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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編

70.小角

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 目を覚ましたゴズメルはびっくりした。

 胸に抱いていたはずの柔らかくて温かい恋人が、でかい大根に変わっていたのだ。

「!?」

 大根のくせに、白くてツヤのある足が二股に分かれているところが、いやにセクシーだ。

「あぁ、嘘だろう、リリィ……! いったいどんな魔法をかけられたんだ……!?」

 そんなわけがない。

「まぁゴズメル! おはよう……!」

「おぉ! 具合はもうええがか?」

「…………」

 ゴズメルが大根を手に客間を出ると、リリィはオズヌ一家とともに居間でくつろいでいた。

 まとわりついてくる子どもたちに大根を渡すと、ゲラゲラ笑いながら台所へ持っていく。

「なんで妙なイタズラすんだよ……」

「そう変わりないが。白くてすべすべして、髪が緑で」

「あたしのお嫁さんは大根じゃねぇッ」

「ゴズメル、違うのよ。私のためにやってくれたことなの……」

「はぁ……?」

 精魂使い果たして寝落ちしたゴズメルの元から、オズヌが『腹は減らんか?』と言ってリリィを救出した形だった。

「そうちゃ! あんたがしぶとくリリィに食いついとるき、大根を身代わりにしたばい」

「オズヌは私にお風呂まで使わせてくれたのよ。ゴズメル、怒らないで」

 いつの間にか呼び捨てしあっている二人を前にして、ゴズメルは文句も言えなかった。

(いやっ、でも、だからって……)

 ゴズメルが適当に着た服の下には、まだ男性器がぶらさがっている。外の苔の光り方を見る限り、あと半日はこのままだろう。

 ムラムラして仕方ないのに、リリィはオズヌ一家の間に居心地よさそうにおさまっている。

 リリィはおっとりとゴズメルにほほえんだ。

「いま、オズヌのご家族に挨拶していたところなのよ。皆さんとても親切にしてくださって……」

「え? ああ、はい、どうも……すみません、急に押しかけちまって……」

 居間にはオズヌの両親ともう一人、眼鏡をかけた色黒の男がいた。見覚えのない顔だが、向こうはゴズメルを知っているようだ。ゴズメルの会釈に「コンニチワ」と笑顔を返してくる。

 横ですまし顔しているオズヌを、ゴズメルは「おい、ちょっと」と手招きした。

 二人は部屋のすみで短い角を突き合わせてこしょこしょと話した。

「あの男はいったい誰だい。ひょっとして……お婿さん?」

「うふふん……そぉよ……」

「エッ。ってことはやっぱり、さっき大根持って走ってったのは、あんたの……」

「……むふっ、むふふふっ、三人産んだっちゃ」

「嘘ォ……!」

「実は腹の中にも、めっちゃこまいのがおる……」

「えぇーっ」

 太って見えるのは食べすぎのせいばかりでもなかったらしい。妊婦の身で自分を担いだのかと思うと、ゴズメルは「ひええ」としか言えない。これがミノタウロス族の女なのだ・・・!

 オズヌはパツパツに張った尻をくねらせながら言った。

「あんな優しげな顔して、うちの婿殿は獣のごたる。ちっと子が育つとすぐ種を仕込まれて、うちはちんぽを生やすヒマもない。んふっ、んふふっ」

 ミノタウロス族らしいあけすけな物言いにゴズメルは驚いた。だが、愛おしそうに下腹部をさするオズヌを見ると、つられて口がほころぶ。

 むっちりと油の乗った横顔が、実に満足気なのだ。

 ゴズメルが里を出たあとも、地下の集落には時の流れがあったのだ。

「うううん……あんた、チビの時は絶対に結婚なんかしないって言ってたのにねえ……!」

「ウム。まったく奇特な婿殿ちゃ。うちにもうメロメロで……」

 オズヌはいっそう声を低めて言った。

「実はあのひと、地上から婿に来てくれたんよ。親戚がうちのお父つぁと知り合いでな」

「へぇっ」

 地上にもミノタウロス族の集落はいくつかある。大きな戦争が終わったあと地下から出て行った集団がいるのだ。ゴズメルの世代にとっては遠い親戚のような感覚だが、交流は少なかった。

 オズヌは首を縮めて「うちも結婚できるなんて思っとらんかったワ……!」と笑った。

「最下層に住んどるもんに婿の来手なぞない。この里でうちを訪ねて来るなんて、あんたくらいちゃ、ゴズメル」

「……ホォ。じゃ、このあたしと同じくらい趣味のいい男を捕まえたってわけだ。やるじゃないか、オズヌ」

「んふ……!」

 ゴズメルが肘でつつくと、オズヌは両手で口を押えて笑った。

 それは甘いお菓子を頬張ったみたいに幸せいっぱいの笑顔だった。

「オズヌとは、幼馴染なのね?」

「うん。まあ、ここの連中はみんな身内みたいなもんだけどね」

 数刻後、風呂を借りるゴズメルに、リリィはついてきた。風呂は長屋の外にある。

 家族みんなで入れるようにだろう、拡張した痕跡がある。かなり古びていて、ところどころ錆が出ていたり、目隠しにかけてある布がカビていたりするが、温泉は温泉だった。

 昨夜汚したシーツや衣類も洗濯するために脱衣場へ持ち込んだ。これは木造の小屋だが、手入れが行き届いていないようで床に腐っている部分がある。

 ゴズメルはポイッと汚れ物を放り出して服を脱いだ。

「ミノタウロス族は脳筋バカの集まりだけど、いちおう美学みたいなのがあってさ、弱者は強者に絶対服従だけど、強者が弱者を搾取してはならないって決まりがある。だからあたしもオズヌも虐げられていたわけではないんだよ」

「それって……つまり、ミノタウロス族には福祉的な仕組みがあるということよね? すごいわ!」

「うーん、そんないいモンじゃなかったよ。連中にとっちゃ、あたし達は可愛いペットっていうか、便利なアイテムみたいなモンだったんだと思う。親切なところを見せると、仲間内での評価が跳ね上がるのさ」

「それは……」

 リリィは言葉が見つからないようだった。ゴズメルは肩をすくめた。

「そういう中で、少なくともあたしとオズヌは対等だったんだ。同じくらい弱くて、同じくらい役立たず扱いされてた。あたしは実家よりこっちのほうが居心地良かったよ。家族も優しいしさ。……おっと」

 ゴズメルの背中に、リリィは額をつけていた。

「ごめんなさい。あなたがどんな思いをしたかも知らずに、失礼なことを言ったわ」

「……別にいいよ。かっこ悪いと思って、あたしが言わなかったんだ」

「かっこ悪くないわ」

 リリィは、ゴズメルの剥き出しの肩甲骨にキスした。

「……あなたが起きてくるまで、オズヌは自分のお婿さんのことを『うちの婿殿は世界一かっこいい!』と言って、ずっとノロけていたのよ。私は礼儀知らずじゃないから黙って聞いていたけど、本当は違うの」

「ン……ふうん……?」

「あのね、本当はね、世界一かっこいいのは、私の……、あっ」

 まったくオズヌの夫は大した人格者だとゴズメルは思った。ゴズメルは途中まで聞いただけで、もうむらむらとしてしまって、リリィに最後まで言わせることもできなかった。
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