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Ⅲ
5.yume
しおりを挟む夢を見ていた。
バスに乗っている夢だ。
俺も彰永も高校の制服を着ている。
席が狭くて、隣りに座るとどうしても肩が密着する。恥ずかしかった。立つ人もいるほど混んだバスの中で、俺は勃起していた。
スクールバッグを膝に置いてどうにかごまかしていたが、降りる時までになんとか大人しくさせないと、痴漢で捕まってしまう。
移り変わる車窓の向こうを、ぼーっと見ている彰永の腿が、俺の腿に触れている。
すぐそこに、彰永のチンポがある。
もう、嫌になる。なんでこんな変態みたいなことばっかり考えちゃうんだろう。彰永は友達だった。物凄い天然だったけど、そんなことどうでもよくなるくらい良いヤツだった。
懐っこい性格で、高校も休みがちな俺に、なんの屈託もなく話しかけてきてくれる。
本当に助かるよな。学校では何かとペアを組まされる場面が多かったから。
友達でいたいのに、そばにいると、彰永の息遣いや肩のかたちを意識してしまって、変な妄想が止まらなくなる。
ごめん、ごめんと思いながら頭の中じゃ彰永にありえないほど恥ずかしい真似ばっかりさせていた。
彰永が好きだった。
いや、あと三駅って。やばい、終わる。
死刑宣告を待つ気分でギュッと目を閉じていたら、彰永が急にガバッと席を立った。
バスはまだ停まっていない。
え、なに。目を丸くしていると、次は腕を引っ張られる。なんだなんだと思ううちに俺まで席を立たされていた。
彰永は、人混みなんてまるで見えていないような勢いで他の乗客をずんずん掻き分ける。
俺は混乱しながら、そのやたらかっこいい背中に見惚れていた。乗客からは大顰蹙だ。ここで下りますと言って定期を見せた運転手からも方言交じりのキツい言葉をかけられた。
彰永はそんなことはなんにも気にならないみたいにバスを転がり下り、腕を掴まれた俺もそれに準じた。
急なことで、再び発車したバスをびくびくしながら目で追ってしまう。彰永は言った。
「だいじょうぶ?」
「え?」
真面目に何か聞かれているのはわかるが、なんのことかよくわからない。
降り過ごしたとでも思ったのか。それとも俺が勃起していることに気づいたのか。
あるいは、まったく違う理由なのか。
「卯月、だいじょうぶ?」
もう一回、俺に向かって確かめる。
「……うん」
わからないながら、俺はうなずいた。
実際、大丈夫ではあった。驚かされたから勃起は収まっていたし。
降りるべき停留所はもう少し先だが、それくらいは別に歩いたってよかった。
それを聞いた彰永は、「よかったー」と俺の体を軽くハグしてきた。
ええ?
何、こいつ。
当時の彰永の言動は、今よりもずっと突飛だったので、理解することが難しかった。
俺にとってだけじゃなく、クラスの全員にとってそうだったと思う。
意味不明なオタクくんだった。
全然、空気を読まないし、頭がいいことは確かなんだけど、なんていうか、会話が半分くらいしか成り立たないんだよ。
でも俺は、彰永に「だいじょうぶ?」って二回聞かれて「うん」って答えたら大丈夫になった。「よかったー」って言われて、あ、これでよかったんだって、なんかほっとした。
たぶんそういう彰永に、俺はめちゃくちゃ守られていて、今もずっとそれは変わらない。
守られてばかりなんだ。本当に。
だってのに。俺はいつも彰永を自分の都合で利用してしまう。
体を使って騙すみたいに口説き落として、恋人になってもらって、しかも肉バイブ扱いするし、お嫁さんにまでしてもらって。
孕ませてほしいって思ったのも、俺が先で。
彰永はいつも、俺のどんな汚い気持ちでも、受け入れてくれる。こんなのもう、終わりにしなくちゃダメだよな。
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なんでこんなに悲しいんだろう。
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