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間章「ニャンヤンのお祭り」
21.くらやみ★
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ジェイルの不遜な物言いを、ルカは諭すべきだった。ルカはルテニアの母である女神がどんなに愛にあふれているかを知っている。女神はルカのみならずジェイルをも愛している。愛する子に「叩き潰してやりたい」とか「虫唾が走る」とか言われたら、どんなに心の広い母親でも怒るだろう。なにより、悲しむだろう。
それなのにルカは何も言えないのだった。ジェイルはルカを見つめ、ルカの手指に唇を触れさせている。修道士の前で女神を冒涜しておきながら、彼は骨をもらった犬みたいに興奮していて、嬉しそうだった。
ルカは、確かめるようにゆっくりと手を動かした。
「あ……」
ジェイルが、ルカの白い指を食べてしまった。慌てて引っ込めようとすると、親指の付け根を深く噛まれる。ルカはいかがわしい気持ちがした。吐息にまじって小さな声が出る。
「……お、女のひとにも、こんなふうにするのですか」
獲物を前にしたけだもののように細くなる目に、ルカは震えた。
指を吐くジェイルの唇は、やけに赤く見えた。
「そんなに言うなら女を抱いてきてやろうか。ルカ様」
「え……」
「何を驚いている。俺がどこぞの女とつがって旅についてこないほうが、おまえにとっては都合がいいんだろうが。自分でそう言ったものな、おまえ」
「ちがう、だって……」
「女王陛下の命に逆らうのは気がひけるが、可愛いおまえの頼みなら仕方ないか。そうだ式はおまえが仕切れよ、赤ん坊もおまえが取り上げるといい。それが修道士の仕事なんだろう」
ジェイルに低い声でそう言われて、ルカは泣いた。ぼろぼろと涙をこぼしながら、ジェイルにすがりつき「いやです」と首を大きく左右に振る。「お願いです。まだ私といてください」
声は弱弱しいのに、縋る言葉は際限なく口から洩れてくる。
「あなたが女のひとといたのかと思うと、私は心が引き裂かれそうになるのです。わたしは、私は、忌み子なのに。あなたに何も約束できない身体なのに」
子供の頃から、ルカはよく想像していた。何をしても傷つかない自分は、どうやって死ぬのだろうかと。
母の血に濡れた剣で、アドルファスは何度もルカの背中を刺したのだが、ルカを死ななかった。サンドラのような病に侵されたこともない。自分で毒草を飲んだこともある。たくさん火ぶくれを起こすとひとは死ぬそうなので、熱湯を使ってもみた。しかしながら結果としてルカは今もここにいるのだった。
いずれ置いて行かれることになるだろうジェイルに、なぜこんなにみっともなく縋っているのか、ルカは自分でもよくわからない。縁があるならジェイルは女性と結ばれるべきだ。子宝にもぜひ恵まれてほしいと思う。
ジェイルの言うとおりだ。ルカは修道士として寿ぐべきである。ジェイルは若く、男盛りで、女神アルカディアの祝福を受けるべきひとなのだから。
「あっ……」
ジェイルがルカの首筋に吸い付いた。両手を肩甲骨の下に入れられて、ルカは胸を突き出すような格好になる。薄い胸板をジェイルは大きな手で支えた。親指の腹が胸のふたつの頂点に触れて、離れて、また触れる。
先ほど性器を嬲ったのと同じやり方だと、ルカにはすぐわかった。ただ触られているだけだ。つまむでも引っ掻くでもないのに、ルカの乳首は何かを勝手に期待して硬く大きくなってしまう。
「う……う……やら、やぁ……」
「俺を見ろよ。顔を背けるな。ルカ、こっち向け」
「んゃあぁ……」
やだ、とルカは思う。ジェイルを見ると、花の蕾かのようにふくらんだ胸まで目に入ってしまう。分も弁えずに感じている顔を見られてしまう。そして彼の目の中の暗闇に囚われてしまうことだろう。淫らなルカを許す、暗闇に。
だが、ジェイルに従いながらそれらを見ずに済む方法が一つだけあった。ルカは伸びあがり、ジェイルの首に腕を回す。彼の唇に自分の唇を付けると、互いに目が閉じて、もう何も見えなくなる。
それなのにルカは何も言えないのだった。ジェイルはルカを見つめ、ルカの手指に唇を触れさせている。修道士の前で女神を冒涜しておきながら、彼は骨をもらった犬みたいに興奮していて、嬉しそうだった。
ルカは、確かめるようにゆっくりと手を動かした。
「あ……」
ジェイルが、ルカの白い指を食べてしまった。慌てて引っ込めようとすると、親指の付け根を深く噛まれる。ルカはいかがわしい気持ちがした。吐息にまじって小さな声が出る。
「……お、女のひとにも、こんなふうにするのですか」
獲物を前にしたけだもののように細くなる目に、ルカは震えた。
指を吐くジェイルの唇は、やけに赤く見えた。
「そんなに言うなら女を抱いてきてやろうか。ルカ様」
「え……」
「何を驚いている。俺がどこぞの女とつがって旅についてこないほうが、おまえにとっては都合がいいんだろうが。自分でそう言ったものな、おまえ」
「ちがう、だって……」
「女王陛下の命に逆らうのは気がひけるが、可愛いおまえの頼みなら仕方ないか。そうだ式はおまえが仕切れよ、赤ん坊もおまえが取り上げるといい。それが修道士の仕事なんだろう」
ジェイルに低い声でそう言われて、ルカは泣いた。ぼろぼろと涙をこぼしながら、ジェイルにすがりつき「いやです」と首を大きく左右に振る。「お願いです。まだ私といてください」
声は弱弱しいのに、縋る言葉は際限なく口から洩れてくる。
「あなたが女のひとといたのかと思うと、私は心が引き裂かれそうになるのです。わたしは、私は、忌み子なのに。あなたに何も約束できない身体なのに」
子供の頃から、ルカはよく想像していた。何をしても傷つかない自分は、どうやって死ぬのだろうかと。
母の血に濡れた剣で、アドルファスは何度もルカの背中を刺したのだが、ルカを死ななかった。サンドラのような病に侵されたこともない。自分で毒草を飲んだこともある。たくさん火ぶくれを起こすとひとは死ぬそうなので、熱湯を使ってもみた。しかしながら結果としてルカは今もここにいるのだった。
いずれ置いて行かれることになるだろうジェイルに、なぜこんなにみっともなく縋っているのか、ルカは自分でもよくわからない。縁があるならジェイルは女性と結ばれるべきだ。子宝にもぜひ恵まれてほしいと思う。
ジェイルの言うとおりだ。ルカは修道士として寿ぐべきである。ジェイルは若く、男盛りで、女神アルカディアの祝福を受けるべきひとなのだから。
「あっ……」
ジェイルがルカの首筋に吸い付いた。両手を肩甲骨の下に入れられて、ルカは胸を突き出すような格好になる。薄い胸板をジェイルは大きな手で支えた。親指の腹が胸のふたつの頂点に触れて、離れて、また触れる。
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「う……う……やら、やぁ……」
「俺を見ろよ。顔を背けるな。ルカ、こっち向け」
「んゃあぁ……」
やだ、とルカは思う。ジェイルを見ると、花の蕾かのようにふくらんだ胸まで目に入ってしまう。分も弁えずに感じている顔を見られてしまう。そして彼の目の中の暗闇に囚われてしまうことだろう。淫らなルカを許す、暗闇に。
だが、ジェイルに従いながらそれらを見ずに済む方法が一つだけあった。ルカは伸びあがり、ジェイルの首に腕を回す。彼の唇に自分の唇を付けると、互いに目が閉じて、もう何も見えなくなる。
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