忌み子と騎士のいるところ

春Q

文字の大きさ
上 下
110 / 145
新章Ⅰ「忌み子と騎士のゆくところ」

16.バミユール☆彡

しおりを挟む
 集落の中央に、蔦や枝を繭のように編んだ建物があった。女はルカを抱いたまま中へ入った。耳元を羽虫がプンとかすめる。自然その動きを目で追ったルカは絶叫した。

 人骨が天井から吊り下げられている。女が笑ってルカを抱き直す。

もう死んでいるよ。悪くないよ豁サ繧薙〒縺?k繧医?よが縺上↑縺?h縲

 言語が理解できずともわかる。こんなところには一秒だって長くいるべきではない。

 だが。

(ジェイル様を、私は守り切れなかった……!)

 自分のために流された夥しい血を思うと、ルカは息もできない。唇を噛み締めて泣くルカを、女はじっと見つめる。緑の瞳が妖しい光を宿す。

「ひっ……!」

 突然、頬に噛みつかれた。痛い。怖い。

「な、何をするのですかっ。やめてっ! ひゃへれくらひゃいっ」

 あまりにも強い力に口のはしが切れる。頬に噛み痕がつく。ふん、ふん、と感じる鼻息を(笑っている)と悟り、ルカは総毛立った。ジェイルのことも、こんなふうに玩具を弄ぶように傷つけたのだろうか。そう思うと、萎えていた心に怒りの火がついた。

「こんなことで私を自由にできると思うのですか!」

 腕の中で暴れに暴れ、女の腕から抜け出す。どさっと落ちたところは草のむしろの上だ。ルカは胸を打ち叩いて言い放った。

「この身に流れる血がなんであろうと、私は女神様のものです! ……っ、ジェイル様の、ものです……!」

 涙ながらに訴える相手は、あまりにも母に似ていた。ジェイルを傷つけた張本人だというのに、怒りや憎しみよりも懐かしさがこみあげる。ルカは頭を大きく横に振った。

「……あなたは一体、私のなんなのです……」

「バミユール」

 その言葉は聞き取れた。

「ば、ばみゅ……?」

 うまく発音できない。

 女は自分を指して「バミユール」と繰り返した。同じようにルカを指し「アルカディア」と言った。それはルカの名前ではない。ルテニアの女神の名前だ。

「え……?」

 混乱するルカを差し置いて、女――バミユールはストンと筵に座った。彼女が頭の前でぱんぱんと両手を打つと、今まで遠巻きにしていた緑の民たちが近寄ってくる。皆、バミユールに仕える者たちなのだろうか。返り血に濡れた顔に率先して唇を落とし、舌で清めている。

「…………」

 目の前で繰り広げられる動物的とも官能的ともつかない光景に、ルカは沈黙した。そんな場合ではないと思いつつ、どうしても母のかつての暮らしぶりを想像してしまう。

 バミユールはとうとう筵に押し倒された。ルカは反射的に彼女に背を向けた。修道士として、こんな淫乱な交わりには絶対に加われない。

 バミユールはそんな状態で話しかけてきた。

向きなおれ。言葉に図を加える蜷代″縺ェ縺翫l縲りィ?闡峨↓蝗ウ繧貞刈縺医k

「なっなんですかっ! 私はっ心に決めた人としかそういうことはしないのです!」

「アルカディア」

 その名を出されると、どうしても逆らえなかった。ルカは彼女を振り向いた。バミユールは緑の民にうごうごとまとわりつかれながら寝返りを打つ。

 懐から袋を取り出すと、中に詰まった小石を筵に空ける。川から採取したものだろう。どれも丸くすべすべとしている。

 ひとつ示して「」と言う。その後ろにもうひとつ加え「母の母豈阪?豈」と言う。三回遡ったあと、バミユールは石を十二個横に並べた。うち端の一つをルカに向かって指で弾く。中ほどの一つを自分の手にとる。聞き覚えのある言葉に、ルカはハッとした。

「つまり……あなたは、私の遠い親戚だと……」

 顔を上げて見たバミユールは裸身を晒していた。手で顔を覆ったルカは、詳しく追及できなかった。数人を残して緑の民たちが散ってゆく。

(……せ、性行為ではない? 単に身を清めさせていたのだろうか。いや、それにしても、原始的すぎるというか……)

 バミユールが集落の中で権威を持っていることだけが確かだった。筵に立った彼女の体に、女たちが布を巻き付けていく。バミユールは侍女にかしずかれる女王のように堂々としていた。ルカは震えた。

 褐色の指先がルカの頬をなぞった。すでに噛み痕も切り傷も消えている。

傷もしみもない私たちの子羊。私の子羊蛯キ繧ゅ@縺ソ繧ゅ↑縺?ァ√◆縺。縺ョ蟄千セ翫?らァ√?蟄千セ

 バミユールはぎざぎざした歯を見せびらかすように笑った。

門が開く。栄華は極まる。生む。満ちる。地に殖える髢?縺碁幕縺上?よ??庄縺ッ讌オ縺セ繧九?ら函繧?縲よコ?縺。繧九?ょ慍縺ォ谿悶∴繧

「……え」

 ぎらついた緑の瞳がルカを射すくめた。力強い手に絡めとられ、筵に倒れ込む。修道服の裾を開かれる。ルカは思い出した。そういえば、前に誘拐された時も、彼らはルカの性器に非常に強い興味を示したのだった。最初の時は、まだ精通していなかった。その後はすでに器具を取り付けられルカの性器は固く封じられていた。

 恐怖のあまり、ずっと記憶に蓋をしていた。

「いや……やめて……」

 ルカが固く閉じた膝をバミユールはいとも簡単に割り開いた。ジェイルだけに見せ、触らせた。自分で慰めることすらジェイルを喜ばせるためだったのに。その人は、もう。

「いやぁああっ! ジェイルさま……! やだ、いやだっ、ジェイルさま、ジェイルさま!」

 口の裂けたような笑みを浮かべるバミユールが、ルカの目には黒い影に見えた。食べられてしまう。死ぬよりももっとひどいことが自分の身に起ころうとしている。

『どんだけ世間知らずなんだ、おまえは……』

 優しい声が、姿が思い浮かぶ。ジェイルはわかっていたのだろうか。死ねないルカがこうしていたぶられると予測していたから強硬に逃げようとしたのか。

(女神、様……)

 そのときルカは、胸に生温かいものを感じた。

オ……縺岩?ヲ窶ヲ

 バミユールがぶしゅぶしゅと血を吐く。ルカは涙に曇った目で、彼女の背後にいるひとを見た。その身に鮮緑の文様をまとったジェイルが、バミユールの胸を貫いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...