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ラブラブハッピー番外編
かわいそうなオズヌと素敵なお婿さんのお話⑤★
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「おぉ、おっ、おおん」
オズヌはなおも刺激を求め、スカッスカッと無意味に腰を振った。なまじ男根を使う悦びを知っているためにクリトリスへの執着がすさまじく、諦めきれない。たるんだ巨体を揺すって泣く妻に、トロイメライは訳知り顔で言った。
「やさしく触らないと、オズヌさんはびっくりして気を失ってしまいますね。ボクはよく知ってます」
「い、いったい何年前の話を……ッ」
そういうことは確かにあった。トロイメライの愛はけだもののように激しかった。特に結婚したての頃は昼も夜もなく求められ、オズヌは強すぎる悦びのあまり気絶することもたびたびだった。だが、今は違う。体中をすでに開発しつくされているのに生殺しにされてしまうなんて耐えがたい。
「いいから……っ、あぁっ、はぁんっ」
長い指がヌッと股に埋まる。オズヌは縮み上がった。快楽の予感に、夢と現実の境界があいまいになってしまう。
「んは……っ、はぁ……っ」
正常な感覚を取り戻そうと、尻尾が左右にぶんぶんと振れた。その荒ぶる穂先を、トロイメライはなんと口で捕まえてしまう。
「あぁーっ」
船の舵を奪われたも同然だ。尻尾を口の中に閉じ込められて、オズヌはもがいた。唾液で濡れそぼった穂先を、トロイメライはヂュッと吸った。とどめのように細い茎の部分を歯でコリコリと弄ばれ、オズヌは声にならない声を漏らして沈んだ。
トロイメライは嬉しそうだった。
「からだはちゃんとボクのこと憶えてるみたい。よかったです」
「あぁ、あ、あっ、そこはダメッ、ダメだからぁっ」
ダメだと言っているのに、トロイメライはオズヌの尻尾の付け根を舐めあげた。
「あがあぁっ」
一瞬浮いた手が、濡れ具合を確かめるようにぱんと股に打ち付けられる。痛みはない。しかし腰に響く刺激だった。ねっとりとした愛液が陰毛にすがりつきながら地べたにパタパタと散る。
「うん、うん。オズヌさんは賢いです。ちゃんとおちんちんを挿れやすいように、お股をぬるぬるのビショビショにしてくれる」
「そっ、そんにゃっ考えてるわけじゃっ」
「考えないでこんなにできるの? 天才なの?」
「やらっ、やだあんっ、ちがうっ」
オズヌは羞恥のあまり身をくねらせた。動きやすさやなんかを考えて濡らしているわけではない。天才なのでもない。ただ、トロイメライに愛されてきたことを肌が覚えているからだ。ちょんと触っただけで溶けるくらいに。
「だって……わたしは、婿殿がスキだからぁ……」
苔の海にひっくりかえったオズヌに、トロイメライは「ふふーん」と嬉しそうに応えた。そうだった。自分が「わたし」かどうかはわからずとも、トロイメライはトロイメライのままだった。オズヌは頭がくらくらした。彼と愛し合った過去は、こうして肌に焼き付いている。おぼえているどころか。彼との愛の営みは、四人の子供の血肉とさえなったのである。
「んぁ……はぁん……んふん……」
オズヌは今、酔ったようにトロイメライに全身を晒していた。日差しよりも強い視線を浴びて、からだが奥のほうからムズムズしてくる。
(どうしよう……はずかしい……はずかしいのに、わたし、こんなに……)
抱かれたくて抱かれたくて仕方なかった。オズヌは自分のだらしない乳房を、トロイメライに見せつけるために吸った。彼が見やすいように股を開き、自分の指でクリトリスをこねくりまわす。
「婿殿……むこどのぉ」
「はい、オズヌさん……」
「あぁん……スキ……スキだよう……お股が切ないよう……婿殿のおちんちんが欲しいよう……」
ちゅっ、ちゅっ、と乳首を吸いたてながら、トロイメライに流し目を使う。彼が喉を鳴らす音を聞くと、くねくねと腰が動いてしまう。荒く息をつく顔が近づいてくる。トロイメライは妻の媚態を前に、男根をごしごしと激しくしごいていた。
「ボクのおちんちん欲しいの、オズヌさん」
「あん、ほしい、ほちい……」
「あげるっ、ボク、あなたの欲しいものはなんでもあげる!」
「あぁーん」
甘ったるい声が洞窟に反響する。オズヌは自分からトロイメライにキスした。トロイメライの硬いものをオズヌの柔らかいものが包み込む。互いの輪郭を越えたとも思わなかった。ただただ溶けて混ざり合い、ひとつになるのだ。
トロイメライはオズヌの柔らかいからだを全身で味わった。肩にかつぎあげた腿、はずむ乳房、首に回った腕に至るまでとろけるように柔らかく、トロイメライを飲み込んでしまう。
「オズヌさん、オズヌさん、あなたはスゴい女のひとだ。ボクっ、おかしくっ、なっちゃう……!」
腰を打ち付けるたびに深部が開き、言葉が意味を為さなくなる。オズヌはトロイメライの唇を夢中で貪った。全身が鍵と鍵穴のように噛み合って快楽の扉がひとつまたひとつと開かれてゆく。
(ああ、イく、)
天高く上り詰め、極まる瞬間はハッキリとわかった。目は汗でかすみ、耳も激しい動悸のために使い物にならない。オズヌは婿にすがりついた。喜びのあまり、角が燃え上がったと思う。トロイメライは肉のくさびとなってオズヌを大地に打ち付けた。
「オッ……おぉっ、おおんっ」
射精される間じゅうオズヌの口は開きっぱなしだった。声と共にたらたらと流れる唾液を、トロイメライは舐めとった。痺れた女性器をあやすように腰を浅く動かしていたかと思うと、急にズンと深く突き入れ、また射精する。
「んはぁんっ」
乳首をくすぐられ、オズヌはもだえた。自分が女なのか男なのかもわからなくなっていた意識が急激に覚醒し(また孕んでしまう)と思った。多幸感と同時に恐ろしさと切なさがこみあげ、オズヌはぽろぽろと涙をこぼした。
「れっ、れひちゃうっ、また赤ちゃんれひぢゃうよぉっだめっだめなのっ」
「ううん、ダメじゃないです、オズヌさん、孕んで。ボクの子どもを産んで。もっと産んでいいです」
クメミ山の神殿は失われ、天女像も消えた。物理的に不可能とわかっていても、オズヌは妊娠を恐れた。無責任に要求するトロイメライも同じくどうかしている。彼だって、どこにもつながっていない地下空間での出産がどんなに大変だったか知っているのに。
そんな理性的な思考も、胸をマッサージされるとはじけとんだ。ひい、ひい、と歯の間から情けない呼吸が漏れ、どうにか肺に息を入れると、低く感じ入った声が出てしまう。
「おぉ……おぉん……」
「おちんちんを抜きますね。お股をぎゅって締めてください。ボクらの赤ちゃんがこぼれないように」
下腹部を撫でられると、からだが勝手に従ってしまう。オズヌは男根と一緒に腰骨まで抜かれた気がした。力が入らないなりに腿を合わせ、精液が漏れないようにする。
「ん……んん……」
「そう。いい子ですね、オズヌさん。おしっこかけてあげます」
トロイメライは性行為のあと、オズヌに念入りに尿をかける。妊娠中の病を避けるためだ。地上に出た今、悪い苔の脅威があるかは疑問だったが、オズヌはあえて口に出さなかった。意味があるかどうかの問題ではなく、以前と同じ習慣に従いたかった。
「口を開けて」
「ん、んぁ、」
顔をまたいで差し出された男根を、オズヌは寝たまま口に咥えた。唇に陰毛が、喉に亀頭が触れるほどに深くしゃぶる。射精後の男根は美味しいものではなかったが、二人の体液が混ざり合ったあとかと思うとひどく愛おしい。息を整えるだけの間のあと、トロイメライはしょろしょろと放尿した。
(飲み込んじゃいけない)
オズヌは口に手を添え、器となったかのように夫の小便を受け入れた。口からあふれるに任せると顎から胸、股に向かって川が流れる。からだの大きいオズヌが、全身に尿を浴びるために必要なことだった。
やがてトロイメライの腰がぶるっと震えると、オズヌは彼の男根を舌で清めた。「勃起してしまうよ」と、額を軽く押されても離さない。「いいの?」と尋ねる夫の声は、少しだけ恥ずかしそうだった。
からだを清め終わる頃には、もう夜明けが近かった。洞窟の入り口に被さったツタの隙間から澄んだ藍色の光が見える。苔から立ちあがったオズヌに、トロイメライは「ここで休んでいていいですよ」と言った。
「ボクが子供たちとお父さん、お母さんを、こっそりここまで連れて来ますから」
「……え?」
「うん、それにゴズメルさんとリリィさんも。あの二人にはお世話になったし、もうすぐいなくなるし……」
トロイメライはキャンプ地を移すつもりらしい。それはいいとして、こっそりというのがわからなかった。
「他のみんなにも言わないとダメだよ」
「えっ? どうして」
「どうしてって。この日差しで疲れているひとはたくさんいるから。奥も広いようだし、みんなで使わないといけないよ」
「ボク、家族のために自分でこの洞窟を見つけました。ほかのひとたちは自分で洞窟を見つければいい」
トロイメライは悪びれなかった。彼の瞳に宿る光に、オズヌはぞくっとする。
「ダメだよ、こんなにいいところを独り占めするなんて!」
「?? どうして怒っているの、オズヌさん」
大声を上げたのは、怖かったからだ。自分の知っているトロイメライではないような気がした。だが、オズヌが彼の何を知っているというのだろう。トロイメライは困ったように首をかしげていたが、やがて「ああ!」と、ポンと手を打った。
「じゃあ、里のひとたちにはボクらの洞窟を貸してあげることにしましょう」
「か、貸す……?」
様子は変わっても、ここはクメミ山エリアだ。トロイメライは洞窟を発見したかもしれないが、この場所は彼の持ち物でもなんでもない。しかしトロイメライは嬉しそうに両腕を広げた。
「うん、ボクをミノタウロス族の長だと認めてくれたひとに、洞窟を貸してあげます。そしたら、みんながボクらの言うことを聞くよ。これでもう、誰からも侮られないでしょう」
「トロイメライ・ヴァイスゲルバーガッセ!」
オズヌは彼の正しい名前を呼んだ。きょとんとしている夫に食ってかかる。
「それはミノタウロス族のやることじゃない! 戦いもせず、ひとの心を物で釣ろうとするなんて、わたしたちがいちばん軽蔑することです!」
いつからだろう。トロイメライはグレンに挑戦することをやめてしまった。最下層にいるような人間は負けて当たり前、勝てば恨まれる。オズヌの父はよく『誰かが最下層にいなければならない』と言った。
同種の中で横一列に並べれば、力の弱い者はいくらでもいる。だが、一人でも自分より弱い者がいれば、彼は強者の面目を保てる。侮られることを甘んじて受け入れるたった一人が存在しているから、クメミ山は長を頂点に平和を保っていられるのだ。最下層の重要性は、長にさえ比肩する。
そんなのは弱者の負け惜しみだとオズヌは思う。誰だって勝ちたい。弱いのは嫌だ。ならば一勝する努力をすべきだ。
それでも這い上がれないのが、最下層だった。
トロイメライに敵は多く、ともに戦える仲間は一人もいなかった。やがて彼はグレンと戦う長い長い順番待ちの列に並ぶことをやめた。最下層でオズヌ一家がそうしてきたのと同じように芋を掘り、手仕事をする。たまに愛想笑いもする。勝負とは無縁だった。ゴズメルが帰還し、怒り狂ったミギワが襲撃してくるまでは。
「……でもボク、こういうやりかたじゃないと、もう王様になれないと思う」
トロイメライは困り果てたように笑った。
「全然ダメだから……。オズヌさんを女王様にしてあげたいのに」
彼の情けない声に、オズヌは胸を貫かれた。
「ちがいます! ダメじゃない! わたし、わたしは、もうとっくに」
言葉がうまく出てこない。地団太を踏み、トロイメライの胸倉を掴む。だが、どうして自分の国の王様を殴ったりできるだろう。オズヌはトロイメライに頭突くようなキスをした。受け止めたトロイメライは、驚いたように目を見開いている。オズヌはゆっくりと唇を離し、囁いた。
「……王様になるというひとが、卑怯な真似をしてはだめだよ。トロイメライ。誰もついてきてくれなくなる」
「…………ボクが王様になれると思うの」
「なれるよ。わたしにとっては、はじめから今までずっと王様だよ」
トロイメライはぱちぱちと瞬いて、「ウン」とうなずいた。
「わかりました。ボクは王様になる。みんなに優しくします」
「本当? 本当にわかった?」
「うん……オズヌさん、あのね、ボク、今とてもキスしたい気持ち」
女王は王様にみなまで言わせなかった。背中に腕を回し、唇を交わす。まばゆい朝日を頬に受けた二人の口づけは、神聖な契約のようだった。
◇◇◇
ゴズメルとリリィが、ジーニョ老人とともに旅立ったのは、その数日後のことである。苦楽を共にした三人との別れをミノタウロス族たちは総出で惜しんだ。
「やめろやめろ、湿っぽくなる」
オジサマ、オジサマ、と言って寄ってくるミノタウロス族を、ジーニョ老人は杖で追い払った。
「俺は自分の仕事をするだけだっ。ポップルへ行って、残りのミノタウロス族が戻って来られるようにしてやる。おまえたちはバカな気を起こさず、せいぜい洞窟に引きこもっていればいい」
リリィの人気も大変なものだった。地下空間で自分たちを導いてくれた小さな妖精を、ミノタウロス族は愛してやまなかった。カリカリするゴズメルをよそに、リリィはにこやかに挨拶している。
「あーあ、二人とも人気者で嫌になっちまう。やっぱり、あたしにはオズヌだけだっ」
がばっとハグされて、オズヌは苦笑いした。ミギワやダマキから「何かあったら連絡しなさい」「リリィさんにもっと気を遣って」などとクドクド言われていたのは、人気のうちに入らないらしい。
「……でも、ゴズメルがいなくなったら、わたしは本当に寂しくなってしまう」
「うん?」
「だってやっとまた会えたのに、次はいつ会えるかわからないよ……」
「うーん……」
今生の別れのように思うのだった。ゴズメルはオズヌを見て、彼女の家族をぐるっと見回した。
「あんたたちがこっちへ遊びに来ればいいじゃないか。あたしにばっかり歩かせないでさ」
「はぁ? そんな無茶な……」
「何が無茶だい。ああ、年寄りと子供がいるから? じゃ、中間の場所で集合しようよ」
本気で言っているらしい。地面に棒で連絡先を書き始めるので、オズヌは慌てて「そんな勝手なことできないよ」と止めた。里の出入りには長の許可が必要なのだ。
そこまで考えて、ようやく気がついた。クメミ山は以前とは違う。次の長もまだ決まっていない。オズヌは、明るい陽射しと吹き抜ける風とを全身に浴びて、地上に立っていた。
もう旅立つばかりだ。あと腐れがないと思っているのか、ゴズメルの口からは故郷の悪口がぽんぽん出てくる。
「だいたいこんな吹きっさらしのクソ田舎で集まったってつまんないじゃないか……今すぐとはいかないけどさ。そうだな、人数もいることだし、ちゃんと計画を立ててバーベキュー大会でもやろう」
楽しい想像を膨らませる彼女の顔は実に晴れ晴れとしていた。
「よし、あたしが美味しいものを山と用意してやる。まぶしくないように遮光のデッカいテントも買っておくよ。これで原始人みたいな暮らしとはおさらばだ。ああ、文明ってすばらしい!」
「…………!」
「いいですネ。とても楽しそう」
「む、婿殿までそんな……」
「いいんだよ、オズヌ!」
ゴズメルは両腕を広げ、オズヌとトロイメライにダブルラリアットをかました。
「好きなところに行って、好きなものを食べなきゃダメだっ。あんたに文句つけてくるようなやつは、あたしがブン殴ってやるからなっ」
いかにもミノタウロスらしい好戦的なせりふに、少しの照れが混ざっていることにオズヌは気がついていた。胸がいっぱいになる。
(ゴズメルは、わたしのことを本当に憶えていてくれたんだ)
子供の頃、同じくらい弱かった幼馴染を野蛮な里に置き去りにしてしまった。それはむろん仕方のないことだったのだけれど、彼女なりにその負い目をなくそうとしているのだと思った。
元気いっぱいに手を振るゴズメルの影が小さく遠ざかり、オズヌはほうっとため息をついた。鼻腔に香る森の空気はすがすがしく、呼吸するだけで頬がゆるんでしまう。
「オズヌさん」
どれくらいの間、そうして立っていたのだろう。呼ばれて、オズヌは振り向いた。トロイメライは次男を肩車していて、長男と三男はなにやらケンカをしており、生まれたての長女は母に抱かれ、父にあやされている。
オズヌの王国のすべてが、今、光の中にあった。オズヌは子供二人のケンカを止めるべく、腕まくりした。一家の頭上で、雲は美しい城のかたちをしている。
オズヌはなおも刺激を求め、スカッスカッと無意味に腰を振った。なまじ男根を使う悦びを知っているためにクリトリスへの執着がすさまじく、諦めきれない。たるんだ巨体を揺すって泣く妻に、トロイメライは訳知り顔で言った。
「やさしく触らないと、オズヌさんはびっくりして気を失ってしまいますね。ボクはよく知ってます」
「い、いったい何年前の話を……ッ」
そういうことは確かにあった。トロイメライの愛はけだもののように激しかった。特に結婚したての頃は昼も夜もなく求められ、オズヌは強すぎる悦びのあまり気絶することもたびたびだった。だが、今は違う。体中をすでに開発しつくされているのに生殺しにされてしまうなんて耐えがたい。
「いいから……っ、あぁっ、はぁんっ」
長い指がヌッと股に埋まる。オズヌは縮み上がった。快楽の予感に、夢と現実の境界があいまいになってしまう。
「んは……っ、はぁ……っ」
正常な感覚を取り戻そうと、尻尾が左右にぶんぶんと振れた。その荒ぶる穂先を、トロイメライはなんと口で捕まえてしまう。
「あぁーっ」
船の舵を奪われたも同然だ。尻尾を口の中に閉じ込められて、オズヌはもがいた。唾液で濡れそぼった穂先を、トロイメライはヂュッと吸った。とどめのように細い茎の部分を歯でコリコリと弄ばれ、オズヌは声にならない声を漏らして沈んだ。
トロイメライは嬉しそうだった。
「からだはちゃんとボクのこと憶えてるみたい。よかったです」
「あぁ、あ、あっ、そこはダメッ、ダメだからぁっ」
ダメだと言っているのに、トロイメライはオズヌの尻尾の付け根を舐めあげた。
「あがあぁっ」
一瞬浮いた手が、濡れ具合を確かめるようにぱんと股に打ち付けられる。痛みはない。しかし腰に響く刺激だった。ねっとりとした愛液が陰毛にすがりつきながら地べたにパタパタと散る。
「うん、うん。オズヌさんは賢いです。ちゃんとおちんちんを挿れやすいように、お股をぬるぬるのビショビショにしてくれる」
「そっ、そんにゃっ考えてるわけじゃっ」
「考えないでこんなにできるの? 天才なの?」
「やらっ、やだあんっ、ちがうっ」
オズヌは羞恥のあまり身をくねらせた。動きやすさやなんかを考えて濡らしているわけではない。天才なのでもない。ただ、トロイメライに愛されてきたことを肌が覚えているからだ。ちょんと触っただけで溶けるくらいに。
「だって……わたしは、婿殿がスキだからぁ……」
苔の海にひっくりかえったオズヌに、トロイメライは「ふふーん」と嬉しそうに応えた。そうだった。自分が「わたし」かどうかはわからずとも、トロイメライはトロイメライのままだった。オズヌは頭がくらくらした。彼と愛し合った過去は、こうして肌に焼き付いている。おぼえているどころか。彼との愛の営みは、四人の子供の血肉とさえなったのである。
「んぁ……はぁん……んふん……」
オズヌは今、酔ったようにトロイメライに全身を晒していた。日差しよりも強い視線を浴びて、からだが奥のほうからムズムズしてくる。
(どうしよう……はずかしい……はずかしいのに、わたし、こんなに……)
抱かれたくて抱かれたくて仕方なかった。オズヌは自分のだらしない乳房を、トロイメライに見せつけるために吸った。彼が見やすいように股を開き、自分の指でクリトリスをこねくりまわす。
「婿殿……むこどのぉ」
「はい、オズヌさん……」
「あぁん……スキ……スキだよう……お股が切ないよう……婿殿のおちんちんが欲しいよう……」
ちゅっ、ちゅっ、と乳首を吸いたてながら、トロイメライに流し目を使う。彼が喉を鳴らす音を聞くと、くねくねと腰が動いてしまう。荒く息をつく顔が近づいてくる。トロイメライは妻の媚態を前に、男根をごしごしと激しくしごいていた。
「ボクのおちんちん欲しいの、オズヌさん」
「あん、ほしい、ほちい……」
「あげるっ、ボク、あなたの欲しいものはなんでもあげる!」
「あぁーん」
甘ったるい声が洞窟に反響する。オズヌは自分からトロイメライにキスした。トロイメライの硬いものをオズヌの柔らかいものが包み込む。互いの輪郭を越えたとも思わなかった。ただただ溶けて混ざり合い、ひとつになるのだ。
トロイメライはオズヌの柔らかいからだを全身で味わった。肩にかつぎあげた腿、はずむ乳房、首に回った腕に至るまでとろけるように柔らかく、トロイメライを飲み込んでしまう。
「オズヌさん、オズヌさん、あなたはスゴい女のひとだ。ボクっ、おかしくっ、なっちゃう……!」
腰を打ち付けるたびに深部が開き、言葉が意味を為さなくなる。オズヌはトロイメライの唇を夢中で貪った。全身が鍵と鍵穴のように噛み合って快楽の扉がひとつまたひとつと開かれてゆく。
(ああ、イく、)
天高く上り詰め、極まる瞬間はハッキリとわかった。目は汗でかすみ、耳も激しい動悸のために使い物にならない。オズヌは婿にすがりついた。喜びのあまり、角が燃え上がったと思う。トロイメライは肉のくさびとなってオズヌを大地に打ち付けた。
「オッ……おぉっ、おおんっ」
射精される間じゅうオズヌの口は開きっぱなしだった。声と共にたらたらと流れる唾液を、トロイメライは舐めとった。痺れた女性器をあやすように腰を浅く動かしていたかと思うと、急にズンと深く突き入れ、また射精する。
「んはぁんっ」
乳首をくすぐられ、オズヌはもだえた。自分が女なのか男なのかもわからなくなっていた意識が急激に覚醒し(また孕んでしまう)と思った。多幸感と同時に恐ろしさと切なさがこみあげ、オズヌはぽろぽろと涙をこぼした。
「れっ、れひちゃうっ、また赤ちゃんれひぢゃうよぉっだめっだめなのっ」
「ううん、ダメじゃないです、オズヌさん、孕んで。ボクの子どもを産んで。もっと産んでいいです」
クメミ山の神殿は失われ、天女像も消えた。物理的に不可能とわかっていても、オズヌは妊娠を恐れた。無責任に要求するトロイメライも同じくどうかしている。彼だって、どこにもつながっていない地下空間での出産がどんなに大変だったか知っているのに。
そんな理性的な思考も、胸をマッサージされるとはじけとんだ。ひい、ひい、と歯の間から情けない呼吸が漏れ、どうにか肺に息を入れると、低く感じ入った声が出てしまう。
「おぉ……おぉん……」
「おちんちんを抜きますね。お股をぎゅって締めてください。ボクらの赤ちゃんがこぼれないように」
下腹部を撫でられると、からだが勝手に従ってしまう。オズヌは男根と一緒に腰骨まで抜かれた気がした。力が入らないなりに腿を合わせ、精液が漏れないようにする。
「ん……んん……」
「そう。いい子ですね、オズヌさん。おしっこかけてあげます」
トロイメライは性行為のあと、オズヌに念入りに尿をかける。妊娠中の病を避けるためだ。地上に出た今、悪い苔の脅威があるかは疑問だったが、オズヌはあえて口に出さなかった。意味があるかどうかの問題ではなく、以前と同じ習慣に従いたかった。
「口を開けて」
「ん、んぁ、」
顔をまたいで差し出された男根を、オズヌは寝たまま口に咥えた。唇に陰毛が、喉に亀頭が触れるほどに深くしゃぶる。射精後の男根は美味しいものではなかったが、二人の体液が混ざり合ったあとかと思うとひどく愛おしい。息を整えるだけの間のあと、トロイメライはしょろしょろと放尿した。
(飲み込んじゃいけない)
オズヌは口に手を添え、器となったかのように夫の小便を受け入れた。口からあふれるに任せると顎から胸、股に向かって川が流れる。からだの大きいオズヌが、全身に尿を浴びるために必要なことだった。
やがてトロイメライの腰がぶるっと震えると、オズヌは彼の男根を舌で清めた。「勃起してしまうよ」と、額を軽く押されても離さない。「いいの?」と尋ねる夫の声は、少しだけ恥ずかしそうだった。
からだを清め終わる頃には、もう夜明けが近かった。洞窟の入り口に被さったツタの隙間から澄んだ藍色の光が見える。苔から立ちあがったオズヌに、トロイメライは「ここで休んでいていいですよ」と言った。
「ボクが子供たちとお父さん、お母さんを、こっそりここまで連れて来ますから」
「……え?」
「うん、それにゴズメルさんとリリィさんも。あの二人にはお世話になったし、もうすぐいなくなるし……」
トロイメライはキャンプ地を移すつもりらしい。それはいいとして、こっそりというのがわからなかった。
「他のみんなにも言わないとダメだよ」
「えっ? どうして」
「どうしてって。この日差しで疲れているひとはたくさんいるから。奥も広いようだし、みんなで使わないといけないよ」
「ボク、家族のために自分でこの洞窟を見つけました。ほかのひとたちは自分で洞窟を見つければいい」
トロイメライは悪びれなかった。彼の瞳に宿る光に、オズヌはぞくっとする。
「ダメだよ、こんなにいいところを独り占めするなんて!」
「?? どうして怒っているの、オズヌさん」
大声を上げたのは、怖かったからだ。自分の知っているトロイメライではないような気がした。だが、オズヌが彼の何を知っているというのだろう。トロイメライは困ったように首をかしげていたが、やがて「ああ!」と、ポンと手を打った。
「じゃあ、里のひとたちにはボクらの洞窟を貸してあげることにしましょう」
「か、貸す……?」
様子は変わっても、ここはクメミ山エリアだ。トロイメライは洞窟を発見したかもしれないが、この場所は彼の持ち物でもなんでもない。しかしトロイメライは嬉しそうに両腕を広げた。
「うん、ボクをミノタウロス族の長だと認めてくれたひとに、洞窟を貸してあげます。そしたら、みんながボクらの言うことを聞くよ。これでもう、誰からも侮られないでしょう」
「トロイメライ・ヴァイスゲルバーガッセ!」
オズヌは彼の正しい名前を呼んだ。きょとんとしている夫に食ってかかる。
「それはミノタウロス族のやることじゃない! 戦いもせず、ひとの心を物で釣ろうとするなんて、わたしたちがいちばん軽蔑することです!」
いつからだろう。トロイメライはグレンに挑戦することをやめてしまった。最下層にいるような人間は負けて当たり前、勝てば恨まれる。オズヌの父はよく『誰かが最下層にいなければならない』と言った。
同種の中で横一列に並べれば、力の弱い者はいくらでもいる。だが、一人でも自分より弱い者がいれば、彼は強者の面目を保てる。侮られることを甘んじて受け入れるたった一人が存在しているから、クメミ山は長を頂点に平和を保っていられるのだ。最下層の重要性は、長にさえ比肩する。
そんなのは弱者の負け惜しみだとオズヌは思う。誰だって勝ちたい。弱いのは嫌だ。ならば一勝する努力をすべきだ。
それでも這い上がれないのが、最下層だった。
トロイメライに敵は多く、ともに戦える仲間は一人もいなかった。やがて彼はグレンと戦う長い長い順番待ちの列に並ぶことをやめた。最下層でオズヌ一家がそうしてきたのと同じように芋を掘り、手仕事をする。たまに愛想笑いもする。勝負とは無縁だった。ゴズメルが帰還し、怒り狂ったミギワが襲撃してくるまでは。
「……でもボク、こういうやりかたじゃないと、もう王様になれないと思う」
トロイメライは困り果てたように笑った。
「全然ダメだから……。オズヌさんを女王様にしてあげたいのに」
彼の情けない声に、オズヌは胸を貫かれた。
「ちがいます! ダメじゃない! わたし、わたしは、もうとっくに」
言葉がうまく出てこない。地団太を踏み、トロイメライの胸倉を掴む。だが、どうして自分の国の王様を殴ったりできるだろう。オズヌはトロイメライに頭突くようなキスをした。受け止めたトロイメライは、驚いたように目を見開いている。オズヌはゆっくりと唇を離し、囁いた。
「……王様になるというひとが、卑怯な真似をしてはだめだよ。トロイメライ。誰もついてきてくれなくなる」
「…………ボクが王様になれると思うの」
「なれるよ。わたしにとっては、はじめから今までずっと王様だよ」
トロイメライはぱちぱちと瞬いて、「ウン」とうなずいた。
「わかりました。ボクは王様になる。みんなに優しくします」
「本当? 本当にわかった?」
「うん……オズヌさん、あのね、ボク、今とてもキスしたい気持ち」
女王は王様にみなまで言わせなかった。背中に腕を回し、唇を交わす。まばゆい朝日を頬に受けた二人の口づけは、神聖な契約のようだった。
◇◇◇
ゴズメルとリリィが、ジーニョ老人とともに旅立ったのは、その数日後のことである。苦楽を共にした三人との別れをミノタウロス族たちは総出で惜しんだ。
「やめろやめろ、湿っぽくなる」
オジサマ、オジサマ、と言って寄ってくるミノタウロス族を、ジーニョ老人は杖で追い払った。
「俺は自分の仕事をするだけだっ。ポップルへ行って、残りのミノタウロス族が戻って来られるようにしてやる。おまえたちはバカな気を起こさず、せいぜい洞窟に引きこもっていればいい」
リリィの人気も大変なものだった。地下空間で自分たちを導いてくれた小さな妖精を、ミノタウロス族は愛してやまなかった。カリカリするゴズメルをよそに、リリィはにこやかに挨拶している。
「あーあ、二人とも人気者で嫌になっちまう。やっぱり、あたしにはオズヌだけだっ」
がばっとハグされて、オズヌは苦笑いした。ミギワやダマキから「何かあったら連絡しなさい」「リリィさんにもっと気を遣って」などとクドクド言われていたのは、人気のうちに入らないらしい。
「……でも、ゴズメルがいなくなったら、わたしは本当に寂しくなってしまう」
「うん?」
「だってやっとまた会えたのに、次はいつ会えるかわからないよ……」
「うーん……」
今生の別れのように思うのだった。ゴズメルはオズヌを見て、彼女の家族をぐるっと見回した。
「あんたたちがこっちへ遊びに来ればいいじゃないか。あたしにばっかり歩かせないでさ」
「はぁ? そんな無茶な……」
「何が無茶だい。ああ、年寄りと子供がいるから? じゃ、中間の場所で集合しようよ」
本気で言っているらしい。地面に棒で連絡先を書き始めるので、オズヌは慌てて「そんな勝手なことできないよ」と止めた。里の出入りには長の許可が必要なのだ。
そこまで考えて、ようやく気がついた。クメミ山は以前とは違う。次の長もまだ決まっていない。オズヌは、明るい陽射しと吹き抜ける風とを全身に浴びて、地上に立っていた。
もう旅立つばかりだ。あと腐れがないと思っているのか、ゴズメルの口からは故郷の悪口がぽんぽん出てくる。
「だいたいこんな吹きっさらしのクソ田舎で集まったってつまんないじゃないか……今すぐとはいかないけどさ。そうだな、人数もいることだし、ちゃんと計画を立ててバーベキュー大会でもやろう」
楽しい想像を膨らませる彼女の顔は実に晴れ晴れとしていた。
「よし、あたしが美味しいものを山と用意してやる。まぶしくないように遮光のデッカいテントも買っておくよ。これで原始人みたいな暮らしとはおさらばだ。ああ、文明ってすばらしい!」
「…………!」
「いいですネ。とても楽しそう」
「む、婿殿までそんな……」
「いいんだよ、オズヌ!」
ゴズメルは両腕を広げ、オズヌとトロイメライにダブルラリアットをかました。
「好きなところに行って、好きなものを食べなきゃダメだっ。あんたに文句つけてくるようなやつは、あたしがブン殴ってやるからなっ」
いかにもミノタウロスらしい好戦的なせりふに、少しの照れが混ざっていることにオズヌは気がついていた。胸がいっぱいになる。
(ゴズメルは、わたしのことを本当に憶えていてくれたんだ)
子供の頃、同じくらい弱かった幼馴染を野蛮な里に置き去りにしてしまった。それはむろん仕方のないことだったのだけれど、彼女なりにその負い目をなくそうとしているのだと思った。
元気いっぱいに手を振るゴズメルの影が小さく遠ざかり、オズヌはほうっとため息をついた。鼻腔に香る森の空気はすがすがしく、呼吸するだけで頬がゆるんでしまう。
「オズヌさん」
どれくらいの間、そうして立っていたのだろう。呼ばれて、オズヌは振り向いた。トロイメライは次男を肩車していて、長男と三男はなにやらケンカをしており、生まれたての長女は母に抱かれ、父にあやされている。
オズヌの王国のすべてが、今、光の中にあった。オズヌは子供二人のケンカを止めるべく、腕まくりした。一家の頭上で、雲は美しい城のかたちをしている。
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