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間章「ニャンヤンのお祭り」
20.相貌★
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騎士団一行が行くと、ジェイルは小さくため息をついた。
「別棟に行ったな」
「えっ」
別棟にはサンドラや揉み師たちがいる。男たちも並んでいるはずだ。
ジェイルは「やめとけ」と首を振って、ルカを個室へ押し込んだ。
「トーチカが戻れば逆に厄介なことになる。ふん、この町の人間はしたたかなようだからな。どうせ祭りの準備をしていたとでも言ってごまかすだろう」
室内は独房のように狭かった。布のかかった寝台と小さな水瓶、荷物置き用の棚がぎゅうぎゅうに押し込まれている。サンドラが元いた部屋も、汚れる前はこんなふうだったのだろう。
「ああ、面倒なことになった」
寝台に腰かけたジェイルがうんざりと呟いた。下穿きを下ろしたまま脚を組む座り方が、いかにも場慣れしていて、ルカは赤くなる。こういう場所で揉み師と過ごしたのだろうと思った。
「連中は俺とおまえの動向をとっくに掴んでいるようだったな。アガタとか言ったか、あの女はたぶんしつこいぞ……追い回されたくなきゃ出頭して来いと暗に脅迫してんだ、あれは……」
ルカは、揉み師とくんずほぐれつするジェイルを思い描いて心ここにあらずだった。ジェイルに「おい、聞いてんのか」と言われて、びくっと肩をすくませる。
「え、あ……」
肌着から透ける自分の膝が目に入り、ルカは立ちすくむ。この服を当たり前のように着て働くレイラはすごいと思った。この恰好をしているとルカは頭がくらくらとして、ジェイルを見ているだけで、倒れそうになってしまう。
「あ」
ジェイルの手が伸びてきて、すぽんと頭巾を取った。銀色の髪から湯気がたちのぼる。ずっと隠していたものが、なんの前触れもなく露わになると無性に恥ずかしくなるものだ。両腕で胸と股を隠してうつむくルカを、ジェイルは笑った。
「聞いてないな。人前で尻を打たれて、興奮して」
「……っ」
「まさかこんな服まで着せられているとは」
ジェイルの手が、服越しにルカの腿を撫で上げた。ルカは思わず内股になる。何をしているのだろう。何をさせられているのだろう。ここが安全かどうかもわからないのに。
ジェイルの声は、夢の中に響くこだまのように絶対的だった。
「からだを見せろよ。ルカ」
従うルカは、どうかしている。
ルカの小さな性器と乳首は勃起して、薄い肌着に小さな小山を作っていた。レイラが譲ってくれた服なのに。下着を穿いていても、股の頂点に浮かぶ丸いシミはごまかせない。
「あぅっ」
円の中心に、ジェイルの人差し指が触れた。
「ここが濡れて、糸を引いている」
人差し指の腹が触れて、離れて、焦らすような刺激に体液が滲む。透明な糸はジェイルの指に縋るようにたわんだ。ジェイルの指の動きは優しくゆっくりで、しかし止まってはくれなかった。
「なるほど。ルカは修道士を辞めて、揉み屋で稼ぐことにしたのか」
「ひ、ち、ちが、アッ」
「そんなに金のことが心配だったのか。司祭に聞いたが、いつも聖堂にいるわけじゃなかったんだな。いつからこういうところに来ていた。もう客はとったのか。俺に抱かれるよりよかったのか」
「あぁあ、あ、あっ」
トン、トンと軽く判を押すようだった動きが、次第に早く、強くなり、ぴたっと止まった。ジェイルの手は、怒りに震えていた。
「よがってねぇで言い訳のひとつもしたらどうなんだ。あぁ!」
ルカは悲鳴も上げられなかった。ジェイルの手が性器を掴んでいた。彼は語気荒くいっぺんに尋ねてきた。「客にどんなことをしてやったんだ」「あのガキの世話もしたのか」「おまえは女神のためなら体も売るのか」口早にそう尋ねながらルカの性器を乱暴にしごきあげるのだから、答えさせる気があるとは思えなかった。単に怒り任せに責めたいだけであって、むしろ事実から目を逸らそうとしているようでさえある。
「……なんでおまえは、そうやっていつまでも俺のものにならない」
なすすべもなく射精するルカに、ジェイルはかすれた声で呟いた。ルカは答えたいのに、尋ねたいこともたくさんあるのに、ジェイルは鼻筋を摺り寄せてきて唇で唇をふさいでしまう。ルカは目を開けたまま受け入れて、そうするうちに涙が止まらなくなってしまい、慌ててジェイルの胸を両手で押した。
「わ、私のものにならないのは、あなたのほうでしょう!」
(違う、言い返してどうする)
意思のある人ひとりを己が所有物にしようなどと、おこがましい考えである。世のすべての事物は女神の被造物であって、ほかの誰も権利を有していない。だがルカの口は止まらなかった。
「私は、あなたを探しに来た結果、ここにいるのです」
「あ!? 下手な言い訳してんじゃねえ」
「誰が言い訳など」
「ふざけるのも大概にしろよ。俺が昨夜からおまえをどんだけ探し回ったかわかるか。この俺が自ら五度も聖堂に行ったんだぞ! 情報欲しさに手芸までやる羽目になった」
「……えっ」
「だいたい祭りの日まで探すなとはなんだ。俺があのガキを捕まえなかったら今頃どうなっていたと思う」
ジェイルはルクスから直接伝言を聞いたらしかった。
「トーチカトーチカともてはやされて、その気になったのか、ルカ様は」
「そんな……違う、私は、病の女性を癒すためにここへ留まっていたのです。子供たちが困っていたから」
「あぁお坊ちゃんらしい安い同情だなあ、おい!」
ジェイルの手は、ルカの施術着の襟にかかっていた。
「おまえは知らないらしいが、揉み屋で死ぬ女なんざごまんといるぜ。ここはそういうドブの上澄みだからな。今日飢え死にしそうな野良猫に餌をくれてやって、次の日はどうする。死ぬまで面倒見てやる気でいるのか。よそ者のおまえが!」
ルカは、わからなかった。ジェイルの真っ黒な瞳が、サンドラの部屋で見た暗闇に重なった。泣いてルカに縋る子供たちの口の中にも同じ色があった。ルカを拝んだレイラの手の中にも。ここで光が途絶えて塗り潰されて、だから理不尽なほど暗いのだ。
ルカはその暗闇を見つめて涙をこぼした。「あなたがいると思ったから」と言った。
「は……?」
「……あなたが歓楽街に出入りしていると聞いたのです。お酒を飲んで博打を打って、槍を振り回して……女性と淫欲に耽っていると」
ジェイルが途端に黙ったので、ルカは(やっぱり本当なんだ)と思った。心はずんと重くなったが、反対に頭は妙にすっきりとしていた。ルカは首を振り、努力して笑顔を作った。他のことはともかく、ジェイルに愛する女性ができたのはめでたいことだった。
「よかったです。女神様はきっとジェイル様をセイボリーまで導いてくださったのですよ。私では埋められなかった心とからだを、揉み師の方は満たしてくださいます」
諸手を挙げてお祝いして、ルカはびっくりした。ジェイルがルカの口にまた口を付けようとしている。
「だめ、いけません、私にはもう口づけてはいけません。あなたは私との旅などやめて、その方と結婚なさるべきだと思います。だって、もしかしたら女神さまがお子を授けてくださるかもしれません。私と違って」
そう言い切る前に、ジェイルはルカの唇を奪ってしまった。ルカは息継ぎの合間に「だめです。だめ」と訴えたのだが、ジェイルは聞かなかった。当たり前のように体重をかけて、ルカを寝台に押し倒してしまう。
それはとても長くて深い口づけだった。ジェイルの舌がルカの口の中を我が物顔で犯している。
「ん、んっ、んぅっ」
ルカは酸欠で、どうすることもできないんだと諦めて、目を閉じてしまいそうになった。誰のためにも、絶対に拒否しなければならないのに。口が離れても、ルカの伸びきった舌先は戻らなかった。苦しくて息をしているだけなのに、閉じない口から涎が垂れてしまう。
「ふぁ、あ」
まるで、もっと口づけてほしいひとみたいに。
ジェイルに誤解されてしまうと思うのに、心ごと唇が痺れて、閉じられない。案の定、ジェイルは目を細めて口づけてきてしまった。
「俺が女といると思って、こんなところまで怒鳴りこみに来たのか。臆病なおまえが」
「怒鳴りこむなんて、そんな……そんなつもりは」
「暗い道に入るなという言いつけを破ったうえ、宿に戻らなかった」
「……来た時は、明るかったのです」
「そんなにするほど俺が恋しかったのか」
「い、いい加減にしてください、私を嘲笑ってそんなに楽しいのですか!」
「嫉妬を覚えたのか、ルカ」
ゆっくりと聞かれて、ルカは赤くなった。ジェイルは、いたいけな仔猫を見つめるような目をしていた。
「……いい顔だな。もっと見せろ」
「いや、いやです……やめて」
顔を隠そうとする両手を、ジェイルは掴んでいた。
「あぁ、俺に惚れて惚れて、早く抱いて欲しくてたまんないって顔だ」
「ち、ちがう! ちがいます!」
「何が違う。綺麗ごとばかり抜かしやがって。自分のものだとばかり思っていた俺を、よその女にとられて悔しいんだろう。どうだ、殺意は芽生えたか。その女を引き裂いて俺もろとも焼き殺したくならなかったか」
「違います! そんな酷いことを思うわけが」
「酷いときたか。つまらん信仰を盾にして俺につれないおまえのほうが、よっぽど酷いと思うが」
ジェイルはルカの手に口づけていた。唇の動きが指に伝わってきて、ルカはどきりとする。
「俺はおまえとこうなってから女神像という女神像を叩き潰したくて仕方ない。目に入るだけで虫唾が走る」
呆然とするルカに、匂い付けする猫のように頬を擦り付けてくる。ジェイルの唇は、うっとりと笑っていた。
「それをするとおまえが泣くだろうから耐えているんだ。よくよく褒めるがいい、心底おまえにいかれている俺を」
「別棟に行ったな」
「えっ」
別棟にはサンドラや揉み師たちがいる。男たちも並んでいるはずだ。
ジェイルは「やめとけ」と首を振って、ルカを個室へ押し込んだ。
「トーチカが戻れば逆に厄介なことになる。ふん、この町の人間はしたたかなようだからな。どうせ祭りの準備をしていたとでも言ってごまかすだろう」
室内は独房のように狭かった。布のかかった寝台と小さな水瓶、荷物置き用の棚がぎゅうぎゅうに押し込まれている。サンドラが元いた部屋も、汚れる前はこんなふうだったのだろう。
「ああ、面倒なことになった」
寝台に腰かけたジェイルがうんざりと呟いた。下穿きを下ろしたまま脚を組む座り方が、いかにも場慣れしていて、ルカは赤くなる。こういう場所で揉み師と過ごしたのだろうと思った。
「連中は俺とおまえの動向をとっくに掴んでいるようだったな。アガタとか言ったか、あの女はたぶんしつこいぞ……追い回されたくなきゃ出頭して来いと暗に脅迫してんだ、あれは……」
ルカは、揉み師とくんずほぐれつするジェイルを思い描いて心ここにあらずだった。ジェイルに「おい、聞いてんのか」と言われて、びくっと肩をすくませる。
「え、あ……」
肌着から透ける自分の膝が目に入り、ルカは立ちすくむ。この服を当たり前のように着て働くレイラはすごいと思った。この恰好をしているとルカは頭がくらくらとして、ジェイルを見ているだけで、倒れそうになってしまう。
「あ」
ジェイルの手が伸びてきて、すぽんと頭巾を取った。銀色の髪から湯気がたちのぼる。ずっと隠していたものが、なんの前触れもなく露わになると無性に恥ずかしくなるものだ。両腕で胸と股を隠してうつむくルカを、ジェイルは笑った。
「聞いてないな。人前で尻を打たれて、興奮して」
「……っ」
「まさかこんな服まで着せられているとは」
ジェイルの手が、服越しにルカの腿を撫で上げた。ルカは思わず内股になる。何をしているのだろう。何をさせられているのだろう。ここが安全かどうかもわからないのに。
ジェイルの声は、夢の中に響くこだまのように絶対的だった。
「からだを見せろよ。ルカ」
従うルカは、どうかしている。
ルカの小さな性器と乳首は勃起して、薄い肌着に小さな小山を作っていた。レイラが譲ってくれた服なのに。下着を穿いていても、股の頂点に浮かぶ丸いシミはごまかせない。
「あぅっ」
円の中心に、ジェイルの人差し指が触れた。
「ここが濡れて、糸を引いている」
人差し指の腹が触れて、離れて、焦らすような刺激に体液が滲む。透明な糸はジェイルの指に縋るようにたわんだ。ジェイルの指の動きは優しくゆっくりで、しかし止まってはくれなかった。
「なるほど。ルカは修道士を辞めて、揉み屋で稼ぐことにしたのか」
「ひ、ち、ちが、アッ」
「そんなに金のことが心配だったのか。司祭に聞いたが、いつも聖堂にいるわけじゃなかったんだな。いつからこういうところに来ていた。もう客はとったのか。俺に抱かれるよりよかったのか」
「あぁあ、あ、あっ」
トン、トンと軽く判を押すようだった動きが、次第に早く、強くなり、ぴたっと止まった。ジェイルの手は、怒りに震えていた。
「よがってねぇで言い訳のひとつもしたらどうなんだ。あぁ!」
ルカは悲鳴も上げられなかった。ジェイルの手が性器を掴んでいた。彼は語気荒くいっぺんに尋ねてきた。「客にどんなことをしてやったんだ」「あのガキの世話もしたのか」「おまえは女神のためなら体も売るのか」口早にそう尋ねながらルカの性器を乱暴にしごきあげるのだから、答えさせる気があるとは思えなかった。単に怒り任せに責めたいだけであって、むしろ事実から目を逸らそうとしているようでさえある。
「……なんでおまえは、そうやっていつまでも俺のものにならない」
なすすべもなく射精するルカに、ジェイルはかすれた声で呟いた。ルカは答えたいのに、尋ねたいこともたくさんあるのに、ジェイルは鼻筋を摺り寄せてきて唇で唇をふさいでしまう。ルカは目を開けたまま受け入れて、そうするうちに涙が止まらなくなってしまい、慌ててジェイルの胸を両手で押した。
「わ、私のものにならないのは、あなたのほうでしょう!」
(違う、言い返してどうする)
意思のある人ひとりを己が所有物にしようなどと、おこがましい考えである。世のすべての事物は女神の被造物であって、ほかの誰も権利を有していない。だがルカの口は止まらなかった。
「私は、あなたを探しに来た結果、ここにいるのです」
「あ!? 下手な言い訳してんじゃねえ」
「誰が言い訳など」
「ふざけるのも大概にしろよ。俺が昨夜からおまえをどんだけ探し回ったかわかるか。この俺が自ら五度も聖堂に行ったんだぞ! 情報欲しさに手芸までやる羽目になった」
「……えっ」
「だいたい祭りの日まで探すなとはなんだ。俺があのガキを捕まえなかったら今頃どうなっていたと思う」
ジェイルはルクスから直接伝言を聞いたらしかった。
「トーチカトーチカともてはやされて、その気になったのか、ルカ様は」
「そんな……違う、私は、病の女性を癒すためにここへ留まっていたのです。子供たちが困っていたから」
「あぁお坊ちゃんらしい安い同情だなあ、おい!」
ジェイルの手は、ルカの施術着の襟にかかっていた。
「おまえは知らないらしいが、揉み屋で死ぬ女なんざごまんといるぜ。ここはそういうドブの上澄みだからな。今日飢え死にしそうな野良猫に餌をくれてやって、次の日はどうする。死ぬまで面倒見てやる気でいるのか。よそ者のおまえが!」
ルカは、わからなかった。ジェイルの真っ黒な瞳が、サンドラの部屋で見た暗闇に重なった。泣いてルカに縋る子供たちの口の中にも同じ色があった。ルカを拝んだレイラの手の中にも。ここで光が途絶えて塗り潰されて、だから理不尽なほど暗いのだ。
ルカはその暗闇を見つめて涙をこぼした。「あなたがいると思ったから」と言った。
「は……?」
「……あなたが歓楽街に出入りしていると聞いたのです。お酒を飲んで博打を打って、槍を振り回して……女性と淫欲に耽っていると」
ジェイルが途端に黙ったので、ルカは(やっぱり本当なんだ)と思った。心はずんと重くなったが、反対に頭は妙にすっきりとしていた。ルカは首を振り、努力して笑顔を作った。他のことはともかく、ジェイルに愛する女性ができたのはめでたいことだった。
「よかったです。女神様はきっとジェイル様をセイボリーまで導いてくださったのですよ。私では埋められなかった心とからだを、揉み師の方は満たしてくださいます」
諸手を挙げてお祝いして、ルカはびっくりした。ジェイルがルカの口にまた口を付けようとしている。
「だめ、いけません、私にはもう口づけてはいけません。あなたは私との旅などやめて、その方と結婚なさるべきだと思います。だって、もしかしたら女神さまがお子を授けてくださるかもしれません。私と違って」
そう言い切る前に、ジェイルはルカの唇を奪ってしまった。ルカは息継ぎの合間に「だめです。だめ」と訴えたのだが、ジェイルは聞かなかった。当たり前のように体重をかけて、ルカを寝台に押し倒してしまう。
それはとても長くて深い口づけだった。ジェイルの舌がルカの口の中を我が物顔で犯している。
「ん、んっ、んぅっ」
ルカは酸欠で、どうすることもできないんだと諦めて、目を閉じてしまいそうになった。誰のためにも、絶対に拒否しなければならないのに。口が離れても、ルカの伸びきった舌先は戻らなかった。苦しくて息をしているだけなのに、閉じない口から涎が垂れてしまう。
「ふぁ、あ」
まるで、もっと口づけてほしいひとみたいに。
ジェイルに誤解されてしまうと思うのに、心ごと唇が痺れて、閉じられない。案の定、ジェイルは目を細めて口づけてきてしまった。
「俺が女といると思って、こんなところまで怒鳴りこみに来たのか。臆病なおまえが」
「怒鳴りこむなんて、そんな……そんなつもりは」
「暗い道に入るなという言いつけを破ったうえ、宿に戻らなかった」
「……来た時は、明るかったのです」
「そんなにするほど俺が恋しかったのか」
「い、いい加減にしてください、私を嘲笑ってそんなに楽しいのですか!」
「嫉妬を覚えたのか、ルカ」
ゆっくりと聞かれて、ルカは赤くなった。ジェイルは、いたいけな仔猫を見つめるような目をしていた。
「……いい顔だな。もっと見せろ」
「いや、いやです……やめて」
顔を隠そうとする両手を、ジェイルは掴んでいた。
「あぁ、俺に惚れて惚れて、早く抱いて欲しくてたまんないって顔だ」
「ち、ちがう! ちがいます!」
「何が違う。綺麗ごとばかり抜かしやがって。自分のものだとばかり思っていた俺を、よその女にとられて悔しいんだろう。どうだ、殺意は芽生えたか。その女を引き裂いて俺もろとも焼き殺したくならなかったか」
「違います! そんな酷いことを思うわけが」
「酷いときたか。つまらん信仰を盾にして俺につれないおまえのほうが、よっぽど酷いと思うが」
ジェイルはルカの手に口づけていた。唇の動きが指に伝わってきて、ルカはどきりとする。
「俺はおまえとこうなってから女神像という女神像を叩き潰したくて仕方ない。目に入るだけで虫唾が走る」
呆然とするルカに、匂い付けする猫のように頬を擦り付けてくる。ジェイルの唇は、うっとりと笑っていた。
「それをするとおまえが泣くだろうから耐えているんだ。よくよく褒めるがいい、心底おまえにいかれている俺を」
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