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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
99.大悲呪
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ゴズメルは体勢を崩しながらリリィを呼んだ。飛びついてくるリリィにナギとムクゲが続き、四人はぎゅっと団子になって抱き合った。サゴンだけは棒立ちでいたが、頭上に崩れてくる砂岩を「おお」と言って、手で払った。
揺れの間中、ナギとムクゲは大騒ぎだった。
「なん、なん、なん!? 噴火かねっ?」
「うちら生き埋めになるんかっ? やんたぁ!」
ゴズメルも大パニックだったが、耳元でキャーキャー言われると、かえって落ち着いてくる。噴火とすると大きな火の制御に問題があることになるが、そんな事態は年寄りの昔話にさえ出てこない。
サゴンが傷を負って戻ってきた件もある。ゴズメルはナギとムクゲを両手に抱えた。
「きゃん、ゴズメル姉ちゃ」
「力持ちばい!」
「サゴン、いったんどっか出入口から地上に出よう。嫌な予感がする」
「えぇーっ……」
「『えぇーっ』じゃねえが! なんが不満か! こいつはたぶん、何者かが外部から攻撃を――」
「ゴズメル」
リリィはゴズメルと同じ危惧を抱いているようだった。真剣な面持ちの恋人に、ゴズメルは「あんたもこっち」と、顎で背中を示した。
リリィが負ぶさると、サゴンが渋々というふうに前を歩いた。昨日の今日であまり地上に出ていきたくないようだが、それどころではない。
梯子の前につくと、ナギとムクゲは不安そうにゴズメルを見た。
「ええんかの、うちらまだ岩を自力で閉じられんが」
「非常事態なんだからいいんだよ。サゴン、ぼさっとすんな。何があるかわかんないんだから、あんたが先!」
地鳴りは続いているのだった。サゴンが出入口を開き、ナギとムクゲを引っ張り上げる。ゴズメルはリリィを背負ったまましんがりを務めた。首に回った手が震えていることに、ゴズメルは気が付いていた。
数日ぶりに見る日の光は、目がつぶれそうなほど明るかった。だが、ゴズメルは見た。
「……伏せろ!」
次の瞬間、クメミ山の岩肌を覆う木々が一瞬ではじけ飛んだ。
濛々と上がる土煙の真下にはぽっかりと横穴が空いている。
「あぁっ、お、お山に穴が……!」
痛ましい光景を前に、ナギはムクゲにしがみついた。
「ゴズメル、あれを見て!」
リリィが指を指す。穴の真下の台地に、見覚えのある制服を着た者たちが、虫のように群がってくるのが見えた。
ゴズメルはかすれた声を漏らした。
「冒険者協会だ」
臭い煙が立ち上る中を、つかつかと歩いてくる者がいた。冒険者たちが彼を中心に隊列を組むので、真上からは磁石が砂鉄を引き寄せているように見える。
鳥の巣のようにぼさぼさの金髪、どことなく時代がかったアーマーの背には赤いマントがたなびいている。背負った大剣は剣というより鉄の塊のようだ。
それが冒険者協会本部会長、カトーの姿だった。
カトーは、腰のベルトからチャッと拡声器を取り出して構えた。
音割れした声は、耳をつんざくうるささだった。
『えぇ~クメミ山のミノタウロス族諸君! 貴殿らは完全に包囲されている。大人しく投降すればよし、文句のあるやつは容赦なく叩き潰す!』
「う、うるせぇー! いったいなんなんだあいつは!」
喋り終えても、キーンと機械音がいつまでも響いている。ゴズメルは両手で耳を押さえて叫んだ。
受付嬢の務めと思うのか、リリィは同じようにしつつ答えた。
「冒険者協会の会長さんよ!」
「ええ!」
「大陸制覇者! 冒険記や自伝を山のように出しているわ! アルティカ支部にも毎月送ってくる!」
ナギとムクゲは、声が面白いからかクスクスと笑っている。
サゴンは無表情に立ち尽くしていたが、急にゴズメルの肩を掴んだ。
「ゴズ、こまいの連れて逃げるちゃ」
「はぇっ」
「あの変なやつは、こっちを見ちょる」
そんなわけあるかとゴズメルは思った。距離がかなり離れているのだ。だが、サゴンの言うことは正しかった。
拡声器を下ろしたカトーが、何かを振りかぶる仕草をする。
キラッと空気中に何かが輝く。ゾッとしたゴズメルはこまいの三人を抱え、スライディングしてその場から距離をとる。爆発が起きたのは体感にして三秒後のことだ。恐る恐るふりむくと、崖はえぐれていた。
「なっ……」
こんなの反則だ、とゴズメルは思った。交渉するとか対抗するとかそんなレベルではない。
殲滅に来たとしか思えなかった。
「エリアボスでもあるまいし、なんだあれは……っておいサゴン、あんた何やってんだよっ」
サゴンは聞く耳を持たなかった。不安定な足場からぴょんと下へ飛び降りてしまう。
慌てて崖から顔を突き出したゴズメルは、目を疑った。横穴を出たミノタウロス族たちが、カトーのいる台地に向かって、続々と集まって来ているのだ。
臨戦態勢だった。
(あの脳筋ども、力量差ってものがわからないのか……!?)
顔を土に汚したリリィが「ゴズメル、私たちも行かなくては」と言った。
「えぇっ……!?」
「彼らの目的は、きっと私よ。里のひとたちが戦わずに済むよう交渉できるとしたら、きっと私たちだけ」
「そんなのダメだよ! あんたが捕まっちゃうじゃないか!」
ゴズメルは首を振ったが、ナギとムクゲはリリィに賛成のようだった。
「ゴズメル姉ちゃ、あっちにうちらのお父つぁと母ちゃもおる。近くに行きたいっちゃ」
「お山に悪さするやつは、うちがやっつけてやるばい! んねえ、ねえ」
「…………」
ゴズメルは嘆息した。戦える者は、男も女も闘志剥き出しで台地へ向かっている。ミギワとダマキの姿もある。ミノタウロス族の本能が彼らを駆り立てているとしか思えない。
「……わかった。でも、ここを降りるのは危険すぎる。一緒に裏道を下っていこう」
「うん!」
後のことは、その場で考えるほかなかった。ゴズメルは後ろ髪をひかれる思いで崖を振り向いた。戦線は今のところ膠着して見えた。
揺れの間中、ナギとムクゲは大騒ぎだった。
「なん、なん、なん!? 噴火かねっ?」
「うちら生き埋めになるんかっ? やんたぁ!」
ゴズメルも大パニックだったが、耳元でキャーキャー言われると、かえって落ち着いてくる。噴火とすると大きな火の制御に問題があることになるが、そんな事態は年寄りの昔話にさえ出てこない。
サゴンが傷を負って戻ってきた件もある。ゴズメルはナギとムクゲを両手に抱えた。
「きゃん、ゴズメル姉ちゃ」
「力持ちばい!」
「サゴン、いったんどっか出入口から地上に出よう。嫌な予感がする」
「えぇーっ……」
「『えぇーっ』じゃねえが! なんが不満か! こいつはたぶん、何者かが外部から攻撃を――」
「ゴズメル」
リリィはゴズメルと同じ危惧を抱いているようだった。真剣な面持ちの恋人に、ゴズメルは「あんたもこっち」と、顎で背中を示した。
リリィが負ぶさると、サゴンが渋々というふうに前を歩いた。昨日の今日であまり地上に出ていきたくないようだが、それどころではない。
梯子の前につくと、ナギとムクゲは不安そうにゴズメルを見た。
「ええんかの、うちらまだ岩を自力で閉じられんが」
「非常事態なんだからいいんだよ。サゴン、ぼさっとすんな。何があるかわかんないんだから、あんたが先!」
地鳴りは続いているのだった。サゴンが出入口を開き、ナギとムクゲを引っ張り上げる。ゴズメルはリリィを背負ったまましんがりを務めた。首に回った手が震えていることに、ゴズメルは気が付いていた。
数日ぶりに見る日の光は、目がつぶれそうなほど明るかった。だが、ゴズメルは見た。
「……伏せろ!」
次の瞬間、クメミ山の岩肌を覆う木々が一瞬ではじけ飛んだ。
濛々と上がる土煙の真下にはぽっかりと横穴が空いている。
「あぁっ、お、お山に穴が……!」
痛ましい光景を前に、ナギはムクゲにしがみついた。
「ゴズメル、あれを見て!」
リリィが指を指す。穴の真下の台地に、見覚えのある制服を着た者たちが、虫のように群がってくるのが見えた。
ゴズメルはかすれた声を漏らした。
「冒険者協会だ」
臭い煙が立ち上る中を、つかつかと歩いてくる者がいた。冒険者たちが彼を中心に隊列を組むので、真上からは磁石が砂鉄を引き寄せているように見える。
鳥の巣のようにぼさぼさの金髪、どことなく時代がかったアーマーの背には赤いマントがたなびいている。背負った大剣は剣というより鉄の塊のようだ。
それが冒険者協会本部会長、カトーの姿だった。
カトーは、腰のベルトからチャッと拡声器を取り出して構えた。
音割れした声は、耳をつんざくうるささだった。
『えぇ~クメミ山のミノタウロス族諸君! 貴殿らは完全に包囲されている。大人しく投降すればよし、文句のあるやつは容赦なく叩き潰す!』
「う、うるせぇー! いったいなんなんだあいつは!」
喋り終えても、キーンと機械音がいつまでも響いている。ゴズメルは両手で耳を押さえて叫んだ。
受付嬢の務めと思うのか、リリィは同じようにしつつ答えた。
「冒険者協会の会長さんよ!」
「ええ!」
「大陸制覇者! 冒険記や自伝を山のように出しているわ! アルティカ支部にも毎月送ってくる!」
ナギとムクゲは、声が面白いからかクスクスと笑っている。
サゴンは無表情に立ち尽くしていたが、急にゴズメルの肩を掴んだ。
「ゴズ、こまいの連れて逃げるちゃ」
「はぇっ」
「あの変なやつは、こっちを見ちょる」
そんなわけあるかとゴズメルは思った。距離がかなり離れているのだ。だが、サゴンの言うことは正しかった。
拡声器を下ろしたカトーが、何かを振りかぶる仕草をする。
キラッと空気中に何かが輝く。ゾッとしたゴズメルはこまいの三人を抱え、スライディングしてその場から距離をとる。爆発が起きたのは体感にして三秒後のことだ。恐る恐るふりむくと、崖はえぐれていた。
「なっ……」
こんなの反則だ、とゴズメルは思った。交渉するとか対抗するとかそんなレベルではない。
殲滅に来たとしか思えなかった。
「エリアボスでもあるまいし、なんだあれは……っておいサゴン、あんた何やってんだよっ」
サゴンは聞く耳を持たなかった。不安定な足場からぴょんと下へ飛び降りてしまう。
慌てて崖から顔を突き出したゴズメルは、目を疑った。横穴を出たミノタウロス族たちが、カトーのいる台地に向かって、続々と集まって来ているのだ。
臨戦態勢だった。
(あの脳筋ども、力量差ってものがわからないのか……!?)
顔を土に汚したリリィが「ゴズメル、私たちも行かなくては」と言った。
「えぇっ……!?」
「彼らの目的は、きっと私よ。里のひとたちが戦わずに済むよう交渉できるとしたら、きっと私たちだけ」
「そんなのダメだよ! あんたが捕まっちゃうじゃないか!」
ゴズメルは首を振ったが、ナギとムクゲはリリィに賛成のようだった。
「ゴズメル姉ちゃ、あっちにうちらのお父つぁと母ちゃもおる。近くに行きたいっちゃ」
「お山に悪さするやつは、うちがやっつけてやるばい! んねえ、ねえ」
「…………」
ゴズメルは嘆息した。戦える者は、男も女も闘志剥き出しで台地へ向かっている。ミギワとダマキの姿もある。ミノタウロス族の本能が彼らを駆り立てているとしか思えない。
「……わかった。でも、ここを降りるのは危険すぎる。一緒に裏道を下っていこう」
「うん!」
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