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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
94.浄土
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ゴズメルは探り探り言った。
「あんたがうちの連中と上手くやれているなら、ここの里に身をひそめているのも手だと思ったけれど、周りに好戦的な純種しかいないんじゃ生まれてくる子供がかわいそうだ。……ね、わかってるのかい、リリィ、なんでそうやってフワフワ笑っているんだ」
リリィの微笑は、ミルク色の霧のように甘く、つかみどころがなかった。ゴズメルはつとめて現実的な方針を示すことでその霧を掻き分けようとするのだが、リリィときたらうっとりと夢見る瞳をしている。
自分の肩を掴んだゴズメルの手に頬をすりよせて「そのお話をもっとしてほしいわ」などと言う。
「あなたと私のこれからのお話。うれしい。ゴズメルが私のことで頭をいっぱいにしているわ……」
「あ、あんた、酔ってるね!」
「うん……」
ふにゃふにゃと身を預けてくるリリィに、ゴズメルは「もうっ」と怒った。
だが、ゴズメルも大概だった。腕の中のリリィときたら小さくて、見ているだけでなんだか泣けてくるのだ。
この細腕で恐ろしいグレンに立ち向かってくれたのだ。そう、ロッドを振りかざしてグレンの背中を叩くさまは、まるで干した布団を叩いているみたいだった。
ゴズメルはたまらない気持ちになって、リリィの顔にめちゃくちゃにキスした。
「リリィ、もう、あんたって……あんたって、なんでこんなに可愛いんだ!?!?」
「やぁん、ゴズメル……」
「あぁあコイツ、さてはあたしを置いて寝ちまう気だな! 今のあたしはあんたに何するかわからないってのに、気を許しきってさ……んもう、リリィ、リリィ、好きだ、愛してる……」
リリィは目を閉じたままくすくすと笑っていたが、そのうち笑い声が可愛らしい寝息に変わりはじめた。ゴズメルは裸の恋人の頬と目蓋に優しいキスを落とす。
(本当に、なんて綺麗な子だろう)
ゴズメルはリリィの髪留めをそっと外した。解き放たれた長い髪がシーツに波打つさまは、いくら見ても見飽きない。ゴズメルはベッドに頬杖をついて、じっくりと恋人の姿を眺めた。
そうしているうちに、ゴズメルはだんだんと不安になりはじめた。
リリィを失うのが、怖い。悪いことはまだ何も起こっていない。むしろ幸せの絶頂なのに、こうして見つめているあいだにもリリィが消え失せてしまったら、どうしようかと思う。
(……シャインとかいう連中はまだリリィを狙っているんだ。ああ、あたしは親父にも勝てなかった。誤解が解けたから今もここでこうしていられるけど、次は守り切れないかもしれない。それに、もしリリィが母ちゃみたいに悪い苔に侵されてしまったりしたら、あたしは)
ゴズメルは安心なはずの部屋が、土の壁や寝台が、急に自分たちに向かってぐっと押し寄せてくるような感じがした。もう不安で不安で仕方ない。心配事は雨の日の泥水みたいにとめどなく吹き上がってきた。
(ブランカみたいに、妊娠をきっかけにあたしを嫌いになったら? キースみたいに、結婚しているのに別な相手に惹かれるようになったら? オズヌみたいに、子育てしているところを襲われたら? リリィは両親がいない。そんな悲劇がまた起こらないとも限らない)
ネガティブ思考という泥水で溺れそうになったゴズメルは、いつだったかリリィの言っていたことを思い出した。
『これはもう、本能的な不安なの。あなたが愛してくれるほど、私はそれを失うのが恐ろしいのよ』
リリィもずっと、こんな気持ちだったのだろうか。ゴズメルは震える手でリリィの頬を撫でた。
「……リリィ。あんたは、もうずっと前からあたしのことを本気で好きだったんだね」
ゴズメルは、リリィを起こさないように、優しく言った。誰かを本当に好きになって、愛し合おうとすることは、酒に酔ったみたいに能天気に恋するのとは全然違うことなのだと思った。
すやすやと寝息を立てるリリィの唇に、ゴズメルはキスを落とした。それは触れるだけの静かな口づけだったのだが、リリィは眠り姫のように目蓋を開けた。
「……どうしたの、ゴズメル」
「ううん」
「でもあなた、泣いているわ。また悲しくなってしまったの?」
「ううん、悲しくないよ。あたしね、今、死ぬほど幸せなんだ」
「……?」
「……なんか、おしっこ近くなっちゃった。飲んだせいかな。起こしてごめん」
ゴズメルは恥ずかしくなってきてごまかした。ベッドから起きようとすると「待って」とリリィが引き留めた。
「うん。なに?」
「……お手洗いに行かないでちょうだい。ここでして」
「えっ? なに?」
ゴズメルは本気で聞き返した。リリィがそんなことを言い出すとは思わなかったからだ。裸のリリィにしがみつかれると、それほどでもなかった尿意がどんどん湧き上がってくる。
リリィはゴズメルの腰に足をぎゅっと巻きつけて「このままして」と言った。ゴズメルは言わんとしていることに気が付いて真っ赤になってしまった。
「ちょっと何を言ってんだい! うちの連中に妙なことを吹き込まれたのか!? いいんだよ、あんたはそんなことしなくて! う、うわぁっ」
足に力を入れられると、膀胱が刺激されて漏れそうになる。
「あんたがうちの連中と上手くやれているなら、ここの里に身をひそめているのも手だと思ったけれど、周りに好戦的な純種しかいないんじゃ生まれてくる子供がかわいそうだ。……ね、わかってるのかい、リリィ、なんでそうやってフワフワ笑っているんだ」
リリィの微笑は、ミルク色の霧のように甘く、つかみどころがなかった。ゴズメルはつとめて現実的な方針を示すことでその霧を掻き分けようとするのだが、リリィときたらうっとりと夢見る瞳をしている。
自分の肩を掴んだゴズメルの手に頬をすりよせて「そのお話をもっとしてほしいわ」などと言う。
「あなたと私のこれからのお話。うれしい。ゴズメルが私のことで頭をいっぱいにしているわ……」
「あ、あんた、酔ってるね!」
「うん……」
ふにゃふにゃと身を預けてくるリリィに、ゴズメルは「もうっ」と怒った。
だが、ゴズメルも大概だった。腕の中のリリィときたら小さくて、見ているだけでなんだか泣けてくるのだ。
この細腕で恐ろしいグレンに立ち向かってくれたのだ。そう、ロッドを振りかざしてグレンの背中を叩くさまは、まるで干した布団を叩いているみたいだった。
ゴズメルはたまらない気持ちになって、リリィの顔にめちゃくちゃにキスした。
「リリィ、もう、あんたって……あんたって、なんでこんなに可愛いんだ!?!?」
「やぁん、ゴズメル……」
「あぁあコイツ、さてはあたしを置いて寝ちまう気だな! 今のあたしはあんたに何するかわからないってのに、気を許しきってさ……んもう、リリィ、リリィ、好きだ、愛してる……」
リリィは目を閉じたままくすくすと笑っていたが、そのうち笑い声が可愛らしい寝息に変わりはじめた。ゴズメルは裸の恋人の頬と目蓋に優しいキスを落とす。
(本当に、なんて綺麗な子だろう)
ゴズメルはリリィの髪留めをそっと外した。解き放たれた長い髪がシーツに波打つさまは、いくら見ても見飽きない。ゴズメルはベッドに頬杖をついて、じっくりと恋人の姿を眺めた。
そうしているうちに、ゴズメルはだんだんと不安になりはじめた。
リリィを失うのが、怖い。悪いことはまだ何も起こっていない。むしろ幸せの絶頂なのに、こうして見つめているあいだにもリリィが消え失せてしまったら、どうしようかと思う。
(……シャインとかいう連中はまだリリィを狙っているんだ。ああ、あたしは親父にも勝てなかった。誤解が解けたから今もここでこうしていられるけど、次は守り切れないかもしれない。それに、もしリリィが母ちゃみたいに悪い苔に侵されてしまったりしたら、あたしは)
ゴズメルは安心なはずの部屋が、土の壁や寝台が、急に自分たちに向かってぐっと押し寄せてくるような感じがした。もう不安で不安で仕方ない。心配事は雨の日の泥水みたいにとめどなく吹き上がってきた。
(ブランカみたいに、妊娠をきっかけにあたしを嫌いになったら? キースみたいに、結婚しているのに別な相手に惹かれるようになったら? オズヌみたいに、子育てしているところを襲われたら? リリィは両親がいない。そんな悲劇がまた起こらないとも限らない)
ネガティブ思考という泥水で溺れそうになったゴズメルは、いつだったかリリィの言っていたことを思い出した。
『これはもう、本能的な不安なの。あなたが愛してくれるほど、私はそれを失うのが恐ろしいのよ』
リリィもずっと、こんな気持ちだったのだろうか。ゴズメルは震える手でリリィの頬を撫でた。
「……リリィ。あんたは、もうずっと前からあたしのことを本気で好きだったんだね」
ゴズメルは、リリィを起こさないように、優しく言った。誰かを本当に好きになって、愛し合おうとすることは、酒に酔ったみたいに能天気に恋するのとは全然違うことなのだと思った。
すやすやと寝息を立てるリリィの唇に、ゴズメルはキスを落とした。それは触れるだけの静かな口づけだったのだが、リリィは眠り姫のように目蓋を開けた。
「……どうしたの、ゴズメル」
「ううん」
「でもあなた、泣いているわ。また悲しくなってしまったの?」
「ううん、悲しくないよ。あたしね、今、死ぬほど幸せなんだ」
「……?」
「……なんか、おしっこ近くなっちゃった。飲んだせいかな。起こしてごめん」
ゴズメルは恥ずかしくなってきてごまかした。ベッドから起きようとすると「待って」とリリィが引き留めた。
「うん。なに?」
「……お手洗いに行かないでちょうだい。ここでして」
「えっ? なに?」
ゴズメルは本気で聞き返した。リリィがそんなことを言い出すとは思わなかったからだ。裸のリリィにしがみつかれると、それほどでもなかった尿意がどんどん湧き上がってくる。
リリィはゴズメルの腰に足をぎゅっと巻きつけて「このままして」と言った。ゴズメルは言わんとしていることに気が付いて真っ赤になってしまった。
「ちょっと何を言ってんだい! うちの連中に妙なことを吹き込まれたのか!? いいんだよ、あんたはそんなことしなくて! う、うわぁっ」
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