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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
74.最低で最悪
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ゴズメルはふにゃふにゃになってしまったリリィの顔と体をお湯で流してやった。
バスタオルでくるんで岩風呂のふちに腰掛けさせる。
「水は。アイテムボックスに持ってるかい」
「はい……お世話させて、ごめんなさい……」
足湯を使うリリィは、まだちんぽ奴隷の気持ちが抜けないらしい。
ゴズメルは肩をすくめて、汚したシーツと枕カバーの手洗いにとりかかった。背中にリリィのじっとりとした視線を感じるが、あんまり帰りが遅くなるとオズヌに笑われてしまうだろう。
リリィが小さな声で言った。
「……まだ、怒っている?」
「別に。あたしは最初から怒ってないし」
お湯の質のせいか、固形石鹸はあまり泡立たない。それでも精液の臭いは落ちるはずだ。
ゴズメルはシーツに石鹸をゴシゴシとこすりつけて洗った。リリィが言わんとしていることはわかっていた。母親のことを思い出してから、なんだかピリピリしているのだ。
「それより、ちゃんと水飲みなよ。あんだけ潮吹いたんだから……」
「ありがとう。……でも、ゴズメルも……」
「ン……」
すごい射精の量だった、と言外に言われて、ゴズメルは口ごもった。
シーツの水気を絞り、手桶の中に放り込む。やっと一仕事終えて、ゴズメルはザブンと温泉に浸かった。
「……やれやれ。地下の風呂は相変わらずだ」
ミノタウロス族は風呂に頓着しない。生まれ持った筋肉のせいか、ぬるいとか熱いとかの違いもわからない――というか、そんな細かいことにこだわるやつは軟弱だと考えているふしがある。最低限、清潔を保てればよいのである。
特にオズヌ一家の使う最下層の温泉も同じことだった。久しぶりに浸かる温泉は苔がヌルヌルしてしょうがない。広々としているけれど、そのぶんお湯のぬるいところと熱いところがまだらになっている。
「ホコラホステルのジャグジーはよかったなぁ。ここはガキの頃から変わらないどころか、古びて悪くなってる気がする」
なんとなく比較して言うと、リリィはほほえんだ。
「私は、ここも同じくらい好きよ」
「えぇ? ……ああ、そうか。あんたはあんまりアルティカから出ないものね。リリィ、世の中にはもっと浸かりがいのあるお風呂がいっぱいあるんだよ」
「そうなのかもしれないけど……ゴズメルが生まれ育ったところだと思うと、格別なの」
「……ふぅん」
ゴズメルは反応に困った。
先ほどのプレイの延長で『奴隷が生意気言うな』などとご主人様ムーブをかませば、リリィもきっと応えてくれるのだろうが、そんなふうに力づくで屈服させたところで、何になるだろう。
「なんかあたし、あんたには一生勝てない気がするな」
「どうしてかしら。あなたの方が私よりもずっと強いわ」
「いや、腕力の問題じゃなくてさ……」
ゴズメルはうまく説明できなかった。叩いて押さえつけて言葉で嬲っても、リリィの心と体はしなやかで、手の中に掴んでおけない気がする。繋いででもそばに置いておきたいと思うのは、だからなのだろうか。
黙り込んだゴズメルに、リリィは小声で言った。
「……実は私、オズヌに焼きもちを焼いていたの」
「えぇ?」
「子どもの頃のあなたを知っているなんて羨ましくて……それに、オズヌはあなたを背負って走れるし……」
「んん……」
独特な妬き方だな、とゴズメルは思った。
「オズヌは友達だよ」と言うと「私はゴズメルの友達になれなかったわ」と返ってくる。
リリィが恥ずかしそうに脚を前後させると、小さな波紋が立った。
「ずっと、ただの仕事相手だったもの。冒険者と、受付嬢のままで……私はあなたが来るのを待っていることしか」
「今は違うだろ」
ゴズメルはリリィをぬるいお湯に引きずり込んだ。
お湯の温度は一定ではない。上が熱くて、下が冷たいのだ。抱きしめた耳元で「うん」とリリィがうなずいた。
体に巻いたタオルがお湯の中でゆらゆらと揺れて、まるで天女の羽衣のようだ。天女は、地下に暮らすミノタウロス族が高い空に憧れて生み出した民間伝承だ。アジリニ神の眷属とか言われている。
「……私があなたの故郷にいるなんて、少し前までは考えられないことだった」
リリィはゴズメルの角にキスした。
「私、ずいぶん遠くまで来てしまったのね……」
「……家に帰りたい?」
「ううん。あなたと一緒にいたいわ。お庭のお花たちのことは、心配だけど……」
そう言ってはにかむリリィに、ゴズメルは目を細めた。
リリィにとってアルティカの家は、祖母との思い出が詰まった場所なのだ。
きっと人心地ついて、旅行気分が抜けてきたのかもしれない。
それでも自分と一緒にいたいと言ってくれるリリィのことを、ゴズメルは愛しく思った。
優しくキスして、言った。
「……立て続けに色々と起きて忙しかったからね。風呂から上がったら、これからのことを相談しようか」
その言葉に、リリィはもじもじと身じろぎした。
「その相談では、赤ちゃんを何人作るのかも決める?」
「リリィ、先に言っとくけどね、兄弟がいたってケンカが増えるだけなんだよ」
ゴズメルは末っ子として意見したが、一人っ子のリリィは「よく想像してみて……」と囁いた。
「ケンカしたぶんだけ、仲直りできると思うの……!」
リリィは夢見るように言った。
けれど現実がそう甘くはないことを、二人はそれからすぐ思い知らされることになった。
「よォ。お帰りィ」
家の前で、オズヌ一家は膝を折って座らされていた。
頭の後ろで手を組まされ、男も女も上着を諸肌脱がされている。
オズヌの老いた両親も子供もぐったりとしていた。夫はうつ伏せに倒れている。血だまりができているのは、きっと鼻血かなにかだ、ゴズメルはそう信じたかったが、オズヌが歯を食いしばって泣いているのを見ると、わからなかった。
一家の前に、金棒を背負ったミノタウロスが立っている。
ゴズメルの長兄にあたる、ミギワだった。
「何、やってんだ……ッ」
「ケジメたい」
怒りを露わにするゴズメルに、ミギワは事もなげに返した。
「じき親父が来るき、無駄死にせんようアタマ潰しちょるが。なん」
「……ッ」
「なん。やけなんなん。きさんは考えなしに勝手におん出て、勝手に戻っていつまでもフラフラフラフラいったい何がしたいちゃ。挙句にこげん最下層で媚び売りよるかッ」
ミギワの怒号に、子供が「ひぃっ」と声にならない声を漏らした。
だがミギワは弱者に頓着せず、まっすぐにゴズメルに歩いてきた。
一歩近づくごとに踏みしめる地面が足形に沈み、粉塵を立てる。
「サゴンが世話になったのぉ。ほれ、俺にもアイサツせんね。ゴズメル」
バスタオルでくるんで岩風呂のふちに腰掛けさせる。
「水は。アイテムボックスに持ってるかい」
「はい……お世話させて、ごめんなさい……」
足湯を使うリリィは、まだちんぽ奴隷の気持ちが抜けないらしい。
ゴズメルは肩をすくめて、汚したシーツと枕カバーの手洗いにとりかかった。背中にリリィのじっとりとした視線を感じるが、あんまり帰りが遅くなるとオズヌに笑われてしまうだろう。
リリィが小さな声で言った。
「……まだ、怒っている?」
「別に。あたしは最初から怒ってないし」
お湯の質のせいか、固形石鹸はあまり泡立たない。それでも精液の臭いは落ちるはずだ。
ゴズメルはシーツに石鹸をゴシゴシとこすりつけて洗った。リリィが言わんとしていることはわかっていた。母親のことを思い出してから、なんだかピリピリしているのだ。
「それより、ちゃんと水飲みなよ。あんだけ潮吹いたんだから……」
「ありがとう。……でも、ゴズメルも……」
「ン……」
すごい射精の量だった、と言外に言われて、ゴズメルは口ごもった。
シーツの水気を絞り、手桶の中に放り込む。やっと一仕事終えて、ゴズメルはザブンと温泉に浸かった。
「……やれやれ。地下の風呂は相変わらずだ」
ミノタウロス族は風呂に頓着しない。生まれ持った筋肉のせいか、ぬるいとか熱いとかの違いもわからない――というか、そんな細かいことにこだわるやつは軟弱だと考えているふしがある。最低限、清潔を保てればよいのである。
特にオズヌ一家の使う最下層の温泉も同じことだった。久しぶりに浸かる温泉は苔がヌルヌルしてしょうがない。広々としているけれど、そのぶんお湯のぬるいところと熱いところがまだらになっている。
「ホコラホステルのジャグジーはよかったなぁ。ここはガキの頃から変わらないどころか、古びて悪くなってる気がする」
なんとなく比較して言うと、リリィはほほえんだ。
「私は、ここも同じくらい好きよ」
「えぇ? ……ああ、そうか。あんたはあんまりアルティカから出ないものね。リリィ、世の中にはもっと浸かりがいのあるお風呂がいっぱいあるんだよ」
「そうなのかもしれないけど……ゴズメルが生まれ育ったところだと思うと、格別なの」
「……ふぅん」
ゴズメルは反応に困った。
先ほどのプレイの延長で『奴隷が生意気言うな』などとご主人様ムーブをかませば、リリィもきっと応えてくれるのだろうが、そんなふうに力づくで屈服させたところで、何になるだろう。
「なんかあたし、あんたには一生勝てない気がするな」
「どうしてかしら。あなたの方が私よりもずっと強いわ」
「いや、腕力の問題じゃなくてさ……」
ゴズメルはうまく説明できなかった。叩いて押さえつけて言葉で嬲っても、リリィの心と体はしなやかで、手の中に掴んでおけない気がする。繋いででもそばに置いておきたいと思うのは、だからなのだろうか。
黙り込んだゴズメルに、リリィは小声で言った。
「……実は私、オズヌに焼きもちを焼いていたの」
「えぇ?」
「子どもの頃のあなたを知っているなんて羨ましくて……それに、オズヌはあなたを背負って走れるし……」
「んん……」
独特な妬き方だな、とゴズメルは思った。
「オズヌは友達だよ」と言うと「私はゴズメルの友達になれなかったわ」と返ってくる。
リリィが恥ずかしそうに脚を前後させると、小さな波紋が立った。
「ずっと、ただの仕事相手だったもの。冒険者と、受付嬢のままで……私はあなたが来るのを待っていることしか」
「今は違うだろ」
ゴズメルはリリィをぬるいお湯に引きずり込んだ。
お湯の温度は一定ではない。上が熱くて、下が冷たいのだ。抱きしめた耳元で「うん」とリリィがうなずいた。
体に巻いたタオルがお湯の中でゆらゆらと揺れて、まるで天女の羽衣のようだ。天女は、地下に暮らすミノタウロス族が高い空に憧れて生み出した民間伝承だ。アジリニ神の眷属とか言われている。
「……私があなたの故郷にいるなんて、少し前までは考えられないことだった」
リリィはゴズメルの角にキスした。
「私、ずいぶん遠くまで来てしまったのね……」
「……家に帰りたい?」
「ううん。あなたと一緒にいたいわ。お庭のお花たちのことは、心配だけど……」
そう言ってはにかむリリィに、ゴズメルは目を細めた。
リリィにとってアルティカの家は、祖母との思い出が詰まった場所なのだ。
きっと人心地ついて、旅行気分が抜けてきたのかもしれない。
それでも自分と一緒にいたいと言ってくれるリリィのことを、ゴズメルは愛しく思った。
優しくキスして、言った。
「……立て続けに色々と起きて忙しかったからね。風呂から上がったら、これからのことを相談しようか」
その言葉に、リリィはもじもじと身じろぎした。
「その相談では、赤ちゃんを何人作るのかも決める?」
「リリィ、先に言っとくけどね、兄弟がいたってケンカが増えるだけなんだよ」
ゴズメルは末っ子として意見したが、一人っ子のリリィは「よく想像してみて……」と囁いた。
「ケンカしたぶんだけ、仲直りできると思うの……!」
リリィは夢見るように言った。
けれど現実がそう甘くはないことを、二人はそれからすぐ思い知らされることになった。
「よォ。お帰りィ」
家の前で、オズヌ一家は膝を折って座らされていた。
頭の後ろで手を組まされ、男も女も上着を諸肌脱がされている。
オズヌの老いた両親も子供もぐったりとしていた。夫はうつ伏せに倒れている。血だまりができているのは、きっと鼻血かなにかだ、ゴズメルはそう信じたかったが、オズヌが歯を食いしばって泣いているのを見ると、わからなかった。
一家の前に、金棒を背負ったミノタウロスが立っている。
ゴズメルの長兄にあたる、ミギワだった。
「何、やってんだ……ッ」
「ケジメたい」
怒りを露わにするゴズメルに、ミギワは事もなげに返した。
「じき親父が来るき、無駄死にせんようアタマ潰しちょるが。なん」
「……ッ」
「なん。やけなんなん。きさんは考えなしに勝手におん出て、勝手に戻っていつまでもフラフラフラフラいったい何がしたいちゃ。挙句にこげん最下層で媚び売りよるかッ」
ミギワの怒号に、子供が「ひぃっ」と声にならない声を漏らした。
だがミギワは弱者に頓着せず、まっすぐにゴズメルに歩いてきた。
一歩近づくごとに踏みしめる地面が足形に沈み、粉塵を立てる。
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