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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
86.しあってしあって
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ゴズメルは、たいへん疲れた。
ダマキからはああ言われたものの、ゴズメルは自分のせいで痛い目に遭わされたオズヌ一家が心配だった。
それで長の家での酒盛りをこっそり抜け出して、ひとり最下層の様子を見に行ったのだが・・・結果、とんでもない歓迎にあった。
「あっゴズメルが来たちゃ!」
「えい! けっちりの大きなばけもの、やっつけてやるばい!」
「えいえい!」
「痛い痛い、やめとくれよ、もぉー……」
オズヌの三人の子供たちに脛や尻をポカポカとやられて、ゴズメルは涙目になった。地味に痛いし、尻がでかいとか言われると心にくる。
小さな戦士たちにひっ捕らえられ、連れて行かれた先では、オズヌの夫が忙しく立ち働いている。なんでもオズヌは戦闘を見てから寝込んでしまったらしい。
頭に包帯を巻いた父親は、血気盛んな子供たちをまとめて抱き上げてしまった。
「スミマセン、こまいもんの躾がいきとどかないデス」
よそから婿入りした彼は、地上と地下の混ざったような言葉を使う。だが、ミノタウロス族だった。なんとうるさい子供たちを、芋掘りの穴へポイっと放りこんでしまう。
「きゃあああああぁ……」
深い穴の中へ吸い込まれていく三人の悲鳴に、ゴズメルは耳をふさぐ。意外と荒っぽい躾をしているらしい。
「……うん、いや、いいんだけどね。オズヌは具合が悪いのかい」
「ハイ、婆っちゃが看ちょりマス」
「ごめんよ、きっとショックだったんだろう。あたしが世話になったせいで、あんたたちをとんだ目にあわせちまった……」
「?」
頭を下げるゴズメルに、彼は不思議そうに首をかしげた。
「うちのもんは、ボクが上層のひとタチと殴りあったんを誇りに思うちょりマス」
「え」
「弱かもんでも見下さずに死合ってくれる。ボク、クメミ山に来てよかったデス。もっと強ぉなって家を守りマス」
ミノタウロス族がいかに生まれながらの蛮族かということを、ゴズメルはそのセリフで思い知った。『あんたは嫁と子供を残して死ぬとこだったんだぞ!』とつっこみたいところだったが、ここでの異端者はゴズメルのほうだ。
口をつぐめば、穴の中からはドタバタと喧嘩する音が聞こえてくる。グレンやミギワとの血沸き肉躍る立ち合いが、子供たちにはいい刺激になったということなのだろうか。
オズヌは実母に付き添われ、大きな寝台にいた。ゴズメルに気がつくと片目を開けたが、その瞳は潤んでいた。
(オズヌだけは、あたしと同じ気持ちなんだ)
ゴズメルが近づくと、悲しげに手を伸ばしてくる。触れ合ったオズヌの手は、身ごもっているせいか熱っぽかった。
「……どいつもこいつもケンカばっかし。ヌケサクばかりちゃ」
「ごめん、ごめんよ、オズヌ、あたしのせいで」
「この里がおかしいんよ」
オズヌは寂しいのか、ゴズメルの手を自分の角へ引き寄せた。撫でてやると目を閉じる。こんなに大きいのに子供のように可愛い友達に、ゴズメルは泣きたくなる。
「ふふ」とオズヌは目を閉じたままかすれた笑い声を漏らした。
「安心せい。ウチに悪い苔はつかんよ」
「ほんと? オズヌ、なんだかあんた、今にも死んじゃいそうに見えるよ」
「んむむ、腹のなかでな、めっちゃこまいのが『寝れ!寝れ!』ち言うき……」
タイミングよく、オズヌはばかでかいあくびをした。身ごもったメスは家の宝だ。掛け布団がちょっとずれると、母親がすぐに肩までかけてくれる。
オズヌは満足げにムニャムニャ言うと、ゴズメルを小さく手招きして、耳元に囁いた。
「うちの婿殿はまこと心配性でな、うちに毎晩のごとチッチをかけるちゃ」
「……マジで? 昨日も?」
「昨日もよ……自分は頭から血ぃ流しちょるのに、聞きゃせんの。あの逞しか膝でうちをガッチリ捕らえて、うふん……つむじから爪先までたっぷりかけて……後もぜぇんぶ清めてくれて……」
「…………」
そこまで念入りに予防しているのなら、悪い苔がつくはずもなかった。悪い苔の胞子は、どういうわけか尿をかけると死滅するのだ。
女が寄生されやすいとは言うが、男にも伝染る時は伝染る。だからミノタウロス族は結婚式や勝負の後に尿をかけるのは、弱者を思いやる行為なのだと主張してはばからないのだが・・・ゴズメルはこの説をまったく支持しない。
尿をかける行為が本当に有難いことなら、なぜ勝ったほうが負けたほうにかけるのが通例になっているのだ。予防である以上に、屈辱を与えて格付けするための行為だからではないか。
幸せなオズヌは、話しているうちにスヤスヤと寝入ってしまった。
ゴズメルは母親に目で挨拶すると、足音を忍ばせてその場を後にした。
上層に戻る道々でも、里の者たちから続々とケンカをふっかけられた。その中には座敷牢から助け出されたナギとムクゲの姉妹もいた。
コウマチャンを逃がしたことを怒られるのかと思いきや、「あの凄まじか蹴りを教えてくれんね!」「うちとも死合ってくれんね!」と、二人がかりでハッケヨイノコッタノコッタされる。
やっとのことで長の家に戻れば、今度は血まみれのサゴンが待ち構えていた。ゴズメルは知らないふりをして通り過ぎようとしたのだが、パワーとスピードが大幅にアップしたサゴンは見逃してくれなかった。
ゴズメルは仕方なく話しかけたのだが・・・。
「マリアのことは送ってくれたのかい?」
「ウン」
「なんでそんなに血だらけなんだ。登山道で何があった」
「ウン」
もう完全に血に酔ってしまっていて、会話が成立しない。ぼんやりした様子なのに、隙を見せれば即座に掴みかかってきて、ゴズメルはうんざりした。
荒々しいミギワの影にかすみがちだが、サゴンはこうなると本当にしつこい。痛みを感じないかのように防御を捨て、生き血に飢えた獣と化してしまう。
年寄りの話によると、この様子が若い頃のグレンそっくりらしいが、絡まれる側としては厄介としかいいようがない。
ゴズメルはいい加減疲れていたので、後の世話はミギワに任せることにした。逃げるふりをして、追いかけてくるサゴンをミギワにぶつけるのである。
「ワッ! なんちゃかキサンら」
酒盛りの会場になだれこんできた弟妹に、ミギワが大声を上げる。サゴンは聞こえていない。里の者たちに囃し立てられて、ミギワとサゴンは取っ組み合った。
(よっしゃ)
面倒ごとを兄に押し付け、ゴズメルはそそくさと会場を脱け出した。ついでに会場から酒瓶を一本もらっていくことも忘れない。キノコ酒は地下ならではのお楽しみだ。
マリアを送ってきたはずのサゴンが血だらけで戻ってきたことは少し引っかかったが、ゴズメルは楽天的だった。おっちょこちょいのサゴンのことだ。帰りに派手にコケたかどうかしたのだろう。
ダマキからはああ言われたものの、ゴズメルは自分のせいで痛い目に遭わされたオズヌ一家が心配だった。
それで長の家での酒盛りをこっそり抜け出して、ひとり最下層の様子を見に行ったのだが・・・結果、とんでもない歓迎にあった。
「あっゴズメルが来たちゃ!」
「えい! けっちりの大きなばけもの、やっつけてやるばい!」
「えいえい!」
「痛い痛い、やめとくれよ、もぉー……」
オズヌの三人の子供たちに脛や尻をポカポカとやられて、ゴズメルは涙目になった。地味に痛いし、尻がでかいとか言われると心にくる。
小さな戦士たちにひっ捕らえられ、連れて行かれた先では、オズヌの夫が忙しく立ち働いている。なんでもオズヌは戦闘を見てから寝込んでしまったらしい。
頭に包帯を巻いた父親は、血気盛んな子供たちをまとめて抱き上げてしまった。
「スミマセン、こまいもんの躾がいきとどかないデス」
よそから婿入りした彼は、地上と地下の混ざったような言葉を使う。だが、ミノタウロス族だった。なんとうるさい子供たちを、芋掘りの穴へポイっと放りこんでしまう。
「きゃあああああぁ……」
深い穴の中へ吸い込まれていく三人の悲鳴に、ゴズメルは耳をふさぐ。意外と荒っぽい躾をしているらしい。
「……うん、いや、いいんだけどね。オズヌは具合が悪いのかい」
「ハイ、婆っちゃが看ちょりマス」
「ごめんよ、きっとショックだったんだろう。あたしが世話になったせいで、あんたたちをとんだ目にあわせちまった……」
「?」
頭を下げるゴズメルに、彼は不思議そうに首をかしげた。
「うちのもんは、ボクが上層のひとタチと殴りあったんを誇りに思うちょりマス」
「え」
「弱かもんでも見下さずに死合ってくれる。ボク、クメミ山に来てよかったデス。もっと強ぉなって家を守りマス」
ミノタウロス族がいかに生まれながらの蛮族かということを、ゴズメルはそのセリフで思い知った。『あんたは嫁と子供を残して死ぬとこだったんだぞ!』とつっこみたいところだったが、ここでの異端者はゴズメルのほうだ。
口をつぐめば、穴の中からはドタバタと喧嘩する音が聞こえてくる。グレンやミギワとの血沸き肉躍る立ち合いが、子供たちにはいい刺激になったということなのだろうか。
オズヌは実母に付き添われ、大きな寝台にいた。ゴズメルに気がつくと片目を開けたが、その瞳は潤んでいた。
(オズヌだけは、あたしと同じ気持ちなんだ)
ゴズメルが近づくと、悲しげに手を伸ばしてくる。触れ合ったオズヌの手は、身ごもっているせいか熱っぽかった。
「……どいつもこいつもケンカばっかし。ヌケサクばかりちゃ」
「ごめん、ごめんよ、オズヌ、あたしのせいで」
「この里がおかしいんよ」
オズヌは寂しいのか、ゴズメルの手を自分の角へ引き寄せた。撫でてやると目を閉じる。こんなに大きいのに子供のように可愛い友達に、ゴズメルは泣きたくなる。
「ふふ」とオズヌは目を閉じたままかすれた笑い声を漏らした。
「安心せい。ウチに悪い苔はつかんよ」
「ほんと? オズヌ、なんだかあんた、今にも死んじゃいそうに見えるよ」
「んむむ、腹のなかでな、めっちゃこまいのが『寝れ!寝れ!』ち言うき……」
タイミングよく、オズヌはばかでかいあくびをした。身ごもったメスは家の宝だ。掛け布団がちょっとずれると、母親がすぐに肩までかけてくれる。
オズヌは満足げにムニャムニャ言うと、ゴズメルを小さく手招きして、耳元に囁いた。
「うちの婿殿はまこと心配性でな、うちに毎晩のごとチッチをかけるちゃ」
「……マジで? 昨日も?」
「昨日もよ……自分は頭から血ぃ流しちょるのに、聞きゃせんの。あの逞しか膝でうちをガッチリ捕らえて、うふん……つむじから爪先までたっぷりかけて……後もぜぇんぶ清めてくれて……」
「…………」
そこまで念入りに予防しているのなら、悪い苔がつくはずもなかった。悪い苔の胞子は、どういうわけか尿をかけると死滅するのだ。
女が寄生されやすいとは言うが、男にも伝染る時は伝染る。だからミノタウロス族は結婚式や勝負の後に尿をかけるのは、弱者を思いやる行為なのだと主張してはばからないのだが・・・ゴズメルはこの説をまったく支持しない。
尿をかける行為が本当に有難いことなら、なぜ勝ったほうが負けたほうにかけるのが通例になっているのだ。予防である以上に、屈辱を与えて格付けするための行為だからではないか。
幸せなオズヌは、話しているうちにスヤスヤと寝入ってしまった。
ゴズメルは母親に目で挨拶すると、足音を忍ばせてその場を後にした。
上層に戻る道々でも、里の者たちから続々とケンカをふっかけられた。その中には座敷牢から助け出されたナギとムクゲの姉妹もいた。
コウマチャンを逃がしたことを怒られるのかと思いきや、「あの凄まじか蹴りを教えてくれんね!」「うちとも死合ってくれんね!」と、二人がかりでハッケヨイノコッタノコッタされる。
やっとのことで長の家に戻れば、今度は血まみれのサゴンが待ち構えていた。ゴズメルは知らないふりをして通り過ぎようとしたのだが、パワーとスピードが大幅にアップしたサゴンは見逃してくれなかった。
ゴズメルは仕方なく話しかけたのだが・・・。
「マリアのことは送ってくれたのかい?」
「ウン」
「なんでそんなに血だらけなんだ。登山道で何があった」
「ウン」
もう完全に血に酔ってしまっていて、会話が成立しない。ぼんやりした様子なのに、隙を見せれば即座に掴みかかってきて、ゴズメルはうんざりした。
荒々しいミギワの影にかすみがちだが、サゴンはこうなると本当にしつこい。痛みを感じないかのように防御を捨て、生き血に飢えた獣と化してしまう。
年寄りの話によると、この様子が若い頃のグレンそっくりらしいが、絡まれる側としては厄介としかいいようがない。
ゴズメルはいい加減疲れていたので、後の世話はミギワに任せることにした。逃げるふりをして、追いかけてくるサゴンをミギワにぶつけるのである。
「ワッ! なんちゃかキサンら」
酒盛りの会場になだれこんできた弟妹に、ミギワが大声を上げる。サゴンは聞こえていない。里の者たちに囃し立てられて、ミギワとサゴンは取っ組み合った。
(よっしゃ)
面倒ごとを兄に押し付け、ゴズメルはそそくさと会場を脱け出した。ついでに会場から酒瓶を一本もらっていくことも忘れない。キノコ酒は地下ならではのお楽しみだ。
マリアを送ってきたはずのサゴンが血だらけで戻ってきたことは少し引っかかったが、ゴズメルは楽天的だった。おっちょこちょいのサゴンのことだ。帰りに派手にコケたかどうかしたのだろう。
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