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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
20.おっかねー
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黙り込んでしまったゴズメルに、シラヌイは大仰な溜息をついた。
「……二、三日は日程の調整もできる。急ぎの用事があるなら先に済ませておくがいい」
「あー……ウン、ありがとう」
「いいか。今後のこと、よく考えておけよ」
人差し指の先で捻じ込むように念を押される。
ゴズメルは「うー」と唸った。
だが、シラヌイの言っていることは正しい。ゴズメルは不承不承ながらうなずいた。
「了解……」
執務室を後にしたゴズメルは、そのまま物思いに耽って、ふらふらと冒険者協会を後にした。
ちょうど昼どきで、きゅうっと腹が鳴る。お腹を押さえたゴズメルは、はたと気づいた。
(あ、許可証……)
発行してもらわなければ、鐵刑の塔へ行くこともできない。
「んもぉおおお~」
ゴズメルはどっと疲れてしまって、まるっきり牛のような声を上げてしまった。
(なんなんだよ、もう……一難去ったと思ったらまた一難、あたしののんきな生活を返してくれ~)
のんきな生活。それは空腹を感じたら何も考えずおいしそうな匂いがする方へ歩いていくことだ。
鼻をひくつかせたゴズメルは、いい匂いにつられてのろのろと市場通りの方へ歩き出した。
途中に子供が遊べるような広場があり、食べ物の屋台が来ている。
ゴズメルは嗅覚に従って一つ買った。
がさがさと袋を開けて、ゴズメルは「おおっ」と声を上げた。楕円形の温かいパンに野菜とチーズが挟んで焼いてある。
(見たことないけど、どこの地域の料理だろう。リリィなら知ってるかなあ)
リリィは料理が上手で、レパートリーも豊富だ。裁縫と合わせて子どもの頃から祖母に厳しく仕込まれたのだと言っていた。
『子どもなのに花嫁修業みたいで変でしょう? でも、お祖母さまは昔の人だから、私を早いところお嫁に出したかったみたいなの。毎日たくさんのことを教えてくれて嬉しかったけど……早く出て行けって思われている気がして、ちょっぴり辛かったわ』
その話を聞いたとき、ゴズメルは(そりゃなあ)と思ってしまった。
たった一人の可愛い孫が、催淫効果のある翅を持って生まれてきてしまったのだ。自由に生活させて怖い目に遭わせるくらいなら、花嫁修業でもなんでもさせて身を固めさせたいと思うのは理解できる。
が、その愛情が当の本人に伝わっていないうえ、リリィときたら、よりにもよってゴズメルのような考えなしと恋に落ちてしまった。将来のことなど何も考えていない自分に、はたしてリリィの美味しい手料理を味わう資格があるのかどうか……ゴズメルは我ながら申し訳なかった。
(……しょうがないよな。自分に将来なんて大層なモンがあるなんて思ってなかったんだから)
ゴズメルは苦い気持ちを、パンと一緒にごくんと飲み下した。
公園には子供たちがたくさんいた。ここにいる全員が両親からの祈願を受けてここにいるのだと思うと、ゴズメルは不思議な気がした。父親も母親も、ライフイベントとかキャリアプランとか考えたのだろうか。
ゴズメルの両親も。
強い風が、砂埃を巻き上げた。子供たちはきゃあきゃあと声を上げて笑っている。
ゴズメルは立ち上がった。向かった先は、冒険者協会ではない。ミックの店だった。
「ンン!? これ、ぜんぶ買い取りでいいのか?」
「そー」
「おい、どした。転職でもするのか、ゴズメル」
ゴズメルはアイテムボックスの肥やしになっていた武器や防具一式をミックに渡したあと、カウンターの下に膝を抱えて座っていた。
ミックに上から覗き込まれると「そんなんじゃないけどさ」と、しょんぼりと返事する。
「なんかいろいろ考えてたら、もっと貯金がないとだめな気がしてきた……」
「えーっ、ゴズメルはいつでも稼げるだろ。こないだも、ローンを一括返済してくれたじゃないか。ほら、ちっちゃくて可愛い雑種の子と、一緒に来た時さ」
隷属の首輪の代金の話だ。リリィが見つけ、ゴズメルが開けた宝箱の中身を、二人はミックへの返済に充てたのだった。
ゴズメルは首をすくめた。
「……それはそれ、これはこれだよ」
「ふん……そういやキースも昔、同じようなこと言ってたな」
「えっ!?」
驚くあまり、ゴズメルはカウンターにガンと頭をぶつけてしまった。
「な、なになに、どういうことだい」
下から這い出すと、ミックは古い手斧を鑑定しているところだった。
「今のおまえみたいに、もっと金がなきゃだめだと言って古い装備を売りに来てたよ。まあそれからすぐブランカと一緒になってさ、おおかた結婚資金が必要だったんだろうな」
「う、うーん……」
ゴズメルは、何か悪い予言を聞いてしまったような気がした。ゴズメルと同じように気を揉みながらキースはブランカと結婚して、今はまったくうまくいっていないようなのである。
「……?」
ミックはきょとんとしていたが、急にハッとした顔になって手斧を取り落とした。
「えっ! まさかゴズメルも結婚すんのか!?」
「し、シーッ、シーッ!! そんなデカい声出すんじゃないよ!」
「おい、マジかよっ。相手は誰だ? ゾウかっ? ドラゴンなのかっ?」
失礼すぎる物言いだったが、ゴズメルは怒るよりも照れてしまった。両手の人差し指をくるくる回してしまう。
「違うし……。普通……っていうか、ちっちゃくて、すごい、可愛い系の……」
「へ、へぁーっ……」
「やめろっ、『相手死ぬんじゃね』みたいな顔すんなっ。あたしたち真剣につきあってんだからっ」
「わかったわかった、デカイ体で地団太踏むな」
古い店の床がぐらぐらと揺れる。ゴズメルは「ひとに言うなよ」と、ミックを睨みつけた。
「……まだちゃんと決めたわけじゃないんだ。相手にも伝えてない。でも、向こうは子どもを生みたいと思ってくれてるみたいで……だったらちゃんと、責任とらなきゃなって思うし」
ミックはゴズメルの言葉を、パチパチと瞬きしながら聞いていた。
まだびっくりしているのか、今度は特にからかったりしてこない。
「……二、三日は日程の調整もできる。急ぎの用事があるなら先に済ませておくがいい」
「あー……ウン、ありがとう」
「いいか。今後のこと、よく考えておけよ」
人差し指の先で捻じ込むように念を押される。
ゴズメルは「うー」と唸った。
だが、シラヌイの言っていることは正しい。ゴズメルは不承不承ながらうなずいた。
「了解……」
執務室を後にしたゴズメルは、そのまま物思いに耽って、ふらふらと冒険者協会を後にした。
ちょうど昼どきで、きゅうっと腹が鳴る。お腹を押さえたゴズメルは、はたと気づいた。
(あ、許可証……)
発行してもらわなければ、鐵刑の塔へ行くこともできない。
「んもぉおおお~」
ゴズメルはどっと疲れてしまって、まるっきり牛のような声を上げてしまった。
(なんなんだよ、もう……一難去ったと思ったらまた一難、あたしののんきな生活を返してくれ~)
のんきな生活。それは空腹を感じたら何も考えずおいしそうな匂いがする方へ歩いていくことだ。
鼻をひくつかせたゴズメルは、いい匂いにつられてのろのろと市場通りの方へ歩き出した。
途中に子供が遊べるような広場があり、食べ物の屋台が来ている。
ゴズメルは嗅覚に従って一つ買った。
がさがさと袋を開けて、ゴズメルは「おおっ」と声を上げた。楕円形の温かいパンに野菜とチーズが挟んで焼いてある。
(見たことないけど、どこの地域の料理だろう。リリィなら知ってるかなあ)
リリィは料理が上手で、レパートリーも豊富だ。裁縫と合わせて子どもの頃から祖母に厳しく仕込まれたのだと言っていた。
『子どもなのに花嫁修業みたいで変でしょう? でも、お祖母さまは昔の人だから、私を早いところお嫁に出したかったみたいなの。毎日たくさんのことを教えてくれて嬉しかったけど……早く出て行けって思われている気がして、ちょっぴり辛かったわ』
その話を聞いたとき、ゴズメルは(そりゃなあ)と思ってしまった。
たった一人の可愛い孫が、催淫効果のある翅を持って生まれてきてしまったのだ。自由に生活させて怖い目に遭わせるくらいなら、花嫁修業でもなんでもさせて身を固めさせたいと思うのは理解できる。
が、その愛情が当の本人に伝わっていないうえ、リリィときたら、よりにもよってゴズメルのような考えなしと恋に落ちてしまった。将来のことなど何も考えていない自分に、はたしてリリィの美味しい手料理を味わう資格があるのかどうか……ゴズメルは我ながら申し訳なかった。
(……しょうがないよな。自分に将来なんて大層なモンがあるなんて思ってなかったんだから)
ゴズメルは苦い気持ちを、パンと一緒にごくんと飲み下した。
公園には子供たちがたくさんいた。ここにいる全員が両親からの祈願を受けてここにいるのだと思うと、ゴズメルは不思議な気がした。父親も母親も、ライフイベントとかキャリアプランとか考えたのだろうか。
ゴズメルの両親も。
強い風が、砂埃を巻き上げた。子供たちはきゃあきゃあと声を上げて笑っている。
ゴズメルは立ち上がった。向かった先は、冒険者協会ではない。ミックの店だった。
「ンン!? これ、ぜんぶ買い取りでいいのか?」
「そー」
「おい、どした。転職でもするのか、ゴズメル」
ゴズメルはアイテムボックスの肥やしになっていた武器や防具一式をミックに渡したあと、カウンターの下に膝を抱えて座っていた。
ミックに上から覗き込まれると「そんなんじゃないけどさ」と、しょんぼりと返事する。
「なんかいろいろ考えてたら、もっと貯金がないとだめな気がしてきた……」
「えーっ、ゴズメルはいつでも稼げるだろ。こないだも、ローンを一括返済してくれたじゃないか。ほら、ちっちゃくて可愛い雑種の子と、一緒に来た時さ」
隷属の首輪の代金の話だ。リリィが見つけ、ゴズメルが開けた宝箱の中身を、二人はミックへの返済に充てたのだった。
ゴズメルは首をすくめた。
「……それはそれ、これはこれだよ」
「ふん……そういやキースも昔、同じようなこと言ってたな」
「えっ!?」
驚くあまり、ゴズメルはカウンターにガンと頭をぶつけてしまった。
「な、なになに、どういうことだい」
下から這い出すと、ミックは古い手斧を鑑定しているところだった。
「今のおまえみたいに、もっと金がなきゃだめだと言って古い装備を売りに来てたよ。まあそれからすぐブランカと一緒になってさ、おおかた結婚資金が必要だったんだろうな」
「う、うーん……」
ゴズメルは、何か悪い予言を聞いてしまったような気がした。ゴズメルと同じように気を揉みながらキースはブランカと結婚して、今はまったくうまくいっていないようなのである。
「……?」
ミックはきょとんとしていたが、急にハッとした顔になって手斧を取り落とした。
「えっ! まさかゴズメルも結婚すんのか!?」
「し、シーッ、シーッ!! そんなデカい声出すんじゃないよ!」
「おい、マジかよっ。相手は誰だ? ゾウかっ? ドラゴンなのかっ?」
失礼すぎる物言いだったが、ゴズメルは怒るよりも照れてしまった。両手の人差し指をくるくる回してしまう。
「違うし……。普通……っていうか、ちっちゃくて、すごい、可愛い系の……」
「へ、へぁーっ……」
「やめろっ、『相手死ぬんじゃね』みたいな顔すんなっ。あたしたち真剣につきあってんだからっ」
「わかったわかった、デカイ体で地団太踏むな」
古い店の床がぐらぐらと揺れる。ゴズメルは「ひとに言うなよ」と、ミックを睨みつけた。
「……まだちゃんと決めたわけじゃないんだ。相手にも伝えてない。でも、向こうは子どもを生みたいと思ってくれてるみたいで……だったらちゃんと、責任とらなきゃなって思うし」
ミックはゴズメルの言葉を、パチパチと瞬きしながら聞いていた。
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