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間章「ニャンヤンのお祭り」
22.頭突き
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ジェイルの唇は、ルカを乗っ取ろうとするかのようだった。言葉はなかった。光もなかった。目蓋の裏の深淵に、舌を交わす音と濡れた息遣いだけが響く。
ルカの胸にある二つの蕾に、ジェイルの親指が付いたり離れたりを繰り返していた。もう育ちきり、仰向けでいても重さを感じるほど腫れているのに、彼はそれをいつまでも摘み取ろうとはしなかった。いつもなら、とっくに口に入れて、舌で撫でてくれるのに。
「あ、ああ」
ルカは吐息で悶えた。勃起しているのは胸ばかりではない。男性器がビンと頭をもたげてしまっている。からだは無意識に前後左右に揺れた。敏感な肌を服の布地に擦り付けて、快感を逃がそうとしていた。
「動くな」
自分のものではない舌が、ぬるりと自分の口から出ていった。ルカは震えながら薄目を開ける。涙の潤んだ膜をへだてて、すぐそこにジェイルがいた。
「いま、俺がおまえを食ってるんだ。黙って食われていろ、修道士」
「ひっ……」
ジェイルの下半身がルカにまたがっている。鈍器のように重く、刃物のように鋭い切っ先が、ぞりっとルカの股を撫で上げた。
「……おまえが揉み屋で女をはべらせていると聞いたとき、俺は本気で当惑した。この指人形みたいなイチモツで、どうやって女を悦ばせられるのか想像もつかなかったからだ」
「な……何を……」
「次にあのガキから、トーチカは大勢の男の相手をしていて忙しいといわれた。揉み屋でよろしくやっているので、俺には二度と会いたくないらしい。さっさと行っちまえという態度だった」
ルクスはルカの伝言を捻じ曲げて伝えたらしい。ジェイルは怒り狂っていた。
「こうしてやっとのことで見つけ出したおまえは修道服ではなく、男を誘惑するためのヒラヒラと透けた服を着ている。一体なんなんだ、ふざけてんのか、おまえは」
ジェイルの側の事情を聞いて、ルカはうなだれるほかなかった。彼に真実を確かめることもせず、頭に血が上って歓楽街へ入ってしまったのだ。怒鳴り込みに来たと言われても仕方ない。
「……誤解と行き違いがあったのです。お許しください」
「いや、絶対に許さない」
「そんな……」
ジェイルはルカに、言い訳を許さなかった。食うという言葉通りに口を口で軽く塞いだあと「聞け」と言って、ルカを睨みつける。
「俺は酒場に通っていた」
「え……」
「情報も得ずに、どうやって進路を探っていたと思う。おまえは緑の民にやたらと狙われているし、コパもおまえを追っている。露出の多い女のいる店で、話を聞き出すために賭博もやったし、流れで刃傷沙汰も起こした。騎士どもにはそれでカンづかれたんだろうが……」
「な、なぜ教えてくださらなかったのです」
「はははっ、おまえは本当に面白いやつだな。今それを聞くのか」
ジェイルはルカを罵倒とともに繰り返し何度も頭突いた。
「おまえのような、鈍くさくて、お人よしの、アホ修道士が、万が一にも暗い道に迂闊に足を踏み入れたらどうなるのか、まだわからないのか。なんでこんな服を着せられてんだ、てめえは!」
ジェイルも石頭だが、ルカも大概だ。額の赤くなった彼がぐんと頭を反らしたので、ルカはぎゅっと目をつぶる。だが、柔らかく触れたのは、ジェイルの唇だった。
心配した、と息継ぎの合間に彼はそう呟いた。心底安堵したような声に、ルカの涙腺は自然と緩んでしまう。
「ごめんなさい、ジェイル様、ごめんなさい」
必死に謝るのだが、ジェイルはもう許してくれなかった。狩るものと狩られるものの視線が一瞬だけ交わり、あとは、食われるばかりだった。
ルカの胸にある二つの蕾に、ジェイルの親指が付いたり離れたりを繰り返していた。もう育ちきり、仰向けでいても重さを感じるほど腫れているのに、彼はそれをいつまでも摘み取ろうとはしなかった。いつもなら、とっくに口に入れて、舌で撫でてくれるのに。
「あ、ああ」
ルカは吐息で悶えた。勃起しているのは胸ばかりではない。男性器がビンと頭をもたげてしまっている。からだは無意識に前後左右に揺れた。敏感な肌を服の布地に擦り付けて、快感を逃がそうとしていた。
「動くな」
自分のものではない舌が、ぬるりと自分の口から出ていった。ルカは震えながら薄目を開ける。涙の潤んだ膜をへだてて、すぐそこにジェイルがいた。
「いま、俺がおまえを食ってるんだ。黙って食われていろ、修道士」
「ひっ……」
ジェイルの下半身がルカにまたがっている。鈍器のように重く、刃物のように鋭い切っ先が、ぞりっとルカの股を撫で上げた。
「……おまえが揉み屋で女をはべらせていると聞いたとき、俺は本気で当惑した。この指人形みたいなイチモツで、どうやって女を悦ばせられるのか想像もつかなかったからだ」
「な……何を……」
「次にあのガキから、トーチカは大勢の男の相手をしていて忙しいといわれた。揉み屋でよろしくやっているので、俺には二度と会いたくないらしい。さっさと行っちまえという態度だった」
ルクスはルカの伝言を捻じ曲げて伝えたらしい。ジェイルは怒り狂っていた。
「こうしてやっとのことで見つけ出したおまえは修道服ではなく、男を誘惑するためのヒラヒラと透けた服を着ている。一体なんなんだ、ふざけてんのか、おまえは」
ジェイルの側の事情を聞いて、ルカはうなだれるほかなかった。彼に真実を確かめることもせず、頭に血が上って歓楽街へ入ってしまったのだ。怒鳴り込みに来たと言われても仕方ない。
「……誤解と行き違いがあったのです。お許しください」
「いや、絶対に許さない」
「そんな……」
ジェイルはルカに、言い訳を許さなかった。食うという言葉通りに口を口で軽く塞いだあと「聞け」と言って、ルカを睨みつける。
「俺は酒場に通っていた」
「え……」
「情報も得ずに、どうやって進路を探っていたと思う。おまえは緑の民にやたらと狙われているし、コパもおまえを追っている。露出の多い女のいる店で、話を聞き出すために賭博もやったし、流れで刃傷沙汰も起こした。騎士どもにはそれでカンづかれたんだろうが……」
「な、なぜ教えてくださらなかったのです」
「はははっ、おまえは本当に面白いやつだな。今それを聞くのか」
ジェイルはルカを罵倒とともに繰り返し何度も頭突いた。
「おまえのような、鈍くさくて、お人よしの、アホ修道士が、万が一にも暗い道に迂闊に足を踏み入れたらどうなるのか、まだわからないのか。なんでこんな服を着せられてんだ、てめえは!」
ジェイルも石頭だが、ルカも大概だ。額の赤くなった彼がぐんと頭を反らしたので、ルカはぎゅっと目をつぶる。だが、柔らかく触れたのは、ジェイルの唇だった。
心配した、と息継ぎの合間に彼はそう呟いた。心底安堵したような声に、ルカの涙腺は自然と緩んでしまう。
「ごめんなさい、ジェイル様、ごめんなさい」
必死に謝るのだが、ジェイルはもう許してくれなかった。狩るものと狩られるものの視線が一瞬だけ交わり、あとは、食われるばかりだった。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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