俺たちは医師に改めて挨拶をすると、車に乗り込む。俺の真剣な雰囲気を察してか、助手席に乗り込んだ金成はしばらく黙っていた。
「腹減ってる? なんか食うか?」
話しかけると、驚いたのが身体がピクリと震える。
「……昼飯けっこう食ったし、まだそんなに。飛鳥は?」
「俺はカフェラテと、あとちょっと甘いもん食いたい」
「あ、俺もカフェラテは飲みたいかも」
「俺がよく行く店、連れてくわ」
緊張した様子だった金成に、今日初めて笑顔が浮かぶ。それを見ただけで、愛しすぎたまらなくなった。今すぐ抱きつきたい衝動を抑え込み、ハンドルを握る手に力を入れる。
百貨店の駐車場に車を停めると、目的のカフェへ向かって歩き出す。
「俺は初めて行く店かな?」
「だと思う。目立つ場所にある訳じゃないし、流行りの店でもねえから」
二人で話しながら歩いているうちに、目当ての店が入ったビルにたどり着く。
「ここの地下2階。エレベーターもあるけど、階段でいいよな?」
「もちろん」
俺たちはビルの脇にある階段を降りていく。2階分降りきると、緑色のドアが目の前にそびえる。
ドアを押し開けると、来客を知らせるベルが鳴った。この店では大きな声は厳禁だ。カウンターの奥でコーヒーを淹れているマスターに近づく。
「おや飛鳥。久しぶりだね」
細い金縁の丸眼鏡の奥で、懐かしい黒い瞳が優しく細められた。
「いきなりお邪魔してすみません。今日は連れがいて。家族なんですけど。それで、あの…」
「秘密の部屋を使いたいのかな?」
俺は黙って頷く。
「いいよ。ちょっと待ってくれ」
マスターは引き出しから古めかしい鍵を取り出すと、俺に手渡す。
「このコーヒーをお客様にお出ししたら、オーダーを取りに行くからね」
「ありがとうございます」
俺は飛鳥を連れて店の奥へ進む。スタッフオンリーのドアをあけ、意外なほど長い廊下を直進する。
「右、右、左の三番目のドア……」
間違うと迷ってしばらく出られなくなってしまうので、必死に覚えたあの頃が懐かしい。俺は目当てのドアに鍵を差し込み、ドアを開けた。
「ほら、こいよ」
「あ、うん」
おっかなびっくりの様子で、金成も部屋の中に入ってくる。
室内は深いグリーンを基調に品よくまとめられていた。カフェ用のテーブルに、向かい合うように二脚ずつ置かれた椅子。
無数にある小さなランプが優しく柔らかい光で部屋の中を照らしている。薄暗いといえばそうなのだが、気味の悪い暗さではなく温かで包み込んでくれるような闇に、緊張がほぐれていく。
「初めて来たけど、なんか落ち着くね」
床に荷物を下ろしながら、金成が呟く。
「だろ? いつかお前のこと連れてきたいと思ってたんだよ」
「そうなんだ……嬉しい」
金成は静かに微笑むと、椅子に座っていた俺の手を握って、再び立ち上がらせる。
「どうした?」
驚いて訊ねると、正面から強く抱きしめられた。
「毎日会いたくてたまらなかったけど、年末まで会わないつもりだったから…」
「悪い。何も説明なしで」
「いきなりなんで迎えに来たのとか、何か起きてるのかとか、聞きたいことはたくさんあるんだけど……でも、それよりやっぱ、顔見たら嬉しくて……飛鳥に触れたくてたまんなかった」
久しぶりに触れる金成の温かな体温が、俺の身体にも沁み込んでいくような気がする。そっと背中に手を回して抱きしめ返すと、さらに強く胸の中に抱き込まれた。
「飛鳥……」
吐息のような囁きに、顔を上げる。右手で顎を掬い上げられるのが合図のように俺は目を閉じた。
すぐに唇に触れる、柔らかくて温かい少し湿った感触。しばらくそのまま触れ合っていると、舌先で閉じた唇の真ん中を軽くつつかれた。
それに誘われるように口を開けようとした瞬間、コンコンとドアをノックする音が響き、俺たちはパッと身体を離した。
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