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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
23.ブランカ
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「て、手紙……?」
「そうだよ。あっ、ちゃんと丁寧に、紳士的に書けよ。妊婦さんに脅迫状みたいなモン届けるなんて、あたしはごめんだからな」
「う、ううう……」
キースは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「なんで俺ばっか苦労してアイツの機嫌をとらなきゃいけないんだよ……俺にひどいこと言って勝手に出てったのはあっちなのにい」
「うーん、そんなこと言ったって、あたしにはわからないけど」
ゴズメルはため息をついた。
「少なくとも、そうやってふてくされてても望み通りの結果にはならないんじゃないかね。嫌だってんならあたしは先を急ぐけどさ、どうする?」
「……いや、書く。ちょっと待ってくれ」
そう言って、キースは手紙をしたためた。
筆記用具は持っていたが、机代わりに荷車の壁を使ったので字がかなり歪んでいる。
それでもゴズメルが見たところ、ごく真面目に、丁寧な言葉を使って書いているようだった。
だが、夫からの手紙をブランカがどう受け止めるかはわからない。もしかしたら彼女はキースにとっくに愛想を尽かしていて、手紙なんて見もせずに破り捨ててしまうかもしれないのだ。
「じゃ……あの、よろしく……」
「はいよ。……あー、渡してはみるけど、結果はあんまり期待しないでおくれ。なんつーか卵のこととなると、女って気持ちのコントロールがすごく難しくなるみたいだから」
リリィのことを思い出しながら言うゴズメルに、キースは怪訝そうに眉を上げた。
だが、ふてぶてしく腕組みして吐き捨てる。
「フン、別に期待なんかするもんか。おまえなんかに仲立ちを頼んだ時点で負け戦決定なんだから」
「ア、なんだとっ?」
「ああそうだ、牛女にこんな大事な頼みごとをする俺の方がどうかしてるんだ。変な気を揉まないで、さっさと牛らしく荷物を運んで来い。やーい、バイト牛、駄獣、ホルスタイン」
悪口のオンパレードに、ゴズメルは鼻を鳴らした。
要は気にするなと言いたいらしい。プライドが高くて照れ屋なキースは、憎まれ口でしか優しいことを言えないのだ。
ブランカもよくこんなのと結婚したな、とゴズメルは思うのだが、思い返せば彼女もキースに対してはこんな感じで謎のツンデレを発動していたような気がする。なんだかんだ似たもの夫婦なのかもしれない。
バイトのついでに厄介ごとをひとつ引き受けたゴズメルは、荷車を屋敷の横につけて、呼び鈴を引いた。
「ごめんくださーい、ミックの魔道具屋の者ですけれどもー」
「はぁい、ただいま」
大きな屋敷だが、声を張り上げるとすぐに使用人が出てくる。ゴズメルは猫族のメイドさんに目が釘付けになった。黒のクラシカルなロングスカートに、フリル付きのエプロンがなんとも可愛らしい。
「お嬢様のお荷物ですね。まぁ、こんなにたくさん。すみませんが中まで運んでもらえますか?」
「は、はい……!」
ゴズメルは大喜びで指示に従った。門扉に段差がついていたので、ヒョイと荷車を浮かせて中へ運び入れる。
「あら、すごぉーい。お客様って、とっても力持ちなんですね……」
「いやっ、まぁ、あの、それほどでも……ありますね……」
メイドさんに褒められて、ゴズメルはすっかり照れてしまった。
同じ猫族でも三毛猫のナナと違って、メイドさんは耳や尻尾が白くてしゃなりとしている。おそらく血が純種に近いのだろう。尻尾のくねらせ方も、いかにも血統書つきという雰囲気だった。
(家にこんな立派なメイドさんがいるなんてブランカ羨ましい……じゃなくて、ほんとに金持ちなんだな……)
ふわふわと揺れる尾に見とれながら、ゴズメルは荷下ろしをした。
広々とした玄関に、図書室でイーユンが使っているような機械台車が用意してある。
目の前に大きな階段があるので、そこを上るのだろう。落ちないように積まなければならない。
メイドさんの監督のもと、せっせと手を動かしていると、頭上から声がかかった。
「ゴズメル? あなたなの?」
「あっ、お嬢様」
手すりに頼りながら階段を下りてくるのは、ブランカだった。
「おっ……」
ゴズメルは目を丸くする。ゆったりとしたワンピースを着た彼女の下腹部が目立っている。
「いけません、一人でお立ち歩きになっては、お体に障りますよ」
慌てて駆け寄るメイドさんに、ゴズメルは思わずついていった。妊婦と階段の取り合わせを見るだけで、なんだか不安になってしまうのだ。ブランカは疲れた笑みを浮かべた。
「いいじゃない。体調がいい時くらい歩かせてよ」
「お嬢様、私は奥様から言いつけられているのです。大ごとになる前に、どうかお部屋へお戻りください」
「なによ、もう……私には友達と話す自由もないって言うの……?」
ブランカの瞳が、棒立ちになっているゴズメルをとらえた。なんだなんだとゴズメルは思う。ブランカはあっという間に涙目になり、階段の途中にへたりこんでしまった。
「もう嫌。こんな不便な体、もう嫌。私、私だってみんなと冒険に行きたい。外に出かけたいのに、どうして」
「ほら……やっぱりご気分が優れないんですから。お嬢様、しっかりなさってください」
「もう嫌ぁああ」
「ブランカ……」
悲痛な声を上げて泣き出すブランカを前に、ゴズメルは立ち尽くした。
冒険者をしていた頃の彼女とは、かけ離れた姿だった。
「そうだよ。あっ、ちゃんと丁寧に、紳士的に書けよ。妊婦さんに脅迫状みたいなモン届けるなんて、あたしはごめんだからな」
「う、ううう……」
キースは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「なんで俺ばっか苦労してアイツの機嫌をとらなきゃいけないんだよ……俺にひどいこと言って勝手に出てったのはあっちなのにい」
「うーん、そんなこと言ったって、あたしにはわからないけど」
ゴズメルはため息をついた。
「少なくとも、そうやってふてくされてても望み通りの結果にはならないんじゃないかね。嫌だってんならあたしは先を急ぐけどさ、どうする?」
「……いや、書く。ちょっと待ってくれ」
そう言って、キースは手紙をしたためた。
筆記用具は持っていたが、机代わりに荷車の壁を使ったので字がかなり歪んでいる。
それでもゴズメルが見たところ、ごく真面目に、丁寧な言葉を使って書いているようだった。
だが、夫からの手紙をブランカがどう受け止めるかはわからない。もしかしたら彼女はキースにとっくに愛想を尽かしていて、手紙なんて見もせずに破り捨ててしまうかもしれないのだ。
「じゃ……あの、よろしく……」
「はいよ。……あー、渡してはみるけど、結果はあんまり期待しないでおくれ。なんつーか卵のこととなると、女って気持ちのコントロールがすごく難しくなるみたいだから」
リリィのことを思い出しながら言うゴズメルに、キースは怪訝そうに眉を上げた。
だが、ふてぶてしく腕組みして吐き捨てる。
「フン、別に期待なんかするもんか。おまえなんかに仲立ちを頼んだ時点で負け戦決定なんだから」
「ア、なんだとっ?」
「ああそうだ、牛女にこんな大事な頼みごとをする俺の方がどうかしてるんだ。変な気を揉まないで、さっさと牛らしく荷物を運んで来い。やーい、バイト牛、駄獣、ホルスタイン」
悪口のオンパレードに、ゴズメルは鼻を鳴らした。
要は気にするなと言いたいらしい。プライドが高くて照れ屋なキースは、憎まれ口でしか優しいことを言えないのだ。
ブランカもよくこんなのと結婚したな、とゴズメルは思うのだが、思い返せば彼女もキースに対してはこんな感じで謎のツンデレを発動していたような気がする。なんだかんだ似たもの夫婦なのかもしれない。
バイトのついでに厄介ごとをひとつ引き受けたゴズメルは、荷車を屋敷の横につけて、呼び鈴を引いた。
「ごめんくださーい、ミックの魔道具屋の者ですけれどもー」
「はぁい、ただいま」
大きな屋敷だが、声を張り上げるとすぐに使用人が出てくる。ゴズメルは猫族のメイドさんに目が釘付けになった。黒のクラシカルなロングスカートに、フリル付きのエプロンがなんとも可愛らしい。
「お嬢様のお荷物ですね。まぁ、こんなにたくさん。すみませんが中まで運んでもらえますか?」
「は、はい……!」
ゴズメルは大喜びで指示に従った。門扉に段差がついていたので、ヒョイと荷車を浮かせて中へ運び入れる。
「あら、すごぉーい。お客様って、とっても力持ちなんですね……」
「いやっ、まぁ、あの、それほどでも……ありますね……」
メイドさんに褒められて、ゴズメルはすっかり照れてしまった。
同じ猫族でも三毛猫のナナと違って、メイドさんは耳や尻尾が白くてしゃなりとしている。おそらく血が純種に近いのだろう。尻尾のくねらせ方も、いかにも血統書つきという雰囲気だった。
(家にこんな立派なメイドさんがいるなんてブランカ羨ましい……じゃなくて、ほんとに金持ちなんだな……)
ふわふわと揺れる尾に見とれながら、ゴズメルは荷下ろしをした。
広々とした玄関に、図書室でイーユンが使っているような機械台車が用意してある。
目の前に大きな階段があるので、そこを上るのだろう。落ちないように積まなければならない。
メイドさんの監督のもと、せっせと手を動かしていると、頭上から声がかかった。
「ゴズメル? あなたなの?」
「あっ、お嬢様」
手すりに頼りながら階段を下りてくるのは、ブランカだった。
「おっ……」
ゴズメルは目を丸くする。ゆったりとしたワンピースを着た彼女の下腹部が目立っている。
「いけません、一人でお立ち歩きになっては、お体に障りますよ」
慌てて駆け寄るメイドさんに、ゴズメルは思わずついていった。妊婦と階段の取り合わせを見るだけで、なんだか不安になってしまうのだ。ブランカは疲れた笑みを浮かべた。
「いいじゃない。体調がいい時くらい歩かせてよ」
「お嬢様、私は奥様から言いつけられているのです。大ごとになる前に、どうかお部屋へお戻りください」
「なによ、もう……私には友達と話す自由もないって言うの……?」
ブランカの瞳が、棒立ちになっているゴズメルをとらえた。なんだなんだとゴズメルは思う。ブランカはあっという間に涙目になり、階段の途中にへたりこんでしまった。
「もう嫌。こんな不便な体、もう嫌。私、私だってみんなと冒険に行きたい。外に出かけたいのに、どうして」
「ほら……やっぱりご気分が優れないんですから。お嬢様、しっかりなさってください」
「もう嫌ぁああ」
「ブランカ……」
悲痛な声を上げて泣き出すブランカを前に、ゴズメルは立ち尽くした。
冒険者をしていた頃の彼女とは、かけ離れた姿だった。
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