忌み子と騎士のいるところ

春Q

文字の大きさ
上 下
75 / 145
間章「ニャンヤンのお祭り」

22.頭突き

しおりを挟む
 ジェイルの唇は、ルカを乗っ取ろうとするかのようだった。言葉はなかった。光もなかった。目蓋の裏の深淵に、舌を交わす音と濡れた息遣いだけが響く。

 ルカの胸にある二つの蕾に、ジェイルの親指が付いたり離れたりを繰り返していた。もう育ちきり、仰向けでいても重さを感じるほど腫れているのに、彼はそれをいつまでも摘み取ろうとはしなかった。いつもなら、とっくに口に入れて、舌で撫でてくれるのに。

「あ、ああ」

 ルカは吐息で悶えた。勃起しているのは胸ばかりではない。男性器がビンと頭をもたげてしまっている。からだは無意識に前後左右に揺れた。敏感な肌を服の布地に擦り付けて、快感を逃がそうとしていた。

「動くな」

 自分のものではない舌が、ぬるりと自分の口から出ていった。ルカは震えながら薄目を開ける。涙の潤んだ膜をへだてて、すぐそこにジェイルがいた。

「いま、俺がおまえを食ってるんだ。黙って食われていろ、修道士」

「ひっ……」

 ジェイルの下半身がルカにまたがっている。鈍器のように重く、刃物のように鋭い切っ先が、ぞりっとルカの股を撫で上げた。

「……おまえが揉み屋で女をはべらせていると聞いたとき、俺は本気で当惑した。この指人形みたいなイチモツで、どうやって女を悦ばせられるのか想像もつかなかったからだ」

「な……何を……」

「次にあのガキから、は大勢の男の相手をしていて忙しいといわれた。揉み屋でよろしくやっているので、俺には二度と会いたくないらしい。さっさと行っちまえという態度だった」

 ルクスはルカの伝言を捻じ曲げて伝えたらしい。ジェイルは怒り狂っていた。

「こうしてやっとのことで見つけ出したおまえは修道服ではなく、男を誘惑するためのヒラヒラと透けた服を着ている。一体なんなんだ、ふざけてんのか、おまえは」

 ジェイルの側の事情を聞いて、ルカはうなだれるほかなかった。彼に真実を確かめることもせず、頭に血が上って歓楽街へ入ってしまったのだ。怒鳴り込みに来たと言われても仕方ない。

「……誤解と行き違いがあったのです。お許しください」

「いや、絶対に許さない」

「そんな……」

 ジェイルはルカに、言い訳を許さなかった。食うという言葉通りに口を口で軽く塞いだあと「聞け」と言って、ルカを睨みつける。

「俺は酒場に通っていた」

「え……」

「情報も得ずに、どうやって進路を探っていたと思う。おまえは緑の民にやたらと狙われているし、コパもおまえを追っている。露出の多い女のいる店で、話を聞き出すために賭博もやったし、流れで刃傷沙汰も起こした。騎士どもにはそれでカンづかれたんだろうが……」

「な、なぜ教えてくださらなかったのです」

「はははっ、おまえは本当に面白いやつだな。今それを聞くのか」

 ジェイルはルカを罵倒とともに繰り返し何度も頭突いた。

「おまえのような、鈍くさくて、お人よしの、アホ修道士が、万が一にも暗い道に迂闊に足を踏み入れたらどうなるのか、まだわからないのか。なんでこんな服を着せられてんだ、てめえは!」

 ジェイルも石頭だが、ルカも大概だ。額の赤くなった彼がぐんと頭を反らしたので、ルカはぎゅっと目をつぶる。だが、柔らかく触れたのは、ジェイルの唇だった。

 心配した、と息継ぎの合間に彼はそう呟いた。心底安堵したような声に、ルカの涙腺は自然と緩んでしまう。

「ごめんなさい、ジェイル様、ごめんなさい」

 必死に謝るのだが、ジェイルはもう許してくれなかった。狩るものと狩られるものの視線が一瞬だけ交わり、あとは、食われるばかりだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

処理中です...