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38.WORLD IS YOURS.
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「は……ふぁっ……ハグジュッ」
ゴズメルは自分のクシャミで目を覚ました。
(なんだぁ……かき氷の上で寝てるみたいにフワフワして、ひんやりする……)
見上げる青い空はさしずめソーダシロップ、白い雲はソフトクリーム、いや、白玉だろうか。
ゴズメルはかき氷を通り越して、パフェが食べたくなった。もちろんチンケなグラスパフェなどではない。ちっちゃなフルートグラスに申し訳程度のフレークとジャムとアイスが入っていて、薄いカットフルーツが挿してあるのはお断りである。
食べたいのは、ジョッキの中に夢を全部詰め込んだみたいなパフェだ。底はりんごジャム、その上に砕いたソルティクッキー、小ぶりなシュークリームをアホほど詰め込んだ上はコーヒーゼリーとクリーミーな牛乳かんをハーフアンドハーフで、さらにミカンのシロップ漬けが丸のまま入っているのだ! 当然、タワーは高いほど良く、カラフルなチョコスプレーは多いほど良い。
「目が覚めた? ゴズメル……」
乙女のようにスイーツに思いを馳せてしまうのは、そこが花野で、横にリリィが寝ていたからかもしれない。
「……どう、だろ」
ゴズメルはかすれた声で返した。
色とりどりの花々に囲まれたリリィは、まるで夢の中にいるかのように綺麗だった。ゴズメルは世界で一番愛しているひとを、まるで花の一輪かのように感じた。手を伸ばして触っても、花のようにやわらかくて、ひんやりして、いい匂いがして――本当に夢みたいなのだ。
「あたし、まだ夢を見てるのかも……」
「じゃあ私たち、同じ夢を見てるんだわ」
リリィがそう言って、ゴズメルの顔を覗き込んだ。
思ってもみない発想に、ゴズメルは目をしばたかせた。
「あ……へぇ……そうなんだ。これ、あんたの夢……?」
「ええ。そして、あなたの夢でもあるのよ」
リリィがゴズメルにキスをする。ゴズメルは目を閉じてリリィを抱き寄せた。
彼女の髪は、どんな花よりもいい匂いがした。もっと、もっと近くに行きたいのに、二人の間には互いの服があって、肌があって、行き止まりになってしまう。舌を伸ばしても絡めあうことしかできず、唾液は唇のはしから垂れて、服に染み込む。
「……?」
そう、ゴズメルは服を着ていた。それもとても可愛い服で・・・白くてふわふわして、丈が短いところ以外は、ぜんぜん自分の趣味ではないのだが・・・。
「……ふむ。あんたのほうが、夢を見るのは得意みたい」
ゴズメルはそう言ってリリィにのしかかった。(ガチャってこういうことか)とゴズメルは思った。
「いつもそういうことばかり考えてるだけよ」
「そういうことって?」
「だから、あなたがどんな服を着たら似合うかとか……」
「どんな服ならセックスしやすいかとか?」
露わな膝でスリスリと股を刺激すると、リリィは「ん……」と言って、身じろいだ。
「そ、そう、かも……」
「ふーん。あたしにセックスしやすい服を着てほしいのか。スケベだなあ」
「あん、ごめんなさい、直すわ、ちゃんと裾をつけます」
「いいよ。別に」
「逆にもっと短くしてトップスとかベストとか……いえ、いっそジレに……」
「服とあたし、どっちが好き?」
「……あなたよ!」
ゴズメルとリリィは再び抱き合ったのだが、そう長い間のことではなかった。
「ゴズメェエエエエル!!!」
オズヌと子供たちが雄たけびを上げて、花畑を突っ切ってきたからだ。巨体に体当たりされてゴズメルは意識を失いそうになった。
「よく無事でっ! うちらは、みんな、あんたを心配してっ」
「おっ、おおっ」
後からミノタウロス族に神輿のように担がれたジーニョがやってくる。
「いったい何がどうなっているんだ!? 気づいたら地下アジトから強制的にここへ移動させられていたが……」
「おじさま、ここはどこなのですか?」
オズヌと子供たちにもみくちゃにされているゴズメルに代わって、リリィが尋ねる。
「……クメミ山エリアではあるらしい」
「ミギワ! あなた、言葉が」
「ん」
ミギワはリリィに見上げられて、気まずそうに口をもごもごさせた。
「種族語は戻らなかったが、まあ、不自由ない程度には……」
「やったじゃん、お兄ちゃん!」
「う、うるさいですッ! おまえは、また連絡もせずにほっつき歩いて!」
怒ったり慌てたりすると敬語に戻ってしまうらしい。これがアジリニが関与できるギリギリのラインだったようだ。
いつまでも感極まっているオズヌを、ダマキがどけてくれた。ナギとムクゲの姉妹は、ゴズメルが可愛い服を着ているので、「すごぉい」「いつ着替えたの」と質問攻めにしてくる。
「……すっかり賑やかだね。よかったあ」
花野に座るゴズメルの横に、リリィは立っていた。
「私の夢で、あなたの夢で……みんなの夢でもあったのね。もっと詳しく調べてみないと、修正パッチがどんなふうに効いたかはわからないけど」
リリィはちらっとゴズメルを横目で見て「私は少し変わったわ」といたずらっぽく言った。
「えっ? どこどこ、服は変わってないよね?」
ゴズメルは慌ててリリィに向き直った。
顔――きれいだ、かわいい。
髪――サラサラしていい匂い。好き。
体――ほっそりして、小さくて、守ってあげたい。
足――その気になれば、カトーの頭も踏みつけられる。ありがたいおみ足。
「ううん、わからない! どこ? いったいどこが変わったんだっ? 教えてくれっ」
リリィはくすくす笑って、ゴズメルの胸に飛び込んできた。ゴズメルは見た。その背中に、一瞬だけ翅があらわれるのを。リリィが片目をつぶると、翅はまたフッと消えた。戦闘経験を積んだことで、とうとう自分の意志で出し入れできるようになったらしい!
「すごい!! よかったじゃないか、魔封じのアミュレットは負担が大きいみたいだから心配だったんだよ!」
「それにね、もう一つあるの」
「もう一つだって? もう何を聞いても驚かないよ、なに!?」
ゴズメルはもちろん驚いた。だって祈願もしてないし、リリィの言葉以外にはなんの確証もない――いや、もし最後の願いが叶ったのだとしたら、あるいは――。
何も言えないくらいに驚いているゴズメルの唇に、リリィは口づけた。「愛してるわ、ゴズメル」そう言って。
ゴズメルは自分のクシャミで目を覚ました。
(なんだぁ……かき氷の上で寝てるみたいにフワフワして、ひんやりする……)
見上げる青い空はさしずめソーダシロップ、白い雲はソフトクリーム、いや、白玉だろうか。
ゴズメルはかき氷を通り越して、パフェが食べたくなった。もちろんチンケなグラスパフェなどではない。ちっちゃなフルートグラスに申し訳程度のフレークとジャムとアイスが入っていて、薄いカットフルーツが挿してあるのはお断りである。
食べたいのは、ジョッキの中に夢を全部詰め込んだみたいなパフェだ。底はりんごジャム、その上に砕いたソルティクッキー、小ぶりなシュークリームをアホほど詰め込んだ上はコーヒーゼリーとクリーミーな牛乳かんをハーフアンドハーフで、さらにミカンのシロップ漬けが丸のまま入っているのだ! 当然、タワーは高いほど良く、カラフルなチョコスプレーは多いほど良い。
「目が覚めた? ゴズメル……」
乙女のようにスイーツに思いを馳せてしまうのは、そこが花野で、横にリリィが寝ていたからかもしれない。
「……どう、だろ」
ゴズメルはかすれた声で返した。
色とりどりの花々に囲まれたリリィは、まるで夢の中にいるかのように綺麗だった。ゴズメルは世界で一番愛しているひとを、まるで花の一輪かのように感じた。手を伸ばして触っても、花のようにやわらかくて、ひんやりして、いい匂いがして――本当に夢みたいなのだ。
「あたし、まだ夢を見てるのかも……」
「じゃあ私たち、同じ夢を見てるんだわ」
リリィがそう言って、ゴズメルの顔を覗き込んだ。
思ってもみない発想に、ゴズメルは目をしばたかせた。
「あ……へぇ……そうなんだ。これ、あんたの夢……?」
「ええ。そして、あなたの夢でもあるのよ」
リリィがゴズメルにキスをする。ゴズメルは目を閉じてリリィを抱き寄せた。
彼女の髪は、どんな花よりもいい匂いがした。もっと、もっと近くに行きたいのに、二人の間には互いの服があって、肌があって、行き止まりになってしまう。舌を伸ばしても絡めあうことしかできず、唾液は唇のはしから垂れて、服に染み込む。
「……?」
そう、ゴズメルは服を着ていた。それもとても可愛い服で・・・白くてふわふわして、丈が短いところ以外は、ぜんぜん自分の趣味ではないのだが・・・。
「……ふむ。あんたのほうが、夢を見るのは得意みたい」
ゴズメルはそう言ってリリィにのしかかった。(ガチャってこういうことか)とゴズメルは思った。
「いつもそういうことばかり考えてるだけよ」
「そういうことって?」
「だから、あなたがどんな服を着たら似合うかとか……」
「どんな服ならセックスしやすいかとか?」
露わな膝でスリスリと股を刺激すると、リリィは「ん……」と言って、身じろいだ。
「そ、そう、かも……」
「ふーん。あたしにセックスしやすい服を着てほしいのか。スケベだなあ」
「あん、ごめんなさい、直すわ、ちゃんと裾をつけます」
「いいよ。別に」
「逆にもっと短くしてトップスとかベストとか……いえ、いっそジレに……」
「服とあたし、どっちが好き?」
「……あなたよ!」
ゴズメルとリリィは再び抱き合ったのだが、そう長い間のことではなかった。
「ゴズメェエエエエル!!!」
オズヌと子供たちが雄たけびを上げて、花畑を突っ切ってきたからだ。巨体に体当たりされてゴズメルは意識を失いそうになった。
「よく無事でっ! うちらは、みんな、あんたを心配してっ」
「おっ、おおっ」
後からミノタウロス族に神輿のように担がれたジーニョがやってくる。
「いったい何がどうなっているんだ!? 気づいたら地下アジトから強制的にここへ移動させられていたが……」
「おじさま、ここはどこなのですか?」
オズヌと子供たちにもみくちゃにされているゴズメルに代わって、リリィが尋ねる。
「……クメミ山エリアではあるらしい」
「ミギワ! あなた、言葉が」
「ん」
ミギワはリリィに見上げられて、気まずそうに口をもごもごさせた。
「種族語は戻らなかったが、まあ、不自由ない程度には……」
「やったじゃん、お兄ちゃん!」
「う、うるさいですッ! おまえは、また連絡もせずにほっつき歩いて!」
怒ったり慌てたりすると敬語に戻ってしまうらしい。これがアジリニが関与できるギリギリのラインだったようだ。
いつまでも感極まっているオズヌを、ダマキがどけてくれた。ナギとムクゲの姉妹は、ゴズメルが可愛い服を着ているので、「すごぉい」「いつ着替えたの」と質問攻めにしてくる。
「……すっかり賑やかだね。よかったあ」
花野に座るゴズメルの横に、リリィは立っていた。
「私の夢で、あなたの夢で……みんなの夢でもあったのね。もっと詳しく調べてみないと、修正パッチがどんなふうに効いたかはわからないけど」
リリィはちらっとゴズメルを横目で見て「私は少し変わったわ」といたずらっぽく言った。
「えっ? どこどこ、服は変わってないよね?」
ゴズメルは慌ててリリィに向き直った。
顔――きれいだ、かわいい。
髪――サラサラしていい匂い。好き。
体――ほっそりして、小さくて、守ってあげたい。
足――その気になれば、カトーの頭も踏みつけられる。ありがたいおみ足。
「ううん、わからない! どこ? いったいどこが変わったんだっ? 教えてくれっ」
リリィはくすくす笑って、ゴズメルの胸に飛び込んできた。ゴズメルは見た。その背中に、一瞬だけ翅があらわれるのを。リリィが片目をつぶると、翅はまたフッと消えた。戦闘経験を積んだことで、とうとう自分の意志で出し入れできるようになったらしい!
「すごい!! よかったじゃないか、魔封じのアミュレットは負担が大きいみたいだから心配だったんだよ!」
「それにね、もう一つあるの」
「もう一つだって? もう何を聞いても驚かないよ、なに!?」
ゴズメルはもちろん驚いた。だって祈願もしてないし、リリィの言葉以外にはなんの確証もない――いや、もし最後の願いが叶ったのだとしたら、あるいは――。
何も言えないくらいに驚いているゴズメルの唇に、リリィは口づけた。「愛してるわ、ゴズメル」そう言って。
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