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Ⅱ
2.チンピラ妹
しおりを挟む「まったく……。すぐに変なウソつくところ、直したほうがいいよ? 本気にする人だっているんだから」
「……そうだな」
彰永とか。
俺はため息をついて歩美を見た。
「でも、俺とおまえが兄妹だって言うほうが周りはびっくりすると思うぜ」
五歳違いで血が半分しか繋がっていない。
だからって、顔も性格もこんなに似ていないのは変だと思う。
歩美はきりっとした吊り目で、スポーティな健康美人という風だ。
ふん、と俺は鼻で笑った。
「エロさのかけらもなくて羨ましいね」
「なにそれ! どういう意味よッ」
すぐ怒るし。
「で? 何の用?」
小野の方を窺うと、通りすがりのカップルに新商品のリーフレットを手渡していた。
熱心なのはいいが、可愛い女子大生を前に男のほうがニヤけてしまい女は不満げだ。
客の心を掴むのはなかなか難しい。
よそ見している俺に歩美はぐいっと迫った。
「何の用、じゃないよ。生存確認!」
「おお、ありがとよ。生きてるぜ」
「本当にもう、すぐ音信不通になるんだから。実家にも全然顔出してないって言うじゃん。お母さんだって寂しがってるよ」
「……いや、忙しいし」
「あたしだって忙しいのッ」
「桂ちゃんも忙しいよなー」
「え? いそがしいぃ?」
「うーん。桂ちゃん、ブーブで来たぁ?」
「うん。けぇちゃん、ブーブで来たぁ」
「来たのー。ありがとー」
飾り紐を離してしまうと手がヒマで、俺は甥っ子の紅葉のような手を触らせてもらっていた。
こんなに小さいのに、大人と同じように指が五本あって、なめらかに全部ちゃんと動くのが凄い。
目が歩美に似ている。
色の黒いところも。輪郭は旦那の方かもしれない。
結婚式で顔を合わせたきりで、よく覚えていないが。
俺と彰永に赤ちゃんができたらこんな風に似るだろうか。
ちょっとずつ、自分たちの体を分け与えるみたいに。
などと、変なことを考えてしまう程度には俺も彰永に毒されていた。
俺は、桂太からそっと手を離した。
「よーし。桂ちゃん、ちょっち豪遊してく?」
何を勝手にと、歩美は怒るだろう。
そう思って言ったのだが、歩美はなんだか変な顔をして黙っていた。俺は苦笑いした。
「おい」
「えっ? なに?」
「安心しろ。俺は子どもに変なことしない」
彰永が世間にうといだけで、俺が宇宙人にさらわれていた話は、地元じゃ知られている。
だから保育士になるのを学校から渋られたりもするわけだ。
UFOに乗ったなどと自慢できるわけでもなし、歩美に自分から話したことはなかったが、そりゃどっかで耳には入るだろう。
だが、歩美はそれを聞くなり、「はぁん!?」と怒ったイノシシみたいな声を上げた。
「お兄ちゃんがそんなことするとか、あたし考えたこともないんだけど。なんって失礼なこと言うの。信じられない。謝って!」
「は、はい。すみません」
チンピラどころかヤクザだ。
同居していた頃も、いつも怒っていて大変だった。旦那の苦労を察するに余りある。
二十歳で桂太を授かって、すぐ結婚した時は、めでたいより何か苦い気持ちになった。
要は嫉妬したのだ。
俺が喉から手が出るほど欲しいものを、妹は簡単に手に入れられるんだと思って。
まあ隣の芝生はなんとかってやつだ。歩美だって色々と苦労はあるんだろう。
だとしても、自分から積極的に会いたいと思う相手ではないが。
そんなことは何も知らない歩美は、俺に、仁王立ちして言う。
「今日は、これからお母さん達の所に泊まりに行くから。なんかいいヤツ見繕ってよね」
「はいはい。いつもありがとよ」
思い出したように店に立ち寄っては、色々と買ってくれる。
それも平日昼間というちょうど暇な時間だから、店としては助かる話だ。
狂暴すぎるが、兄思いの良い妹ではあると思う。
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