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ラブラブハッピー番外編
ロナウジーニョ氏と社長の話02
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ジーニョはノートと業務用PCを使って、これまでの出来事を書き起こした。文字に書き起こしてみると、ますます小説じみた内容だ。
深夜を回っているというのに、職場にはまだ二、三人がPCにかじりついている。残業代目当てか、あるいは業務が立て込んでいるのか。確認すればいい。各々がなんの作業にあたっているかはグループウェアを見れば一目瞭然である。ログインに必要な社員IDもパスワードも指が覚えている。
(目の前の状況に流されてはいかん)
ジーニョは頭を振って思い直した。この世界は幻覚、仕事というのも過去の記憶から再構築されたカタチだけのものだ。だが、疑わしかった。静まり返った部屋に響くタイピング音、冷却ファンの回る音、誰かの咳払いに至るまで、嫌気がさすほどいつも通りだ。
ジーニョの心に疑いの心が兆した。おかしいのは世界ではなく自分のほうなのか。あらかじめ定められたスケジュールに逆らい、荒唐無稽な駄文を書き連ねている自分は、働きすぎてとうとう頭がおかしくなったのか。
その恐れは退勤時に払拭された。それも想像できるなかでもっとも最悪な方法で。
ハンガーラックからジャケットを取り、羽織る。その時、ポケットにかすかな重みを感じた。PHSだ。コードレス式携帯電話。ノァズァークではセルフォンと呼ばれていた。液晶に二件のメッセージを確認し、ジーニョは息を詰めた。
滅びゆく星とともに自分が置き去りにしてしまった、弟と妹からだった。弟は残業の多い兄に終電のリマインドを、妹は両親の結婚記念日に何を贈るかの相談を、それぞれよこしている。
心臓が氷のように冷たくなった。自分は正しかった。間違っているのは世界のほうだと、はっきりとわかった。
「こんなことが許されてはいけない」
ジーニョは呟いた。社員には責任がある。家族を捨てて船に乗った自分が、今さらその愛を享受するなどおこがましい。この世界は絶対に間違っている。つんざくような胸の痛みが、その証明だった。
足に力を込めて、ジーニョはオフィスを出た。どこへ向かえばいい? どうすればこの残酷な幻から抜け出せる? 遠くへ行けばいいのだろうか。眠れば夢のように目覚めるのだろうか。
「ロナウジーニョさん?」
ジーニョはぎくりと立ち止まった。そこは遠い昔、鳩に履歴書を食わせた公園だった。社長が不思議そうに小首をかしげて立っていた。
深夜を回っているというのに、職場にはまだ二、三人がPCにかじりついている。残業代目当てか、あるいは業務が立て込んでいるのか。確認すればいい。各々がなんの作業にあたっているかはグループウェアを見れば一目瞭然である。ログインに必要な社員IDもパスワードも指が覚えている。
(目の前の状況に流されてはいかん)
ジーニョは頭を振って思い直した。この世界は幻覚、仕事というのも過去の記憶から再構築されたカタチだけのものだ。だが、疑わしかった。静まり返った部屋に響くタイピング音、冷却ファンの回る音、誰かの咳払いに至るまで、嫌気がさすほどいつも通りだ。
ジーニョの心に疑いの心が兆した。おかしいのは世界ではなく自分のほうなのか。あらかじめ定められたスケジュールに逆らい、荒唐無稽な駄文を書き連ねている自分は、働きすぎてとうとう頭がおかしくなったのか。
その恐れは退勤時に払拭された。それも想像できるなかでもっとも最悪な方法で。
ハンガーラックからジャケットを取り、羽織る。その時、ポケットにかすかな重みを感じた。PHSだ。コードレス式携帯電話。ノァズァークではセルフォンと呼ばれていた。液晶に二件のメッセージを確認し、ジーニョは息を詰めた。
滅びゆく星とともに自分が置き去りにしてしまった、弟と妹からだった。弟は残業の多い兄に終電のリマインドを、妹は両親の結婚記念日に何を贈るかの相談を、それぞれよこしている。
心臓が氷のように冷たくなった。自分は正しかった。間違っているのは世界のほうだと、はっきりとわかった。
「こんなことが許されてはいけない」
ジーニョは呟いた。社員には責任がある。家族を捨てて船に乗った自分が、今さらその愛を享受するなどおこがましい。この世界は絶対に間違っている。つんざくような胸の痛みが、その証明だった。
足に力を込めて、ジーニョはオフィスを出た。どこへ向かえばいい? どうすればこの残酷な幻から抜け出せる? 遠くへ行けばいいのだろうか。眠れば夢のように目覚めるのだろうか。
「ロナウジーニョさん?」
ジーニョはぎくりと立ち止まった。そこは遠い昔、鳩に履歴書を食わせた公園だった。社長が不思議そうに小首をかしげて立っていた。
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