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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
61.Mt.KUMEMI
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いやいやただの心配しすぎだ、とゴズメルは思おうとした。
アルティカを出てから、まだひとりの冒険者の姿も見ていない。
きっとシラヌイやジーニョも裏で動いてくれていることだろうし、たった一日の体調不良をやり過ごせばいいだけだ。無事にクメミ山までたどりつけるに決まっている。
ところが・・・。
「ゴズメル、だいじょうぶ?」
「うーん……」
心配そうに尋ねてくるリリィに、ゴズメルはうなることしかできない。
ホコラホステルを出てから、ゴズメルはすっかり体調不良になってしまった。胸が悪くて、体中が重だるい。
満月を意識したとたんにコレだ。
焚火の煙が立ち上るさきにある月を、ゴズメルは呪わしい思いで見上げた。
二人はテントの前に転がした丸太に腰かけていた。
「なんて冷たい手なの」
色の悪いゴズメルの手を、リリィがさすってくれる。
「もうテントで休んだほうがいいわ。火は私が見ておくから」
「……いいんだ。吐いて寝床を汚すほうが面倒だからね」
「ゴズメル……」
リリィは気の毒そうにゴズメルの背中をさすった。いつもはパリッとしている尻尾も、今は濡れた藁みたいにしょぼくれている。これではハエも払えそうにない。
「……もしもここであなたが倒れたら、私はどうしたらいいのかしら」
リリィは言いながら、ゴズメルの腕の下に頭をくぐらせた。ゴズメルは苦笑した。
「運ぶのは無理だね。そのへんに捨てとくれ」
「そんなことできないわ!」
「なんで? 満月が過ぎたら起き上がるよ。そら、屍人だぞーっ」
ゴズメルはかじりつく真似をしたが、リリィは真剣な面持ちを崩さなかった。ゴズメルの冷たい両手をギュッと握りしめている。
「明日には森を抜けて、ひとの多いところへ行きましょう。あなたは屋根のあるところできちんと休む必要があるわ」
「ダメだよ。冒険者協会の連中が張ってたらどうすんだ」
「私は受付嬢よ。冒険者なんて怖くないわ!」
リリィの凛とした態度に、ゴズメルは痺れた。可愛いローブが受付嬢の制服に見えてくる。
「そんなことより、あなたの体調がどんどん悪くなっていることのほうが怖いの。少なくとも先月はこんなにひどくなかったもの。なにか思い当たる原因はない?」
ゴズメルは目を逸らしただけだったが、リリィは「あるのね」と断じた。
「えーっと、いや、でも、原因っていうか……」
「どんな小さなことでもいいの。教えてちょうだい。私は回復魔法の心得があるし、あなたの助けになるかもしれないでしょう」
ゴズメルはかなり恥ずかしかったが、白状するほかなかった。
「なんていうか、つまり、調子に乗って女の部分を使いすぎてこうなったわけ」
「え?」
「だ、だからーっ! まんこのことだよ! 変なイき方ばっかりしてると、ちんぽが出てくるとき、めちゃくちゃ気持ち悪くなんの!」
静かな夜だった。パチパチと焚火が爆ぜ、どこかでフクロウが鳴く。
リリィは目を丸くしていた。
「えっ? でも、あなた別に変なことなんて、何も……」
「……あんたの股いじってるだけで、軽くイッちゃうことがある」
ゴズメルは気まずさのあまり、ふてくされたような言い方になってしまう。
「フン、あんまりにも頭がバカになってるから、体の方もビックリしてんだろうね。『あれっ?? これホントにちんぽ生やしていいやつ?』ってさ」
「ええと、ごめんなさい、ゴズメル……」
「イヤ謝るのはよしとくれよ! あたしが勝手に気持ちよくなってるだけだってば!」
「違うの」
ぷいっとよそを向いたゴズメルの背中に、リリィは抱きついてきた。細いからだは、ホッとするほど温かかった。
「私、いまそれを聞いて喜んでしまった。あなたはそのせいで体調が悪いというのに」
ゴズメルは面食らった。自分が変なイき方をすると、リリィは嬉しいらしい。
そうなると笑い話にもできず、ゴズメルは赤くなってうつむくほかなかった。
「……私のせいでもあるとしたら、なおさらだわ。早く森を抜けましょう」
「だからダメだってば! あんたは危機感てものがまるでないんだ。こんな状態でケンカになったら、あたし、あんたを簡単にとられちまう。そんなの耐えられないよ!」
「ゴズメル、私を信じて」
ゴズメルが腕を振りほどいて怒鳴っても、リリィは譲らなかった。
「きっと上手くやるわ。アルティカを出た時のこと、覚えてるでしょう? 私のエスコートは悪くなかったはずよ」
大きなエメラルドの瞳が、火の粉に照らされていた。答えられないゴズメルに、優しくほほえんで見せる。
「心配しないで。今日はもうテントで休んだほうがいいわ」
「でも……」
「吐けるように袋を用意してあげる。失敗して汚したってかまわないわ。私が責任を持って綺麗にしますからね」
ゴズメルは、リリィの芯の強さに思いがけなく触れた気がした。いつも物腰が柔らかいのに、いったん自分の領分だと判断すると絶対に譲らないのだ。
そんなリリィに、ゴズメルは逆らえなかった。なんだか子ども扱いされているようで釈然としないのだが、別に悪い気分でもない・・・。
「……なんか、あんたっていいママになりそうだよね」
「本当? 嬉しい」
皮肉にとられるかと思ったが、リリィはにこやかにテントの入り口をめくった。
翌日、登山道に到着した二人は、茂みから外の様子をうかがっていた。
観光客に混ざって、制服姿の冒険者がうじゃうじゃいる。
「……団体で山登りに来たってわけじゃなさそうだね」
ゴズメルは深くため息をついた。
「見なよ、手配書を持って、あれこれ聞いて回っている。あたしたちのことを燻り出すつもりなんだ」
「私、行ってくるわ」
「だから、無理だって……」
「どうして? ほら、すぐそこに宿泊用の山小屋があるわ。冒険者たちを避けて、仲間の具合が悪いから休ませてくださいって言えばいいのよ」
「待って、ダメだ!」
立とうとするリリィの肩をゴズメルは両手で押さえた。
その山小屋から角の生えたバイコーン族、マリアが出てくるのが見えた。山小屋の主人と何やら喋っている。
「……平気よ。あのひとは私とちゃんと会ったことがないもの。きっとごまかせるわ」
リリィはそう言ったが、ゴズメルは彼女の肩が震えていることに気づいていた。
マリア率いる捜索隊には、アルティカ支部の冒険者も加入しているようだ。ごまかせるわけがない。
八方ふさがりの状況に、ゴズメルはますます気分が悪くなってきた。何かいい考えを思いつかなければならないのだが、頭はうまく働かず、からだも動かない。リリィのことでさえ縋り付いて押さえている状態だった。
「……リリィ」
ゴズメルは、これまで頭にぼんやりと思い浮かべては打ち消してきた、ある一つの最悪なアイディアを提案することにした。
プレゼンには、相手の気を惹きつける問いかけが重要だ。ゴズメルは尋ねた。
「なぜクメミ山にはエリアボスがいないか、あんた知ってる?」
「……え? なんの話?」
「答えはね、ここら一帯が野蛮なミノタウロス族の縄張りだからだよ」
ゴズメルはリリィにしがみついたまま、プレゼンを続けた。
「つまり、あたしの古巣ってことだけどね。どう思う? 『ハナクソが何しに帰ってきた!』なんて叩き出されるかもしれないけど、試しに訪ねてみるってのは……」
アルティカを出てから、まだひとりの冒険者の姿も見ていない。
きっとシラヌイやジーニョも裏で動いてくれていることだろうし、たった一日の体調不良をやり過ごせばいいだけだ。無事にクメミ山までたどりつけるに決まっている。
ところが・・・。
「ゴズメル、だいじょうぶ?」
「うーん……」
心配そうに尋ねてくるリリィに、ゴズメルはうなることしかできない。
ホコラホステルを出てから、ゴズメルはすっかり体調不良になってしまった。胸が悪くて、体中が重だるい。
満月を意識したとたんにコレだ。
焚火の煙が立ち上るさきにある月を、ゴズメルは呪わしい思いで見上げた。
二人はテントの前に転がした丸太に腰かけていた。
「なんて冷たい手なの」
色の悪いゴズメルの手を、リリィがさすってくれる。
「もうテントで休んだほうがいいわ。火は私が見ておくから」
「……いいんだ。吐いて寝床を汚すほうが面倒だからね」
「ゴズメル……」
リリィは気の毒そうにゴズメルの背中をさすった。いつもはパリッとしている尻尾も、今は濡れた藁みたいにしょぼくれている。これではハエも払えそうにない。
「……もしもここであなたが倒れたら、私はどうしたらいいのかしら」
リリィは言いながら、ゴズメルの腕の下に頭をくぐらせた。ゴズメルは苦笑した。
「運ぶのは無理だね。そのへんに捨てとくれ」
「そんなことできないわ!」
「なんで? 満月が過ぎたら起き上がるよ。そら、屍人だぞーっ」
ゴズメルはかじりつく真似をしたが、リリィは真剣な面持ちを崩さなかった。ゴズメルの冷たい両手をギュッと握りしめている。
「明日には森を抜けて、ひとの多いところへ行きましょう。あなたは屋根のあるところできちんと休む必要があるわ」
「ダメだよ。冒険者協会の連中が張ってたらどうすんだ」
「私は受付嬢よ。冒険者なんて怖くないわ!」
リリィの凛とした態度に、ゴズメルは痺れた。可愛いローブが受付嬢の制服に見えてくる。
「そんなことより、あなたの体調がどんどん悪くなっていることのほうが怖いの。少なくとも先月はこんなにひどくなかったもの。なにか思い当たる原因はない?」
ゴズメルは目を逸らしただけだったが、リリィは「あるのね」と断じた。
「えーっと、いや、でも、原因っていうか……」
「どんな小さなことでもいいの。教えてちょうだい。私は回復魔法の心得があるし、あなたの助けになるかもしれないでしょう」
ゴズメルはかなり恥ずかしかったが、白状するほかなかった。
「なんていうか、つまり、調子に乗って女の部分を使いすぎてこうなったわけ」
「え?」
「だ、だからーっ! まんこのことだよ! 変なイき方ばっかりしてると、ちんぽが出てくるとき、めちゃくちゃ気持ち悪くなんの!」
静かな夜だった。パチパチと焚火が爆ぜ、どこかでフクロウが鳴く。
リリィは目を丸くしていた。
「えっ? でも、あなた別に変なことなんて、何も……」
「……あんたの股いじってるだけで、軽くイッちゃうことがある」
ゴズメルは気まずさのあまり、ふてくされたような言い方になってしまう。
「フン、あんまりにも頭がバカになってるから、体の方もビックリしてんだろうね。『あれっ?? これホントにちんぽ生やしていいやつ?』ってさ」
「ええと、ごめんなさい、ゴズメル……」
「イヤ謝るのはよしとくれよ! あたしが勝手に気持ちよくなってるだけだってば!」
「違うの」
ぷいっとよそを向いたゴズメルの背中に、リリィは抱きついてきた。細いからだは、ホッとするほど温かかった。
「私、いまそれを聞いて喜んでしまった。あなたはそのせいで体調が悪いというのに」
ゴズメルは面食らった。自分が変なイき方をすると、リリィは嬉しいらしい。
そうなると笑い話にもできず、ゴズメルは赤くなってうつむくほかなかった。
「……私のせいでもあるとしたら、なおさらだわ。早く森を抜けましょう」
「だからダメだってば! あんたは危機感てものがまるでないんだ。こんな状態でケンカになったら、あたし、あんたを簡単にとられちまう。そんなの耐えられないよ!」
「ゴズメル、私を信じて」
ゴズメルが腕を振りほどいて怒鳴っても、リリィは譲らなかった。
「きっと上手くやるわ。アルティカを出た時のこと、覚えてるでしょう? 私のエスコートは悪くなかったはずよ」
大きなエメラルドの瞳が、火の粉に照らされていた。答えられないゴズメルに、優しくほほえんで見せる。
「心配しないで。今日はもうテントで休んだほうがいいわ」
「でも……」
「吐けるように袋を用意してあげる。失敗して汚したってかまわないわ。私が責任を持って綺麗にしますからね」
ゴズメルは、リリィの芯の強さに思いがけなく触れた気がした。いつも物腰が柔らかいのに、いったん自分の領分だと判断すると絶対に譲らないのだ。
そんなリリィに、ゴズメルは逆らえなかった。なんだか子ども扱いされているようで釈然としないのだが、別に悪い気分でもない・・・。
「……なんか、あんたっていいママになりそうだよね」
「本当? 嬉しい」
皮肉にとられるかと思ったが、リリィはにこやかにテントの入り口をめくった。
翌日、登山道に到着した二人は、茂みから外の様子をうかがっていた。
観光客に混ざって、制服姿の冒険者がうじゃうじゃいる。
「……団体で山登りに来たってわけじゃなさそうだね」
ゴズメルは深くため息をついた。
「見なよ、手配書を持って、あれこれ聞いて回っている。あたしたちのことを燻り出すつもりなんだ」
「私、行ってくるわ」
「だから、無理だって……」
「どうして? ほら、すぐそこに宿泊用の山小屋があるわ。冒険者たちを避けて、仲間の具合が悪いから休ませてくださいって言えばいいのよ」
「待って、ダメだ!」
立とうとするリリィの肩をゴズメルは両手で押さえた。
その山小屋から角の生えたバイコーン族、マリアが出てくるのが見えた。山小屋の主人と何やら喋っている。
「……平気よ。あのひとは私とちゃんと会ったことがないもの。きっとごまかせるわ」
リリィはそう言ったが、ゴズメルは彼女の肩が震えていることに気づいていた。
マリア率いる捜索隊には、アルティカ支部の冒険者も加入しているようだ。ごまかせるわけがない。
八方ふさがりの状況に、ゴズメルはますます気分が悪くなってきた。何かいい考えを思いつかなければならないのだが、頭はうまく働かず、からだも動かない。リリィのことでさえ縋り付いて押さえている状態だった。
「……リリィ」
ゴズメルは、これまで頭にぼんやりと思い浮かべては打ち消してきた、ある一つの最悪なアイディアを提案することにした。
プレゼンには、相手の気を惹きつける問いかけが重要だ。ゴズメルは尋ねた。
「なぜクメミ山にはエリアボスがいないか、あんた知ってる?」
「……え? なんの話?」
「答えはね、ここら一帯が野蛮なミノタウロス族の縄張りだからだよ」
ゴズメルはリリィにしがみついたまま、プレゼンを続けた。
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