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#19

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広い部屋の中、ギシギシとベッドが軋む音といやらしい水音が響く。
「うっ……くっ……あぁっ…」

うつ伏せにされ、尻を高く突き上げるようにした屈辱感に溢れる体勢は、男の力でピクリとも動かすことができない。



大きく開かれた脚の間に白い巨躯が入り込み、激しい抽挿を繰り返し続ける。
もうどれくらい、こうして体を揺さぶられているかもわからない。

腹の上は自分の吐き出した欲に塗れ、一部はすでに乾き始めている。
「も、やめ、ろっ……!」

「まだそんなこと言うの? 余裕だね……もっともっと分からせないとだめなのかな?」

男の口角があがる。目はまったく笑っていない。冷たい微笑みを浮かべたまま、ひときわ深くを突き上げられた。

「ひっ、あああっ、や、も、やめ、っ……くそっ、がぁぁぁっ!」
「僕たちは愛し合ってるのに、そんな汚い言葉吐かないで」

身体が動かない分、口で必死に抵抗を続ける俺に男はイラつきを隠さない。
けれど俺だって負けてはいられない。

欲と快楽に飲みこまれそうな自分を、抵抗することで必死に鼓舞する。
「あい、し、あって、な…いっ! おれ、はっ」

その先の言葉は男の口の中に飲み込まれた。口の中を長く厚い舌が好き勝手に動き回る。

「あっ……ふぅっ、んんっ」
閉じることを許されない唇の端から、たらたらと雫が零れ落ちる。

鼻で息をするのも限界で、もう窒息してしまうんじゃないかと思った瞬間に唇は解放された。

「飛鳥。あんまりひどいこと言わないでよ。この前までは、あんなに僕のこと大好きって言ってくれてたじゃない」

アクアマリンの双眸が、苦しげに歪められる。傷ついた瞳と声音に、申し訳ないという思いが湧き上がる。

「それはごめ、は? まて! なにすんだよ!」

陰のある表情は一瞬で、俺と繋がったまま身体を起こして、ベッドの上に立ち上がった。



「この家、天井高くてよかったよ~頭がついちゃったらどうしようかと思った」
「やめっ、おろせ、っ」

男はこともなげに俺を抱えたまま床に降りる。ウォークインクローゼットの前に立つと、自然に扉が開く。

「ひっ……ざ、けんなっ! くそがっ」
正面に据えられた鏡に映し出された、無様な自分の姿。

俗に言う背面駅弁の格好じゃないか。
最悪だ。こんな自分は見たくない。目を閉じたいのに閉じられない。

顔を背けたいのに首が動かない。これもこいつの力としか思えない。
「リアルAV鑑賞だね、飛鳥」

男が鏡越しににっこりと微笑みながら、ゆっくりと抽挿を再開する。
「あ、やめっ、い、やだぁっ!」

「お願いごとをするときは、どうするんだっけ?」
男は俺の髪の毛に高い鼻を埋めながら、子どもに言い聞かせるように話しかけてくる。

「し、らんっ! おれ、の自由っだっ!」
必死に啖呵を切った。こんなところで屈服してたまるか。

男はより一層、笑みを深くする。
「今日の飛鳥は本っ当に手がかかるなぁ」

ウォークインクローゼットが目の前でパタリと閉じられる。
ホッとしたのも束の間、男はくるりと反転しドアの方へと歩いていく。

「おいっ、何するつもりだっ」
廊下に出たところで小声で抗議する。それに合わせるように男は耳元で囁く。

「リビングにあのガキがいるんでしょ? 大好きな飛鳥のこんなエッチな姿見たらどう思うんだろうね……ふふっ」

心底楽しそうに笑うと、男はゆっくりと廊下を歩き出した。
「ばかっ、やめろっ、んっ、だめ、だっ」

歩くたびにズンっと奥まで入ってくる雄芯に理性を奪われそうになる。俺は下唇を噛んで、必死で声を我慢した。

しばらく歩くと、男はリビングのドアの前で立ち止まる。

「この先に、あのガキがいるね。ぐーっすり寝てるみたいだけど。飛鳥のいやらしい声聞いたら、起きちゃうかもね?」

何が楽しいのか、クスクスと小さく笑いながら囁くように話しかけてくる。
その間も、俺の身体はゆっくりと揺さぶられ続けていた。

「やっ、だめ、だっ…それだけ、はっ…んぅっ」
「あは。可愛い。声抑えて我慢して顔真っ赤にして。涙も出でてきちゃった。泣き顔もほんとたまんないよ」

男は嬉しそうに頬に舌を這わせ、水滴を舐めとる。
「この涙一滴も、僕のものなんだよ? ……ねえ、わかってる?」

「うっあっ……あぁんっ!」
「あらら。おっきい声出ちゃったね。大丈夫かな? ……まだ寝てるみたい。よかったねえ飛鳥」

男は片手を尻から外し、胸の尖に手を伸ばした。
「だめっ…これ以上はっ……やっ」

「んー。まだ大丈夫みたいだね。こっちはどうかな?」胸から腹、そしてさらに下へと沿うようにして指を滑らせていく。そして。

「ひぅっ……あんっ…あぁんっ…」
爪の先まで整えられた美しくい手が俺の中心を握り、強く上下に擦る。

今までとは比較にならない刺激に、声が溢れてしまう。

「あっあっ、だめ、もだめ…やだぁっ、ゆるしてぇっ」
「許して、だって。あーもう、本当可愛いすぎ。たまんない」

男の熱い息が耳に吹きかけられた。それだけで背筋がゾクゾクと快感に震えてしまう。

「おねが、い、やめ、てぇっ、うっ」
「じゃあ、俺にキスしてくれる?」


男は横から顔を覗き込むようにする。口調はとても優しいが、目にはギラギラと獰猛な光りが宿っている。

「飛鳥から僕にキスしてくれたこと、最近ずっとないでしょ。すごく寂しかったんだ。前はたくさんおねだりしてくれたのに、最近はやだやだばっかりなんだもん……ね?」

言いながら、顔が近づいてくる。白銀の前髪と俺の黒髪が絡み合うほどに近づく。

「ね。キス。してよ。おまえから」
欲棒に濡れた低い声で命じられる。

俺は意を決して、目を閉じると首を伸ばした。ちゅっと小さなリップ音が鳴る。
「はぁ?なにそれ」 

男から不機嫌な声が漏れる。
「し、た、だろっ」

「場所が違う。口にして」
「……っ」

黙っていると、ほんの少しだけ、リビングのドアが開く。
同時に、止まっていた動きが突然再開された。

「んうっ…ぐっ」
「こっちもまた触るよ? いいの? ドア、開けたからね。大きな声出しちゃったら起きちゃうじゃない? あのガキ」

再び、長い指が5匹の白蛇のように俺の中心に絡みつく。
ダメだ。やっぱりこの男には簡単には勝てない。

俺はぎゅっと目を閉じた。
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