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第1章 アニマル☆サーカス
第20話 お願い
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「あんなに凄い魔法が、ステージでできたのは――」
まっすぐこっちを向いて、ロコちゃんは。
ロコちゃんは――言う。
「全て、あなたのおかげです……!」
「わ、わたしの……おかげって……?」
あのマジックが、沢山の女の子を変えたあのマジックが、す、全て……???
「はい……! フィーちゃんのおかし化魔法とわたしの動物化魔法を合わせる、あなたのアイデアが、あんなに素敵な魔法を作ったんです……!」
と、ロコちゃんが言って。緩みかけていた緊張が一気に蘇る。
「そ……それって、どういう、こと、ですか……?」
だけど。心の中では、思い出しかけていた。そうだ、あの時わたしは、一瞬だけ、考えちゃったんだ。
アニマルサーカスだから、動物の形をしたお菓子に変身させるのは、どうかなって……。
「で、でも……」
首を横に振ってすぐに否定する。
……でも、でも! わたしはあの時、ただ思い付いただけで、実際に女の子たちを変えようとなんてしていなかった。
そもそも、変えたくなんてなかったし、そんなアイデアをフィーやロコちゃんに教えたりもしなかった。
だから、女の子たちがわたしのアイデアと同じ様に変化させられたのは、きっと、ただの偶然。そうだ、あの時は自分のせいだって信じちゃったけど……ただの勘違いだよ。
絶対にそうだよ。
「――魔法を使う時に一番大切なのは、魔力でも、マジックアイテムでもなくて……」
ロコちゃんの言葉が、徐々に徐々に嫌なことを引き寄せてくる。
い、嫌だ! 知りたくない! 知りたくないのに……!
「こうだったらいいのになあ、こんなことがしたいな、というお願いの力なんです」
確か、フィーも、同じことを、言っていた。
魔法を使う時、一番大切なのは……お願いの力だって。つまり、それって……。
「あの時のわたしは、混乱していて……フィーちゃんと手を繋いでも……とても、ちゃんとした魔法が使える状態では有りませんでした」
ロコちゃんが、恥ずかしそうに頬をかく。
「ですが、そんな時に……ふっと、伝わってきたんです……あなたの想いが……。ハッとして、手を繋いだら――」
つまり……女の子たちが変わちゃったのは……本当に、わたしの、せい、で……??
「で、でも、わたしは……魔法なんて、使えませんよ……?」
そうだ。確かに一瞬は、わたしは、そんな恐ろしいことを考えちゃったのかもしれない。そんな強い願いがロコちゃんに伝わっちゃったのも、本当なのかもしれない。
でも……それでも、そんな魔法を使いたいって願って、使ったのはわたしじゃない……!
だってわたしは、魔法を使うことだってできないんだよ……? 今までのフィーとの練習でっだって、一度も使えたことなんてないんだよ? だから、やっぱり、わたしが女の子たちをお菓子に変えちゃった訳じゃない……!
「いえ……!」
……だけど。
ロコちゃんは、言う。
「フィーちゃんとわたしの変化魔法の力は……あんなにいっぱいのおかしに一斉に変えるまでには足りません。それに……」
あの時の魔法は、フィーちゃんとロコちゃんの力だけじゃなかった……?
「あの、動物の形のおかしに変える魔法は、動物化魔法とおかし化魔法を足し合わせてできたものでした。でも……」
で、でも……?
「……二つの変化魔法を組み合わせるのって、とっても難しいことなんです」
嫌だ、もうこれ以上聞きたくない!
だけど。
このうさみみは、どんな嫌な音でも逃してくれなかった。
「それなのに……あなたのお願いの力――魔法の力は、つないだ手の平を通じて、そんなわたしたちの二つの魔法を、つなぎ合わせて、新しい、強い魔法を作り出したんです……!」
「……!!!」
そしてロコちゃんはぺこり、と深くお辞儀をして。
「ですから、あんなにすごい魔法ができたのは、あなたのおかげなんです……! 助けてくれて、ありがとうございました……!」
とても嬉しそうに、ほころんだ。
「……」
…………。
……わたしは、女の子を動物の形のお菓子に変えてみたいなって、心のどこかで、自分から願ってしまっていた。
それだけじゃなくて、そんなお願いが、フィーとロコちゃんの魔法をつなぎあわせて……女の子たちを、本当に……!
そんなの、そんなのこの世界の人たちと同じなのに。『どこか』から連れて来た人たちを好き勝手に変えているフィーと、同じなのに……。
『ロコ!』
と、その時高い声が鳴り響いて。くらくらして、失ってしまいそうになっていた意識が呼び覚まされる。
寝室に向かったはずのルカちゃんが、しびれを切らしたのか、ロコちゃんの下へと戻ってきたんだ。
「ぴ、きゅる、きゅうっ!」
『早く、早く!』
しっぽを振り回して、ほっぺたをぷくっと膨らましてルカちゃんはロコちゃんの袖をくいっと引っ張る。
「わわっ、ごめんね……!」
ロコちゃんがルカちゃんの頭を撫でて、なだめてあげている。
「寝室に行きますけれど、どうしますか?」
ロコちゃんに尋ねられたので、わたしはとっさに首を横に振った。鼓動が、今までにないぐらいに早くなっている。まともに眠れる訳ないよ……。
「分かりました。テントの入り口から、寝室までに灯りを付けておきますね」
ロコちゃんがそう言ってぱちんと指を鳴らすと、わたしたちが立っているテントの中の通り道の両脇に、くっきりと明かりが灯る。
「今の話は、フィーちゃんには内緒ですよ」
照れている様に、頬を赤くするロコちゃん。ただ、無言で頷くことしかできない。
「ごめんね、疲れちゃったよね……」
『うん……むにゃ……』
そしてロコちゃんは両腕でルカちゃんをそっと包み込むと、寝室に向かってゆっくりと歩き出した。
「あっ、それと、フィーちゃんから――」
そして、その途中でぴたりと止まって、振り返る。
「――いえ、これは、フィーちゃんに、直接聞いた方が良いですね」
けれどすぐにロコちゃんはそう訂正して、続きを聞くことはできなかった。
「……?」
それからロコちゃんは、まっすぐにこっちを見て。
「きっと……あなたは、他の人の魔法を手助けしてあげる魔法の力が、とってもすごいんですよ! 他の魔法もいつか、必ず使えるようになりますよ……!」
とびっきり明るいロコちゃんの屈託のない朗らかな笑顔。
「……。どうか……」
それからロコちゃんはまた一瞬、間を置いて。
「――どうかフィーちゃんを、守ってあげて下さいね」
そして……。
「実はフィーちゃんって、寂しがりやさんなんですよ」
ロコちゃんはそう言い残すと、ルカちゃんと一緒にテントの奥へと向かっていった。
「……」
ぽつん……と、その場に取り残される。
ただ、黙って引き返して、テントの壁に描かれた大きな星にもう一回触れる。
十秒経つとテントから出て、外の、公園の空気に包まれる。
少し歩いて、芝生の上に膝を抱えてしゃがみ込む。
今日一日、色んなことが有り過ぎて……ずーっと迷路に迷い込んでるみたいだ。頭の中に沢山のことが詰め込まれてこんがらがっている。
一体……何だったんだろう。ロコちゃんは決していたぶるつもりはなくてその反対で……わたしに安心してもらいたくて、怖がらなくても良いよって伝えたい気持ちで、話していたんだ。
魔法のことも、ステージのことも……フィーのことも、全部、全部……。
だから……話していたのも全部、本当の、ことなんだ。
……もふもふの毛に覆われた自分の手を、じっと見る。この手で、変化魔法を……。
信じたくない。それはとても、とっても恐ろしいことなのに……なのに、外の空気に触れて、落ち着いてきちゃっているのがかえって不気味だった。
あの女の子たちが変えられちゃったのは、わたしのせいなのに……。
普通の人ならもっともっと、苦しんで、悲しい気持ちになってなきゃいけないのに……。
普通の、人……? でも……今のわたしは、人間……じゃない。
うさぎの獣人にしか、見えないんだ……。
……わたしは、何なんだろう。
それに。
『フィーもロコちゃんも、心の魔法をわたしには使わない』。
確かに、それだけは、良いことだとは言えるけれど……フィーのことが、余計に分からなくなった。
何なんだろう、フィーって……。
女の子を無理矢理変化させた上に、言葉でもっといたぶって、食べちゃったりする子なのに。
ロコちゃんには、普通の友達として、優しく接していた。
……わたしには? フィーは、わたしをどうしたいんだろう。すぐに心の魔法を使うんじゃなくて、もっといじめて苦しむのを見るつもり? そんなのは悪夢……だけど、無い話じゃない。
一体、フィーは、何を考えてるんだろう……?
「ねえねえ」
不意に、ぽんぽん、と肩を叩かれる。
「ひっ!」
叫びそうになった口元をとっさに押さえる。
この声は……!
「あれ? びっくりしちゃった?」
わたしは恐る恐る、ゆっくりと、振り返る。
「えへへ、うさぎさんっ!」
そこに居たのは――フィー。
まっすぐこっちを向いて、ロコちゃんは。
ロコちゃんは――言う。
「全て、あなたのおかげです……!」
「わ、わたしの……おかげって……?」
あのマジックが、沢山の女の子を変えたあのマジックが、す、全て……???
「はい……! フィーちゃんのおかし化魔法とわたしの動物化魔法を合わせる、あなたのアイデアが、あんなに素敵な魔法を作ったんです……!」
と、ロコちゃんが言って。緩みかけていた緊張が一気に蘇る。
「そ……それって、どういう、こと、ですか……?」
だけど。心の中では、思い出しかけていた。そうだ、あの時わたしは、一瞬だけ、考えちゃったんだ。
アニマルサーカスだから、動物の形をしたお菓子に変身させるのは、どうかなって……。
「で、でも……」
首を横に振ってすぐに否定する。
……でも、でも! わたしはあの時、ただ思い付いただけで、実際に女の子たちを変えようとなんてしていなかった。
そもそも、変えたくなんてなかったし、そんなアイデアをフィーやロコちゃんに教えたりもしなかった。
だから、女の子たちがわたしのアイデアと同じ様に変化させられたのは、きっと、ただの偶然。そうだ、あの時は自分のせいだって信じちゃったけど……ただの勘違いだよ。
絶対にそうだよ。
「――魔法を使う時に一番大切なのは、魔力でも、マジックアイテムでもなくて……」
ロコちゃんの言葉が、徐々に徐々に嫌なことを引き寄せてくる。
い、嫌だ! 知りたくない! 知りたくないのに……!
「こうだったらいいのになあ、こんなことがしたいな、というお願いの力なんです」
確か、フィーも、同じことを、言っていた。
魔法を使う時、一番大切なのは……お願いの力だって。つまり、それって……。
「あの時のわたしは、混乱していて……フィーちゃんと手を繋いでも……とても、ちゃんとした魔法が使える状態では有りませんでした」
ロコちゃんが、恥ずかしそうに頬をかく。
「ですが、そんな時に……ふっと、伝わってきたんです……あなたの想いが……。ハッとして、手を繋いだら――」
つまり……女の子たちが変わちゃったのは……本当に、わたしの、せい、で……??
「で、でも、わたしは……魔法なんて、使えませんよ……?」
そうだ。確かに一瞬は、わたしは、そんな恐ろしいことを考えちゃったのかもしれない。そんな強い願いがロコちゃんに伝わっちゃったのも、本当なのかもしれない。
でも……それでも、そんな魔法を使いたいって願って、使ったのはわたしじゃない……!
だってわたしは、魔法を使うことだってできないんだよ……? 今までのフィーとの練習でっだって、一度も使えたことなんてないんだよ? だから、やっぱり、わたしが女の子たちをお菓子に変えちゃった訳じゃない……!
「いえ……!」
……だけど。
ロコちゃんは、言う。
「フィーちゃんとわたしの変化魔法の力は……あんなにいっぱいのおかしに一斉に変えるまでには足りません。それに……」
あの時の魔法は、フィーちゃんとロコちゃんの力だけじゃなかった……?
「あの、動物の形のおかしに変える魔法は、動物化魔法とおかし化魔法を足し合わせてできたものでした。でも……」
で、でも……?
「……二つの変化魔法を組み合わせるのって、とっても難しいことなんです」
嫌だ、もうこれ以上聞きたくない!
だけど。
このうさみみは、どんな嫌な音でも逃してくれなかった。
「それなのに……あなたのお願いの力――魔法の力は、つないだ手の平を通じて、そんなわたしたちの二つの魔法を、つなぎ合わせて、新しい、強い魔法を作り出したんです……!」
「……!!!」
そしてロコちゃんはぺこり、と深くお辞儀をして。
「ですから、あんなにすごい魔法ができたのは、あなたのおかげなんです……! 助けてくれて、ありがとうございました……!」
とても嬉しそうに、ほころんだ。
「……」
…………。
……わたしは、女の子を動物の形のお菓子に変えてみたいなって、心のどこかで、自分から願ってしまっていた。
それだけじゃなくて、そんなお願いが、フィーとロコちゃんの魔法をつなぎあわせて……女の子たちを、本当に……!
そんなの、そんなのこの世界の人たちと同じなのに。『どこか』から連れて来た人たちを好き勝手に変えているフィーと、同じなのに……。
『ロコ!』
と、その時高い声が鳴り響いて。くらくらして、失ってしまいそうになっていた意識が呼び覚まされる。
寝室に向かったはずのルカちゃんが、しびれを切らしたのか、ロコちゃんの下へと戻ってきたんだ。
「ぴ、きゅる、きゅうっ!」
『早く、早く!』
しっぽを振り回して、ほっぺたをぷくっと膨らましてルカちゃんはロコちゃんの袖をくいっと引っ張る。
「わわっ、ごめんね……!」
ロコちゃんがルカちゃんの頭を撫でて、なだめてあげている。
「寝室に行きますけれど、どうしますか?」
ロコちゃんに尋ねられたので、わたしはとっさに首を横に振った。鼓動が、今までにないぐらいに早くなっている。まともに眠れる訳ないよ……。
「分かりました。テントの入り口から、寝室までに灯りを付けておきますね」
ロコちゃんがそう言ってぱちんと指を鳴らすと、わたしたちが立っているテントの中の通り道の両脇に、くっきりと明かりが灯る。
「今の話は、フィーちゃんには内緒ですよ」
照れている様に、頬を赤くするロコちゃん。ただ、無言で頷くことしかできない。
「ごめんね、疲れちゃったよね……」
『うん……むにゃ……』
そしてロコちゃんは両腕でルカちゃんをそっと包み込むと、寝室に向かってゆっくりと歩き出した。
「あっ、それと、フィーちゃんから――」
そして、その途中でぴたりと止まって、振り返る。
「――いえ、これは、フィーちゃんに、直接聞いた方が良いですね」
けれどすぐにロコちゃんはそう訂正して、続きを聞くことはできなかった。
「……?」
それからロコちゃんは、まっすぐにこっちを見て。
「きっと……あなたは、他の人の魔法を手助けしてあげる魔法の力が、とってもすごいんですよ! 他の魔法もいつか、必ず使えるようになりますよ……!」
とびっきり明るいロコちゃんの屈託のない朗らかな笑顔。
「……。どうか……」
それからロコちゃんはまた一瞬、間を置いて。
「――どうかフィーちゃんを、守ってあげて下さいね」
そして……。
「実はフィーちゃんって、寂しがりやさんなんですよ」
ロコちゃんはそう言い残すと、ルカちゃんと一緒にテントの奥へと向かっていった。
「……」
ぽつん……と、その場に取り残される。
ただ、黙って引き返して、テントの壁に描かれた大きな星にもう一回触れる。
十秒経つとテントから出て、外の、公園の空気に包まれる。
少し歩いて、芝生の上に膝を抱えてしゃがみ込む。
今日一日、色んなことが有り過ぎて……ずーっと迷路に迷い込んでるみたいだ。頭の中に沢山のことが詰め込まれてこんがらがっている。
一体……何だったんだろう。ロコちゃんは決していたぶるつもりはなくてその反対で……わたしに安心してもらいたくて、怖がらなくても良いよって伝えたい気持ちで、話していたんだ。
魔法のことも、ステージのことも……フィーのことも、全部、全部……。
だから……話していたのも全部、本当の、ことなんだ。
……もふもふの毛に覆われた自分の手を、じっと見る。この手で、変化魔法を……。
信じたくない。それはとても、とっても恐ろしいことなのに……なのに、外の空気に触れて、落ち着いてきちゃっているのがかえって不気味だった。
あの女の子たちが変えられちゃったのは、わたしのせいなのに……。
普通の人ならもっともっと、苦しんで、悲しい気持ちになってなきゃいけないのに……。
普通の、人……? でも……今のわたしは、人間……じゃない。
うさぎの獣人にしか、見えないんだ……。
……わたしは、何なんだろう。
それに。
『フィーもロコちゃんも、心の魔法をわたしには使わない』。
確かに、それだけは、良いことだとは言えるけれど……フィーのことが、余計に分からなくなった。
何なんだろう、フィーって……。
女の子を無理矢理変化させた上に、言葉でもっといたぶって、食べちゃったりする子なのに。
ロコちゃんには、普通の友達として、優しく接していた。
……わたしには? フィーは、わたしをどうしたいんだろう。すぐに心の魔法を使うんじゃなくて、もっといじめて苦しむのを見るつもり? そんなのは悪夢……だけど、無い話じゃない。
一体、フィーは、何を考えてるんだろう……?
「ねえねえ」
不意に、ぽんぽん、と肩を叩かれる。
「ひっ!」
叫びそうになった口元をとっさに押さえる。
この声は……!
「あれ? びっくりしちゃった?」
わたしは恐る恐る、ゆっくりと、振り返る。
「えへへ、うさぎさんっ!」
そこに居たのは――フィー。
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