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ラブラブハッピー番外編

ゴズメルとリリィとマリアの仁義なき3P ②☆

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 スモークが噴きあがるのと同時に、石壁に灯りが付いていた。どうやら石室にひとが入ると魔力マナが充填する仕組みらしい。ダンジョンによくある小部屋だった。

 そういう小部屋はたいていガランとしているものだ。まるで冒険者へのごほうびみたいに、中央にぽつんと宝箱が置いてある。大喜びで中に入ると、トラップが発動。入口が閉まって外へ出られなくなる。

 外へ出られないという点では、三人のいる石室も同じだった。確かに開いていたはずの石壁がなめらかに閉じていて、隙間も見つけられない。

 しかしながら、ここがただの人食い小部屋ではないことは冒険者のゴズメルの目には明白だった。

「してやられたな……」

 石室の中央にあるのは宝箱ではなく、口の開いた小さなほこらだ。

「まさかこのあたしが、悪徳ホコラホステルに引っかかるとは!」
 
「悪徳ホコラホステルって何? ゴズメル……」

 急に色々なことが起きて、リリィはすっかり怯えてしまっていた。

「私たち、ここから出られないということなの? ジュエルが待っているのに……」

「リリィ、そんなに怖がることないよ。ちゃんと出られるから」

 ゴズメルは妻の細い肩をぽんぽんと叩いた。

「精霊にも悪いやつがいるんだ。こうやってプレイヤーを強引に引っ張りこんで、お供えをせしめようとしてるのさ」

 押し売りかと思うと、部屋のグレードの高さにも腹が立ってくる。ワンルームだが、右奥の壁には大きなベッドがあるし、その横に置いてあるソファはクッション付きだ。向いには小型の保管庫があり、その上では丸い水盤がぴちゃぴちゃと新鮮な水を供給している。

 ぼったくりと聞いて、リリィは青ざめていた。

「どうして、そんな恐ろしい場所が我が家のバントリーとつながっているのかしら……」

「……マリア、あんたはなんでここに?」

 腕組みして黙りこくっているマリアに、ゴズメルは水を向けた。

「ポップルのマリア副会長さんは確か休暇中だって聞いたけどね。なぜここにいるんだい」

「なぜ、ですって? 誰かさんが斧を持って追いかけてくるからこんな罠にかかってしまったというのに」

「そっちが逃げるからだろっ!」

 マリアは元から高い鼻を「ふん」とさらに高くしてゴズメルを睨みつけた。

「家のバントリーがどうとか言っていたわね。その認識からしてまず食い違っているわ。あなたたちが迷い込んできたここは、サムエーレ諸島のダンジョンよ。冒険者協会発行の許可証を見せてあげましょうか」

「なんだって……!?」

 マリアの言っていることは本当だった。許可証には本部会長であるシラヌイの署名のほか、ダンジョンに入った日付と時刻も記されている。この短時間に海を越えて家のバントリーに侵入したとは考えづらい。

 マリアは灰色のフードの下に、いつもの冒険者協会の制服を着ていた。どちらも土埃で汚れている。

「諸島のダンジョンは探索が進んでいないというから、観光がてら立ち寄ったのよ。まさか、こんな面倒ごとに巻き込まれるとは思っていなかったけど」

 ジロッと睨まれて、ゴズメルは口ごもった。(バントリーとダンジョンがつながったのは、あたしのせいかも)と思ったのだ。常々、家からダンジョンまで直通のドアがあったら移動が楽なのになあと妄想していた。

「いちいちイヤミを言うんじゃない、とにかくここから出られりゃ解決だろ!」

 ゴズメルはほこらの口に手を突っ込んだ。悪徳ホコラホステルは、精霊が要求するお供えを後払いすればチェックアウトできる。伝票を見たゴズメルは、息を詰めた。

「どうしたの、ゴズメル。無理な要求をされた?」

「え、えぇっと……いや、そういうわけじゃないけど……」

「いいから早く見せなさい。私は迷惑しているのよ」

 せっつかれて、ゴズメルは仕方なく二人に伝票を見せた。そこにはこう書いてあった。『セックスしないと出られない部屋』。


◇◇◇


 趣味の悪い精霊がいたものである。

 赤くなったリリィとは反対に、マリアは「あらあら、なんてバカバカしい」と吐き捨てた。そのまま自分は無関係だとでも言わんばかりにソファにドサッと腰かけてしまう。

「そういうことなら、さっさと二人で済ませてちょうだい」

「そんな、待ってください」

 リリィが困ったように声を上げる。

「いくらなんでもこの状況でそんなことできませんわ……。助けが来るまで待つとか、あるいは部屋を壊すとか、ほかに方法が」

「……呆れた。アルティカの受付嬢って何も知らないのね」

「えっ」

「悪徳ホコラホステルは滞在時間が長引くほど、お供えの要求が高くなる。こうやって説明している時間も惜しいというわけ。――と同時に、どれだけ長い時間を過ごしても外部には影響しない」

 マリアは長い脚を組み替えて、傲然と言い放った。

「つまり外では一分一秒も経っていないから誰も助けになんて来ないわ。ああ、部屋を壊すのもおすすめしないわね、余計に対価をふっかけられたいなら別だけど」

 こばかにするような口調はともかく、言っていることは正しいのでゴズメルは反論できなかった。だが次に続く言葉は容認できなかった。

「大体、あなたの卑猥な能力を持ってすればカンタンに済む話でしょう。所かまわずひとを誘惑するのが、あなたの取り柄なんでしょうから」

「黙れマリア」

 立ちすくむリリィを、ゴズメルは背中で庇った。

「それ以上あたしのお嫁さんを侮辱してみろ。ただじゃおかないぞ」

「おお怖い! 私を殴るのかしら?」

「黙れってんだよ。この二枚舌が!」

 芝居がかったしぐさで挑発するマリアに、ゴズメルは牙をむいた。このムカつく性悪女を今すぐぶっとばしてやりたい――だが、そうやって睨みつけるほど、胸には甘く切ない思いが沸き上がってくる。召使いとしてかいがいしくマリアの世話を焼いていた頃、ゴズメルは『住所変更をして、ずっと一緒に暮らしてもいい』とさえ思ったのだ。

「…………」

 この酷い態度も強がりの裏返しのような気がして、うまく怒れなかった。

「……とにかく、自分だけ部外者みたいなツラしてんじゃないよ。あんたもさっきのトラップを食らっただろうが」

「ふふっ。なんのこと?」

「とぼけんじゃない。生えてんだろ、男のアレが」

「えっ」

 声を上げたのはリリィだった。腰に手を当ててドンと立つゴズメルと、脚を組んで股の間をごまかそうとするマリアを交互に見て、「ほ、本当なの……?」とか細い声を漏らす。

「……おかげさまで」

 マリアはなんてことないと言わんばかりに片手を挙げてみせた。

「ここの精霊はどうやら筋金入りの男根主義のようね。生えていないとセックスができないと思っているんでしょう」

 ひとり巻き込まれずに済んだリリィは、あまりのことに絶句している。マリアは目を細めて言い放った。

「生憎だけれど、私はそういう汚らわしいことに首を突っ込むつもりは毛頭ないの。あなたたちで好きに励めばいいわ」

「おい、あんたが聞き耳立ててる横でセックスしろって!?」

「気にしないでいいのよ。あなたたちのことなんて繁殖期のカエル程度にしか思ってないから」

「このっ……!」

「やめて、二人とも。こんな時にケンカしてどうするの」

 言い争う女たちの間に、リリィは割り込んだ。

「だってリリィ、こいつ……!」

「ゴズメル、私たちの目的は共通しているわ。早く外へ出ましょう」

「ン……」

「ねえ、マリア」

 リリィはマリアに敬称を付けなかった。まるで親しい友達を心配するかのように歩み寄る。

「あなたは本当にかまわないの?」

「……何が?」

「だって、あなたはゴズメルのことを……」

「休暇中とはいえ私が本部副会長であることは変わらないわ。そして私は『早く済ませて』と言った」

 リリィの声を打ち消すかのように、マリアは言い放った。

「あなたたちって冒険者協会に在籍しているはずよね。上の者の命令には黙って従うべきなのではなくて?」

「なにをえらそうに……!」

 とうとう掴みかかろうとするゴズメルを、リリィは慌ててベッドに引っ張った。

「精霊の要求は、『セックスすること』だわ。マリアを叩いたってなんにもならないのよ」

「なるよっ。あたしのイライラがスッキリする!」

「……ねえ、ほかのことでスッキリして……?」

 どういう意味だ、と思ったゴズメルは状況を顧みてハッとした。大きなベッドにリリィとゴズメルが座っている。リリィは靴をとっくに脱いでいて、恥ずかしそうにフーディーの裾を握っていた。落ち着きなく裾をいじくりながら、ちらっとゴズメルを見る。

「急だし、ひさしぶりだから、そんな気分になれないかもしれないけど……」

 額に矢を刺されたみたいに、ゴズメルはくらっと来た。下半身がうずうずして、尻尾が揺れる。

「何言ってんの。あんたさえ良ければ、あたしは、いつだって……」

「ほんと……?」

「んっ、ほんと、ほんとにっ」

 待ち侘びた機会だ。つい返事より先に唇で触れてしまう。

 せっかくの営みだというのに目の端にマリアが映るのが気に入らない。死角になるようにと、リリィをズリズリと壁際に追い込む。

「あ……」

 服の裾をめくろうとすると、手が邪魔しに来る。

「だめ? なんで……」

「あぁ、だって……」

 なぜ恥ずかしがっているのかはわかっている。産卵を経て胸がとても大きくなったからだ。乳房はまるでロールケーキみたいに長くなって、乳輪は色が濃くなった。

 ジュエルへ授乳するリリィを、ゴズメルは神聖なもののように感じていた。愛おしんできたリリィのからだが、全身全霊で我が子を生かそうとしている。母としての日常的なふるまいに性欲をおぼえるなんてどう考えてもおかしいのだが、こうなってみるとあの清らかさを汚したくてたまらない。

「見せとくれよ……ねえ……」

「やっ、んっ……」

 ゴズメルはキスしながら、服の中でリリィの胸を愛撫した。優しく触れば触るほど「やんっ、やぁんっ」と、恥ずかしそうに首を振る。自分で出し入れできるようになったピンク色の翅が、性的興奮のために消えたり現れたりしている。息遣いに合わせて光る翅と、妻のうっとりとした表情に、ゴズメルはいっそう魅せられた。

「リリィ……あんた、すごく綺麗だよ……」

「あぁっ、嘘っ……やめて……っ」

「嘘なもんか。ほら……あたしのココ、興奮して、もうこんなになってる……」

「あんっ」

 勃起した男根は、腰を進めるだけで簡単にリリィの下腹部に当たった。反射的に逃げようとするリリィを、ゴズメルは「ダメ」と押さえつけた。

「もっとちゃんと、あんたが触ってよ……あたし、あんたが疲れてるから毎月ひとりでチンポしごいて、射精して……」

「やぁっ、らめぇっ、あっ、あうっ」

「あ、あんただってホントは気づいてたんじゃないの……っ!? 忙しいからって見て見ぬふりしやがって、このっ」

「あんっ、やらぁんっ」

「ねえ、ちょっと」

 ぬっとベッド脇に立つマリアの影が二人の頭上にかかった。すっかり忘れていた相手に見下ろされ、ゴズメルはカチンときた。

「なんだよ! 今いいとこなんだから邪魔すんな!」

「……リリィが嫌がってるじゃない。やめなさいよ」

「はっ?」

 いつになくつっけんどんな言い方に、ゴズメルは目を丸くしてしまう。

(な、なんだこいつ、まるでリリィのことを守ろうとしてるみたいに……)

 そのくせマリアはリリィと目が合うと、長い角をブンと振って顔をそむけるのだった。

「……カン違いしないでちょうだい。一度あなたの鱗粉を食らったからと言って、支配下にあるなんて思わないで」

「へっ」

 ゴズメルはおったまげた。

(鱗粉を食らっただって……!?)

 ということは、自分の妻と、元同居相手が、ただならぬ関係にある・・・!?

「どどどういうことだい、リリィ!?」

「……あなたを迎えに行った時、逃げるために鱗粉を使ったの」

 リリィは申し訳なさそうにマリアを見た。マリアは落ち着きなく胴をねじったりしてごまかしているが、性器を勃起させているのは一目瞭然だった。それも二人の触れ合いを間近に聞いていたかららしい。

「だからマリアは、私を本気で傷つけることができない。つらいと思うわ。心ではゴズメルを好きなのに、からだは恋敵である私に反応してしまうんですもの」

「誰が誰を好きですって! 汚らわしい!」

 マリアは髪を振り乱して怒った。

「私はただ、性的DVを見過ごせないだけ! 婚姻関係にあるからといって、嫌がるパートナーに性行為を強要するなんて絶対に間違っているわ!」

 思うところのあるゴズメルはちょっとギクッとした。が、マリアが「リリィ、今すぐその狂暴な牛女から離れて、こっちにいらっしゃい」とか言い出すのは聞き捨てならない。

「冗談じゃない! あんたはただ自分がリリィとセックスしたいだけじゃないか!」

「そうよ、それの何が悪いの!? 私は貞節を食らう者バイコーンだもの、愛し合う二人を引き裂くのが本分なのよ!」

「とうとう本性を現したな! この性悪女!」

 角と男根を生やした二人が、リリィを取り合って口汚く言い争う。リリィは両耳を押さえて「わかった、もう、わかったから!」と叫んだ。

「私が二人とセックスすればいいのよ。ここから出るために、みんなで協力しましょう。ね?」
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