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8:あまあまセレナーデ!

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 あれから、ゴズメルはマリアと少し仲良くなれた気がしている。

 ゴズメルが大泣きしたからだろうか、マリアはあまり意地悪を言わなくなった。ゴズメルのほうも、マリアが自分を見つめているのに気がつくと「なんだい? なんでも言っておくれよ」などと、ニコニコとご機嫌うかがいをする。

 喜んで言うことを聞くと思うと、無茶なワガママを言う必要もないのだろうか。マリアは「暇なのかしら? 床でも掃除すればいいじゃない」とか、「光栄に思いなさい。模様替えを手伝わせてあげるわ」とか言った。

「ちょっとそこに座りなさい。あなたはバタバタと立ち歩いてみっともないのよ」などと言うこともあった。それでゴズメルが隣に座ってみると、当然のごとく寄りかかってくるのだ。

 ちょうど角の折れたあたりに銀髪が触れて、くすぐったい。

(こ、これって、なんか、召使いって言うより……仲のいい友達っぽくない!?)

 ゴズメルは素直に嬉しかった。記憶喪失になってからというもの、ずっと気を許せる友達が欲しいと思っていたのだ。考えてみれば立場の違いはあれど、女同士、年も近いし背も同じくらい。しかも角も生えている。マリアは少し気難しいけれど、ゴズメルの友達にぴったりだった。

(記憶をなくす前も、あたしとマリアってこんな感じだったのかなあ)

 いったい、ふたりの出会いのきっかけはなんだったのだろう。副会長に良くしてもらえるくらい、ゴズメルは優れた冒険者だったのだろうか。本当は、ゴズメルはあれこれと尋ねたかった。だが、目を閉じてよりかかってくるマリアの息遣いが、あんまりにも穏やかなものだから、何も聞けなかった。

「マリア。疲れてるなら、ベッドでちゃんと休んだほうがいいよ」

「ん……」

 そう、マリアは多忙な身だった。リーの言った通り、ポップルの研究所は人手不足で大変忙しく、冒険者協会本部にまでしわ寄せが来ているらしい。

 たまの休みにも、こうして家に仕事を持ち帰っている。今はようやくひと段落ついたようだ。ゴズメルは居候兼友達として「よいしょ」と言って、マリアをベッドまで運んであげた。

「うひょー、なんて脚の長さだ……」

 抱き上げて、ここが腰かと思うとなんと腿なのだ。「ふふっ」とマリアが笑ったので、ゴズメルはますますふざけた。

「これにハイヒールなんて履いた日には、屋根もまたげるんじゃないか?」

「ちがう……」

「ホントかい? マリア……」

「ちがうわ……。もう、ばか……」

 耳を甘やかすような囁きに、いつものような棘はなかった。ゴズメルはびっくりする。実際には罵られているのに「すきよ」と言われたような気がしたのだ。相手は同性の友達だというのに、ゴズメルは照れてしまう。

(記憶がないから、女友達ってなんか距離感よくわかんないな……マリアが美人すぎるせいか……)

 おたおたしつつ、マリアをベッドへ寝かせる。手のひらで頭を支えて、枕の上に乗せる時、マリアの両腕がなぜか背中に絡みついてきた。

「なんだい、変な悪ふざけして。もう寝ぼけてるのか」

「……今、私がキスしたら、あなたは死ぬわよ」

「へあっ?」

 いきなり物騒なことを言われて、ゴズメルは混乱した。確かに角の先は胸に触れているが、角度を変えればキスくらいできるだろう。なんの謎かけだろうと首をひねるゴズメルに、マリアは「私の牙には毒があるから」とつぶやいた。

「私が身の危険を強く感じるほどに、毒は私を守ろうと強くなるのよ。ゴズメル、どう? 私が怖いでしょう……?」

「…………えーと。つまり、それは……」

 ゴズメルは考えながら言った。

「今のあんたは、身の危険を感じるほど不愉快な気分だってことかっ?」

 マリアは、手のひらでパンッとゴズメルの顔面をはたいて返事した。違うらしかった。
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