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Ⅰ 呪われた忌み子
6.『守ってやる』と言ったんだ
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ジェイルの突然の言葉に、ルカよりも周囲の騎士たちが騒いだ。
「おい、正気か! ジェイル」
「おまえ、ゲテモノ趣味だったのか……」
ゲテモノ呼ばわりされたルカが肩を縮めると、ジェイルは髪を逆立てて怒った。
「おい。あんまり俺をイライラさせるな」
「え? す、すみません」
「嫌なら嫌と、はっきり言え!」
「えっ。えっ、あの、ジェイル様……」
「周りをキョロキョロ見るな! 俺はおまえに聞いているんだ、ルカ」
「脅すな」
追って来たテイスティスは、ジェイルのつむじを鉄拳で打った。
「ジェイル。独断専行も大概にしろ」
怪力に打たれたジェイルは、倒れず踏みとどまった。目をぎらぎらさせて言った。
「テイスティス。俺は生まれが卑しいなりに騎士らしくあろうとしてきたつもりだ」
そう言うジェイルをルカは見上げていた。ルカの目に映る彼は、テイスティスを恐れていなかった。騎士たちの視線もルカにどう思われるかも気にならないようだった。
「生き方を教えてくれたあんたには感謝している。だからこそ納得できない話に乗りたくない。花だか虫だか知らんが、俺はこいつに『守ってやる』と言ったんだ」
「今からでも撤回させてもらったらどうだ」
「テイスティス!」
「やれやれ……」
テイスティスは髭をため息にそよがせた。ルカに向かって首をかしげる。
「ルカ。どう思う」
「あの……いったい何が……」
テイスティスは言葉を選んで言った。
「人より弱く見える君を、こいつは自分のテントに連れ込んででも守りたいらしい。おとぎ話の騎士を気取っているんだろう」
小さな子供のように見上げるルカに、テイスティスは優しく説明した。
「無論、修道院で嫋やかな修道士たちと生活してきた君からすれば、こんな粗野で口うるさくて、気の短い男と同じところで休むなど嫌に決まっているのだが、どうだろう。君から返事してやってくれないか?」
「……わ、私が、決めるのですか?」
問い返されたテイスティスは笑った。横で剣呑な殺気を放つジェイルを指さす。
「このおっかない顔を見てくれ。こいつは、ルカが決めないと納得しない」
ルカは戸惑った。こんなふうに選択を求められることがあるとは思ってもみなかった。修道院を移る時も、戦地に送られる時も、いつもアドルファス王の印が押された書簡が急に送られてくるだけで、異議を申し立てることなどできなかった。
自分の意思などなくて当然だと思っていたルカは、考え込んでしまう。テントを修理して一人で休むほうが気楽なのは確かだった。ルカは人のテントで休んだことがない。ジェイルと一緒となると大きさが間に合うのかが心配で、というより、彼のことはまだ何も知らないのだ。
断っていいのなら断るべきだった。だが。
「……わかりました。ジェイル様のところに行きます。どうか、よろしくお願いします」
求めに従ったのは助けてくれたジェイルに恩があったからだ。テイスティスと言い合ったのも、自分のせいだとわかっていた。
それに、ルカはこうしている今もジェイルに不思議なものを感じていた。離れがたい気持ちは、確かにあった。ルカの選択は、騎士たちに興がられた。
「ふうん。この修道士ちゃんは、度胸があるんだ」
「ジェイル坊やも明日には女神アルカディアの愛に目覚めるかもしれんな」
「いやいや、もしかすると……修道士ちゃんへの愛に目覚めるかも!」
どっと笑いが沸く。それは冗談だった。忌み子のルカが、恋愛対象になるわけがない。テイスティスは顎鬚を撫でながら言った。
「……そうか。まあ、双方納得ずくなら俺も野暮は言わん。仲良くしろよ、お二人さん」
「俺とこいつじゃケンカにならん」
そう言うジェイルの腕の太さを見て、ルカは自分の判断を後悔しかけた。テイスティスはルカに身を屈めて言った。
「ともあれ、よく休むことだ。ルカ、明日もたくさん歩いてもらうぞ」
頭まで撫でられて、ルカはびっくりした。
「国境線防衛も四度目だが、今回は妙にキナ臭い。帝国側も新しい豆鉄砲を開発したとかいうし、さっさと行って蹴散らしてやらないと、聖都での俺の評判が下がってしまう」
「王に煙たがられているあんたが今さら評判を気にするのか?」
ジェイルの混ぜっ返しに、周囲の騎士たちは椀を掲げて乾杯した。
「嫌われ者の団長閣下に乾杯!」
「我らがテイスティスに乾杯!」
「王国最強の騎士団に栄光あれ!」
「おい、正気か! ジェイル」
「おまえ、ゲテモノ趣味だったのか……」
ゲテモノ呼ばわりされたルカが肩を縮めると、ジェイルは髪を逆立てて怒った。
「おい。あんまり俺をイライラさせるな」
「え? す、すみません」
「嫌なら嫌と、はっきり言え!」
「えっ。えっ、あの、ジェイル様……」
「周りをキョロキョロ見るな! 俺はおまえに聞いているんだ、ルカ」
「脅すな」
追って来たテイスティスは、ジェイルのつむじを鉄拳で打った。
「ジェイル。独断専行も大概にしろ」
怪力に打たれたジェイルは、倒れず踏みとどまった。目をぎらぎらさせて言った。
「テイスティス。俺は生まれが卑しいなりに騎士らしくあろうとしてきたつもりだ」
そう言うジェイルをルカは見上げていた。ルカの目に映る彼は、テイスティスを恐れていなかった。騎士たちの視線もルカにどう思われるかも気にならないようだった。
「生き方を教えてくれたあんたには感謝している。だからこそ納得できない話に乗りたくない。花だか虫だか知らんが、俺はこいつに『守ってやる』と言ったんだ」
「今からでも撤回させてもらったらどうだ」
「テイスティス!」
「やれやれ……」
テイスティスは髭をため息にそよがせた。ルカに向かって首をかしげる。
「ルカ。どう思う」
「あの……いったい何が……」
テイスティスは言葉を選んで言った。
「人より弱く見える君を、こいつは自分のテントに連れ込んででも守りたいらしい。おとぎ話の騎士を気取っているんだろう」
小さな子供のように見上げるルカに、テイスティスは優しく説明した。
「無論、修道院で嫋やかな修道士たちと生活してきた君からすれば、こんな粗野で口うるさくて、気の短い男と同じところで休むなど嫌に決まっているのだが、どうだろう。君から返事してやってくれないか?」
「……わ、私が、決めるのですか?」
問い返されたテイスティスは笑った。横で剣呑な殺気を放つジェイルを指さす。
「このおっかない顔を見てくれ。こいつは、ルカが決めないと納得しない」
ルカは戸惑った。こんなふうに選択を求められることがあるとは思ってもみなかった。修道院を移る時も、戦地に送られる時も、いつもアドルファス王の印が押された書簡が急に送られてくるだけで、異議を申し立てることなどできなかった。
自分の意思などなくて当然だと思っていたルカは、考え込んでしまう。テントを修理して一人で休むほうが気楽なのは確かだった。ルカは人のテントで休んだことがない。ジェイルと一緒となると大きさが間に合うのかが心配で、というより、彼のことはまだ何も知らないのだ。
断っていいのなら断るべきだった。だが。
「……わかりました。ジェイル様のところに行きます。どうか、よろしくお願いします」
求めに従ったのは助けてくれたジェイルに恩があったからだ。テイスティスと言い合ったのも、自分のせいだとわかっていた。
それに、ルカはこうしている今もジェイルに不思議なものを感じていた。離れがたい気持ちは、確かにあった。ルカの選択は、騎士たちに興がられた。
「ふうん。この修道士ちゃんは、度胸があるんだ」
「ジェイル坊やも明日には女神アルカディアの愛に目覚めるかもしれんな」
「いやいや、もしかすると……修道士ちゃんへの愛に目覚めるかも!」
どっと笑いが沸く。それは冗談だった。忌み子のルカが、恋愛対象になるわけがない。テイスティスは顎鬚を撫でながら言った。
「……そうか。まあ、双方納得ずくなら俺も野暮は言わん。仲良くしろよ、お二人さん」
「俺とこいつじゃケンカにならん」
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「ともあれ、よく休むことだ。ルカ、明日もたくさん歩いてもらうぞ」
頭まで撫でられて、ルカはびっくりした。
「国境線防衛も四度目だが、今回は妙にキナ臭い。帝国側も新しい豆鉄砲を開発したとかいうし、さっさと行って蹴散らしてやらないと、聖都での俺の評判が下がってしまう」
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