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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
22.夫婦のごたごた
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結局、アイテムボックスに入らないぶんは荷車で運搬することになった。
昔ながらの二輪を曳いて歩くタイプのものだ。持ち手をくぐったゴズメルは自分が農耕馬にでもなってしまったような気がした。いや、牛、だろうか……。
「いってらっしゃーい」
ミックのニコニコ顔に何か釈然としないものを感じながら、ゴズメルは荷車を曳いた。
人通りの多い市場通りはともかく、ブランカの家がある閑静な住宅地では古い荷車が目立って仕方ない。
キイキイと耳障りな音を立てる荷車を、ゴズメルは額に汗して曳き続けた。
(こりゃひと仕事だぞ。ちゃんと給料もらわないと割に合わないじゃないか。ミックのやつ……)
頭の中でぶつぶつ文句を言いながら歩いていたゴズメルは、おやっと思った。
「キース! 何やってんだ、こんなところで」
角を曲がればすぐブランカの家、という道端で塀に体をくっつけている。
ゴズメルが声をかけると、キースはビクッとしっぽを逆立てた。
「う、うるさい。でかい声出すな」
「なんだよビクビクして。尾行でもしてんのかい」
「おまえには関係ないだろ! ……そっちこそ、なんだその荷車は」
「見てわかるだろ」
「えっ……いや、わかんねーよ。夜逃げでもすんのか」
「昼だぞ! 槍だけ持って夜逃げするわけないだろ。まったく……これはブランカの荷物だよ。ミックに頼まれて届けに来たんだ」
「ブランカの……」
その表情を見て、ゴズメルはピンと来た。おそらく、キースもブランカに用があるのだ。
「じゃ、あんたもブランカと話しに来たんだね、キース」
「いやっ……俺は、別に……。あ、あいつがどうしてもって言うなら、出てったことを許してやらなくもないかなって、そんな感じだよ」
「ふーん」
こりゃダメそうだな、とゴズメルは思った。
だが、おまえには関係ないと再三言われているし、夫婦の問題にゴズメルが首をつっこむのはおかしいだろう。……リリィが絡めば話は別だが。
「じゃっ、あたしは行くから。あばよ」
「ま、待てよっ、ゴズメル」
先へ行こうとするゴズメルの荷車を、キースは手で押さえた。
「なに」
「……俺は、あいつの両親によく思われてない。正面から会いに行ったんじゃ叩き出されるのがオチだ。でも、なんとかしてブランカの気持ちを確かめたいんだ」
「うーん……」
ゴズメルは困ってしまった。キースの気持ちはわからないでもないが、今のゴズメルはただのバイトだ。
「具体的には、何をどうしてほしいって言ってんの?」
「この荷車に俺をコッソリ載せて、屋敷の中まで」
「ハ!? 絶対やだよ! ただでさえ牛馬みたいな真似してんのに、この上あんたなんか乗せて曳きたかない!」
「別にいいだろ、牛女なんだから……」
「あっ、言ったな! もう絶対に乗せてやるもんか」
「うう……」
青筋立てて怒るゴズメルに、キースは悲しげな声を漏らした。耳としっぽをしゅんと垂らしている。
「だってこのままじゃ、俺は生まれた子どもの顔も見せてもらえないんだ……父親なのに……」
狼というより弱った犬のようなありさまに、ゴズメルはさすがに良心が痛んだ。
将来、ゴズメルが何かやらかしてリリィに捨てられない保証はない。その時、誰も間を取り持ってくれなかったらどうだろう。キースのように、自分に優しくしてくれそうな女の子にしつこく迫ったりしてしまうかもしれない。そう考えると、他人事とも思えなかった。
「……キース。リリィにもう変な絡みかたしないって約束できる?」
「は? な、なんで急にそんな話になるんだよ」
「約束できるなら……そうだな、今、配達ついでに手紙くらいは届けてやってもいいよ」
それがゴズメルにギリギリできる譲歩だった。
キースの要求通り荷車で彼自身を連れて行って、もし何か問題が起きてしまったら、無関係のミックまでもが責任を問われることになってしまう。
昔ながらの二輪を曳いて歩くタイプのものだ。持ち手をくぐったゴズメルは自分が農耕馬にでもなってしまったような気がした。いや、牛、だろうか……。
「いってらっしゃーい」
ミックのニコニコ顔に何か釈然としないものを感じながら、ゴズメルは荷車を曳いた。
人通りの多い市場通りはともかく、ブランカの家がある閑静な住宅地では古い荷車が目立って仕方ない。
キイキイと耳障りな音を立てる荷車を、ゴズメルは額に汗して曳き続けた。
(こりゃひと仕事だぞ。ちゃんと給料もらわないと割に合わないじゃないか。ミックのやつ……)
頭の中でぶつぶつ文句を言いながら歩いていたゴズメルは、おやっと思った。
「キース! 何やってんだ、こんなところで」
角を曲がればすぐブランカの家、という道端で塀に体をくっつけている。
ゴズメルが声をかけると、キースはビクッとしっぽを逆立てた。
「う、うるさい。でかい声出すな」
「なんだよビクビクして。尾行でもしてんのかい」
「おまえには関係ないだろ! ……そっちこそ、なんだその荷車は」
「見てわかるだろ」
「えっ……いや、わかんねーよ。夜逃げでもすんのか」
「昼だぞ! 槍だけ持って夜逃げするわけないだろ。まったく……これはブランカの荷物だよ。ミックに頼まれて届けに来たんだ」
「ブランカの……」
その表情を見て、ゴズメルはピンと来た。おそらく、キースもブランカに用があるのだ。
「じゃ、あんたもブランカと話しに来たんだね、キース」
「いやっ……俺は、別に……。あ、あいつがどうしてもって言うなら、出てったことを許してやらなくもないかなって、そんな感じだよ」
「ふーん」
こりゃダメそうだな、とゴズメルは思った。
だが、おまえには関係ないと再三言われているし、夫婦の問題にゴズメルが首をつっこむのはおかしいだろう。……リリィが絡めば話は別だが。
「じゃっ、あたしは行くから。あばよ」
「ま、待てよっ、ゴズメル」
先へ行こうとするゴズメルの荷車を、キースは手で押さえた。
「なに」
「……俺は、あいつの両親によく思われてない。正面から会いに行ったんじゃ叩き出されるのがオチだ。でも、なんとかしてブランカの気持ちを確かめたいんだ」
「うーん……」
ゴズメルは困ってしまった。キースの気持ちはわからないでもないが、今のゴズメルはただのバイトだ。
「具体的には、何をどうしてほしいって言ってんの?」
「この荷車に俺をコッソリ載せて、屋敷の中まで」
「ハ!? 絶対やだよ! ただでさえ牛馬みたいな真似してんのに、この上あんたなんか乗せて曳きたかない!」
「別にいいだろ、牛女なんだから……」
「あっ、言ったな! もう絶対に乗せてやるもんか」
「うう……」
青筋立てて怒るゴズメルに、キースは悲しげな声を漏らした。耳としっぽをしゅんと垂らしている。
「だってこのままじゃ、俺は生まれた子どもの顔も見せてもらえないんだ……父親なのに……」
狼というより弱った犬のようなありさまに、ゴズメルはさすがに良心が痛んだ。
将来、ゴズメルが何かやらかしてリリィに捨てられない保証はない。その時、誰も間を取り持ってくれなかったらどうだろう。キースのように、自分に優しくしてくれそうな女の子にしつこく迫ったりしてしまうかもしれない。そう考えると、他人事とも思えなかった。
「……キース。リリィにもう変な絡みかたしないって約束できる?」
「は? な、なんで急にそんな話になるんだよ」
「約束できるなら……そうだな、今、配達ついでに手紙くらいは届けてやってもいいよ」
それがゴズメルにギリギリできる譲歩だった。
キースの要求通り荷車で彼自身を連れて行って、もし何か問題が起きてしまったら、無関係のミックまでもが責任を問われることになってしまう。
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