131 / 145
新章Ⅰ「忌み子と騎士のゆくところ」
37.Preparation☆
しおりを挟む
ふたりは二階にいた。空の木箱が残された部屋で、濡れた服を下敷きに絡まりあう。騎士たちの集まる広々とした一階と違い、ここは火を焚くことができない。ランプひとつを光源に互いを確かめ合うふたりは、けれど少しも寒くはなかった。
ジェイルはルカの全身に施された落書きに真剣に腹を立てていた。汗で溶けたところを乾いた布で拭き取って、仕上げのように唇を落とす。戦闘で酷使した体に鞭打ってでも、彼はそれをした。
「……ルカ、こんなところまであの女に見せてやったのか」
「あっ……あ!」
片膝の裏に手を入れて内腿を拭き取る。ルカは恥ずかしさに悶えた。白い肌を、ランプの灯がくまなく照らす。両手で顔を隠しても、ジェイルが腿のきわを吸うのはわかった。彼の乾ききらない髪の毛がふくらはぎに触れていた。
「ご、ごめんなさ……あぁっ」
「謝るのは後ろ暗いところがあるからだろう」
「ふぁあっ、ちがうっちがうぅっ」
「何が違う」
内腿から腰へ、やがて尻たぶの奥まで、手と唇は巡る。ジェイルは拭き取っては吸いついてルカの素肌を暴いた。
「おまえは俺の手を逃れてあの女を看取った。俺が駆け付けた時にも小屋に二人きりで、妙にいい匂いをさせてただろうが。……俺がいなくても、意外と楽しくやってたってわけか? あぁ?」
胸に湧く悲しみが、羞恥心を覆い隠した。ルカは足の間にいるジェイルの額を手で触った。
「……なぜ、そんな意地悪を言うのですか」
「……………」
ジェイルが無言で身を起こす。ルカはその肩にすがり「あなたは誤解しています」と言った。
「これをされた時、私は鎖で縛られていました。解放してくれるよう頼んだらいっそう拘束が厳しくなり、抵抗できなかった。そ、それは私のひ弱さが招いたことです。だから、申し訳なく思います……ごめんなさい」
声が上ずってしまう。ジェイルは騎士だった。領地を守るために緑の民を何人も殺している。
ルカはゆっくりとジェイルから体を離した。
「……あなたにとって、私の血の半分は汚らわしいですか」
「……!」
「そういう者たちに囚われていた私の言葉は信じられませんか。だから、遠ざけようとして……」
ジェイルは、ルカにみなまで言わせなかった。ほとんど掴みかかる勢いでルカを腕の中におさめ「おまえの血がどうとか、考えたこともない」と吐き出す。
彼の胸に額を預けると、ルカの目には涙が盛り上がった。雫は雨のようにぼたぼたと落ちる。ジェイルは「他には」とルカを問い詰めた。「あいつらに鎖でつながれたんだろう。髪を切られて、わけわかんねえ恰好させられて」と言う。「俺がちんたらしてる間、傷つかないおまえが、たった一人で……」
ルカの背中を掻き抱くジェイルは、自分に対してひどく腹を立てていた。
「楽しんでたわけじゃないなら、じゃあいったいどんな目にあわされたんだよ。答えろよ……!」
その言葉は塩水のように染みた。ルカは涙を目蓋でぎゅっとしぼった。顔を上げてジェイルの胸に唇をつける。伸びあがり、膝立ちになって見た彼は、ほかのどんなひとよりも美しく、愛おしかった。
「……あなたが恐れているようなことは、何もなかった」
唸るジェイルの唇を、ルカは唇でほどいた。手を置いた彼の肩はひどく緊張している。
「あなたが駆け付けてくれたからです。なにより、女神様が私の清さをお守りくださいました」
「……は?」
「今、私の男性器は性的に機能しません」
ルカはジェイルが喜んでくれると思って、笑ってそう言った。
「初めてバミユールに暴かれた時から、そうです。オリノコ様に揉み屋に連れて行かれ、揉み師の方に誘われた時ももちろん何もありませんでした。それゆえ私は今こうして恥じることなくジェイル様の前に……」
ジェイルの肩がわなわなと震え出すのを感じ、ルカは口をつぐんだ。
「おい。今、なんつった」
近くに雷が落ちたようだ。轟音がとどろくのと同時に、階下から騎士たちの声がワッと上がる。ルカはびっくりしてジェイルの肩から手を離した。ジェイルはその手を強く掴んだ。
「勃たない、って言ったのか。俺が懇切丁寧に世話して、可愛がって、やっと射精までするようになったモノを……あんなぽっと出のクソ女が、怖がらせたせいで……!」
「……そ、その捉え方は女神様の存在を無視しています。おかげで私の清さは守られたのですから……」
ジェイルは聞く耳を持たなかった。
ジェイルはルカの全身に施された落書きに真剣に腹を立てていた。汗で溶けたところを乾いた布で拭き取って、仕上げのように唇を落とす。戦闘で酷使した体に鞭打ってでも、彼はそれをした。
「……ルカ、こんなところまであの女に見せてやったのか」
「あっ……あ!」
片膝の裏に手を入れて内腿を拭き取る。ルカは恥ずかしさに悶えた。白い肌を、ランプの灯がくまなく照らす。両手で顔を隠しても、ジェイルが腿のきわを吸うのはわかった。彼の乾ききらない髪の毛がふくらはぎに触れていた。
「ご、ごめんなさ……あぁっ」
「謝るのは後ろ暗いところがあるからだろう」
「ふぁあっ、ちがうっちがうぅっ」
「何が違う」
内腿から腰へ、やがて尻たぶの奥まで、手と唇は巡る。ジェイルは拭き取っては吸いついてルカの素肌を暴いた。
「おまえは俺の手を逃れてあの女を看取った。俺が駆け付けた時にも小屋に二人きりで、妙にいい匂いをさせてただろうが。……俺がいなくても、意外と楽しくやってたってわけか? あぁ?」
胸に湧く悲しみが、羞恥心を覆い隠した。ルカは足の間にいるジェイルの額を手で触った。
「……なぜ、そんな意地悪を言うのですか」
「……………」
ジェイルが無言で身を起こす。ルカはその肩にすがり「あなたは誤解しています」と言った。
「これをされた時、私は鎖で縛られていました。解放してくれるよう頼んだらいっそう拘束が厳しくなり、抵抗できなかった。そ、それは私のひ弱さが招いたことです。だから、申し訳なく思います……ごめんなさい」
声が上ずってしまう。ジェイルは騎士だった。領地を守るために緑の民を何人も殺している。
ルカはゆっくりとジェイルから体を離した。
「……あなたにとって、私の血の半分は汚らわしいですか」
「……!」
「そういう者たちに囚われていた私の言葉は信じられませんか。だから、遠ざけようとして……」
ジェイルは、ルカにみなまで言わせなかった。ほとんど掴みかかる勢いでルカを腕の中におさめ「おまえの血がどうとか、考えたこともない」と吐き出す。
彼の胸に額を預けると、ルカの目には涙が盛り上がった。雫は雨のようにぼたぼたと落ちる。ジェイルは「他には」とルカを問い詰めた。「あいつらに鎖でつながれたんだろう。髪を切られて、わけわかんねえ恰好させられて」と言う。「俺がちんたらしてる間、傷つかないおまえが、たった一人で……」
ルカの背中を掻き抱くジェイルは、自分に対してひどく腹を立てていた。
「楽しんでたわけじゃないなら、じゃあいったいどんな目にあわされたんだよ。答えろよ……!」
その言葉は塩水のように染みた。ルカは涙を目蓋でぎゅっとしぼった。顔を上げてジェイルの胸に唇をつける。伸びあがり、膝立ちになって見た彼は、ほかのどんなひとよりも美しく、愛おしかった。
「……あなたが恐れているようなことは、何もなかった」
唸るジェイルの唇を、ルカは唇でほどいた。手を置いた彼の肩はひどく緊張している。
「あなたが駆け付けてくれたからです。なにより、女神様が私の清さをお守りくださいました」
「……は?」
「今、私の男性器は性的に機能しません」
ルカはジェイルが喜んでくれると思って、笑ってそう言った。
「初めてバミユールに暴かれた時から、そうです。オリノコ様に揉み屋に連れて行かれ、揉み師の方に誘われた時ももちろん何もありませんでした。それゆえ私は今こうして恥じることなくジェイル様の前に……」
ジェイルの肩がわなわなと震え出すのを感じ、ルカは口をつぐんだ。
「おい。今、なんつった」
近くに雷が落ちたようだ。轟音がとどろくのと同時に、階下から騎士たちの声がワッと上がる。ルカはびっくりしてジェイルの肩から手を離した。ジェイルはその手を強く掴んだ。
「勃たない、って言ったのか。俺が懇切丁寧に世話して、可愛がって、やっと射精までするようになったモノを……あんなぽっと出のクソ女が、怖がらせたせいで……!」
「……そ、その捉え方は女神様の存在を無視しています。おかげで私の清さは守られたのですから……」
ジェイルは聞く耳を持たなかった。
48
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる