上 下
14 / 36

2.チンピラ妹

しおりを挟む

「まったく……。すぐに変なウソつくところ、直したほうがいいよ? 本気にする人だっているんだから」

「……そうだな」

 彰永とか。

 俺はため息をついて歩美を見た。

「でも、俺とおまえが兄妹だって言うほうが周りはびっくりすると思うぜ」

 五歳違いで血が半分しか繋がっていない。

 だからって、顔も性格もこんなに似ていないのは変だと思う。

 歩美はきりっとした吊り目で、スポーティな健康美人という風だ。

 ふん、と俺は鼻で笑った。

「エロさのかけらもなくて羨ましいね」

「なにそれ! どういう意味よッ」

 すぐ怒るし。

「で? 何の用?」

 小野の方を窺うと、通りすがりのカップルに新商品のリーフレットを手渡していた。

 熱心なのはいいが、可愛い女子大生を前に男のほうがニヤけてしまい女は不満げだ。

 客の心を掴むのはなかなか難しい。

 よそ見している俺に歩美はぐいっと迫った。

「何の用、じゃないよ。生存確認!」

「おお、ありがとよ。生きてるぜ」

「本当にもう、すぐ音信不通になるんだから。実家にも全然顔出してないって言うじゃん。お母さんだって寂しがってるよ」

「……いや、忙しいし」

「あたしだって忙しいのッ」

「桂ちゃんも忙しいよなー」

「え? いそがしいぃ?」

「うーん。桂ちゃん、ブーブで来たぁ?」

「うん。けぇちゃん、ブーブで来たぁ」

「来たのー。ありがとー」

 飾り紐を離してしまうと手がヒマで、俺は甥っ子の紅葉のような手を触らせてもらっていた。

 こんなに小さいのに、大人と同じように指が五本あって、なめらかに全部ちゃんと動くのが凄い。

 目が歩美に似ている。

 色の黒いところも。輪郭は旦那の方かもしれない。

 結婚式で顔を合わせたきりで、よく覚えていないが。

 俺と彰永に赤ちゃんができたらこんな風に似るだろうか。

 ちょっとずつ、自分たちの体を分け与えるみたいに。

 などと、変なことを考えてしまう程度には俺も彰永に毒されていた。

 俺は、桂太からそっと手を離した。

「よーし。桂ちゃん、ちょっち豪遊してく?」

 何を勝手にと、歩美は怒るだろう。

 そう思って言ったのだが、歩美はなんだか変な顔をして黙っていた。俺は苦笑いした。

「おい」

「えっ? なに?」

「安心しろ。俺は子どもに変なことしない」

 彰永が世間にうといだけで、俺が宇宙人にさらわれていた話は、地元じゃ知られている。

 だから保育士になるのを学校から渋られたりもするわけだ。

 UFOに乗ったなどと自慢できるわけでもなし、歩美に自分から話したことはなかったが、そりゃどっかで耳には入るだろう。

 だが、歩美はそれを聞くなり、「はぁん!?」と怒ったイノシシみたいな声を上げた。

「お兄ちゃんがそんなことするとか、あたし考えたこともないんだけど。なんって失礼なこと言うの。信じられない。謝って!」

「は、はい。すみません」

 チンピラどころかヤクザだ。

 同居していた頃も、いつも怒っていて大変だった。旦那の苦労を察するに余りある。

 二十歳で桂太を授かって、すぐ結婚した時は、めでたいより何か苦い気持ちになった。

 要は嫉妬したのだ。

 俺が喉から手が出るほど欲しいものを、妹は簡単に手に入れられるんだと思って。

 まあ隣の芝生はなんとかってやつだ。歩美だって色々と苦労はあるんだろう。

 だとしても、自分から積極的に会いたいと思う相手ではないが。

 そんなことは何も知らない歩美は、俺に、仁王立ちして言う。

「今日は、これからお母さん達の所に泊まりに行くから。なんかいいヤツ見繕ってよね」

「はいはい。いつもありがとよ」

 思い出したように店に立ち寄っては、色々と買ってくれる。

 それも平日昼間というちょうど暇な時間だから、店としては助かる話だ。

 狂暴すぎるが、兄思いの良い妹ではあると思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...