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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
31.SSRリリィ
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パンチとともに力尽きて倒れたのはジーニョだ。
だが、どことなく安らかな表情を浮かべてい彼に比べて、ゴズメルは歯を食いしばって立っていた。自分で自分を殴り殺してやりたい気分だった。
リリィとの美しい思い出が、自分の大ポカのせいでエロフィギュアデータと化してしまったのである。
肩で息をしているゴズメルの前で、ジーニョはよろよろと起き上がった。
「……よし、わかった。次は30連を回させてやる」
「まだやられ足りないのか! このエロジジイ!」
「違うっ。絵の精度を上げるために必要なんだっ」
30枚撮れば、10連の3倍も精巧な元絵が作れる。錬成の仕上がりが良くなるらしい。
「今のキレ気味な感じなら物欲センサーも感知しないはずだ。さあ回せ」
「うえぇん! もう嫌だよお!」
ゴズメルはもう耐えられなかった。卵を思い浮かべれば、またリリィの裸を引いてしまうかもしれない。
誰が好き好んで偏屈ジジイに彼女の裸を見せたいだろうか。何も知らないリリィがあまりにもかわいそうだ。
「あたしだって、あの子と自分が全然つりあわないことくらいわかってるよ……! でも、だからってひとの思い出をエロフィギュア化するな! こんなのひどすぎる!」
ゴズメルは二歳児のように床を叩いて暴れた。隠し部屋の天井からパラパラと砂が落ちてくるほどだ。
ジーニョはため息まじりに、杖を天井にかざした。
虫型の魔物がわらわらと沸いてきて、天井を補強する。
「でかい図体でガキみたいな駄々こねるな。エロフィギュアの何が悪い。芸術品だぞ」
「うるさい! 彼女の恥ずかしい姿を見られた苦しみが、枯れたジジイにわかってたまるか」
ジーニョはこめかみにピクッと青筋を立てたが、軽く肩をすくめただけで怒らなかった。
「……まあ、聞け」
床につっぷしてグスグスとぐずっているゴズメルに、ジーニョは言った。
「最初に好きな食べ物で10連を回しただろう。とんでもないキメラが誕生したな。覚えているか」
「……それが、なに」
「俺はおまえの想像力がお粗末だと言ったが、あれは嘘だ」
「……?」
「ガチャは誰が引いても普通あんな感じになる。10連引いて10枚同じ絵が出てくるほうがおかしい。現実に存在するものを映しているのではなく、あくまで使用者のイメージを映しとっているからだ」
ジーニョは工房の作業台をすべすべと撫でた。
「使用者の記憶にある、りんごの色や形、温度、質感、歯ごたえや匂い、果肉の具合なんかをな、詳細に思い出そうとすればするほど、記憶の中のイチゴやらミカンやらが混ざり合って、訳のわからんものが仕上がる」
何もないところから思い浮かべるのは難しい、とジーニョは説明した。
たとえば、りんごは赤い果物だ。だが、赤い果物であればイチゴも同じことだ。いや、りんごは丸いがイチゴは三角みを帯びている。丸い果物ならミカンと何が違うのか。りんごの甘味は、香りは、歯ごたえは・・・。
「りんご一つとっても、イメージに無限の分岐があるんだ。10連で3Dデータを作るなんてのは、そもそも無茶な話だ」
「……じゃ、どうやって元絵なんて作ってんだよ」
「先に絵を描いたり、何かサンプルを用意してからガチャを回すと成功しやすいな」
りんごであれば実物を用意してガチャを回せば、ほぼ確実に3Dデータ化できるという。すでに存在するもののデータをとっておけば、たとえば『りんごに似た空想の果物』といった依頼にも対応できるらしい。
「ま、俺は依頼などほぼ受けないから遊びに使うだけだが」
ジーニョは老眼鏡を外すと、フッとわざとらしく息を吹きかけてレンズを磨き始めた。それも自作した品のようだ。
ゴズメルは寝たまま床に頬杖をついて「けっ」と言った。
「無理難題をふっかけて、あたしをからかったってわけだ。陰険なジジイだね」
「説明のためだろが! ……いや、だからな、おまえが十連でお嬢さんの姿を3Dにひっぱってこられたのは、大したものだと言わざるを得ない。ほら、ちゃんと見てみなさい」
ジーニョは石板の埃を払ってゴズメルに渡した。ゴズメルはこわごわとみる。
板の中のリリィは二人の騒動と関わりなく、跪いて口づけを待っている。
「どうだ。3Dデータとして見ると、実際のお嬢さんより等身が低いのがわかるだろう。俺の見たところ0.7くらいに縮んでいる」
データを見もせずに指摘するジーニョを、ゴズメルは咄嗟に(キモッ!)と思った。だが石板でこちらの表情が見えないようだ。
「おまえはデカいからお嬢さんが小さく見えるらしい」
ジーニョは淡々と言葉を続ける。
「カラーリングも彩度が低い。室内にいるとわかる、温かみのある色みだ。俺と会った時のお嬢さんはもっと弱々しい雰囲気だったが、データの中では生命力や可憐さが強調されている。雪を押し上げるフキノトウの感じだなあ」
「な、なんだよ。あたしの見る目が歪んでるって言いたいわけ」
「……んん。なんというか……ま、愛を感じないでもない」
要は愛を感じたと言いたいらしい。
ゴズメルは羞恥のあまり、ボン!と左右の角が爆発したと思った。
創作物はひとの心をあらわす、なんて言うが、ゴズメルは眉唾だと思っていた。
ところが、ジーニョのもっともらしい言い方のせいで、データがどんどんそんな風に見えてくる。
一糸纏わぬ姿で口づけを求めているのはリリィなのだが、丸裸にされているのはゴズメルの心のほうだ。
どんなに言い繕おうとしても、板の中のイメージは嘘をつかない。『リリィが可愛くて仕方ない!大好きだ、愛してる!』と、本心を語っているのだった。
だが、どことなく安らかな表情を浮かべてい彼に比べて、ゴズメルは歯を食いしばって立っていた。自分で自分を殴り殺してやりたい気分だった。
リリィとの美しい思い出が、自分の大ポカのせいでエロフィギュアデータと化してしまったのである。
肩で息をしているゴズメルの前で、ジーニョはよろよろと起き上がった。
「……よし、わかった。次は30連を回させてやる」
「まだやられ足りないのか! このエロジジイ!」
「違うっ。絵の精度を上げるために必要なんだっ」
30枚撮れば、10連の3倍も精巧な元絵が作れる。錬成の仕上がりが良くなるらしい。
「今のキレ気味な感じなら物欲センサーも感知しないはずだ。さあ回せ」
「うえぇん! もう嫌だよお!」
ゴズメルはもう耐えられなかった。卵を思い浮かべれば、またリリィの裸を引いてしまうかもしれない。
誰が好き好んで偏屈ジジイに彼女の裸を見せたいだろうか。何も知らないリリィがあまりにもかわいそうだ。
「あたしだって、あの子と自分が全然つりあわないことくらいわかってるよ……! でも、だからってひとの思い出をエロフィギュア化するな! こんなのひどすぎる!」
ゴズメルは二歳児のように床を叩いて暴れた。隠し部屋の天井からパラパラと砂が落ちてくるほどだ。
ジーニョはため息まじりに、杖を天井にかざした。
虫型の魔物がわらわらと沸いてきて、天井を補強する。
「でかい図体でガキみたいな駄々こねるな。エロフィギュアの何が悪い。芸術品だぞ」
「うるさい! 彼女の恥ずかしい姿を見られた苦しみが、枯れたジジイにわかってたまるか」
ジーニョはこめかみにピクッと青筋を立てたが、軽く肩をすくめただけで怒らなかった。
「……まあ、聞け」
床につっぷしてグスグスとぐずっているゴズメルに、ジーニョは言った。
「最初に好きな食べ物で10連を回しただろう。とんでもないキメラが誕生したな。覚えているか」
「……それが、なに」
「俺はおまえの想像力がお粗末だと言ったが、あれは嘘だ」
「……?」
「ガチャは誰が引いても普通あんな感じになる。10連引いて10枚同じ絵が出てくるほうがおかしい。現実に存在するものを映しているのではなく、あくまで使用者のイメージを映しとっているからだ」
ジーニョは工房の作業台をすべすべと撫でた。
「使用者の記憶にある、りんごの色や形、温度、質感、歯ごたえや匂い、果肉の具合なんかをな、詳細に思い出そうとすればするほど、記憶の中のイチゴやらミカンやらが混ざり合って、訳のわからんものが仕上がる」
何もないところから思い浮かべるのは難しい、とジーニョは説明した。
たとえば、りんごは赤い果物だ。だが、赤い果物であればイチゴも同じことだ。いや、りんごは丸いがイチゴは三角みを帯びている。丸い果物ならミカンと何が違うのか。りんごの甘味は、香りは、歯ごたえは・・・。
「りんご一つとっても、イメージに無限の分岐があるんだ。10連で3Dデータを作るなんてのは、そもそも無茶な話だ」
「……じゃ、どうやって元絵なんて作ってんだよ」
「先に絵を描いたり、何かサンプルを用意してからガチャを回すと成功しやすいな」
りんごであれば実物を用意してガチャを回せば、ほぼ確実に3Dデータ化できるという。すでに存在するもののデータをとっておけば、たとえば『りんごに似た空想の果物』といった依頼にも対応できるらしい。
「ま、俺は依頼などほぼ受けないから遊びに使うだけだが」
ジーニョは老眼鏡を外すと、フッとわざとらしく息を吹きかけてレンズを磨き始めた。それも自作した品のようだ。
ゴズメルは寝たまま床に頬杖をついて「けっ」と言った。
「無理難題をふっかけて、あたしをからかったってわけだ。陰険なジジイだね」
「説明のためだろが! ……いや、だからな、おまえが十連でお嬢さんの姿を3Dにひっぱってこられたのは、大したものだと言わざるを得ない。ほら、ちゃんと見てみなさい」
ジーニョは石板の埃を払ってゴズメルに渡した。ゴズメルはこわごわとみる。
板の中のリリィは二人の騒動と関わりなく、跪いて口づけを待っている。
「どうだ。3Dデータとして見ると、実際のお嬢さんより等身が低いのがわかるだろう。俺の見たところ0.7くらいに縮んでいる」
データを見もせずに指摘するジーニョを、ゴズメルは咄嗟に(キモッ!)と思った。だが石板でこちらの表情が見えないようだ。
「おまえはデカいからお嬢さんが小さく見えるらしい」
ジーニョは淡々と言葉を続ける。
「カラーリングも彩度が低い。室内にいるとわかる、温かみのある色みだ。俺と会った時のお嬢さんはもっと弱々しい雰囲気だったが、データの中では生命力や可憐さが強調されている。雪を押し上げるフキノトウの感じだなあ」
「な、なんだよ。あたしの見る目が歪んでるって言いたいわけ」
「……んん。なんというか……ま、愛を感じないでもない」
要は愛を感じたと言いたいらしい。
ゴズメルは羞恥のあまり、ボン!と左右の角が爆発したと思った。
創作物はひとの心をあらわす、なんて言うが、ゴズメルは眉唾だと思っていた。
ところが、ジーニョのもっともらしい言い方のせいで、データがどんどんそんな風に見えてくる。
一糸纏わぬ姿で口づけを求めているのはリリィなのだが、丸裸にされているのはゴズメルの心のほうだ。
どんなに言い繕おうとしても、板の中のイメージは嘘をつかない。『リリィが可愛くて仕方ない!大好きだ、愛してる!』と、本心を語っているのだった。
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