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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
19.キャキャキャキャキャリア
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大慌てでその場を離れたナナとは逆に、ゴズメルは「なんだよ」とプンプン怒って階段を上った。
執務室に入り、冒険者協会アルティカ支部会長のシラヌイに文句を言う。
「あんなに頭ごなしに怒ったらナナがかわいそうじゃないか」
「バカモノが」
シラヌイは太い赤っ鼻を揺らして一喝した。
「ただでさえ受付嬢は軽く扱われやすいんだぞ。あんまりヘラヘラさせといたら変な虫がつくわい」
「はぁ?」
「ふん。おまえのような無駄にデカい女冒険者にはわからんだろうな」
なんか孫バカな爺ちゃんみたいなことを言っている……と思ったら、こっちにまで皮肉が飛んできて、ゴズメルは顔をしかめた。
「ハイハイ、デカくて強い牛女で助かったよ。おかげさんでレベルも上がったしね……。で、いつポップルに向かえばいい? 数日あととかにしてもらえるとこっちは助かるんだけどね」
可能であればポップルへ行く前に鐵刑の塔に寄って、偽卵の注文だけでも済ませておきたいところだ。
ところが、シラヌイは腕組みして黙ってしまった。
長い白髪眉に皺を寄せて考え込み、だしぬけにこんな質問をしてくる。
「おまえ、結婚の予定はあるのか」
「はんっ?」
ゴズメルはぎょっとした。驚くあまり、考えるより先に罵声を吐いてしまう。
「なんだジジイ、その赤ら顔は昼酒きめてんのか。レベルだの結婚だの、あんまり変な難癖ばっかつけるようなら、斧を使って酔いを醒ましてやるぞ!」
「落ち着け。キャリアプランの話だ」
キャリアプラン。
ものものしい響きにぞっとするゴズメルに、シラヌイは淡々と言った。
「おまえも女だからな。アルティカで家庭を持つ気があるなら、将来的なライフイベントを考慮したうえで今後のポジションを決めなければならん」
「ラ、ライフイベントって……」
「だから結婚と出産だろうが。子育てにも金がかかるしな。それに、おまえにだって親はいるだろう。介護や看取りはどうする。里に兄弟はいるか? そもそもおまえは帰省もろくにしてないようだが……」
「ちょっと、なに。なんだいきなり」
ゴズメルはバタバタと両手を動かして、シラヌイに抗議した。レベルを上げて昇格審査を受ければこれまで通り働けると思っていたのに、そんなことまで考えなければいけないなんて話が違う。
焦っているゴズメルに、シラヌイは鼻を鳴らした。
「レベルアップでキャリアが開けたんだ。もっと柔軟に考えたらどうだ。たとえば、他の支部で会長候補に挑戦することもできるんだぞ。おまえはガサツ……もとい大らかで人あたりが良いから、向いていそうだが」
女の会長が増えるのはいいことだ、などと言われて、ゴズメルは目をぱちくりさせた。
「あるいは……うん、おまえは遠征任務の成績が特にいいな。冒険者協会ではマップ作りの人手が足りていない。ここらで旅の専門家になるのはどうだ。特産物や地形探索に励めばプレイヤーみんなが助かるし、周辺地域も活気づくぞ」
あっちょっと楽しそう、とゴズメルは思ったが、慌ててブンブンと首を横に振った。そんなに遠征に出ていたら、リリィが寂しがってしまう。
「わ……わかった、わかったよ、いちおう考えておく。で、ポップルにはいつ……」
「何もわかっとらんようだな。おまえはなんのためにポップルに行くつもりなんだ」
「あんたが昇格審査を受けなきゃクビにするって言ったからだろー!?」
「そうだ。だからいいかげん真面目に考えろ。みんなレベルを上げてスキルを磨き、真剣な気持ちで昇格審査に臨むんだ。良いポストは奪い合いだからな。本部の役員に自分のやる気をアピールせねばならん」
そんなん知ったこっちゃない、とゴズメルは思ったが、シラヌイの熱の入った様子を見ると、うかつに文句を言えなかった。
「いいか、冒険者協会にはいろんな事情の者たちがいる。家出同然のところから冒険ひとつで身を立てる者がいれば、厄介な能力を持って生まれたせいで仕事を制限されている者だっているんだ」
ゴズメルはギクッとした。前者は自分、後者はリリィのことのように聞こえる。シラヌイは首をコキッと鳴らした。
「……ここだけの話、おまえがさっき話していたナナは、家が貧しくてな。稼ぎのほとんどを実家に仕送りしている」
「えっ……」
「仕事は遅いし役立たずなうえニャアニャアとやかましいが、伸びしろだけはある。だから雇っているんだ」
シラヌイは節くれ立った指をブンブン振って、ゴズメルに説教した。
「ああいう子にしっかり投資してやるためにも、おまえは出世してガツンと稼ぐべきだろうが。自分のためにも周囲のためにも、もっと冒険者協会に貢献しろっ」
ガーン! と、ゴズメルは頭の上にタライが落ちてきたかのような衝撃を受けた。
昇格審査に通ったら待遇が良くなるのかな~などと漠然と思っていたのは、とんだ浅はかだったらしい。
結婚、とゴズメルは思った。シラヌイは、ゴズメルの体質も、リリィとつきあっていることも知らない。
もし知ったら、今の話はどうなるのだろう?
(あれ? ……っていうか今はリリィが卵を生んでるけど……もしも結婚して祈願したら、あたしが赤ちゃんを生む可能性もあるのでは?? いや、生えてるのはあたしのほうだけど……でも、あたしも女だし、祈願って、エッチしなくても赤ちゃんできるって聞いたことあるような……)
ゴズメルは頭を抱えてしまった。
妊娠出産で仕事に影響が出るのは、ゴズメルもリリィも同じなのだ。
シラヌイがくどくどと話していたキャリアプランとやらに大いに影響することになる。
ポップル行きはもう決まっているというのに、こんな土壇場であれこれ考えさせられるとは思わなかった。
本部の面談で適当なことを言ったら、知らない支部に飛ばされてしまうかもしれないのだ!
(え、えーっ……!? あたしはいったいどうすりゃいいんだーっ?)
執務室に入り、冒険者協会アルティカ支部会長のシラヌイに文句を言う。
「あんなに頭ごなしに怒ったらナナがかわいそうじゃないか」
「バカモノが」
シラヌイは太い赤っ鼻を揺らして一喝した。
「ただでさえ受付嬢は軽く扱われやすいんだぞ。あんまりヘラヘラさせといたら変な虫がつくわい」
「はぁ?」
「ふん。おまえのような無駄にデカい女冒険者にはわからんだろうな」
なんか孫バカな爺ちゃんみたいなことを言っている……と思ったら、こっちにまで皮肉が飛んできて、ゴズメルは顔をしかめた。
「ハイハイ、デカくて強い牛女で助かったよ。おかげさんでレベルも上がったしね……。で、いつポップルに向かえばいい? 数日あととかにしてもらえるとこっちは助かるんだけどね」
可能であればポップルへ行く前に鐵刑の塔に寄って、偽卵の注文だけでも済ませておきたいところだ。
ところが、シラヌイは腕組みして黙ってしまった。
長い白髪眉に皺を寄せて考え込み、だしぬけにこんな質問をしてくる。
「おまえ、結婚の予定はあるのか」
「はんっ?」
ゴズメルはぎょっとした。驚くあまり、考えるより先に罵声を吐いてしまう。
「なんだジジイ、その赤ら顔は昼酒きめてんのか。レベルだの結婚だの、あんまり変な難癖ばっかつけるようなら、斧を使って酔いを醒ましてやるぞ!」
「落ち着け。キャリアプランの話だ」
キャリアプラン。
ものものしい響きにぞっとするゴズメルに、シラヌイは淡々と言った。
「おまえも女だからな。アルティカで家庭を持つ気があるなら、将来的なライフイベントを考慮したうえで今後のポジションを決めなければならん」
「ラ、ライフイベントって……」
「だから結婚と出産だろうが。子育てにも金がかかるしな。それに、おまえにだって親はいるだろう。介護や看取りはどうする。里に兄弟はいるか? そもそもおまえは帰省もろくにしてないようだが……」
「ちょっと、なに。なんだいきなり」
ゴズメルはバタバタと両手を動かして、シラヌイに抗議した。レベルを上げて昇格審査を受ければこれまで通り働けると思っていたのに、そんなことまで考えなければいけないなんて話が違う。
焦っているゴズメルに、シラヌイは鼻を鳴らした。
「レベルアップでキャリアが開けたんだ。もっと柔軟に考えたらどうだ。たとえば、他の支部で会長候補に挑戦することもできるんだぞ。おまえはガサツ……もとい大らかで人あたりが良いから、向いていそうだが」
女の会長が増えるのはいいことだ、などと言われて、ゴズメルは目をぱちくりさせた。
「あるいは……うん、おまえは遠征任務の成績が特にいいな。冒険者協会ではマップ作りの人手が足りていない。ここらで旅の専門家になるのはどうだ。特産物や地形探索に励めばプレイヤーみんなが助かるし、周辺地域も活気づくぞ」
あっちょっと楽しそう、とゴズメルは思ったが、慌ててブンブンと首を横に振った。そんなに遠征に出ていたら、リリィが寂しがってしまう。
「わ……わかった、わかったよ、いちおう考えておく。で、ポップルにはいつ……」
「何もわかっとらんようだな。おまえはなんのためにポップルに行くつもりなんだ」
「あんたが昇格審査を受けなきゃクビにするって言ったからだろー!?」
「そうだ。だからいいかげん真面目に考えろ。みんなレベルを上げてスキルを磨き、真剣な気持ちで昇格審査に臨むんだ。良いポストは奪い合いだからな。本部の役員に自分のやる気をアピールせねばならん」
そんなん知ったこっちゃない、とゴズメルは思ったが、シラヌイの熱の入った様子を見ると、うかつに文句を言えなかった。
「いいか、冒険者協会にはいろんな事情の者たちがいる。家出同然のところから冒険ひとつで身を立てる者がいれば、厄介な能力を持って生まれたせいで仕事を制限されている者だっているんだ」
ゴズメルはギクッとした。前者は自分、後者はリリィのことのように聞こえる。シラヌイは首をコキッと鳴らした。
「……ここだけの話、おまえがさっき話していたナナは、家が貧しくてな。稼ぎのほとんどを実家に仕送りしている」
「えっ……」
「仕事は遅いし役立たずなうえニャアニャアとやかましいが、伸びしろだけはある。だから雇っているんだ」
シラヌイは節くれ立った指をブンブン振って、ゴズメルに説教した。
「ああいう子にしっかり投資してやるためにも、おまえは出世してガツンと稼ぐべきだろうが。自分のためにも周囲のためにも、もっと冒険者協会に貢献しろっ」
ガーン! と、ゴズメルは頭の上にタライが落ちてきたかのような衝撃を受けた。
昇格審査に通ったら待遇が良くなるのかな~などと漠然と思っていたのは、とんだ浅はかだったらしい。
結婚、とゴズメルは思った。シラヌイは、ゴズメルの体質も、リリィとつきあっていることも知らない。
もし知ったら、今の話はどうなるのだろう?
(あれ? ……っていうか今はリリィが卵を生んでるけど……もしも結婚して祈願したら、あたしが赤ちゃんを生む可能性もあるのでは?? いや、生えてるのはあたしのほうだけど……でも、あたしも女だし、祈願って、エッチしなくても赤ちゃんできるって聞いたことあるような……)
ゴズメルは頭を抱えてしまった。
妊娠出産で仕事に影響が出るのは、ゴズメルもリリィも同じなのだ。
シラヌイがくどくどと話していたキャリアプランとやらに大いに影響することになる。
ポップル行きはもう決まっているというのに、こんな土壇場であれこれ考えさせられるとは思わなかった。
本部の面談で適当なことを言ったら、知らない支部に飛ばされてしまうかもしれないのだ!
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