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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
82.護摩
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その頃、ゴズメルは迷子になっていた!
こうなったらあえて捕まってやろうと思っていたのに、あの三叉路からどんどん道が入り組んでしまったのだ。リリィを探すどころか、自分がどこにいるのかもわからない有様である。
「あれぇっ、おかしいなあ……。この道はさっきも来たような気がするぞ……」
ゴズメルは不安になると大きな独り言が出るほうだ。
おろおろと歩き回りながら子どもの頃の記憶をひっくり返してみるのだが、自分の目線も変わっているし、離れて暮らすあいだに、穴の中はずいぶん様変わりしていた。最下層とは大違いだ。
「ううう……。リリィ、どこぉ……?」
苔の光が暗くなりはじめた。こんな暗い、誰もいないところで夜明かしなんてしたくない。
ゴズメルは両手で前を探るようにしながら、たったかと先を急いだ。
・・・と、手のひらがかたいものに触る。
(オッ。扉だ)
長屋はだいたい布で仕切られているが、こういった金属製の扉の場合は中央にレバーハンドルがついている。
ゴズメルは深く考えずにハンドルを回して、中の暑さに目を剥いた。
「なんだ、ここは大きな火の部屋じゃないか……」
クメミ山の中で燃える火を制御している部屋だ。この火を各階層に回して十分な温度を維持しているらしい。・・・死体を燃やすのに使うこともあるが。
管理は機械任せだ。暗闇に吹き上がる炎を避けるかたちで、周囲に鉄階段が張り巡らされている。
かなり暑いが、明るいことは間違いない。
誰もいないとわかっていても、ゴズメルはまた暗いところに戻りたくなかった。
鉄階段を降り、落下防止柵の間から炎を見下ろす。しゃがむと、火はますます近くなった。
(母ちゃ……)
母親の死体が、こんな恐ろしい炎の中に放り込まれたのかと思うとゴズメルは悲しくなる。サゴンは墓参りがどうとか言っていたが、そこにもひとかけらの骨も遺ってはいないのだ。
悪い苔に侵されなかったら、きっとまだ生きていたはずだ。
もしあの時、子を孕んでいなかったら。夫であるグレンと愛の営みを持っていなかったら。
(…………)
炎を見つめるゴズメルの心には、さまざまな思いが去来していた。
ゴズメルの父、グレンはミノタウロス族の長だ。長には一族を守る責任がある。
だからと言って赤ん坊もろとも妻を手にかけるなんて、酷すぎるとゴズメルは思う。そのうえ遺体を焼き捨てるなど、絶対にしてはならないことだ。
(でも、他にどうするのが正解だったんだろう)
ゴズメルの鼓膜には、マリアの叫びがこびりついていた。
『社員はみんな、後先考えず恥知らずに交わったプレイヤーの尻拭いをさせられているのよ。あなたやリリィとかいう妖精も同じことよ。あなたたちはまるで当然の権利かのように雑種を生もうとするのだから!』
ひときわ大きく燃え上がる炎が、ゴズメルの角をあぶった。
(好きなひとの子どもを欲しいと思うことが、そんなに悪いことか)
ゴズメルは泣きたくなった。思い浮かぶのは、リリィの可愛い顔ばかりだ。
偽卵を作ろうという話になった時、リリィは『そんなに私が卵を生むのが嫌なの』と悲しそうにした。
求婚すると恥ずかしがって『どうしてそんなこと言うの?』と怒り、だけど、最後にはとうとう大喜びで受け入れてくれた。『あなたとの卵なら百個生みたい』とまで言ってくれたことを、ゴズメルは忘れることができない。
柵に額を押しつけていると、目が乾燥するのかなんなのか、ゴズメルの目には涙が盛り上がった。
(あたしだって、リリィとの赤ちゃんが欲しい)
涙はすぐさま睫毛に向かって蒸発して、ぱちんとシャボン玉が割れるような音を立てる。
ゴズメルはわからなかった。
気持ちがぐちゃぐちゃで、頭は混乱していた。この集落ではさんざん嫌な思いをした。母や妹が死ぬくらいなら、自分が生まれてこなければよかったとさえ思う。
それなのにどうしてリリィを孕ませたい気持ちだけがこんなにハッキリしているのだろう。なんの保証もないのに、リリィをそうできたら、きっと言葉に言い表せないくらい幸福になれると、なぜか確信してしまっている。
炎に焼かれた目がじりじりと痛かった。ゴズメルは真っ赤な目を横へ向けて(あ、)と思った。
「兄つぁ……」
ゴズメルが子供の頃のように呼ぶと、ミギワはしゃくれた顎をますます前へ突き出した。
風を切って歩いてきたと思うと、座った妹のつむじにズガンと拳骨を落とす。
「いだいッ!」
「よそもんが許可なく立ち歩くんじゃ無ぇッしばくぞキサン! なんね、この醜いけっちりは!」
「ひ、ひでぇ……!」
親の仇かのように尻を蹴りまくられ、ゴズメルはヨタヨタと立ち上がった。
ミギワの額には、迷路のような青筋が浮いている。パキパキと指を鳴らして、ゴズメルに胸を打ち付けた。
「シャンとせい。今、決着つけたるき」
こめかみまで続く迷路を見上げ、ゴズメルはゴクリと唾を飲んだ。ミギワは、父に殴られ小便までかけられたことを、ゴズメルのせいだと思っているらしかった。
こうなったらあえて捕まってやろうと思っていたのに、あの三叉路からどんどん道が入り組んでしまったのだ。リリィを探すどころか、自分がどこにいるのかもわからない有様である。
「あれぇっ、おかしいなあ……。この道はさっきも来たような気がするぞ……」
ゴズメルは不安になると大きな独り言が出るほうだ。
おろおろと歩き回りながら子どもの頃の記憶をひっくり返してみるのだが、自分の目線も変わっているし、離れて暮らすあいだに、穴の中はずいぶん様変わりしていた。最下層とは大違いだ。
「ううう……。リリィ、どこぉ……?」
苔の光が暗くなりはじめた。こんな暗い、誰もいないところで夜明かしなんてしたくない。
ゴズメルは両手で前を探るようにしながら、たったかと先を急いだ。
・・・と、手のひらがかたいものに触る。
(オッ。扉だ)
長屋はだいたい布で仕切られているが、こういった金属製の扉の場合は中央にレバーハンドルがついている。
ゴズメルは深く考えずにハンドルを回して、中の暑さに目を剥いた。
「なんだ、ここは大きな火の部屋じゃないか……」
クメミ山の中で燃える火を制御している部屋だ。この火を各階層に回して十分な温度を維持しているらしい。・・・死体を燃やすのに使うこともあるが。
管理は機械任せだ。暗闇に吹き上がる炎を避けるかたちで、周囲に鉄階段が張り巡らされている。
かなり暑いが、明るいことは間違いない。
誰もいないとわかっていても、ゴズメルはまた暗いところに戻りたくなかった。
鉄階段を降り、落下防止柵の間から炎を見下ろす。しゃがむと、火はますます近くなった。
(母ちゃ……)
母親の死体が、こんな恐ろしい炎の中に放り込まれたのかと思うとゴズメルは悲しくなる。サゴンは墓参りがどうとか言っていたが、そこにもひとかけらの骨も遺ってはいないのだ。
悪い苔に侵されなかったら、きっとまだ生きていたはずだ。
もしあの時、子を孕んでいなかったら。夫であるグレンと愛の営みを持っていなかったら。
(…………)
炎を見つめるゴズメルの心には、さまざまな思いが去来していた。
ゴズメルの父、グレンはミノタウロス族の長だ。長には一族を守る責任がある。
だからと言って赤ん坊もろとも妻を手にかけるなんて、酷すぎるとゴズメルは思う。そのうえ遺体を焼き捨てるなど、絶対にしてはならないことだ。
(でも、他にどうするのが正解だったんだろう)
ゴズメルの鼓膜には、マリアの叫びがこびりついていた。
『社員はみんな、後先考えず恥知らずに交わったプレイヤーの尻拭いをさせられているのよ。あなたやリリィとかいう妖精も同じことよ。あなたたちはまるで当然の権利かのように雑種を生もうとするのだから!』
ひときわ大きく燃え上がる炎が、ゴズメルの角をあぶった。
(好きなひとの子どもを欲しいと思うことが、そんなに悪いことか)
ゴズメルは泣きたくなった。思い浮かぶのは、リリィの可愛い顔ばかりだ。
偽卵を作ろうという話になった時、リリィは『そんなに私が卵を生むのが嫌なの』と悲しそうにした。
求婚すると恥ずかしがって『どうしてそんなこと言うの?』と怒り、だけど、最後にはとうとう大喜びで受け入れてくれた。『あなたとの卵なら百個生みたい』とまで言ってくれたことを、ゴズメルは忘れることができない。
柵に額を押しつけていると、目が乾燥するのかなんなのか、ゴズメルの目には涙が盛り上がった。
(あたしだって、リリィとの赤ちゃんが欲しい)
涙はすぐさま睫毛に向かって蒸発して、ぱちんとシャボン玉が割れるような音を立てる。
ゴズメルはわからなかった。
気持ちがぐちゃぐちゃで、頭は混乱していた。この集落ではさんざん嫌な思いをした。母や妹が死ぬくらいなら、自分が生まれてこなければよかったとさえ思う。
それなのにどうしてリリィを孕ませたい気持ちだけがこんなにハッキリしているのだろう。なんの保証もないのに、リリィをそうできたら、きっと言葉に言い表せないくらい幸福になれると、なぜか確信してしまっている。
炎に焼かれた目がじりじりと痛かった。ゴズメルは真っ赤な目を横へ向けて(あ、)と思った。
「兄つぁ……」
ゴズメルが子供の頃のように呼ぶと、ミギワはしゃくれた顎をますます前へ突き出した。
風を切って歩いてきたと思うと、座った妹のつむじにズガンと拳骨を落とす。
「いだいッ!」
「よそもんが許可なく立ち歩くんじゃ無ぇッしばくぞキサン! なんね、この醜いけっちりは!」
「ひ、ひでぇ……!」
親の仇かのように尻を蹴りまくられ、ゴズメルはヨタヨタと立ち上がった。
ミギワの額には、迷路のような青筋が浮いている。パキパキと指を鳴らして、ゴズメルに胸を打ち付けた。
「シャンとせい。今、決着つけたるき」
こめかみまで続く迷路を見上げ、ゴズメルはゴクリと唾を飲んだ。ミギワは、父に殴られ小便までかけられたことを、ゴズメルのせいだと思っているらしかった。
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