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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
83.汀
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ミギワが掴みかかってくる。ゴズメルはその腕をかわし、距離をとった。
斧を出すか一瞬だけ迷い、両の拳を握った。
母を飲み込んだ大きな火の前だ。せめて、ミノタウロスらしく素手で打ち合いたかった。
「……あたしが勝ったら、リリィの居場所を吐いてもらうからな」
構えるゴズメルの前で、ミギワが大きく口をゆがめるのがわかった。続けざまに、ガラガラと轟音が響き渡る。ミギワの哄笑の凄まじさに、ゴズメルは足場が崩れるかと思った。
「キサンがこのミギワに勝てるとでも!?」
「……ッ」
一瞬で距離を詰めてくる。
殴りかかってくる拳の軌道を読み、ゴズメルはすかさずカウンターに転じようとしたが、ミギワの膝が腹にめりこむほうが早かった。
ゴズメルは後ろに飛びかけたが、両足を踏ん張って耐える。
ミギワはゴズメルに激しい猛攻を浴びせた。
「ガキの時分から目障りやった! 弱っちい恥さらしがデカいツラしおって……! もう俺は、キサンを殺しとうて殺しとうて、ギリギリとする……!」
ミギワの大振りがゴズメルの頬に直撃する。
ゴズメルは頭を振って、兄の手を角で叩いた。
「やれるもんならやってみろよっ! このヌケサク!」
「何ちゅう生意気をッ!」
「うぎゃああああ」
うかつに下を向いたのが間違いだった。ゴズメルはガシッと腰を掴まれて、そのまま後ろに投げ飛ばされてしまう。足場があるとわかっていても、噴きあがる炎を見下ろすと身がすくむ。
「挙句の果てに、よそさんに迷惑かけよって! なぬがボウケンシャキョウカイちゃ!」
「!?」
ミギワは落下してきたゴズメルの角を掴み、鉄製の手すりに向かって額を何度も叩きつけた。
「角も生えん他種族を攫って、そのうえ手籠めにしたち聞かされてよ、親父の面目は丸潰れたい! キサンは死ね! 今ここで死ねぇっ!」
・・・なるほど、と鈍い痛みの中でゴズメルは思った。
マリアの話とサゴンの報告が最悪の形で合体した結果、ミギワが怒り狂っているらしい。
さぞ驚いたことだろうとゴズメルは他人事のように思った。
家族からしたら十年以上前に出て行った娘が、手配書に書かれるほどの悪事を働いたことになっているのだ。
そう考えてみると、マリアを「コウマチャン」として飼おうとしていたのも、世間知らずのミノタウロスなりに事態を隠蔽しようとしていたのかもしれない。
だがゴズメルにも言いたいことがあった。
「違う! あたしはリリィを手籠めになんてしてないぞ! あたし達二人はちゃんと愛し合ってて」
「黙れヘンタイ!」
ミギワは聞く耳を持たなかった。彼の中では、もはやゴズメルは性犯罪に手を染めた誘拐犯なのだ。
そしてオズヌ一家は性犯罪者を匿ったのと同じ罪に問われた、ということらしい。
(なるほど、遠くに引き離されたわけだ……。こいつらにとってリリィは気の毒な被害者なのか)
ゴズメルはだんだん腹が立ってきた。ミギワの脇腹を思い切り蹴とばす。
「ぐっ……!?」
額から鼻から血を流すゴズメルの攻撃力は、極限まで高まっていた。
ミギワの膝をジャンプ台に宙返りして、サマーソルトキックを食らわせる。
ミギワは文字通り、面食らって尻もちをつく。
「……ひとの話も聞かずに憶測でモノ言いやがって、ふざけんじゃないよ」
ゴズメルは暗い影の射す顔でミギワを見下ろした。
「な……っ」
「見た目で関係性を判断すんな! リリィはその気になりゃいつでもあたしを抱けるんだッ! ……どっちかっつーと手籠めにされたのはあたしの方だし……あ、あたしはただ、リリィがちょっとムリヤリっぽくされる方が好きみたいだから……」
「…………」
「ち、違う! そんな変態を見る目で見るなッ! ホントに違うから、リリィはあれで成人してるし、あたしよりよっぽど仕事できるし……いっつも向こうから、もっとシてって、求めてくるし……」
誤解を解くためとはいえ、実の兄に向かって何を赤裸々に報告しているのだろう。
ミギワの冷たいまなざしを浴びて、ゴズメルは真っ赤になってしまう。
(ああ、ここにリリィが居てくれたら……)
きっと、堂々と胸を張って『お兄様、私たち愛し合っているんですの!』と主張してくれるに違いない。いや、恥ずかしがってゴズメルの後ろに隠れてしまうだろうか。
どうすれば愛し合っていることを認めてもらえるのだろうかと、ゴズメルは必死に考えた。一筆書けばいいのだろうか。宣誓でもすればいいのだろうか。それとも、目の前でセックスして見せれば納得してもらえる?
バカバカしい、いったいなんのために。
愛がなくてもセックスできることくらい、ゴズメルも知っている。
唇で乾いた血が痛かった。
のっそりと立ち上がる兄に、ゴズメルは小さな声で打ち明けた。
「……あたしはあの子のことを愛してるし、世界で一番、大事に思ってる」
ジーニョに関係がバレた時より、思いの丈をシラヌイにぶちまけた時より、ゴズメルは緊張していた。
命に係わるからだ。
ミギワは嘘をついたことがない。もし信じてもらえなかったら、ゴズメルは本当にここで死ぬことになるだろう。
死体はきっと、母と同じように、群れに不都合な存在として大きな炎に放り込まれる。
「リリィはあたしの卵を生みたいって言ってくれたよ……あたしも、リリィとの赤ちゃんなら……生んでもいいような気がする。それがこの世界で、どんなに罪深いことだったとしても」
斧を出すか一瞬だけ迷い、両の拳を握った。
母を飲み込んだ大きな火の前だ。せめて、ミノタウロスらしく素手で打ち合いたかった。
「……あたしが勝ったら、リリィの居場所を吐いてもらうからな」
構えるゴズメルの前で、ミギワが大きく口をゆがめるのがわかった。続けざまに、ガラガラと轟音が響き渡る。ミギワの哄笑の凄まじさに、ゴズメルは足場が崩れるかと思った。
「キサンがこのミギワに勝てるとでも!?」
「……ッ」
一瞬で距離を詰めてくる。
殴りかかってくる拳の軌道を読み、ゴズメルはすかさずカウンターに転じようとしたが、ミギワの膝が腹にめりこむほうが早かった。
ゴズメルは後ろに飛びかけたが、両足を踏ん張って耐える。
ミギワはゴズメルに激しい猛攻を浴びせた。
「ガキの時分から目障りやった! 弱っちい恥さらしがデカいツラしおって……! もう俺は、キサンを殺しとうて殺しとうて、ギリギリとする……!」
ミギワの大振りがゴズメルの頬に直撃する。
ゴズメルは頭を振って、兄の手を角で叩いた。
「やれるもんならやってみろよっ! このヌケサク!」
「何ちゅう生意気をッ!」
「うぎゃああああ」
うかつに下を向いたのが間違いだった。ゴズメルはガシッと腰を掴まれて、そのまま後ろに投げ飛ばされてしまう。足場があるとわかっていても、噴きあがる炎を見下ろすと身がすくむ。
「挙句の果てに、よそさんに迷惑かけよって! なぬがボウケンシャキョウカイちゃ!」
「!?」
ミギワは落下してきたゴズメルの角を掴み、鉄製の手すりに向かって額を何度も叩きつけた。
「角も生えん他種族を攫って、そのうえ手籠めにしたち聞かされてよ、親父の面目は丸潰れたい! キサンは死ね! 今ここで死ねぇっ!」
・・・なるほど、と鈍い痛みの中でゴズメルは思った。
マリアの話とサゴンの報告が最悪の形で合体した結果、ミギワが怒り狂っているらしい。
さぞ驚いたことだろうとゴズメルは他人事のように思った。
家族からしたら十年以上前に出て行った娘が、手配書に書かれるほどの悪事を働いたことになっているのだ。
そう考えてみると、マリアを「コウマチャン」として飼おうとしていたのも、世間知らずのミノタウロスなりに事態を隠蔽しようとしていたのかもしれない。
だがゴズメルにも言いたいことがあった。
「違う! あたしはリリィを手籠めになんてしてないぞ! あたし達二人はちゃんと愛し合ってて」
「黙れヘンタイ!」
ミギワは聞く耳を持たなかった。彼の中では、もはやゴズメルは性犯罪に手を染めた誘拐犯なのだ。
そしてオズヌ一家は性犯罪者を匿ったのと同じ罪に問われた、ということらしい。
(なるほど、遠くに引き離されたわけだ……。こいつらにとってリリィは気の毒な被害者なのか)
ゴズメルはだんだん腹が立ってきた。ミギワの脇腹を思い切り蹴とばす。
「ぐっ……!?」
額から鼻から血を流すゴズメルの攻撃力は、極限まで高まっていた。
ミギワの膝をジャンプ台に宙返りして、サマーソルトキックを食らわせる。
ミギワは文字通り、面食らって尻もちをつく。
「……ひとの話も聞かずに憶測でモノ言いやがって、ふざけんじゃないよ」
ゴズメルは暗い影の射す顔でミギワを見下ろした。
「な……っ」
「見た目で関係性を判断すんな! リリィはその気になりゃいつでもあたしを抱けるんだッ! ……どっちかっつーと手籠めにされたのはあたしの方だし……あ、あたしはただ、リリィがちょっとムリヤリっぽくされる方が好きみたいだから……」
「…………」
「ち、違う! そんな変態を見る目で見るなッ! ホントに違うから、リリィはあれで成人してるし、あたしよりよっぽど仕事できるし……いっつも向こうから、もっとシてって、求めてくるし……」
誤解を解くためとはいえ、実の兄に向かって何を赤裸々に報告しているのだろう。
ミギワの冷たいまなざしを浴びて、ゴズメルは真っ赤になってしまう。
(ああ、ここにリリィが居てくれたら……)
きっと、堂々と胸を張って『お兄様、私たち愛し合っているんですの!』と主張してくれるに違いない。いや、恥ずかしがってゴズメルの後ろに隠れてしまうだろうか。
どうすれば愛し合っていることを認めてもらえるのだろうかと、ゴズメルは必死に考えた。一筆書けばいいのだろうか。宣誓でもすればいいのだろうか。それとも、目の前でセックスして見せれば納得してもらえる?
バカバカしい、いったいなんのために。
愛がなくてもセックスできることくらい、ゴズメルも知っている。
唇で乾いた血が痛かった。
のっそりと立ち上がる兄に、ゴズメルは小さな声で打ち明けた。
「……あたしはあの子のことを愛してるし、世界で一番、大事に思ってる」
ジーニョに関係がバレた時より、思いの丈をシラヌイにぶちまけた時より、ゴズメルは緊張していた。
命に係わるからだ。
ミギワは嘘をついたことがない。もし信じてもらえなかったら、ゴズメルは本当にここで死ぬことになるだろう。
死体はきっと、母と同じように、群れに不都合な存在として大きな炎に放り込まれる。
「リリィはあたしの卵を生みたいって言ってくれたよ……あたしも、リリィとの赤ちゃんなら……生んでもいいような気がする。それがこの世界で、どんなに罪深いことだったとしても」
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