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第1章 アニマル☆サーカス
第9話 こころがわり?
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「――!」
おいしそう? おいしそうって……あのチョコレートをのことを?
う、嘘だ。そんなこと、絶対、考えてなんか……。
だけど、否定しようとしても……目の前のテーブルの上、箱の中に入ったチョコレートを見れば、じわじわじわじわと沸いてくる気持ち。
おいしそうだな、あのチョコレート、ちょっと、食べてみたいな、一口ぐらいならいいかな、一口ぐらいなら、いいよね……?
嫌だ、そんなこと、思っちゃいけないのに 思ったらフィーと一緒なのに、この世界の人達と一緒なのに……!
だって、人間を魔法でお菓子に変えるなんて、そんなの、そんなの、とってもひどいことに決まってるのに、そんなチョコレートは、そんなお菓子なんて、嫌なのに……。
あ、あれ? で、でも……。でも、この世界の魔法って、もう人間には戻れないんだよね? それなら、どのみち、もう戻れないんだから、それだったら食べちゃった方が良いんじゃ……???
ゆうねちゃんだって、どのみち人間には戻れないんだから、心の魔法で、カーバンクルになって嬉しいって思えた方が、幸せなんじゃ……???
……違う。そんな訳ない! 何考えてるんだろう、そんな訳ないのに。心が自分じゃないのに、動物や心に変わっていれば悲しまなくて良いなんて、絶対間違ってるよ……。
「あっ……」
あれ、でも、ちょっと待って……そもそも、心の魔法って。
あることにようやく気が付いて、全身が震える。
そんな、ひとごとみたいに、ひどいとかかわいそうとか考えてる余裕なんてなかったんだ。
だって、心の魔法って……当然、わたしにも使えるんだから。
使える、じゃなくて、もう使われてる? だって、だって、さっきから、わたし、自分の名前が、名前が全然思い出せない。さっきからずっと記憶から引っ張り出そうとしても、ちっとも手掛かりが見つからない。わたしはうさぎの獣人なんかじゃないのに……!
これってもしかして、心の魔法のせい……?
心の魔法はロコちゃんの得意な魔法で、フィーはそんなに上手じゃない、みたいなこと言ってたけど……。だから、わたしはまだ、自分の気持ちを一応保ててる?
でも、少しならフィーにも心の魔法を使えるかもしれない。それで、心の魔法がゆっくりと効いて、名前も忘れて、じわりじわりとうさぎの獣人になっている? もうとっくに、うさぎに、うさぎになっているの、変わっているの……???
このままフィーの心の魔法が進めば、それともロコちゃんに心の魔法を新しくかけられたら……。いつの間にか、心まで本当に兎の獣人に変わっていて、怖いも、嫌だも忘れて、この世界に染まって……!
――そんなの嫌だ、違う! わたしは人間だ! こんなうさぎなんかじゃない!
名前だってきっと思い出せるんだ! わたしは人間、人間、人間だよ……!
嫌だ、嫌だいやだいやだいやだ――。
「だ、大丈夫、うさぎさん?」
「どうしましたか……?」
「あっ……」
! ハッとして、顔を上げる。
よっぽど具合が悪そうだったのか、フィーとロコちゃんが、心配そうに話しかけてくる。かたかたと全身が小さく震えていたことに、今気が付いた。
「な、何でもないです、気にしないで下さい……」
演技がいつもよりもずっと下手になっている。だけど、それでも首を横に振るしかない。
「で、でも、顔色、悪いよ……?」
「そ、それは……だ、大丈夫、です…………!」
フィーの呼びかけに、どうにか声を絞り出す。
……一つだけ、確かなこと。とにかく、こうやって今みたいに『嫌だ』『怖い』と感じられてるということは、心の魔法がわたしに掛けられていたとしても、まだ完全に効いてはいないということ。
だけど――ダメだ。フィーやロコちゃんには、そのことを絶対に悟られちゃダメだ。
もしも気付かれたら、きっとその途端に、もっと強い心の魔法を掛けられちゃって、今度こそ、心まで、うさぎになっちゃう……。
「あっ……」
この場を誤魔化すために、ぱっとミントジュースのグラスを取って、残った半分を飲み始める。爽やかな味が頭を冷ましてくれる様に……。
「「……」」
そんなわたしの様子を、フィーとロコちゃんは不思議そうに見ていたけれど。
「――ロコちゃんは、いつも練習はどんな風にやってるの?」
「そうだね、やっぱり、動物さんたちが楽しんでくれるのが一番だから……それぞれがやりたい演目を最初に尋ねてみて――」
しばらくすると、再び二人は楽しそうに話し始めた。
心の中でほっとため息をつく。束の間の休息。色々と考え過ぎて、しかもどれも答えが見つかんなくて、ちょっとだけ疲れていて……ミントジュースに続いて、紅茶も飲んでいると……。
「ロコ」
コンコン、と、控室のドアがノックされる。
おいしそう? おいしそうって……あのチョコレートをのことを?
う、嘘だ。そんなこと、絶対、考えてなんか……。
だけど、否定しようとしても……目の前のテーブルの上、箱の中に入ったチョコレートを見れば、じわじわじわじわと沸いてくる気持ち。
おいしそうだな、あのチョコレート、ちょっと、食べてみたいな、一口ぐらいならいいかな、一口ぐらいなら、いいよね……?
嫌だ、そんなこと、思っちゃいけないのに 思ったらフィーと一緒なのに、この世界の人達と一緒なのに……!
だって、人間を魔法でお菓子に変えるなんて、そんなの、そんなの、とってもひどいことに決まってるのに、そんなチョコレートは、そんなお菓子なんて、嫌なのに……。
あ、あれ? で、でも……。でも、この世界の魔法って、もう人間には戻れないんだよね? それなら、どのみち、もう戻れないんだから、それだったら食べちゃった方が良いんじゃ……???
ゆうねちゃんだって、どのみち人間には戻れないんだから、心の魔法で、カーバンクルになって嬉しいって思えた方が、幸せなんじゃ……???
……違う。そんな訳ない! 何考えてるんだろう、そんな訳ないのに。心が自分じゃないのに、動物や心に変わっていれば悲しまなくて良いなんて、絶対間違ってるよ……。
「あっ……」
あれ、でも、ちょっと待って……そもそも、心の魔法って。
あることにようやく気が付いて、全身が震える。
そんな、ひとごとみたいに、ひどいとかかわいそうとか考えてる余裕なんてなかったんだ。
だって、心の魔法って……当然、わたしにも使えるんだから。
使える、じゃなくて、もう使われてる? だって、だって、さっきから、わたし、自分の名前が、名前が全然思い出せない。さっきからずっと記憶から引っ張り出そうとしても、ちっとも手掛かりが見つからない。わたしはうさぎの獣人なんかじゃないのに……!
これってもしかして、心の魔法のせい……?
心の魔法はロコちゃんの得意な魔法で、フィーはそんなに上手じゃない、みたいなこと言ってたけど……。だから、わたしはまだ、自分の気持ちを一応保ててる?
でも、少しならフィーにも心の魔法を使えるかもしれない。それで、心の魔法がゆっくりと効いて、名前も忘れて、じわりじわりとうさぎの獣人になっている? もうとっくに、うさぎに、うさぎになっているの、変わっているの……???
このままフィーの心の魔法が進めば、それともロコちゃんに心の魔法を新しくかけられたら……。いつの間にか、心まで本当に兎の獣人に変わっていて、怖いも、嫌だも忘れて、この世界に染まって……!
――そんなの嫌だ、違う! わたしは人間だ! こんなうさぎなんかじゃない!
名前だってきっと思い出せるんだ! わたしは人間、人間、人間だよ……!
嫌だ、嫌だいやだいやだいやだ――。
「だ、大丈夫、うさぎさん?」
「どうしましたか……?」
「あっ……」
! ハッとして、顔を上げる。
よっぽど具合が悪そうだったのか、フィーとロコちゃんが、心配そうに話しかけてくる。かたかたと全身が小さく震えていたことに、今気が付いた。
「な、何でもないです、気にしないで下さい……」
演技がいつもよりもずっと下手になっている。だけど、それでも首を横に振るしかない。
「で、でも、顔色、悪いよ……?」
「そ、それは……だ、大丈夫、です…………!」
フィーの呼びかけに、どうにか声を絞り出す。
……一つだけ、確かなこと。とにかく、こうやって今みたいに『嫌だ』『怖い』と感じられてるということは、心の魔法がわたしに掛けられていたとしても、まだ完全に効いてはいないということ。
だけど――ダメだ。フィーやロコちゃんには、そのことを絶対に悟られちゃダメだ。
もしも気付かれたら、きっとその途端に、もっと強い心の魔法を掛けられちゃって、今度こそ、心まで、うさぎになっちゃう……。
「あっ……」
この場を誤魔化すために、ぱっとミントジュースのグラスを取って、残った半分を飲み始める。爽やかな味が頭を冷ましてくれる様に……。
「「……」」
そんなわたしの様子を、フィーとロコちゃんは不思議そうに見ていたけれど。
「――ロコちゃんは、いつも練習はどんな風にやってるの?」
「そうだね、やっぱり、動物さんたちが楽しんでくれるのが一番だから……それぞれがやりたい演目を最初に尋ねてみて――」
しばらくすると、再び二人は楽しそうに話し始めた。
心の中でほっとため息をつく。束の間の休息。色々と考え過ぎて、しかもどれも答えが見つかんなくて、ちょっとだけ疲れていて……ミントジュースに続いて、紅茶も飲んでいると……。
「ロコ」
コンコン、と、控室のドアがノックされる。
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