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20.夢物語(R15性表現)

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 しかしからだの異常にかまけている場合でもなかった。食事が済んでナギとムクゲの二人が去った後も、来客は続いた。そのうちのひとり、ダマキには「サゴンのことを何か知りませんか」と聞かれた。

 ゴズメルは「それ誰!?」と聞き返してしまった。

 サゴンはゴズメルの兄の一人で、冒険者協会に連れて行かれてしまったらしい。

「私たちの長が倒れた時、彼が前に出て戦ってくれたから、ミギワも冷静になって退くことを考えてくれたのです」

「ミギワってのは、あんたの旦那さんで、あたしのもう一人の兄貴なんだね」

「そうです、ゴズメル……ああ……あなた、なんてかわいそうに……」

 ダマキに急に手をとられて、ゴズメルはびっくりした。

「みんな、あなたのことを心配していたんです。きっとサゴンやほかの仲間と一緒にいるのだと思っていたのに、ひとりぼっちで、角をこんなにされて……そのうえ、本当になにもかも忘れてしまったなんて……」

「え、ええっと……」

 ゴズメルは、なんだか自分のことじゃないみたいな気がした。一度に身内が増えて混乱している。ほかに頼るひとがいないと思って、高層住宅でマリアの召使いをさせられていたのに。

(あたしって、かわいそうだったのかな? マリアの世話は確かに大変だったけど、でも、メシは食わせてもらってたし、部屋だって……)

 それもゴズメルに利用価値があるからこその待遇だったのだろうか。マリアって甘えん坊だなあ、なんて思ってヘラヘラしていた自分がバカみたいだ。

 ダマキは深いため息をついた。

「外の世界を誰よりも怖がっていたサゴンが連れて行かれてしまうなんて、気の毒なことです。ミギワも落ち込んでいます。ここにも一緒に来るよう誘ったのですが、うまく話せないのが気になるみたいで……」

「大丈夫さ。動けるようになったら、あたしから挨拶に行くよ!」

 ゴズメルが元気に言うと、ダマキは小さな笑みを浮かべた。

「……記憶を失くしたのは悲しいことだけど、良い点もありますね。あなたが明るくいてくれて、私はホッとする」

 義理の姉にそう言われて、ゴズメルは大いに照れてしまった。

 悲しみもあれば喜びもある。子供を三人も引き連れた男性が来た時、ゴズメルは飛び上がって驚いた。彼が可愛い赤ん坊を抱いていたからだ。

「あなたの幼馴染、オズヌの子です。彼女も来たがったのですが、まだ体調がよくないので、ボクと子供たちだけで来ました」

「産んだのかい? この地下で……!」

「はい。リリィさんが助けてくれなかったら、無事に生まれて来られなかったと思います。彼女はすごいひとです」

 生まれたての赤ん坊は『自分も歩ける!』と言わんばかりに、父親の腕の中で大暴れしているが、彼がその子を離すことはなかった。三人の子供たちはみんな口をもごもごさせて黙っている。

「この子はきっと、共用語に違和感を持たない最初のミノタウロスですね。それがいいのか悪いのかはわからないけど、この子が生き易いなら、それに越したことはないと思います」

「……言葉は、もう取り戻せないんだろうか?」

「アジリニの決めたことだと、リリィさんのおじさまは言ってました。どうやら、あのひとはアジリニと話ができないか色々と試しているみたいです」

「えっ? アジリニって、神様だろ? 神様と話なんてできるのかい?」

「うーん……ボクにもよくわからない。元気になったらおじさまに直接話を聞いてみるといいと思います」

 もがいても自由になれないことを悔しがって、赤ん坊はフヤフヤと泣き出す。オズヌの夫はその子を「よしよし」とあやしながら、ゴズメルを見た。

「……憶えてないと思うけど、あなたは実のお父さんを目の前で殺されてしまった」

「ああ、うん……どうもそうらしいね……」

「はい。みんな、あなたがショックを受けたんじゃないかと心配していました。でも、クメミ山はもうなくなってしまったけれど、あなたは今も山の子供です。この子やボクと同じ」

 しゃべり方はおぼつかないが、彼はゴズメルを励まそうとしているようだった。

「だいじょうぶ。ネ!」

 ニカッと白い歯を見せてそう言われて、ゴズメルも笑い返した。抱っこさせてもらった赤ん坊はズッシリと重く、大きな焼き芋みたいに温かかった。

(こんなに小さな子だっているんだ。ここのひとたちを放っておくわけにはいかない)

 ひとりになったゴズメルは、腕組みして考えた。リリィは地下の生活を安定させようとがんばっているようだが、外に敵がいる限り落ち着いては暮らせないだろう。

(それにしても、リリィのおじさまってのは一体なにものなんだろう……パトロンみたいな……? いや、まさか……)

 ゴズメルは、リリィと妙齢の紳士の組み合わせを想像して、なんだか嫌な気持ちになった。怪しいスーツの男に、『ミノタウロス族を助けてほしければ……わかるな?』と札束をちらつかされたリリィが『はい、おじさま……』とか言って、泣きながら服を脱ぐのである!!

「うわああああ」

 リリィにマゾっけがあると知っているせいで、妄想に拍車がかかる。(今もあんなことやこんなことをされているんじゃないか!?)ゴズメルは自分の妄想に自分で頭を抱えてしまった。気分は最悪なのに、なぜか股ぐらのイチモツは元気になっている。我ながら意味がわからない。

「く、くそーっ!」

 ゴズメルは思わず寝床を叩いた。清らかで優しいリリィが、自分の知らないところで汚されているかもしれないと思うと、とてもイライラして・・・無性に興奮してしまう。

「あたしとしたことが、こんなキモい妄想で……!」

「どうしたの? ゴズメル」

「!?!?」

 ぎょっとして振り向くと、リリィがいた。考え事をするうちに、すっかり時間が経っていたようだ。ビンの中も暗くなっている。

 ゴズメルは思わず枕を抱えて前を隠した。なんだか気まずくて目を合わせられない。

「は、早かったじゃん……お疲れ……」

「……そうかしら。あなたの体調はどう?」

「ん……」

 リリィが横に座る。かすかな寝床の揺れや、香ってくる髪の匂いに、ゴズメルはドキドキした。(ヤるんだ)と、ゴズメルは思った。

(あたしの体調を気にしながら、ヤれるかどうか様子を見てるんだあ……!)

 もう彼女の一挙一動を、スケベな目でしか見られない。ゴズメルは枕を抱えたまま、カニのような横方向でリリィへにじりよった。リリィは無邪気に「ずいぶん動けるようになったのね」などと喜んでいるが、ゴズメルはもうそれどころではない。

「リリィ、答えてくれ」

 肩に肩がくっつくほど近くに寄って、ゴズメルは尋ねた。

「あ……あんたは、つまり、あたしの恋人だったんだよね?」

 今まで得たすべての情報を総合すると、そういうことになる。

「…………ええ」

「あたしはあんたを実家に紹介しようと連れ帰って来たんだ。そこで冒険者協会に襲われた。違う?」

「……少し違うけど、おおむね合っているわ」

「な、なんで言ってくれなかったの。ただ単に仲のいい冒険者と受付嬢って関係とは、全然違うじゃないか」

「だって……」

 言い淀むリリィの肩を、ゴズメルは掴んでいた。顔を近づけると、自分の息が荒くなっていることを実感する。

「黙ってたってことは、あたしと離れてる間に、違うやつのこと好きになったんじゃないの。その……おじさまってやつのこととか……」

「そんな、違うわ」

「どうだか。あんたはいい子だけど、めちゃくちゃスケベでもあるみたいだからなっ。そ、それでっあたしのこともっ治療にかこつけてっ……!」

「あん、違う……違うぅ……!」

 ハァハァと鼻息荒く尋問されて、リリィもなんとなくその気になってしまうようだった。涙目で首を振りながら、ゴズメルの胸に手を当てている。

「違うわ、ゴズメル。今のあなたが私のことを憶えていなかったから……混乱させたくなくて……」

「混乱ってなに……」

 じわっとリリィの瞳が濡れた。頬に涙が流れる。「マリアさんといるあなたを見たから」と言った。

「…………!?」

「ご、誤解しないで……。私に引き留める権利があるなんて思ってないから……」

 リリィの手が、ゆっくりとゴズメルの胸を離れて、自分の膝に降りる。

「だから私、ちゃんと言ったでしょう……!? あのひとのところに帰りたいなら帰すって……それが今だって別にかまわないのよ。わかってたもの……私は背も低いし角も生えてなくて、あなたにはどうせ釣り合わない……」

「…………」

 ゴズメルが無言でリリィの背中を抱くと、彼女は「やめて、優しくしないで」と泣きながら言った。

「私はあなたを束縛したくないの。あなたのからだを癒したいだけ。鱗粉の力であわよくば取り戻したいなんて思ってない。本当に、そんな汚いこと考えてないんだから……!」

 漏れ出した本音ごと、ゴズメルはリリィを寝床に押し倒した。

「頼むからもっと束縛してくれ」と言って、リリィの唇にキスする。

「あたしを、他の女のところに追いやろうとしないで。リリィ」

 それが魔法の呪文だったのだろうか。リリィの口や喉は、ゆっくりと溶けだした。

「とてもやだった」

 彼女は両手で顔を覆って、かすれた声を漏らした。ゴズメルは穏やかにうなずいた。

「そう。とても嫌だったのか。何が嫌だったの」

「あ、あのひと、あなたを自分のものみたいに触って、キスしてたわ……!」

「うん……」

「ゴズメルは……ゴズメルは、私の恋人なのに……!」

 私の恋人、と言葉にすると同時にリリィの喉が大きくわなないた。ずっとこらえていた思いを吐き出すみたいに嗚咽が漏れだしてくる。

「結婚してくださいって言われたのは私なのに。私、あなたの卵を産ませてもらえる約束だったのよ……あなたはすごく真剣に考えてくれたのに。一緒に大陸を出て、どこかの島で暮らそうって」

 リリィのか細い声は、まるでオルゴールの旋律のように切なかった。ゴズメルは夢物語のように綺麗な景色を思い描いた。白い波が打ち寄せる小さな島で、愛し合うふたりは一緒に暮らしているのだ。砂浜には卵から孵ったらしい赤ちゃんもたくさんいる。本当にたくさんいて、みんなリリィにそっくりだった。

(こういう子たちのためなら、いくらでも働けそうだなあ)とゴズメルは空想する。

 好き勝手にはしゃぐ子供たちを、ゴズメルは一人ずつ抱き上げた。みんなキャッキャ言いながら、ゴズメルの背中や頭にひっついてくる。本当にリリィそっくりな子供たちで、ゴズメルのことが大好きなようだ。

 浜を歩いていくと、大きな巻貝のかたちをした家の前でリリィがシクシクと泣いていた。

「どうしたの」と優しく尋ねると、リリィは「私は自分に都合のいい夢ばかり見てたんだわ」と言った。

 今、彼女は地下の寝床でゴズメルに押し倒されながら同じことを言っている。

「オズヌの出産を手伝って、どんなに大変なことかわかったの。考えなしの私から、神様があなたを取り上げて、もっとふさわしいひとにあげてしまったんだと思った。だから、ぜんぶ自業自得なのよ……!」

「そんなことないよ……」

「どうして……? そうじゃない……」

「だって、あたしは今もあんたの恋人だもの。離れてる間も、ずっと探してたんだよ。リリィ」

 嗚咽を紡ぐリリィの唇に、ゴズメルは自分の唇を重ねた。

「ああ、今すぐ結婚したいよ……」

 勃起した性器をリリィの腿にギュッと押し付ける。

「神様にまだ許可も取ってないのにね。野の獣みたいにあんたを孕ませたい。あんたに種付けして、あたしの卵を抱かせたくてたまらないんだ……リリィ……」
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