忌み子と騎士のいるところ

春Q

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Ⅵ 決意

3.鏡★

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「ん……ん、んっ、はっ……」

「息が、下手だな……」

 泣きながら口づけを受けるのは難しい。

 ジェイルが呆れたようにつぶやき、ルカの濡れた目元を吸った。

「歯を食いしばってないで、舌をもっと出せ」

「ん、んぇ……」

「もっとだ」

 言われながらそうすると、本当に犬になってしまったようで恥ずかしい。

「ふぇあっ!?」

 おまけに、ジェイルが指先で二つの胸の飾りをピンピンといじめはじめた。素早く、何度も。

「ほら……おまえの体は気持ちよくなり方を覚えている」

 乳首をぎゅっとつまんで、引っ張られると、なぜか舌も出てしまう。自分の体じゃないみたいだった。舌先がとがり、口の中が甘くなる。ルカは自分が全身でジェイルを求めているのを感じた。舌も、胸も、陰部も、愛してほしいとはしたなくジェイルにねだっている。

「へぅ……んぇえう、ひうっ」

 舌に、ジェイルの舌が触れた。びくっびくっとルカの胸が跳ねる。ルカは彼の舌で舐められているのに、同時に自分の舌で舐めてもいて、脳が、混乱した。

 そのうち、ルカの舌はジェイルの口に入ってしまった。強く吸われた舌がしびれ、口腔の唾液が泉のようになる。

「ん……っ、んぅう……」

「こぼすな。よこせ」

 舌を解放された、そう思った次の瞬間、ルカの泉は襲われていた。ぬるついた唇を奪われ、口の中をかきまわされる。ゴクッゴクッ、とジェイルが喉を使う振動が、組み敷かれたルカの全身に響いた。

 自分が自分でなくなってしまうような恐怖に、ルカは耐えられなかった。

「……あぁ、あっ、だめぇ……っ」

 ばっと顔を背け、甘美な責め苦から抜け出そうとする。ジェイルの口は、ルカの喉へ下りた。

「何がだめなんだ? 言ってみろ」

 だめなものはだめだ。そう毅然と断るべきなのに、首筋を咬まれると子猫のように力が抜けてしまう。

「やらぁっ……こんな、気が、おかひく、な、あ、アッ」

「気はとっくにおかしいだろう。俺のようなしょうもない男に手籠めにされて……身も心もくれると言ったんだ、おまえは」

 歯形に唇を当て、きつく吸うと赤い痕がつく。だが、その内出血の痕は魔法のように数秒で消える。

 ジェイルは同じところをもう一度吸った。まだ消えない痕へ、愛おしむように舌を這わせる。

「俺のもとに来るかと尋ねても、おまえは嫌がらなかった。嬉しいと言った。城じゃ純白のベッドで寝起きしていたんだろうに、あんな片田舎の水車小屋で体を許す。おまえはとっくにどうかしている」

 淡々と紐解かれていく記憶に、ルカは心が震えた。

 ジェイルはかすれた声で言った。

「このまま、どこか遠くへ連れ去ってやろうか」

 その言葉は、足元から巻き上がる風のようだった。ルカはいとも容易く思い浮かべることができる。

 ここではないどこか遠く、雪深い森の中で、ルカがジェイルと共に暮らしている。二人とも生きるために働いていて、誰にも追い立てられず、害されず、責められない。そこは二人の家なので、ずっと一緒にいていいのだ。たまにジェイルがルカに小言を言うけれど、それでも彼は、最後にはいつも許してくれる。ルカも、そうする。

「だめ、です……」

 現実には、ルカは泣きながら首を振っている。そんなことをしたらジェイルが殺されてしまうからだ。

 ジェイルは深いため息をついた。

「ルカ、俺のことはもう嫌いになったか」

「やめてください……許して、もう」

「俺は愛してる」

 ルカは、震えた。

 愛と言葉とは裏腹に、ジェイルの瞳は、塗りつぶしたように真っ黒だった。

「馬鹿で頓馬な修道士だ。おまえは何も知らない。俺のことどころか、自分自身のことさえ理解していない」

「なに、を……」

 ジェイルは暗い目でルカを見つめていたが「教えてやるよ」と言って、やおら立ち上がった。

 部屋の隅に、布のかかった姿見が置かれている。あろうことかジェイルはそれをベッドの前まで引きずって来た。

 ルカはぞっとした。

「やめてください、それは、嫌だ、嫌です。やめて……!」

 ジェイルは何も言わず、布を取り去った。ルカは裸で逃げようとした。だが、捕まる。

 羽交い絞めにされたルカは、鏡に向かって全身を突き付けさせられた。

「嫌あっ! 放して!!」

「嫌だ。放さない」

 鏡の中には、化け物がいた。おぞましい緑の瞳をゆがめ、必死に身をよじっている。

 暴れるルカの後頭部が、ジェイルの唇を打った。ぱっと鏡に散った血の赤にルカは体を凍らせた。

「ふん」

 ジェイルは鼻を鳴らして、血の玉が浮かぶ唇をルカの唇に押し付けてきた。血の気のない顔をしたルカは必死に謝るしかない。

「すみません、すみません、お願いですから、もう、」

「……いいから、見ろ。こういう化粧は、おまえの方が似合う」

 グイッと鏡に顔を向けさせられて、見ると、ジェイルの血でまばらに赤く染まった唇は、紅を塗ったかのようだった。あまりにもみっともなくて、泣きたくなる。

 ジェイルはなおも飽き足らず、ルカを辱めた。右手で胸を、左手を股に這わせる。

「おら、股をもっと開くんだよ。勃起したものを鏡に映せ」

「あ……あっ、あぁっ」

「俺にいじられて、おまえの体はどうなってる。言わねえなら、朝までこのままだぞ」

「ひっ……あ、う、ジェイル様の、て、手が、胸、に……来て、て……っ」

 触られているのは右胸なのに、放置された左の乳首がやけに痛痒く、その証左のように赤く、硬くなっている。

「胸の先を、手の平が、ゆっくり磨り潰すみたいに……ッア、や、やら、やっ、やんっ、下は、だめっだめです、一緒に動かさないでぇ……!」

 親指と人差し指で作った輪が、スーッと男性器の根本から亀頭の先まで抜けて行った。
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