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404 not found
34.モー・モー・パニック★(複製体×本体の描写があります)
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マリアはガラス越しに実験場を見下ろしていた。
足元には機械で作られた巨大迷路が広がっている。
俯瞰すれば出口までの道は一目瞭然だが、迷路の中にいるミノタウロス族は、壁にぶちあたるたびにオロオロしている。中には疲れ果てて眠っている者もいた。
「……あれは何をしているの」
「プレイヤーの機能訓練」
マリアの隣では、カトーが立っていた。彼が手の中の石板を操作すると、迷路のかたちが変化する。宝箱の中には食料のほかにも脱出のためのアイテムがあるのだが、種族語をとられたミノタウロスたちは、うまくものを考えることができない。落ち着かない様子で歩き回っては元の場所に戻ってきてしまっていた。
「リーが下手な調整したせいで、目の前に他種族がいると殴りかかるようになっちまったからな。まずは同種でコミュニケーションをとれるように工夫してんだよ」
「……壁を壊そうとは思わないのかしら」
「壊せる設定にしてない。そういうゲームだ」
「ゲーム?」
「仲間と協力しながら、工夫して迷路から出ましょう、ってゲーム。いちおうレベルは下げてるんだが、まさかここまで知能が低いとは思わなかったぜ……精神薬も投与してるから、その影響も出てんのかねえ」
「…………」
「ゲームの中でゲームさせるってのも乙だろ?」
マリアは物憂げな表情でミノタウロス族を見下ろしている。カトーは肩をすくめた。
「もう仕事には復帰できそうか? 副会長」
「……別に。いい機会だから骨休めさせてもらっているだけだわ」
ジロッと横目でカトーをにらむ。
「あなたがサボる心配さえなければ、バカンスにでも行くところなのだけど」
「ハハ、傷心旅行か?」
「なんですって」
「怒るなよ。やめとけって言ってんだ。アジリニが不安定な今、登録済みの神殿を離れるのは危険すぎる」
カトーは手の中の石板を示してみせた。
「ノァズァークはプレイヤーの夢を見る力で稼働している。現時点でシステムにでかい負荷をかけているのは、ここにいるミノタウロス族たちだ。とっとと共用語に慣れて、一般的な生活に慣れてもらわないと困るんだよ」
「一般的な生活……」
「まともな神殿で住民登録して仕事してメシ食って人間関係つくるってこった」
深夜だというのに研究所で働いているカトーがそれを言うのは、奇妙だった。
だが彼はそれを当然のことと思っているらしい。
「とにかく喋れるようになってもらわないと、プレイヤー同士の夢と夢がうまく噛み合わなくなる。腕力で解決しようとするやつが増えれば、戦争のリスクも上がるからなー」
「戦争?」
「冗談よしてほしいぜ。社員はみんな戦争には飽き飽きしてるってのに」
戦争を知らないマリアには、カトーの言っていることの意味はよくわからなかった。
確かなのは、ノァズァークを支配しているのは社員ということだった。社員は羊を牧す羊飼いのようにプレイヤーを正しい方向へ導き、彼らに夢を見させ続けているのだ。自由意志を、少しずつ奪いながら。
マリアはリーやカトーの行いを間違っているとは思わない。足元のミノタウロス族たちは疲弊して見えるけれど、元をたどれば彼らが独自の言語を作り出したのが悪い。
それなのに、マリアの心にはどんよりとした暗雲が立ち込めていた。もしもあそこに閉じ込められているのがゴズメルだったらと思うと、非常に落ち着かない気分になるのである。
「……?」
階下を観察していたマリアは、オスのミノタウロスがこちらを見上げていることに気が付いた。
「カトー、あのミノタウロスは私たちを見ているのではない?」
「いや? 向こうからはこっちを視認できないはずだぜ」
カトーは石板越しに、オスのミノタウロスを確認した。と、唐突に笑い出す。
「ハハッ、俺が倒した怪物の子供じゃねーか! なんだあの間抜け面は」
それはサゴンだった。首をかしげ、ぽかんと口を開けて立っている。その様子は、確かに間抜けとしか言いようがなかった。マリアは瞬いた。ゴズメルの、血を分けた兄だ。
「……彼だけは個別に対応してあげたほうがいいのではない?」
「なんで?」
「だって……こちらに気づいているようだし、何をやらかすかわからないわ」
「うん、面白いよな。ああいうヤツがいるとゲームが盛り上がるんだ」
「…………」
カトーはサゴンをなんの脅威ともみなしていないのだった。浮かない顔のマリアに「安心しろって」と言う。
「データによると、あいつはここに来てから一言も言葉を発していないらしい。あの顔見たってわかるだろ、なんも考えてねーよ」
「でも……」
「ん? なんだ、フラれた相手の兄貴と仲良くなりたいのか?」
「そんなこと言ってないでしょう!?」
「おっと」
難なくマリアをかわして、カトーはセルフォンの通知をチェックした。片眉をあげて「来たか」と言う。
「ちょっと、どこへ行くの。また仕事を放り出すつもりっ?」
「別件だよ」
怒り出すマリアに、カトーは石板を押し付けた。
「適当に見といてくれ。変なとこいじるなよ・・・つっても社員のパスがなきゃ大した操作はできないか」
カトーは最後にもう一度、ガラスの向こうを確認した。サゴンは微動だにせずこちらを見上げ続けている。
◇◆◇
ゴズメルとリリィは、赤面していた。
湯気の中から姿を現した新しいゴズメル――ゴズメルⅡは、一糸まとわぬ裸だった。
「な、な、なんで……」
ゴズメルは思わずリーの胸倉を掴んで揺さぶった。
「なんでチンポ丸出しなんだよっ! エッチ、バカ、ヘンタイ!」
「バカはそっちだ、赤ん坊が生まれた時から服を着ているわけがないだろう!」
「違うっ、なんで生えてんのかって聞いてんだよ! だいたい、あの挙動は……」
生まれたてのゴズメルⅡは、なんだか困っているように見えた。両腕で胸と股を押さえ、キョロキョロと周囲を見回している。
「ココ、ドコ? ワタシ、ダレ・・・?」
くすんくすんと啜り泣いている。片方の角から実体化した複製体は、記憶があいまいらしかった。
ゴズメルは裸の自分を見ているような気がして、猛烈にいたたまれない気分になる。リーは知らん顔だ。
「生えてるほうがセックスしやすいじゃないか。マリアちゃんが不要だと判断すれば切除すればいいし」
「あ、あんたは、ひとのからだを一体なんだと……!」
「ひとのからだァ・・・!? 撤回してもらおうか、あれこそが君の本物なんだ、マリアちゃんを愛さなかった時点で、君のほうこそ偽物のゴズメルじゃないか!」
「誰が偽物だごらぁ!」
怒鳴りあう二人に、ゴズメルⅡはよちよちと近づいて来た。
「ママ、ママ」
「あ!?」
それは一体どっちのことだーー。ゴズメルが反応を示すより先に、リーが声を張り上げた。
「そうだ、ゴズメルⅡ! ここにいる偽物を倒し、君こそが本物であると示すんだ」
「あぁっ!? やんのか? そっちこそあたしの角を返せっ、偽物が!」
「ママ、ママ」
斧を構えるゴズメルは、未知の事態に震えていた。
そっくりすぎて、まるで風呂上りに鏡を見ているみたいな気分になる。ラーメンスープから上がったゴズメルⅡの体は、油を塗ったようにテカテカしている。
(こ、こいつの角を折る……!? ええええっ、なんか、キモチワル……)
戸惑うゴズメルを、リリィは応援した。
「ゴズメル、わざわざ角を折る必要はないわ! 無力化すればいいだけ」
「無力化、ったって……」
怯んだ隙を突いて、ゴズメルⅡは距離を詰めてきた。どうやらママというのは本体のゴズメルのことらしい。作り主であるリーには見向きもしなかった。
研究者のリーはさっそく実験体の記録をとりはじめる。
「これはすごい発見だ! 角から生まれたゴズメルⅡは、本能的に持ち主のもとへ戻ろうとしているんだ!」
持ち主のもとへ戻る。それがどういう意味なのか、ゴズメルは身をもって知ることになった。
「ぎゃーっ!」
「ママ!」
ゴズメルⅡは、ゴズメルの斧を恐れることなく抱き着いてきた。
「ちょ、ちょっと、コイツなんで勃起してんだ!? ヤダッ、やだあああ!」
当然突き放そうとするのだが、油がヌルヌルして掴めない。弱腰になるゴズメルに対し、ゴズメルⅡは猛然と攻めてきた。たくましい両腕でゴズメルを力強く抱き、とうとう押し倒してしまう。
「ママ!」
「ギャンッ!」
下敷きになったゴズメルは防戦一方である。
腹這いになって逃げようとするのだが、かえって服の胸部を破られてしまう。
「イヤアアア!」
剥き出しになった胸に吸い付かれて、ゴズメルは半狂乱だった。
自分の分身に犯される。ただでさえ倒錯した状況を加熱させているのは、その場に立ち尽くしているリリィの視線だった。
(やだ……! なんで、そんな目で見てるんだよ、リリィ……あたし、こんなに嫌がってるのに……!)
頬を紅潮させるリリィの瞳は、きらきらと潤んでいた。生えていないゴズメルが、生えているゴズメルに襲われている。愛するゴズメルが濃厚に絡み合う姿から、リリィは目を離せないのだった。
「おっ……おううっ……!」
ゴズメルの喉から低い喘ぎが漏れる。
ピンク色の角を、邪魔とばかりにガジガジとかじられている。
(こ、こいつ本当に、あたしのからだに戻ろうとしてやがる……んもうっ、バカッ! ラーメン臭いチンポこすりつけてくんなっ、ヘンタイッ、ヘンタイ偽物チンポっ)
いたぶるような愛撫に、ゴズメルは自分を感じた。いつも『あたしに逆らうんじゃない』と思いながら、リリィをいじめているのだ。日頃の鬼畜な所業がまさか自分に返ってくるとは思わない。完全に自業自得である。
「ヤダッ、やめろってばあ、あ、あ!」
胸を反らした拍子に、がばっと羽交い絞めにされてしまう。
「ふわああああんっ」
両膝に足をかけて、左右に割り開かれる。リリィに強制M字開脚を見せつける羽目になり、ゴズメルは半泣きだった。巨尻が無理な体勢をとったせいで、バツンとズボンの股が裂けてしまった。
「やらっ、やらぁんっ、ンッ、えぶぅっ」
スーッと自分そっくりの太い指が、ぷっくりとした股のふくらみを撫で上げていく。ゴズメルはヤダヤダともがいたが、今になって痺れ薬が効いてきて、うまく抵抗できなかった。
それというのも、リリィが恋人の痴態を悦んでいるからだ。こくりと白いのどを上下させ、「きもちいいの? ゴズメル……」などと尋ねてくる。
「きもちくないっ! やだっ、こんなのヤダーッ!」
「でもあなた、お股が濡れているじゃないの……」
リリィの言うとおりだった。グレーの下着の中央に、I字のシミがくっきりと浮き上がっている。そのうえ元から大振りなクリトリスがピンピンに自己を主張していた。
「ひぁああ……あぁあ……」
ゴズメルⅡの人差し指にしゅっしゅっと擦られると、シミはますます濃く、クリトリスはさらに肥大化する。ゴズメルは我知らず腰をくねらせてしまっていた。ジンジンと痛む乳首をぎゅうとつねられると、頭がバカになったみたいに気持ちいいのである。
「ね、感じるのでしょう、ゴズメル……おまんこをこんなに卑猥に突き出してメスアピールしているのだもの……」
「してにゃいっ、やら、見んな、見りゅなああっ、んぎゅっ」
角と角が擦れ合う。ゴズメルは驚愕のあまり両目を見開いてしまった。唇が柔らかいものに触れている。
自分と自分が、キスしている。
(うそ、こんなの……)
ぬろぉっと舌が入り込んできて、ゴズメルは気を失いそうになる。濃厚なラーメンの味がする。
(食べたかったけど、あたし、むしろ、食べられてりゅっ……!)
ぢゅぽっぢゅぽっと長い舌で咥内を犯される。リリィが、見ているのに。
「んぉォっ、おぉっ、おっ……!」
びしょびしょの下着は、あっさりと爪で裂かれた。巨乳を乳絞りされながら、ゴズメルはみっともなく腰を前後に振ってしまう。曲げた人差し指の関節をクリトリスに押し込まれると、全身に怖いくらいの快感が響く。
「ひもぢっ、やらぁん、まんこっ、自分相手なのにまんこひもぢぃっ」
「気持ちいいのね、ゴズメル……」
「やらっ、リリィ、リリィ、たひゅけてっ、まんこホジホジされるのひもぢぃっ、イぎだぐにゃいのにっ、おまんこっ、偽物チンポにまんこにされりゅッ! だひゅげで、やら、やらぁあっ!」
泣きべそをかきながら助けを求めるゴズメルを、リリィはうっとりと見つめている。ゴズメルⅡはリリィに興味を示さなかった。リリィがゴズメルにキスをしても、だ。
「大丈夫よ、ゴズメル、大丈夫。自分相手の性行為を私は浮気とは思わないわ……」
「そ、そーいうモンダイじゃ、にゃひいいいんっ」
四つん這いにさせられるゴズメルに、リリィは何度もキスした。いきりたったゴズメルⅡの男根が尻にこすりつけられているというのに、止めてくれる気配がない。ゴズメルは涙をだばだばと流しながらリリィに泣きついた。
「お願いだからはやくたすけて! あんた以外とセックスしたくないの!!」
「あぁ、ゴズメル・・・! そうよね、ごめんなさいっ」
リリィはやっと武器を出してくれたが、それより先にゴズメルⅡが倒れこんできた。ドロッと熱いものを背筋に感じて、ゴズメルは泣き叫んだ。
「うぎゃーっ! なに!? なにが起こってんの!?」
ジタバタと暴れて、やっとのことでゴズメルⅡの下から這い出すと――そこにはカトーが立っていた。
「……んっ? なんでもう一匹いるんだ?」
「カトー、なんてことを! そっちは僕の作ったゴズメルⅡだよ!」
「ああ、悪い悪い。重なっててわかんなかったんだよ。……止血すればまだ持つんじゃねーか?」
カトーは大剣から血糊を払った。剣を抜かれたゴズメルⅡがドサッと崩れ落ちる。ゴズメルには、それが未来の自分の姿に見えて仕方なかった。
「こっちの乳と股を放り出してるほうを始末すればいいのか」
カトーは大剣の柄でトントンと自分の肩を叩いた。
「やれやれ。なんでそんなバカみたいなカッコしてんだ?」
足元には機械で作られた巨大迷路が広がっている。
俯瞰すれば出口までの道は一目瞭然だが、迷路の中にいるミノタウロス族は、壁にぶちあたるたびにオロオロしている。中には疲れ果てて眠っている者もいた。
「……あれは何をしているの」
「プレイヤーの機能訓練」
マリアの隣では、カトーが立っていた。彼が手の中の石板を操作すると、迷路のかたちが変化する。宝箱の中には食料のほかにも脱出のためのアイテムがあるのだが、種族語をとられたミノタウロスたちは、うまくものを考えることができない。落ち着かない様子で歩き回っては元の場所に戻ってきてしまっていた。
「リーが下手な調整したせいで、目の前に他種族がいると殴りかかるようになっちまったからな。まずは同種でコミュニケーションをとれるように工夫してんだよ」
「……壁を壊そうとは思わないのかしら」
「壊せる設定にしてない。そういうゲームだ」
「ゲーム?」
「仲間と協力しながら、工夫して迷路から出ましょう、ってゲーム。いちおうレベルは下げてるんだが、まさかここまで知能が低いとは思わなかったぜ……精神薬も投与してるから、その影響も出てんのかねえ」
「…………」
「ゲームの中でゲームさせるってのも乙だろ?」
マリアは物憂げな表情でミノタウロス族を見下ろしている。カトーは肩をすくめた。
「もう仕事には復帰できそうか? 副会長」
「……別に。いい機会だから骨休めさせてもらっているだけだわ」
ジロッと横目でカトーをにらむ。
「あなたがサボる心配さえなければ、バカンスにでも行くところなのだけど」
「ハハ、傷心旅行か?」
「なんですって」
「怒るなよ。やめとけって言ってんだ。アジリニが不安定な今、登録済みの神殿を離れるのは危険すぎる」
カトーは手の中の石板を示してみせた。
「ノァズァークはプレイヤーの夢を見る力で稼働している。現時点でシステムにでかい負荷をかけているのは、ここにいるミノタウロス族たちだ。とっとと共用語に慣れて、一般的な生活に慣れてもらわないと困るんだよ」
「一般的な生活……」
「まともな神殿で住民登録して仕事してメシ食って人間関係つくるってこった」
深夜だというのに研究所で働いているカトーがそれを言うのは、奇妙だった。
だが彼はそれを当然のことと思っているらしい。
「とにかく喋れるようになってもらわないと、プレイヤー同士の夢と夢がうまく噛み合わなくなる。腕力で解決しようとするやつが増えれば、戦争のリスクも上がるからなー」
「戦争?」
「冗談よしてほしいぜ。社員はみんな戦争には飽き飽きしてるってのに」
戦争を知らないマリアには、カトーの言っていることの意味はよくわからなかった。
確かなのは、ノァズァークを支配しているのは社員ということだった。社員は羊を牧す羊飼いのようにプレイヤーを正しい方向へ導き、彼らに夢を見させ続けているのだ。自由意志を、少しずつ奪いながら。
マリアはリーやカトーの行いを間違っているとは思わない。足元のミノタウロス族たちは疲弊して見えるけれど、元をたどれば彼らが独自の言語を作り出したのが悪い。
それなのに、マリアの心にはどんよりとした暗雲が立ち込めていた。もしもあそこに閉じ込められているのがゴズメルだったらと思うと、非常に落ち着かない気分になるのである。
「……?」
階下を観察していたマリアは、オスのミノタウロスがこちらを見上げていることに気が付いた。
「カトー、あのミノタウロスは私たちを見ているのではない?」
「いや? 向こうからはこっちを視認できないはずだぜ」
カトーは石板越しに、オスのミノタウロスを確認した。と、唐突に笑い出す。
「ハハッ、俺が倒した怪物の子供じゃねーか! なんだあの間抜け面は」
それはサゴンだった。首をかしげ、ぽかんと口を開けて立っている。その様子は、確かに間抜けとしか言いようがなかった。マリアは瞬いた。ゴズメルの、血を分けた兄だ。
「……彼だけは個別に対応してあげたほうがいいのではない?」
「なんで?」
「だって……こちらに気づいているようだし、何をやらかすかわからないわ」
「うん、面白いよな。ああいうヤツがいるとゲームが盛り上がるんだ」
「…………」
カトーはサゴンをなんの脅威ともみなしていないのだった。浮かない顔のマリアに「安心しろって」と言う。
「データによると、あいつはここに来てから一言も言葉を発していないらしい。あの顔見たってわかるだろ、なんも考えてねーよ」
「でも……」
「ん? なんだ、フラれた相手の兄貴と仲良くなりたいのか?」
「そんなこと言ってないでしょう!?」
「おっと」
難なくマリアをかわして、カトーはセルフォンの通知をチェックした。片眉をあげて「来たか」と言う。
「ちょっと、どこへ行くの。また仕事を放り出すつもりっ?」
「別件だよ」
怒り出すマリアに、カトーは石板を押し付けた。
「適当に見といてくれ。変なとこいじるなよ・・・つっても社員のパスがなきゃ大した操作はできないか」
カトーは最後にもう一度、ガラスの向こうを確認した。サゴンは微動だにせずこちらを見上げ続けている。
◇◆◇
ゴズメルとリリィは、赤面していた。
湯気の中から姿を現した新しいゴズメル――ゴズメルⅡは、一糸まとわぬ裸だった。
「な、な、なんで……」
ゴズメルは思わずリーの胸倉を掴んで揺さぶった。
「なんでチンポ丸出しなんだよっ! エッチ、バカ、ヘンタイ!」
「バカはそっちだ、赤ん坊が生まれた時から服を着ているわけがないだろう!」
「違うっ、なんで生えてんのかって聞いてんだよ! だいたい、あの挙動は……」
生まれたてのゴズメルⅡは、なんだか困っているように見えた。両腕で胸と股を押さえ、キョロキョロと周囲を見回している。
「ココ、ドコ? ワタシ、ダレ・・・?」
くすんくすんと啜り泣いている。片方の角から実体化した複製体は、記憶があいまいらしかった。
ゴズメルは裸の自分を見ているような気がして、猛烈にいたたまれない気分になる。リーは知らん顔だ。
「生えてるほうがセックスしやすいじゃないか。マリアちゃんが不要だと判断すれば切除すればいいし」
「あ、あんたは、ひとのからだを一体なんだと……!」
「ひとのからだァ・・・!? 撤回してもらおうか、あれこそが君の本物なんだ、マリアちゃんを愛さなかった時点で、君のほうこそ偽物のゴズメルじゃないか!」
「誰が偽物だごらぁ!」
怒鳴りあう二人に、ゴズメルⅡはよちよちと近づいて来た。
「ママ、ママ」
「あ!?」
それは一体どっちのことだーー。ゴズメルが反応を示すより先に、リーが声を張り上げた。
「そうだ、ゴズメルⅡ! ここにいる偽物を倒し、君こそが本物であると示すんだ」
「あぁっ!? やんのか? そっちこそあたしの角を返せっ、偽物が!」
「ママ、ママ」
斧を構えるゴズメルは、未知の事態に震えていた。
そっくりすぎて、まるで風呂上りに鏡を見ているみたいな気分になる。ラーメンスープから上がったゴズメルⅡの体は、油を塗ったようにテカテカしている。
(こ、こいつの角を折る……!? ええええっ、なんか、キモチワル……)
戸惑うゴズメルを、リリィは応援した。
「ゴズメル、わざわざ角を折る必要はないわ! 無力化すればいいだけ」
「無力化、ったって……」
怯んだ隙を突いて、ゴズメルⅡは距離を詰めてきた。どうやらママというのは本体のゴズメルのことらしい。作り主であるリーには見向きもしなかった。
研究者のリーはさっそく実験体の記録をとりはじめる。
「これはすごい発見だ! 角から生まれたゴズメルⅡは、本能的に持ち主のもとへ戻ろうとしているんだ!」
持ち主のもとへ戻る。それがどういう意味なのか、ゴズメルは身をもって知ることになった。
「ぎゃーっ!」
「ママ!」
ゴズメルⅡは、ゴズメルの斧を恐れることなく抱き着いてきた。
「ちょ、ちょっと、コイツなんで勃起してんだ!? ヤダッ、やだあああ!」
当然突き放そうとするのだが、油がヌルヌルして掴めない。弱腰になるゴズメルに対し、ゴズメルⅡは猛然と攻めてきた。たくましい両腕でゴズメルを力強く抱き、とうとう押し倒してしまう。
「ママ!」
「ギャンッ!」
下敷きになったゴズメルは防戦一方である。
腹這いになって逃げようとするのだが、かえって服の胸部を破られてしまう。
「イヤアアア!」
剥き出しになった胸に吸い付かれて、ゴズメルは半狂乱だった。
自分の分身に犯される。ただでさえ倒錯した状況を加熱させているのは、その場に立ち尽くしているリリィの視線だった。
(やだ……! なんで、そんな目で見てるんだよ、リリィ……あたし、こんなに嫌がってるのに……!)
頬を紅潮させるリリィの瞳は、きらきらと潤んでいた。生えていないゴズメルが、生えているゴズメルに襲われている。愛するゴズメルが濃厚に絡み合う姿から、リリィは目を離せないのだった。
「おっ……おううっ……!」
ゴズメルの喉から低い喘ぎが漏れる。
ピンク色の角を、邪魔とばかりにガジガジとかじられている。
(こ、こいつ本当に、あたしのからだに戻ろうとしてやがる……んもうっ、バカッ! ラーメン臭いチンポこすりつけてくんなっ、ヘンタイッ、ヘンタイ偽物チンポっ)
いたぶるような愛撫に、ゴズメルは自分を感じた。いつも『あたしに逆らうんじゃない』と思いながら、リリィをいじめているのだ。日頃の鬼畜な所業がまさか自分に返ってくるとは思わない。完全に自業自得である。
「ヤダッ、やめろってばあ、あ、あ!」
胸を反らした拍子に、がばっと羽交い絞めにされてしまう。
「ふわああああんっ」
両膝に足をかけて、左右に割り開かれる。リリィに強制M字開脚を見せつける羽目になり、ゴズメルは半泣きだった。巨尻が無理な体勢をとったせいで、バツンとズボンの股が裂けてしまった。
「やらっ、やらぁんっ、ンッ、えぶぅっ」
スーッと自分そっくりの太い指が、ぷっくりとした股のふくらみを撫で上げていく。ゴズメルはヤダヤダともがいたが、今になって痺れ薬が効いてきて、うまく抵抗できなかった。
それというのも、リリィが恋人の痴態を悦んでいるからだ。こくりと白いのどを上下させ、「きもちいいの? ゴズメル……」などと尋ねてくる。
「きもちくないっ! やだっ、こんなのヤダーッ!」
「でもあなた、お股が濡れているじゃないの……」
リリィの言うとおりだった。グレーの下着の中央に、I字のシミがくっきりと浮き上がっている。そのうえ元から大振りなクリトリスがピンピンに自己を主張していた。
「ひぁああ……あぁあ……」
ゴズメルⅡの人差し指にしゅっしゅっと擦られると、シミはますます濃く、クリトリスはさらに肥大化する。ゴズメルは我知らず腰をくねらせてしまっていた。ジンジンと痛む乳首をぎゅうとつねられると、頭がバカになったみたいに気持ちいいのである。
「ね、感じるのでしょう、ゴズメル……おまんこをこんなに卑猥に突き出してメスアピールしているのだもの……」
「してにゃいっ、やら、見んな、見りゅなああっ、んぎゅっ」
角と角が擦れ合う。ゴズメルは驚愕のあまり両目を見開いてしまった。唇が柔らかいものに触れている。
自分と自分が、キスしている。
(うそ、こんなの……)
ぬろぉっと舌が入り込んできて、ゴズメルは気を失いそうになる。濃厚なラーメンの味がする。
(食べたかったけど、あたし、むしろ、食べられてりゅっ……!)
ぢゅぽっぢゅぽっと長い舌で咥内を犯される。リリィが、見ているのに。
「んぉォっ、おぉっ、おっ……!」
びしょびしょの下着は、あっさりと爪で裂かれた。巨乳を乳絞りされながら、ゴズメルはみっともなく腰を前後に振ってしまう。曲げた人差し指の関節をクリトリスに押し込まれると、全身に怖いくらいの快感が響く。
「ひもぢっ、やらぁん、まんこっ、自分相手なのにまんこひもぢぃっ」
「気持ちいいのね、ゴズメル……」
「やらっ、リリィ、リリィ、たひゅけてっ、まんこホジホジされるのひもぢぃっ、イぎだぐにゃいのにっ、おまんこっ、偽物チンポにまんこにされりゅッ! だひゅげで、やら、やらぁあっ!」
泣きべそをかきながら助けを求めるゴズメルを、リリィはうっとりと見つめている。ゴズメルⅡはリリィに興味を示さなかった。リリィがゴズメルにキスをしても、だ。
「大丈夫よ、ゴズメル、大丈夫。自分相手の性行為を私は浮気とは思わないわ……」
「そ、そーいうモンダイじゃ、にゃひいいいんっ」
四つん這いにさせられるゴズメルに、リリィは何度もキスした。いきりたったゴズメルⅡの男根が尻にこすりつけられているというのに、止めてくれる気配がない。ゴズメルは涙をだばだばと流しながらリリィに泣きついた。
「お願いだからはやくたすけて! あんた以外とセックスしたくないの!!」
「あぁ、ゴズメル・・・! そうよね、ごめんなさいっ」
リリィはやっと武器を出してくれたが、それより先にゴズメルⅡが倒れこんできた。ドロッと熱いものを背筋に感じて、ゴズメルは泣き叫んだ。
「うぎゃーっ! なに!? なにが起こってんの!?」
ジタバタと暴れて、やっとのことでゴズメルⅡの下から這い出すと――そこにはカトーが立っていた。
「……んっ? なんでもう一匹いるんだ?」
「カトー、なんてことを! そっちは僕の作ったゴズメルⅡだよ!」
「ああ、悪い悪い。重なっててわかんなかったんだよ。……止血すればまだ持つんじゃねーか?」
カトーは大剣から血糊を払った。剣を抜かれたゴズメルⅡがドサッと崩れ落ちる。ゴズメルには、それが未来の自分の姿に見えて仕方なかった。
「こっちの乳と股を放り出してるほうを始末すればいいのか」
カトーは大剣の柄でトントンと自分の肩を叩いた。
「やれやれ。なんでそんなバカみたいなカッコしてんだ?」
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